Let's Bath Time!

 


『ぎゃあああぁぁぁひぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーっ!!!』



 もう誰の声だかもわからないのだが、とにかく誰かの声が混ざって実に奇妙な悲鳴が巻き起こった、右側の浴室。
というのも、用意されていた水着(何故風呂で水着なんだと疑問を抱く者もいたが)に着替えて、扉を開けたら床が無かったので。


ただ今、落下中。


「一体なんなんだってのーーーーーーっ!!!」
「ここホントに温泉なのかーーーーっ!!!」
「オレに聞くなーーーーっ!!!」
「・・・・・・・おお、底が見えたぞーーーー!!」



どっぼーーーーーーーーーーーんっ




着水。

下には、浴槽があった模様。
しかし・・・・・落下・墜落という過程で入った風呂など気持ちいいものか。
「・・・・・・・・み、みんな・・・・・・大丈・・・夫かい・・・・・」
「・・・・お前こそ大丈夫なのかよフェイト・・・・・フラフラじゃねぇか」
「元気だね、クリフ・・・・・・」
「体力ばっか有り余ってるからなー、デカブツ」
「うるせぇ! 沈めてやろうかクソガキが!!」
「がっはっはっはっは!! 若いモンは元気でよいのう!!」
「・・・・いや、アンタも充分元気だ・・・・・」
フェイトは辺りを見回した。温泉っぽいような浴槽に、それぞれに着水している仲間達。
さっきから会話には全く参加していなかったが、向こうの方にアルベルもいる。むすっとしている・・・・・・・・
「・・・・・ま、ちょっと変わった風呂だけど、入れたし、結果オーライってことで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キレイにまとめようとすんじゃねぇよ」
怒りのオーラが伝わってきた。フェイトは肩をすくめる。
「だ、だって、アルベル・・・・・・僕だってまさかいきなりダイビングするなんて思ってなかったしさぁ・・・・・不可抗力だよ」
「ま、誰も思っちゃいねぇわな、そりゃ」うんうんとうなずくクリフ。
「どうでもいいけどよー、あんなに落ちちゃって帰れるのかオイラ達?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
皆が周囲の様子を伺う。白い湯煙に包まれて視界はかなり狭い。お互いの姿もおぼろげにしか見えない。
「・・・・なーんか・・・・」意地悪そうにクリフが呟く。「温泉っつったらアレだろよ。美人OL湯煙殺人事件・・・・とかさぁ」
「何言ってんだよ、クリフ・・・・」呆れるフェイト。「どこに美人がいるんだよ」
「・・・・・そこにツッコむのか・・・・・・」
「さ、殺人事件・・・・・!!?」ロジャーがフェイトにしがみついた。
「ほう? なんで温泉でそんな事件が起こるんじゃ?」とアドレー。
「まぁ・・・・話せば長くなるんだけどよ・・・・・・・美人の行くとこにゃ事件があるもんなんだよ」
短い説明だな・・・フェイトは思ったが。
「ま、ドラマの話だ、ドラマのよ。そんなそうそう物騒なことが起こってたまるかっての」
高笑いするクリフ。
「だ、だよなぁ・・・・脅かすなよ、バカチン!」
「なんだお前、おびえてんのかよ」
「ち、ち、違うっての!! バカにすんな!!」
「ひっひっひっひ・・・・・今に天井から赤ーいモノがお前の背中に・・・・・・ほぅらっ!!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「・・・・クリフ・・・・・あんまり脅かしてやるなよ・・・・・・」
呆れた口調でフェイトが呟いた。どうやらロジャーはすっかり怯えてしまったようだ。周囲が見えないのでなおさらだ。
「最近はアレか、温泉で怪談をするのが流行っておるのか?」
「いや、そういうワケじゃあねぇんだけどな・・・・」
「・・・・いつまでくだらねぇ話してやがんだ、阿呆どもが」
「ははは、わりぃわりぃ。おい、ロジャー、悪かったよ、もう落ち着けよ」
クリフは近くにいたロジャーの肩を叩いた。
そのときクリフは違和感を感じた。
「? ロジャー?」
「・・・・な、なんだよぅ・・・・・」
ロジャーの声は結構遠くから響いた。クリフは失笑した。
「そんなトコまで逃げなくてもいいだろ・・・・・。ってことは、今のはフェイトだったのか」
「? 何が?」
フェイトの声もそれなりに遠くだった。
「・・・・・アドレーだったのか?」
「何の話じゃ?」やはり声は遠い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、アルベルかよ、いつの間にこっちに来てたんだよ」
「俺は動いてねぇぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
クリフは一瞬固まった。
だって、さっき確かに肩を叩いたのだ。ロジャーだと思っていたのだが。でもロジャーはもう近くにはいなくて。
フェイトもアドレーもアルベルも近くにはいなくて。
でも。
確かにそこに誰かがいたのだ。
「・・・・・・・・クリフ・・・・・何の話してるんだ・・・?」
「・・・・・・・・・あ・・・・いや・・・・・はははは・・・・・・」
もう一回、肩を叩いてみた。感触があった。確かに、人間の肌に違いが無かった。
湯煙をゆっくりと払いのけて、クリフはちゃんとしっかり確認しようとその人肌に目を凝らした。


