Food Fight! Final-round

 

 運命の一時間後。
「はーーーーーい!! 制限時間いっぱいになりました!!
両者とも、料理を並べてください!!」
観客も審査員も、いよいよ迫った勝負の時に緊張の色を隠せない。
・・・・勝敗は決まったようなものだと、誰もが思っていたが。
「ネル様は、これはカレーですね」タイネーブが近づく。
「まぁね。シンプルにね」
「つけあわせのサラダと、スープですね。おいしそうです! ええと、ファリン〜、そちらの紹介お願い!」
「・・・・は、はい〜・・・・」
やや腰がひけているものの、勇気を出してマリアの方に近づくファリン。
そこに並べられていたものは・・・・・・・一体何なのだろう?
ドラム缶ほどもありそうな大きな鍋が、でんと置かれている。
「・・・・・・・あの〜、これは、一体なんていうお料理なんですか〜・・・?」
ファリンがマイクをマリアに向ける。マリアは自信満々に、
「野菜と生肉と果物のごった煮スープ 〜潮風の調べはロマンチック街道・・・」

「ポトフです」

ファリンのマイクを奪い取って、フェイトが声高に告げた。
そして、マイクをファリンに返す。
「・・・・・・・・・ポトフだそうです〜・・・」
「・・・・フェイト」
「マリア、ただでさえこっちが劣勢なんだから、さらに評判落としてどうするんだよ」
「落としてなんかないわよ。カッコよさげな名前じゃない」
「でも少なくともおいしそうな名前じゃないよな」
「・・・・・・・」
さすがのマリアも反論しきれなかったらしく、黙り込んだ。

 料理の紹介も済み、司会者達と審査員達は勝敗を話し合っている模様。・・・・・決まったようなもんだが。
と、フェイトはあることを思いついた。
「すみません、タイネーブさん」
「はい?」
タイネーブがこちらに来る。
「何ですか?」
「これ、技対決だけどせっかく料理が出揃ったことだし、ここは一つ対戦者同士『お互いに』試食し合うってのはどうですか」
『!!!!』
これに、極度に反応したのは当然、対戦者の二人。
「そうですね、それ、いいかもしれませんね」一方、何も考えずに承諾するタイネーブ。
「コラ!! タイネーブ!! そんなことはどうでもいいから、さっさと審査しな、審査!!」
ネル様の檄が飛ぶ。
「それいいわね、フェイト」
純粋な笑顔で賛同するマリア。もっとも、彼女は自分の料理がトンデモ料理だとは夢にも思ってないため、この言葉に悪意は全くなかった。
・・・・・だからタチが悪いのだが。
「だろ?」フェイトはニヤリと笑った。
・・・・・・確信犯だ!!!
「じゃあ、お互いに料理を試食してもらいましょうか」
司会進行は既に試食会を遂行しようとしていた。
マリア達の所にネル達の料理が運ばれる。
「待ちなって!!」「いい加減にしろ、クソ虫が!!」
当然、超人料理をあてがわれる二人は反抗するも・・・・・・程なく彼らの前に『自称』ポトフが運び込まれる。
「・・・・・・・・・・アンタ、覗いてみてよ」
「・・・・テメェ・・・・・・・」
渋々鍋を覗き込むアルベルだったが・・・・
「・・・どう?」
「・・・・・・・・・・・・・ニワトリがガンくれてやがる・・・・」
「はっ!?」
あまりに予想外の返事にネルも思わず鍋を覗き込む。
ドロドロに煮立った汁の中から、ひょっこり顔を出すニワトリ。トサカもバッチリついている。
「・・・・あ・・・・えっと・・・・・・」
あまりな事態に絶句するネル。一方アルベルはまだ冷静だった。
「わかったかよ・・・・・あの女の料理が怖れられるワケがよ・・・・・・」
彼女はただ無言でうなずくしかできなかった。


「・・・悔しいけど、おいしいわね・・・・・」
 マリアは複雑な心境でカレーを食していた。
「さすがはネル・ゼルファーね・・・・」
「・・・・ネルさん野菜切ってただけのような気もするけどね・・・」とはフェイト。
しかし、このカレーが戦闘用の剣で切られたものだということを、彼らはすっかり忘れていたりする。
「・・・・・・・・・・・これなら負けても悔いはないかしら」
「ええっ! 認めるのか!?」
「ええ・・・」マリアは珍しく、しおらしくうなだれる。「技のキレも良かったし、料理も上手だし・・・・・やっぱり、私より4年も長く生きてるだけあるわね。私も4年後には・・・・・」
「絶対無理」
思わずツッコんで、フェイトはしまった、と思った。
案の定、さっきまでしおらしさを見せていたマリアの姿はどこへやら、こちらを睨んでいた。
「何ですって? フェイト、もう一度言ってみてよ」
「あ・・・・・いや・・・・・その・・・・・・何でもないよ・・・・・・あ、あははははははは・・・・・」

