Let's Bath Time!

 


「温泉に入らない!?」

 FD世界の娯楽施設、ジェミティ。それぞれに休暇を満喫していた一同が、唐突なその一言に視線を集めた。

「・・・・・・・・温泉・・・・・って・・・あるの? ここに」
「あっ、入りたいです〜!!」
「いきなりすぎるだろ、マリア・・・」
「あら、いいじゃありませんか」
「賛成、賛〜成!! おフロ入りた〜い!!」
「がっはっはっは、たまには骨休めでもしようではないか!」
「え? ホネなんか休めてどうするじゃんよ」
「それは言葉のアヤだよ、ロジャー・・・」
「・・・・・・・阿呆どもが・・」

 マリア曰く、この巨大なテーマパークの片隅に、兼休憩所でもある温泉コーナーを見つけたらしい。
その言葉に、皆は眉をひそめた。

「・・・・・マリア・・・・・それもテーマパークなのかい?」
「ええ、そう書いてあるけど」
どこから持ってきたのか、パンフレットなどパラパラめくりながらマリアが頷いた。ますますフェイトは怪訝な表情に。
「・・・・・・・・本当に休めるのかな、そこ・・・・・」
「まぁいいじゃない。楽しめる時に楽しまないと」
「それは全然言い訳になってないよマリア」
「気にしないのよ」
すっかりマリアは乗り気らしい。
同様にソフィアやスフレ・・・・のきなみ女性陣が賛成していた。
とはいえ、男性陣も決してイヤなのかというとそういうわけでもないらしく・・・・・・



「ここね」

 本当に片隅にある、温泉コーナー。他に利用客は少ないみたいだった(皆ここへは遊びに来ているのだ、ある意味当然かもしれない)。
「入り口が二つありますね」
「えーと・・・・・右側が男用ね。それじゃ、ここで別れましょ、私達は左から入るから」
「えー・・・オイラは子供だし左でもいイテテテテテテテ!!!!!」
「いいからさっさとこっちに来い」
その大きい耳をクリフにつままれ、ロジャーも右へ・・・・

「着替えとか持ってないですけど・・・・・・」
「ええと・・・・お洗濯サービスとかあるみたいね。アトラクションの間」
「・・・・アトラクション・・・・」
その言葉に、嫌なものを感じるネル。
風呂くらいゆっくりしたいのに。
「うわー! 面白そう!! ねぇねぇ、どんなのあるの〜!?」唯一スフレは異様なはしゃぎっぷりだ。
「まぁ落ち着いて。まずは入る準備をしないとね」
「水着が用意されているみたいですね」
「水着・・・・・・」
またもネルが呟く。風呂に水着?
「ねぇ、マリア・・・・・・ここ本当に温泉なのかい・・・・?」
「ほらほら、ネルも早く水着に着替えて着替えて! このハイレグビキニなんてどう?」
「んなっ! ち、ちょっと!!」


『ぎゃあああぁぁぁひぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーっ!!!』


いきなり奇妙な悲鳴がとどろいて、女性陣は身を竦ませる。
どうも・・・・・カベの向こう側からっぽいが・・・・・・
「・・・こっちって、男湯でしたよねぇ・・・」とソフィア。
「ええ、男性の皆さんが入っていかれましたよ」とミラージュ。
「・・・・・なんで・・・・・悲鳴が・・・・・」
「さぁ・・・・何か出たんじゃないですか?」
「な、何かって・・・!!?」
「さぁ! 行くわよ! レッツ、温泉テーマパーク!!」
「ごーーー!!」
やけに乗り気なマリアとスフレに、ソフィアとミラージュもついていく。唯一・・・・
「やっぱり普通の温泉じゃあないんだね・・・・」
ネルだけは複雑な表情で一番後を歩いていった。


 目の前に開かれた扉を開けると、中は・・・・
「うっわーーー!! キレーイ!!」
温泉は至って普通だが、周囲の風景が全く違うなものだった。
大草原の中にある温泉みたいに。
空気の爽やかさも、風の匂いも、草の生命力も全くそのままの露天風呂。
・・・・これも、バーチャルリアリティなのだろうが・・・・・彼女達はそんなこともすっかり忘れ去った。
「すごい・・・・・温泉じゃないみたい・・・・・・」
「よかったでしょ、来てみて」
「ええ!!」
「一番のり〜♪」
誰もいない温泉に真っ先に飛び込むスフレ。
「あっ! スフレちゃんったら〜」
「私達も入りましょうか、せっかくですから」
ミラージュに促され、しばし呆然としていたネルもハッと我を取り戻した。
こんなの、エリクールにだって存在しないだろう。ばーちゃるとか言うのってすごいんだ。
お湯だってお湯そのままで。
テーマパークだかアトラクションだか知らないが、結構普通なんだなと彼女は思った。
「あ! 見てみて〜・・・・お湯がキラキラしてる〜」
「ホント・・・・」
と同時に周囲の風景が少しずつ様変わりしていった。
まるで夏の草原だった場所が、少しずつ赤く色づき始め、やがて秋になっていった。
「季節が変わるのね、細かいわね」
「なんだか少し寒くなってきましたね・・・・」
「雪が降ってきましたよ」
「うわっ、冷たい! 冷たいのに温泉はあったかいってヘンな感じだねー」
「いいわね、こういうのも」
「おや、今度は春かい・・・・花が咲いてきたよ」
「うわ〜、いい匂い〜」
「本当、何でもアリなんですね〜」

≪お客様、おくつろぎのところ失礼いたします。これより様々な星の温泉をご堪能いただきます≫

場内アナウンス。
「色んな星の温泉だって〜! すっごーい!」
「温泉ってどこも一緒じゃないのかい?」
「成分や効能、色や匂いまで様々な違いがありますよ」
「ふぅん・・・・・」
「美肌効果とかあるかしら!?」
「つるつるすべすべになりますか!?」
マリアとソフィアが同時にくってかかった。
「・・・・あなた達はそんなに気にしなくてもいいのではありませんか・・・・?」
「甘いわ、ミラージュ。今から真剣にやっておかないと年を取ってから後悔するものよ。ねぇソフィア」
「・・・・・それ誰のことなんですか?」
「別に誰だっていいでしょうが!!」
「うわ〜、意味深〜」
「そういう意味じゃなくてね、ほら、カッコイイ彼氏を見つけるためにも・・・・・!」
「あー、はいはい、そういうことですかー」
「何よソフィア!」
「落ち着いてください、マリア」
和気藹々と。女性陣は温泉のテーマパークを楽しんでいた。
だから、彼女達はすっかり忘れていた。隣の風呂で奇妙な悲鳴があがったことなど。




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