真っ赤に見開かれた目が合った。


・・・・・え?
何気に、彼は自分の手を見やった。





真っ赤に濡れていた・・・・・・・・・








「うわーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」





「うわっ! クリフ!!?」
「なんじゃ、騒々しい!」
「こっ、かっ、あっ、と、と、とにかく、こ、これっ!! これ!!!」
手探りでどうにかこうにか仲間の元へ向かい、フェイトとロジャーの姿を探し当てて自分の手を見せた。
「・・・・・・手? どうかしたのか?」
「ど、どうかしたのかって・・・・・!」
また自分の手を見やる。別に赤くもなんとも無かった・・・・・・・
「・・・・・あ、あれ?」
「クリフ〜・・・・脅かすなよ・・・・・・」
「い、いや、確かにさっき・・・・!!」
湯煙が徐々に薄らいできて周囲の様子も少しずつ見えてきた。
クリフがいた場所にも、それ以外にも、彼ら以外の姿は無かった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたんだ、クリフ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、なんでもねぇ」
おかしい・・・・確かにあそこに誰かがいて、目が合って、手が赤く・・・・・・・
考えても答えが出ない。
「・・・・っかしいなぁ・・・・・」
「それはそれとして、もうそろそろ出ないか? のぼせそうだよ」
「そうじゃな」
「オイラもうのぼせそう〜・・・・」
かなり疑問を抱きつつ、クリフも浴槽から出る。
浴槽の外は、割と普通の露天風呂風景だった。
「クリフ、そういえば、ここってテーマパークなんだよね」
「あ、ああ・・・・・」
「何を見たのか知らないけど、ドッキリだったりして」
「んなっ!? ま、まさか・・・・・・」
「ほら、ここってバーチャルリアリティのテーマパークだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言われてみれば・・・・・そう考えられなくもない。
ちょっとタチが悪い気もするが・・・・・バーチャルリアリティを駆使したドッキリなら・・納得もいく。
「ばーちゃんりあかー?」
「なんじゃそれは」
「婆ちゃんがリアカー押して歩くじゃん?」
「・・・・・・・・・・ちょっとみんなは黙っててくれる?」
未開惑星組は置いておいて。

≪お客様、ドッキリ温泉ご堪能いただけたでしょうか?≫

場内アナウンス。
「ドッキリ温泉だってぇ・・・・!?」
「ほら、クリフ。やっぱり」
にしちゃ、えらいタチ悪いぞ・・・・文句つけようとした時。

≪落下体験はいかがでしたでしょうか。でも実際に落下したわけではありませんので、ご安心ください≫

「落下体験・・・・だって・・・・」
「え? え? 確かに落ちてたじゃんよ?」
「よくわからんが、つまり落ちたけど落ちてないということじゃな?」
「だからそれってどういうことじゃん?」
「うーむ・・・・つまり・・・・・・」
「なんでもいい、さっさと出るぞ」
「そうだね、じっくりつかってたからもうあったまったしね」
和気藹々と出口に向かうフェイト達。しかし・・・・・・クリフだけは立ち尽くしていた。
「・・・・おい・・・・あの血は一体なんだったんだ・・・? あれも仮想現実なのかよ・・・・・?」

≪当方ではそのような仮想現実は扱っておりませんが・・・・・・・≫








!!!!?








クリフは目の前が真っ暗になった。







「あら、フェイト」
「マリア・・・・!」
「どうだった? こっちはかなりいい感じだったわよ」
「いい感じも何もないよ・・・・! なぁ、一つだけ確認したいんだけど」
「何かしら?」
「右側・・・・・・本当に男湯だったのか・・・・?」
「あら、だってそう書いてあったわよ。ホラ」

マリアが指し示したのれんには、


「男気を追求する風呂(お子様はご遠慮下さい)」



・・・と書かれていた。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「あ・・・あら? ・・・・ってことは・・・・別に男湯じゃあなかった・・・・・のかしら?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・た、楽しめた?」



『楽しめるかーーーーっ!!!』





男たちのむなしいツッコミがジェミティに響き渡った。


さらに数時間後。
温泉アトラクションで白目むいて倒れているマッチョが発見されることになる・・・・・・・





END





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