Food Fight! Final-round

 

 彼女は、窓から外を見やり、つい溜息をついた。
窓の外は平和そのもの。ほんの一ヶ月前には、戦火で荒れていたばかり。
もはや、何故こうなってしまったのか、考えることは無意味であろう。
誰にも予測がつかない形で、戦争は終結した。
今はお互いに、それぞれ国の復興に努めている。お互いに大打撃を受けたのだ。
「・・・・・どうしてるかな、あいつら・・」
遠い空を眺めて、彼女はフッと笑った。
ネル・ゼルファー。聖王国シーハーツの隠密である。
少し前に共に戦った青年達を、ふと思い出す。ほんの数ヶ月の間柄だったが、ずっと長い付き合いのような気さえする。
彼らは、彼らの戦いのために彼らの世界へ帰ってしまった。もう、会うこともないだろう。
それでも、今にも目の前に現れるんじゃないかって、そんなことさえ考えてしまう。
「ネル様」
部下が部屋の入り口に立っていた。
「なんだい?」
「お客様が見えておられますが」
「客?」
ネルは言われた通りに城の入り口に向う・・・と。
そこには、彼らがいた。少し前に、共に戦った仲間達(と、見慣れない女性)。
「やぁ、ネルさん」
「フェイト・・・・なんで・・」
「近くに来たんで、寄ってみたんです。・・・あんまりゆっくりもしてられないんですけどね」
「いや、それはいい。よく来たね」
思わず、笑みがこぼれた。

 聞くところによると、フェイト達は世界の脅威と戦っているらしかった。
「大変なんだね・・・・・」頷くネル。
手伝いたいけれど、自分にもやるべきことがある。できることは、応援することだけ。
「私には何もできないけどさ、せめてここでゆっくり休んでいきなよ」
「悪ぃな」とクリフ。
「構わないさ。・・・・そうだ、久しぶりに料理でもご馳走してやるよ」

    ガタガタガタッ

「・・・・!?」
ネルはちょっと面食らった。目の前の人間6人中、5人がいきなり立ち上がって戸惑いを隠せない様子だったから。
そして、立ち上がらなかった一人・・・・・・
「ネル、お料理できるの? 素晴らしいわ」
マリア・トレイター。
「一応・・・・・なんだい、この反応は? フェイト、クリフ、あんた達は知ってるだろ?」
「知ってるけど・・・・」フェイトはクリフを見やる。
「・・・今、そういう話題は出して欲しくなかったな、ネル・・・・」とクリフが応える。
「私はあんまり一緒にはいられなかったし、どれほどの腕か知る機会がなかったからね・・・・・」とマリア。「良かったら、私の手料理も食べてもらえるかしら」
「いいけど・・・・・・・」
『!!!!!!』
あわててクリフがネルの口をふさぐ。
(馬鹿野郎!! 死ぬ気か!)
(・・・・・・??)
「あ、あのっ」ソフィアが言った。「せっかくだから、ネルさんにご馳走してもらったら、いいんじゃないかな・・・ね、マリアさん?」
「そ、そう! オイラもおねいさまの手料理を食べたいでございますよ〜」ロジャーが猫なで声を発する。
「お願いできるかな、ネルさん」とフェイト。
「・・・・・・・ああ、いいけど・・・」
何が何やらわからないまま返事をするネル。一体、彼らは何をこんなに怯えているのか?
「なら、私も手伝うわ」と、マリアが立ち上がる。
「ストーーーーーップ!!!」
一斉に止められる。
「ちょっと! 手伝うだけじゃないの、何をそんなに・・・・」
「大人しくしておけ、阿呆」ずっと黙っていたアルベルが言い捨てる。
「マリア、ここは彼女に花を持たせて・・・・ね」
「俺達のほうが客なんだ、厚意にすがった方がいいぜ」
口々になだめにかかる一行に、逆にいらだち始めるマリア。
「・・・・どういうつもり? ・・・・何か企んでるんじゃないでしょうね?」
「何を企むっていうんだよ!」
「・・・・・・・私より、ネルの料理の方がいいっていうワケ?」
皆、一斉に頷いてしまう。頷いてから、皆がしまった、と思った。
しかし、後の祭り。マリアはワナワナと震えていた。
「・・・そう。なら、私とネルと、どちらが料理上手か・・・・」マリアはネルをビシッと指差した。「勝負よ! ネル・ゼルファー!!」
一方、呆気に取られっぱなしのネルは、いきなりケンカを売られ。
「・・・・・・・・いいよ。よくわかんないけど。ケンカ売るってんなら、買うよ・・・・」
「成立ね」マリアは皆を振り返った。
皆、どうしたらよいものかと困った表情を浮かべるのみ。
もう、成り行きに任せるしかないようだ・・・・・
「城の厨房を貸してもらえる?」
「・・・多分大丈夫だと思うけど」
「そう。なら、決戦は明日の昼! メニューは三品! 互いに補助要員を一人まで入れてよし!
・・・それでいいわね?」
「いいよ」

