Food Fight! Final-round

 

 次の日。快晴。絶好の、勝負日和であった。
この日、ソフィアは久しぶりに一人きりで寝ることになった。
普段共同部屋が多いマリアは結局、昨日は部屋に戻って来なかったから。
ソフィアが宿屋の一階に降りると、クリフとロジャーも起きていた。
「おはようございます」
「オッス。いよいよだな」
「・・ええ・・・・・・昨日の件は、マリアさんは何て言ってたんですか?」
「おう、技勝負に関してはOKだとよ。
『味で勝てないから技で挑むとは、上手いこと考えたものね』とかナントカ言ってたな」
「・・・・・・・確かに・・・・味のすごさでは勝てませんよね・・・・・」
それが、美味という意味ではないことは、誰もが悟っていた。
「でも、技って? 早く作るとか、きれいに作るとか、そういうことか?」とロジャー。
「だろうよ。・・・・どっちにしても、マリアが勝てるとは思えねぇがな」
「・・・・・・・・・・」
沈黙の肯定。
 そんな時だった。
「皆さん、こちらですか?」
宿屋の出入り口から、女性が姿を現す。それを見て、クリフはちょっと面食らった。
それもそのはず、アリアスにいたはずの施術部隊隊長、クレア・ラーズバードその人だったから。
「お? 何でお前さんがここに・・」
「ネルに呼ばれて。なんでも、名誉をかけた大勝負を決行するとか聞いたもので、私に審査して欲しいと要請があったんです」
「・・・・・・・・・ネル・・にか」
名誉をかけた大勝負・・・・そんなご大層なものでもないはずだが・・・・・
「皆さんも審査されるんでしょ? 会場にご案内して差し上げようと思って」
「会場・・・・・・」
なんだか・・・・知らない間に話が大きくなっているようだ。
「こちらです」
言われるがままに、クレアについていく三人。
 会場とやらは、シランド城の厨房らしかった。が・・・・なんだか人だかりが出来ている。
嫌な予感を拭いきれず、彼らはその人ごみの中心へと入っていく。
「あ、クレア様! すみません、お手数かけます」
短髪の少女が胸に手をあてて敬礼の姿勢を取る。隣では、
「おはようございます〜」
紫髪の少女がのんびりとした口調でやはり敬礼の姿勢。
ネル直属の部下、タイネーブとファリンである。
「今日はよろしくね、二人とも」
「はい!」
「・・・・おい、どういうことだ?」
クレアはクリフを見やる。
「彼女達にも協力してもらうことになってます。なにせ、一大勝負という話ですし、公の場でしっかりと・・・」
「ちょっと待てよ。その、なんだ、一大勝負ってのは、ネルがそう言ったのか?」
「ええ、らしいですよ。なんでも、白黒しっかりけじめつけないといけないとか・・・・・」
「・・・・・・・そうかよ・・」
頭を振り、クリフは二人を見やった。
「・・・本気だぜ、ネルの奴・・・・・大概、負けず嫌いだしなぁ・・・」
「マリアさんも本気ですよ。昨日、部屋に帰って来ませんでしたもの。ずっと、特訓してたのかなぁ」
「うはぁ、メラやる気じゃんかよ!」
「そう言えば」クレアが口を挟んだ。
「さっき、ネルに会って事の次第を聞いたんですけど。
なんでもこの勝負には、女の意地がかかってるから絶対に負けられないって言ってました。
もしも負けたらどうするのか聞いたら・・・・
ものすごい爽やかな笑顔で『プリンを私刑(リンチ)にかける』って言ってましたけど・・・・どういう意味かしら?」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
一斉に黙り込む三人。クレアは意味がわからずに戸惑うばかり。
(アルベルか・・・・)
(アルベルだよなぁ・・・)
(アルベルさんだわ・・・)
この時、男二人はネルに選ばれなくて心底ホッとしたという。


