SS:少年たちの受難(前編)
それは、彼らがあのキャンプから戻って間もない頃。夏が終わり、周囲の色も秋に染まっていた。
今年、校長の意向で生徒全員参加による、学術祭なるものが催されることになった。いわゆる「文化祭」である。
生徒全員(おおよそ数千人は下らないだろうが)が必ずなんらかの出し物を行わなければならない。
行わない者は、即退学!・・・とはグラン・ドラジェのお言葉である。
これには賛否両論あったのだが、子供達の情操教育に云々と校長が触れ回り、決行の運びとあいなった。
「・・・てことで、こうして皆さんを呼び集めたわけです」
放課後の空き教室に、マドレーヌは自分のクラスの生徒を呼び集めた。
言うことを聞かない生意気盛りな生徒は、半強制的に。
「えーまず、『出し物』はクラス単位で決めなければいけません。
けど、この学校、生徒も多けりゃクラスも多いからね。内容については、担任によるクジで決定されました」
途端に、ブーイングがあがる。
「なんだよ、好きなもんもできないのかよー」
真っ先に口を開いたのは、クラスのガキ大将キルシュ。
「あら〜、何がやりたかったの〜?」
隣の席のアランシアがたずねると。
「そりゃもちろん、大スペクタクル冒険イベントだろぉ! 学校中に仕掛けを張り巡らせてだなぁ・・・」
「アンタ、何かカン違いしてるでしょ」呆れた口調でたしなめるレモン。
「学術祭なのに、そんな体力使うイベントなんかウケないよ」同意するシードル。
「アタシ、食べ物屋やりたいなぁ〜」
キャンディの呟きに、数人が同意する。
「まぁまぁ、落ち着いて。それで、このクラスのやる『出し物』を先生、選んで来ました。
じゃーーーん、これだぁ!」
マドレーヌは前方の黒板に何やら字を書き始めた。
演劇
「えーーーーーーーー!!?」
「し・か・も!」
マドレーヌはニンマリと笑みを浮かべた。こういう場合、大概ロクなことではないのだが。
「初日の朝一番! トップバッターよ。張り切って行こーーーー!!」
先生の盛り上がりとは裏腹に、生徒たちは静まり返る。
「・・・・・あ、あら?」
「・・・・先生・・・」みんなの考えを代表するように、委員長フレイアが呟いた。「クジ運悪過ぎ・・」
「だ、だって〜〜〜・・・・イヤ?」
「イヤっていうか〜」
「そういうの、ニガテだっぴ・・・」
シードルとピスタチオが反論する。
「どっちかといえば、絵画展とかが良かったなぁ。他のクラス、そういうのやるみたいだもん」
「オイラはどっちでもいいっぴ。・・・ドーナツ屋さんとかが良かったっぴ」
「ははは、ピスタチオらしいね」
「はいはーい、皆さん静粛に」
マドレーヌがざわついていた生徒たちを黙らせる。そして、再び黒板に字を書いた。
決めなければいけないこと
・何の劇をやるか
・配役
「内容に関しては、こちらで決めていいそうよ。だから、みんなで決めましょう。何やりたい?」
「はいはーーい!」真っ先にキャンディが挙手。「やっぱ、ラブロマンスものでしょ!」
キャンディはそう言って後方のガナッシュをチラリと見やる。彼は、あわてて目をそむけた。
「んもう、て・れ・や・さ・ん」
「・・・ラブロマンスねぇ・・・・・」
黒板に書きながら、マドレーヌは嘆息した。
「のっけからそういうの、ドぎつくないかしら?」
「この学校の生徒の年齢層を考えましょうよ」
たまりかねて、ブルーベリーが口を挟んだ。
「7、8歳の子供だっているのに、ラブロマンスは理解不能なんじゃないかしら」
と、キルシュがバッと立ち上がった。
「はいはいはいはい、次オレ! やっぱ、アクションものだろ! 正義のヒーローが、悪者どもをやっつけるのさ!」
「んで、オマエが正義のヒーローやるワケ?」皮肉まじりにカシスが言った。
「とーぜん! そんで、悪者にさらわれたヒロインを助け出すのさ。うん、いい! そうしようぜ!」
「悪役は誰がやんの?」
「オマエ」
「あんだと?」
「えーーー、ハマり役だよ」シードルが割って入る。
「何ィ?」
「んで、さらわれたヒロインが・・キャンディかな。うん、そうだ。そうしよう・・・!」
ごすっ
「ちょっと黙んな」
わき腹に痛烈なエルボーが入り、うずくまるキルシュ。当のレモンは何事のなかったかのように、
「学術祭なんだし、普通の童話とかやるのが無難だと思うけど。・・・例えば・・・・・・シンデレラ?」
「ベタだわ〜」
「だから、ちょっと内容を変えてみるとかね」
フムフムとマドレーヌは黒板に次々に書いていく。
「確かに、それならわかりやすいかもしれないわね。シンデレラか・・・」
「じゃ、決定ね!」結局ラブロマンス系なためか、キャンディは乗り気だ。
「じゃ、配役を決めましょうか」
マドレーヌは考えながら、また黒板に書き足した。
・シンデレラ
・王子様
・継母(ままはは)
・いじわるな姉(二人)
・魔法使い
・王子様の付き人
「こんなものかしら?」
「こうやって見ると、女の子ばっかりだヌ〜」とカベルネ。
「じゃ〜、ボクらは出番なしだね。やったぁ」とシードル。
「まずは、シンデレラね。自薦他薦、誰でもいいから名前あげてね」
「わたしわたしわたし!!!」
「ブルーベリーちゃんがピッタリだと思いますの!」
「フレイアでしょ」
「意外なところでレモンとか」
「意外って何だよ!!」
挙がった名前をまた書き足すマドレーヌ。しかし、ウーンと唸った。
「・・・普通すぎるわねぇ」
生徒たちが先生を見た。何を求めてるんだ、この先生は!?