 ああ・・・・・・・フェイトは頭が痛くなってきた。なんか、ものすごい勝手に話が進んでるし・・・・
大体、世界もピンチだしこの国も戦後で大変だってのに、この呑気さ&傍若無人さはいかがなものか。
「補助要員って、誰でもいいのかい?」
「・・そうねぇ・・・・誰でもいいとすると、ハンデがつくかもしれないから・・・・・・」
マリアはメンバーを振り返った。
「そうね、こうしましょう。お互い、この中から一人選ぶこと。ただし、ソフィアは除外」
「え。ちょっと」
いきなり、こちらまで巻き込む始末。あまりにペースが速すぎてついていけない。
「で、私は彼を選ぶわ」と、マリアはフェイトの腕を取った。
「ええっっ!!!!!?」一気に青ざめるフェイト。
一方で他の3人は、なんとなく哀れむように彼を見ていた・・・・
「・・・・強引だね・・」流石にネルも呆れ顔だ。「まぁいい、じゃあ私は・・・・・」
ネルは後の候補3人を見比べた。そして顔をしかめる。
「ロクなのがいないね・・・」
「なんだと!!」
「ひどいや、お姉さま!!」
「殺すぞ、阿呆・・」
男性陣の中から調理補助を選ぶとしたら、やはり第一候補はフェイトだっただろう。
彼は真っ先にマリアがツバつけたので・・・・
「そうだね・・・そこのプリン男。アンタが一番マシそうだ、文句言わずに手伝いな」
「・・・・・プリンだと・・・・・」呟くアルベル。
「決まったわね」とマリア。「じゃあ、後のみんなには審査員やってもらうから」

・・・・・えっ?

クリフは耳を疑った。
すぐそばでロジャーもソフィアも、あまりの展開に呆然としていた。
「・・・・・マリア、審査員ってーと・・・・・アレか? 料理を審査するワケか・・・・・・・・?」
「そうよ。料理を食べ比べられる、おいしいポジションね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もはや逃げ道はないようだった。
流石にフェイトもこれには同情した。
「・・・・・・・・・・ネル」こちらも半ば呆然と、呟くアルベル。「・・・今回ばかりは・・・・お前に感謝させてもらうぞ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アタシは・・・・とんでもないケンカを買ってしまったかもしれない?


「・・・・というワケでよ」
 ネルの自室に集まる一行。・・・その中にマリアとフェイトはいない。
彼女いわく、明日の作戦を練るから二人だけで話し合う、とのこと。
「とにかく、すげぇんだ。俺も、何回死にかけたか・・・・」
深く溜息をつくクリフ。なまじマリアと付き合いが長い彼であるだけに、彼女の料理の恐ろしさはよく理解している。
「ふぅん・・・それで、そのことはマリアは知ってるのかい?」
「・・・それがな、どうも自分のメシのせいだとは思ってないみたいでよ・・・」
「救いようがないね」ネルも溜息をつく。「それで・・・・アンタ達、折り入って頼みがあるって何だい」
ネルは、審査員役を命ぜられた3人を交互に見やる。
「簡単だ。明日の対決、なかったことにしてもらいてぇんだ」
「というと?」
「端的にいえば、ボイコット。要するに、料理を作らせないようにしてもらえば良い訳だから、マリアの不戦勝・・・」
「待ちな。八百長しかけろっていうのかい」ネルが睨んでくる。
「まぁまぁ、おねいさま」ロジャーがなだめに入る。「殺人料理を食わされるハメになったオイラ達を少しでも哀れと思うなら、どうか協力してやってくださいな・・・・・」
目をウルウルさせるロジャーを見て、溜息をつくネル。
 確かに、自分がこの戦いを放棄すれば、マリアの不戦勝で丸くおさまるだろう。しかし・・・・
生来、負けず嫌いでプライドの高いネルに、不戦敗など面白いはずがない。
「・・・・そうだね・・・・要は、彼女の料理を食べなくても済むようにすればいいわけか」
しばし、考えふけるネル。やがて、何か思い立ったように顔を上げた。
「味じゃなくて、技で競う・・・・ってのはどうかな。それなら、無理に食べなくても済むかもしれない。
料理上手を競う分には、問題ないと思うしね」
「おおーー! さすがはおねいさま! 素晴らしいアイデアでございます〜」
「なるほど・・・・・・よし、じゃあそのようにマリアに・・・」
「よろしく頼むよ」
おそらく、彼らにとって最悪の事態は回避できるだろう。
しかしながら、勝負となると話は別のもの。
「アルベル」
呼ばれて彼はこちらを見た。
「成り行きで勝負受けちまったけど、アタシは負けるつもりはないからね。
特訓に付き合いな。もしも勝負に負けたらアンタのせいだから、そのつもりでいるんだね」
「なんで・・・!」
「問答無用! いいからさっさと来な!」
「テメェ・・・・・・! ・・だっ!」
彼の後ろ髪をグイッと引っ張って、ネルは部屋を出て行く。
そんな様子を見守るソフィアとロジャー。
「・・・・・なんだか・・・・とんでもないことになってるような・・・・・・」
「・・ま、何とかなるんじゃねぇの?」
そして、二人は顔を見合わせた。




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