  ジャキッ

どこに隠し持ってたのやら、マリアはパルスショットガンを取り出した。
「何ですって? フェイト、もう一度言ってみてよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさいっ!!!」
ダッシュで逃げ出すフェイトに、待ちなさい!と銃を乱射して追いかけるマリア。
突然の大乱闘に、観客も大混乱だ!
逃げ惑う人々、叫ぶ人々、騒ぎ立てる人々・・・・・もはや無法地帯だった。
そんな中、割と冷静な者もいた。
「・・・・ネル! 鍋運ぶの手伝え!」
「え、何する気なのさアルベル」
「わかりきったこと聞くんじゃねぇ! この混乱のスキに『さぁ食べようとしたら、うっかり鍋をこぼしちまったぁ!』を演出するんだよ! わかったら手伝え!」
「・・・!! あ、ああ、やるとも! ・・・・むしろ、こいつをフェイトにぶっかけてやりたい・・・・」
「何でもいいから運ぶぞ!」


「・・・・・ということで、いいですかぁ〜?」
「オウ。ま、アイツらにゃ悪いがな」
「仕方ねぇよな、やっぱ。あそこまでやられちゃぁなぁ・・・・・」
「じゃ、審査発表を・・・・・・・」
 審査員達は会場を見やる。だが。
そこには、設備だけが残されていて、人はほとんどいなかった・・・・・・。
「・・・あら〜? なんで、誰もいないんですか〜?」のんびりと呟くファリン。
「そーいや、さっきから騒がしかったようだがな」とクリフ。
「・・・あ、あの・・・・・」
声は足元から聞こえた。クリフ達が見やると、審査員席のテーブルの影に隠れているソフィアの姿。
「どうしたんですか〜?」
「どうしたんですか、じゃないですよ・・・・・・さっきから、大変なことになってたのに・・・・」
ソフィアの言葉に、皆が顔を見合わせる。
「・・・・・もしかして、気づいてなかったんですか・・・・? 誰も・・・・?」
皆、一斉にうなずいた。
ソフィアは脱力する。これは、神経が太いのかそれとも恐ろしくニブいのか・・・・・・
「おや、アンタ達」
カラッポになった審査会場に、舞い戻ってくる二人。
ドラム缶鍋を捨て終えて、解放されたネルチームであった。
「・・・・こんなコトになっちゃってるけどさ・・・・・まだ決着つけないとダメかい?」
「・・・・・・いや・・・いいんじゃねぇか?」とはクリフ。
「じ、じゃあ、この勝負引き分けってことで〜・・・・・」
いいかけたファリンに、ネルがグイッと詰め寄った。
「違うだろ、ファリン。『マリア逃亡のため、アタシの勝ち』だよ。そうだろ?」
「・・・・・・・・・・あ、は〜い・・・・・・」
負けず嫌いだ・・・・・・この場にいた皆がそう思った。



 次の日。
宿屋の一室でふてくされていたマリアの元をネルが訪ねた。
昨日、散々暴れまわったところをパーティの面々に押さえられ、謹慎を言い渡されていたところだったが。
「元気かい、マリア」
「・・・・・何の用よ」
「いや、ね。約束を守ってもらいに来たよ」
「約束って・・・・・」
「負けたコンビは、勝ったコンビの言うことをむこう一週間聞かないといけない・・・ってね」
「ち、ちょっと待ってよ! あれは無効でしょう!」くってかかるマリア。だが。
「敵前逃亡は、負けも同然でしょ」
「・・・・・・・・・・・・な、何ですって・・・・・・・・」
憮然とするマリア。
「ま、アタシはアイツと違って無茶なことは言わないよ。一週間の間、壊滅状態のウチの厨房の皿洗いやって頂戴」
「・・・・・・・・・ダメよ」
「なんで?」
マリアは、胸を張って答えた。
「私達は、世界を守らないといけないもの。こんな所で油を売ってるヒマなんてないのよ。
すぐにでも旅立たないと!」
「ああ、それか。大丈夫。他の連中には許可取ってあるよ」
「・・・・え?」
ネルはニッと笑う。
「リーダーのフェイトはこっちのいいなりだからね。一週間ここに滞在するよう、『命令』しておいたから。
今頃、アイツの新技の練習台になってるだろうね・・・・・気の毒に」
「・・・て、クリフ達は納得したの!?」
「ああ。快く承知してくれたよ。久々にゆっくりできるって。だから、安心して雑用やってな、マリア」ネルの表情から笑みが消える。「アンタが破壊してくれた分、キッチリ戻してもらうからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




 戦争の余韻さめやらぬシーハーツ。
その王都で、若い男女の声にならない叫びが響き渡った。






 ちなみに、審査員達がどちらを選んでいたかは、神のみぞ知る・・・・・・・
もしかしたら・・・・・・・?






END





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