「他には・・・・」
「シードル」
!?
皆が、声の主に注目した。当の彼女はうつむいたまま。
「シードルシードルシードル・・・」
そして、フレイアはシードルを見た。
「似合いそう」
「えっ!!?」
「シードルかぁ、うん、それいいかもね」
「ええっ!!??」
マドレーヌ先生、他の候補者の名前を消してシードルの名前を書くと、赤で花丸をつけた。
「決定ですか!!??」
「問答無用だわね」とブルーベリー。
「ち、ちょっと・・・!! 先生だけで決めないでよ! みんなにも意見を・・・・!」
彼は周囲を見回す。しかし、みんなは口々に、頑張って、応援してるぜ、と。
「いいじゃんシードル、ハマり役だぜ」
「・・・」
睨むようにカシスを見る。
「ほら、名前も似てるし」
「『シ』しか合ってないじゃないかっ!!」
「シードル」
今まで黙って事の成り行きを見ていたガナッシュが声を上げた。
「決まったんだから、いい加減にあきらめろよ」
「決まってないって!!」
「じゃ〜、次は王子様の配役で〜す!!」
「ああっ! 勝手に進行されてるし!」
「シンデレラが男の子だから、王子様は女の子・・・てのはどうかなぁ?」とキャンディ。
「それ、面白そ〜」
「シンデレラじゃなくなってねぇか?」
「いいのよ、面白ければ」
「なら、レモンで決まりだね〜」
「なんで!」レモンが立ち上がる。
「だって〜」とアランシア。「男役だから、凛々しい人でないと〜」
「・・・・!」
誉められてちょっとたじろぐレモン。しかし。
「で、でも、シンデレラってアレでしょ、ダンスシーンとかあるじゃない。
シンデレラより背ぇ低い王子様なんて、ハクがつかないと思うんだけど」
シンデレラは意外にも170cm近くある。彼より背の高い女子はいないのだが・・・
「それはそれで面白いと思うんだけど。『王子様って背が低いんですね』とかって・・・」
「イヤよ」
「困ったわねぇ・・・・・。他に誰かいないかしら・・」
マドレーヌが生徒達を見渡したその時。
「カシス」
!!!?
再び、彼女に視線が集まる。やはり彼女はうつむいたまま。
「カシスカシスカシスカシス・・・」
そして、フレイアはカシスを見た。
「ベストカップル」
「やめろっ!! 俺を見るなっ!!」
「それじゃあ、次の継母の役は・・・」
「先生! さらりと流すなよ!」
「でも、多分反対の子はいないと思うわ」
見ると、女子達はなんだか盛り上がってるし、男子は腹かかえて笑ってるし。
唯一、シードルだけは、冗談じゃないといった表情だった。
「みんな、楽しんでるんだろ! ひとごとだと思ってさ! ひどいよ!」
「だって〜」
「ねぇねぇ、ブルーベリー」キャンディが近くのブルーベリーに話しかけた。
「シンデレラって、確か眠りについたシンデレラを王子様のキスで起こすんだよね?」
「それは白雪姫よ、キャンディ」
「あ、そうだっけ? ・・・じゃあじゃあ、鏡よ鏡よ鏡さん・・・て」
「それも白雪姫」
「あら? おっかしいなぁ。 ・・・・いっそ、シンデレラじゃなくて白雪姫にしようよ」
「大反対ッ!!」「冗談じゃねぇ!!」二人同時につっこんだ。
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。・・・せっかくみんなで決めた配役なんだから」
「みんなで決めてなんかいないじゃないかっ」
「・・文句いわない、文句いわない」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「先生」ガナッシュが挙手した。
「何? ガナッシュ」
「配役に、もう一つ追加して欲しいんだけど」
「あら、他に何の役があったかしら」
「ナレーションだよ。俺は、それをやる」
「珍しいこともあるもんだね」とはレモン。「アンタが自主的にこういうのに参加するなんて」
「フッ、興味がわいただけだ。ああ、それと、脚本もやらせてもらえないかな」
嫌な予感が沸き、シードルとカシスはガナッシュを見やった。彼は、ニヤリと笑った。
「反対っ!! 大反対!! ロクなシナリオ書かないに決まってる!! 何か企んでる! 企んでるよ!!」
「心外だな、シードル」
「・・・ガナッシュ・・」小声になるカシス。「月の無い晩は背後に気をつけな・・・・」
「・・・・・心得ておこう」
静かな火花が教室を走り巡った。