「クレア様!」タイネーブがこちらにやってきた。「準備が整いました」
「ええと、私達はどこにいればいいのかしら」
「こちらへどうぞ」
厨房の片隅、厨房内が広く見渡せる場所に座席が用意してあった。
ここが、審査員席らしい。
「・・・・・なんだか、すごいことになってるね・・」思わず、ソフィアが呟く。
「面白ぇじゃねぇか」とはクリフ。「料理も食わなくていいし、楽しもうぜ」
「もう・・・・・クリフさんたら、呑気すぎですよぅ・・・・・」
「お、始まるじゃんよ」
 厨房の中央、何やらお立ち台みたいなものが設置してあり、そこに二人の少女が立っていた。
「皆様! 大変長らくお待たせいたしました! 世紀の料理対決!
司会進行は私、タイネーブが。解説は」
「ファリンです〜」
「・・で、お送りいたします!」
わーーーっと歓声があがる。さらにギャラリーが増えている。
「まずは、審査員のご紹介です」
彼女達は審査員席に体を向けた。
「一番右、かの戦争でお世話になりました、グリーテンの体力バカ、クリフさん!」
「・・・・・体力バカ・・・だと?」少し、頭を抱えるクリフ。
「その隣、サンマイト国から来たタヌキ小僧、ロジャーさん!」
「ば、バカにするなよな!!」ロジャーが異議を申し立てるも、体が小さくて誰にも気づかれず。
「その隣、クリフさん達に同行している女性、ソフィアさん!」
照れて頭を下げるソフィア。
「そして、最後に我らが英雄クリムゾンブレイドの片翼、クレア様! 以上です」
歓声がひときわ大きくなる。・・・なんでこんなに紹介に差があるのか?
「では! このバトルに参戦する方々のご紹介です!
チャンピオンコーナー、我らが誇り、クリムゾンブレイドの片翼、ネル・ゼルファー様!!」
颯爽と、登場するネル。観客の歓声が、最大級に大きくなった。
それもそう、彼女は国の英雄だ。
「ああ、あと」タイネーブが気づいたように手持ちの原稿を見やった。「ネル様の補助にプリンがつくそうです・・・・どういうこと?」
首をかしげるタイネーブの脇を、苛立った様子で通り過ぎるアルベル。
「・・・・・・・・どいつもこいつも・・・・」
「あの原稿さ、アタシが書いたんだよね」と、ネル。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何? その目は」
同様の目は、審査員席からも向けられていた。
「・・・・・あの女・・・・・」
「うう・・・ひどいです、おねいさま・・・・・」
その隣でソフィアは笑うしかできなかった。
「そして! チャレンジャーコーナー、自称料理上手な19歳! マリア・トレイターーーー!!!
補助には、グリーテンの技術者フェイトさんがつきます」
こちらも相当苛立った様子で入場してくるマリアと、付き従うフェイトと。
「私がチャレンジャー扱いって、どういうことよ」
「まぁ・・・・・勝負を挑んだのはマリアのほうだしね・・・」
「・・・・まぁいいわ。どうせ、勝つのは私だから」
マリアは向こう側のネルを見やった。丁度、ネルもこちらを見た。
静かな火花が会場に散る。

「それでは、ルールの説明をいたします!
制限時間は一時間、三品の料理を作っていただきます。審査員の方々には、料理作成中の技、手さばき、パフォーマンス等等、『技』の部分で採点していただきます。
最後に出来上がりの審査をして、その総合点で競っていただきます!
なお、負けたコンビは向こう一週間、勝ったコンビの言うことを何でも聞くこと・・・・・・・」
「何よ、それ!」「聞いてないよ!」「知らねぇぞ、んなこと」
思わずツッコむマリア、フェイト、アルベル。
「それぐらいしないと、張り合いがないだろ?」薄く笑うネル。
「・・・よほど自信がおありのようね、ネル・・・」とマリア。
「まぁね」
再び、激しくも静かな火花が舞い飛び散る。
「・・えー、それでは、バトルを始めたいと思います! 皆様、ご声援のほどよろしくお願いします!」
「えーいっ」
ファリンがドラを鳴らし、バトルスタート!

「行くわよ、フェイト! 意地でも負けられないわ!」
「ああ・・・」
「絶対に勝って、あの女に靴みがきさせてやるわ・・・・・覚悟してなさい・・・」
ブツブツ呟く彼女の隣でフェイトはどうしたらよいものか思い悩んだ・・・・
「それじゃあ、行くか」
不敵に笑うネル。そして、背中にさしていた短剣をバッと抜いた。
「おおっとぉ、あの剣は!」実況のタイネーブ。「先の戦いで行方知れずとなっていた、シーハーツの至宝、護身刀"竜穿"!!?」
「て、いいんですかぁ? 料理に使って〜」解説のファリン。
「まずは、小手調べといこうか・・・・キャベツ!」
キャベツを手に取ると、ポイッと放り投げるアルベル。
ネルは狙い定めて、
「肢閃刀!!」
衝撃波が、キャベツをアッという間に切り刻む(!)
おおー、と歓声が上がった。
「そう来たかよ!」面白そうに叫ぶクリフ。
「でもアレ、食べれるのかしら?」とはクレア。
「この際、味は関係ねぇだろ」
「ブラボー、おねいさまーー!!」声援を送るロジャー。
湧き上がる会場。

 その一方でさも面白くなさそうにしている対戦者マリア。
「・・・・そう来たのね、ネル・ゼルファー・・・・・。フェイト、こっちも『技』で行くわよ!」
「えっ、でも」
「カボチャを投げて頂戴」
「・・・・・・・」
言われるままに、フェイトはカボチャを手に取って投げる。
マリアは狙い定めて、
「クレッセントローカスッ!!」
「えええっ!!?」
動揺するフェイトに構わず、マリアはカボチャを思いっきり蹴り上げた!
カボチャはほぼ真上に蹴り上げられる。そこへすかさず、
「エイミングデバイス!」
レーザー光線がカボチャを一閃、カボチャは消えてなくなった・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
水をうったように静まり返る会場。そして、その直後爆笑の渦に包まれる。
「どうして!?」マリアがフェイトを振り返る。
「・・・いや・・・・・だって、レーザーだし・・・・・・・・・」あさっての方向を見つめて呟くフェイト。
「あーっはっはっはっは・・・! アンタ、やる気あるのかい!?」珍しく、大声で笑うネル。
キッと彼女を睨むマリア。
「・・・技の選択を失敗したかしら・・・」
「・・・・・いや、思うんだけどマリアの技って、料理向きじゃあない気がするな・・・・」
「グラビティビュレッドの方が良かったかしら」
「違うだろっ!」ビシッとツッコミ。
漫才を繰り広げる二人を見やり、ネルはすっかり勝利気分だ。
「アレじゃ、アタシには勝てないね。じゃ、トドメといくか・・・ええと、ニンジンとタマネギとジャガイモと・・・・牛肉ね。
ちゃんと受け止めるんだよ、しくじったら殺すよ」
「うるせぇ・・・テメェに俺が殺れるのかよ・・・・・」
文句言いつつも、材料を集めて鍋やら皿やらかき集めるアルベル。
なんだかんだいって、逆らえないらしい。
材料を一斉に高く放り上げる。それに狙いすまして彼女は上空へ舞い上がる。
「裏桜花・炸光!!!」
彼女の最大秘奥義が唸る! 凄まじい風に巻かれ、材料が次々と切り刻まれる。
観客がおおー、とどよめいた。
上空で刻まれた材料を鍋やら皿やらで受け止めるアルベル。
ネルが上空から降り立った瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。
「ま、こんなもんだね」彼女はかなり満足げだ。「じゃあソレ、ルーと一緒に煮込んどいて」
「わーってるよ」
手元の材料を見つめて彼は。
(・・・・・絶対食いたくねぇな、こんなカレー・・・・)
魔物の血に染まった剣で材料切ってるカレーなんて。

 一方。
「・・・・・全く・・・・・どうにか一泡吹かせてやれないかしら、あのバカップル共に・・・・・」
非常に腹立たしそうに大きな鍋の中身をかき混ぜながら、マリアがブツブツ呟く。
やっぱり鍋なのか・・・・・フェイトは思ったが言わなかった。最早、言うだけ無駄だろう。
「フェイト」
「な、何?」
「どうしてこうも、計画が上手く進行しないんだと思う?」
フェイトは考えた。いや、質問に対する答えはとっくに決まっていたが、それをどう伝えようか考えた。
「とりあえず・・・・・・・・」
「とりあえず?」
「マリア、料理の材料は包丁で切って使うもんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
鍋の中身を見やる二人。そこには丸ごとレタスと、丸ごとトマトと、丸ごとニワトリ。あと丸ごとバナナ。房つき。
「そして・・・・・味付けってのを考えて煮込んだ方がいい」
「・・・・・・・・・・・・・」
「あと、『ネルさんに勝った時のセリフの練習』なんかしなくても良かったと思うよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
会話をジッと聞いていた他の一同は。
(・・・・・これは・・・・・一体何の勝負なんだ・・・・・?)
深い疑問を抱かざるを得ない状況となっていた。





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