学術祭の朝は、学校中がこれから3日間の一大イベントに胸躍らせていた。
学校中の施設という施設が生徒たちによって改造され、祭というより何かのテーマパークみたいな雰囲気さえあった。
一番目の行事、開催式に続いて演劇の披露である。生徒ほぼ全員が鑑賞する、大舞台であった。
この日、マドレーヌクラスのメンバーは朝から大忙しであった。
舞台袖で、セサミは小道具の最終点検をしていた。
彼も一応は「王子様の付き人」という役が与えられたのだが、人数不足なため小道具係も兼任させられていた。
「ったく、なんでこんなちゃっちい劇にこんなに道具がいんだよ・・・ブツブツ」
と、ふと次の道具を手にとって彼は、ん? と眉をひそめた。
それは、ボール紙みたいな厚めの紙をギザギザ状に折り曲げ、片方の端を握りやすいようにテープで止めてある代物だった。
俗にいう、「ハリセン」である。
「なんでだ! こんなのどこで使うんだっての!」
片手に持った小道具一覧表(作成ガナッシュ)をざっと見渡してみる。
すると、「ハリセン:王子様の付き人の小道具(必須)」などと書いてあった。
「・・・・・・・・・・何させる気だよ、ガナッシュのやつ・・・・」
「ヨウ、セサミ! ジュンチョウカ〜?」
後方から、妙に明るい雰囲気の機械音が響いた。見ると、意気揚々とカフェオレが歩いてくる。
「オッス、照明係」
「ゴアイサツダナ〜」
「おめぇはいいよな。劇に出なくていいんだから」
「ドウワニ、キカイハデナイカラナ〜。コレモ、ジントクッテヤツカ?」
「言ってろよ」
再び、前を向いて道具の点検作業を再開するセサミ。
「ツレナイナ〜、ナニカアッタノカ?」
「・・・昨日、ガナッシュが劇に出るヤツ集めて、何て言ったと思う?」
「?? サァ、ワカランネ」
脚本を担当するということで、いつの間にか総指揮を取っているガナッシュが、
劇に出るクラスメイトを集めたのは昨日の放課後。
「ねぇガナッシュ、一ついいかい?」
「なんだ、レモン?」
「もう、明日が本番だよ。それなのに、いまだに台本とかもらってないし、どんな内容になるのかも聞いてないし。
大丈夫なわけ? 一夜漬けは勘弁してよ?」
「ああ、それについて話しておこうと思って」
「??」
ガナッシュは一息ついて、話し始めた。
「普通に、決められたシナリオどおりに決められた役を演じて決められたストーリーをなぞる・・・
そんなじゃ、面白いものはなかなかできないと思うんだ。よほど出来のいいシナリオならともかくな。
だから、今回はあえて、普通じゃない手法をとろうと思うんだ」
「普通じゃないって・・・・」とシードル。
「うん、まぁ、一言で言ってしまえば、『アドリブ劇』か」
『ええええええええっっ!!?』
「ますますシンデレラから遠ざかってくじゃねぇかよ」とセサミ。
「アドリブって、私はそういうのはちょっと・・・」とブルーベリー。
「まぁまぁ。アドリブとは言っても、本筋のストーリーはこちらで用意する。
ただ、そのストーリーの運び方を、役者に任せようということだ」
『・・・・・・・・・』
「・・・だから、さっきも言ったけどね」頭を抱えるレモン。
「その『用意したストーリー』すらも教えてもらってないから、それはどう対処したらいいわけ?」
「ああ、それはだな・・・」
ガナッシュはまた一息ついて、皆を見渡した。
「本番まで内緒」
「フザけんなっ!!」
「事前にわかったら面白くないだろ」
「演じる側は事前にわかってて普通でしょうが」
「普通にはやらないって言ってるだろ?」
「だ・か・ら!!! ・・・・もういい」
もうこれ以上問答しても無駄と悟ってか、レモンは追及するのをやめた。
「劇本番で、俺がナレーションするだろ。その通りに行動してくれればいい」
「!!!!!!??」
「ナレーションには、絶対従ってもらう。それが、このアドリブ劇の唯一のルールだ」
「・・・・・アバウト ダナ〜・・・」
「俺はこわいよ。何させられんのかって思うと・・」
「ガンバッテクレヨ。ヨッ! ブタイハイユウ!!」
「るせーー! あっち行けよ!」
「ヘイヘイ。オ〜コワイコワイ」
舞台では、開催式も終わり、もうすぐ演劇披露が始まる。セサミは深く溜息をついた。
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