プロローグ 〜予兆〜



 キャンプファイアの炎を囲んで、数人のクラスメイトが談笑していた。彼らは、ガナッシュやオリーブの感じる何かには気づかずにいた。いや、気づいている者もいたのだろうが、今はそれを忘れていた。彼らは、キルシュ達が探しに行った海賊の財宝とやらの話に花が咲いていた。
「財宝なんてあるわけないですの」否定派のペシュと。
「ナイトモ イイキレナイダロ? オレハシンジルネ。キャンプハ コウデナクチャア」
肯定派のカフェオレ。
「そういえば」とシードル。「セサミがなんか怪しい洞窟を見つけたって言ってたよ。もしかしたら・・・・」
「シードルちゃんまで!」
「いや、ボクだって信じてないから。どうせ、コウモリの大群発見するのが関の山でしょ」
「なんだっていいっぴ」静かに呟くピスタチオ。「わざわざ洞窟探検なんて行くなんて、どうかしてるっぴ。暗くて、ジメジメして、気持ち悪いっぴ」
「コワカッタンダロ?」
「・・・・・・・」
返事はない。だが、シッポがすっかり下がっていた。
「・・・ねぇ、さっきから思ってたんだけど、他にお客がいないって、変だと思わない?」
フレイアの一言に、みな反応した。みんな、感じていたらしい。
「貸切だと思ってたけど」とはシードル。
「たまたまだと思うっぴ」とピスタチオ。
「貸切に一票ですの!」とペシュ。
「ヒョウ アツメテルノカ? ダッタラオレモ カシキリカナ」とカフェオレ。
「貸切に3票ね。なら貸切ってことで」
特に疑問も抱かず、フレイアも納得したようだ。
 その時であった。いきなり、目の前の炎がフッと消えた。
「ヒィィィィィィ!? な、何事だっぴ!!?」
ピスタチオが隣にいたカフェオレにしがみついた。
「え? なんで消えるのさ」
「風も強くありませんの・・・・・」
シードルとペシュが顔を見合わせた。

   「キャアアアアーーーーーーッ!!」

『ヒィィッ!?』
全員が身をすくませた。女の悲鳴だ。誰の悲鳴かはわからなかった。
「な、な、な、なんだっぴ!? おどかしっこなしだっぴ!!」
「オ、オ、オ、オチツケ、ミナノシュウ! コ、コ、コレハ、タブン、ソノ・・・ソウ! キモダメシ! キモダメシナノサ、ハッハッハッハッハ・・・・」
「カフェオレこそ落ち着いてよ!」
「み、み、みんな・・! あ、アレ、何・・・・・!?」
シードルが指差した先・・・しげみの中に、ソレはいた。
 生き物というには、ソレはあまりに異形だった。目と口らしき空洞が三つ、こちらをじっと見ていた(ように見えた)。深いブルーの体色で、前足が異常発達して前足だけで立っているような、不恰好な容貌。少なくとも、誰も目にしたことすらない生き物であった。
「ひっひっひっひ・・・」
「しゃべった!!」
ソレは、しげみからゆっくりと現れた。フレイア達はあとずさる。
「ど、どうなってんの!?」
誰もシードルの疑問には答えられない。ただわかるのは、目の前のこいつは友好的な生き物ではないということだけ。
「に、逃げましょう!」
誰からともなく、その場から一目散に逃げ出した。ソイツは追っては来なかった。


 しばらく走ったあと、彼らは立ち止まった。
「ハァハァ・・・何なの、一体・・・・・」
息切れするシードル。しかし、その時フレイアは重大なことに気づいた。
「・・ねぇシードル、私たちだけだよ・・・今・・・」
「はぁ? フレイア〜、何ゆって・・・・・・・!」
彼も周りを見渡して気づいたようだ。5人で逃げていたはずなのに、いつの間にやら2人だけになっているではないか! 逃げるのに夢中で、みんなついて来ているかどうかとか、他のクラスメイトはいたかとか、全く意識していなかった。さっきの生き物もおらず、不気味なほどの静寂が辺りを包み込む。
「な、な、何が起こって・・・・。他のみんなは!? あの生き物は、何なのさ!?」
動揺のあまり自問するが、シードルの疑問に答える者はいない。
「ねぇ、フレイア! フレイアってば!!」」
「・・私にもわからないよ・・・・」
「・・・・・・・あ、そ、そうだよね・・・・、ごめん・・・。と、とにかく、先生を探そうよ。そうだよ、先生ならきっと、何とかしてくれるよ!」
「うん・・・」
浜辺に向う二人。しかし・・・そこにもあの生き物はいた。しかも、十数体も。
「・・何、これ・・・・・」
もう、そんな感想しか出てこなかった。生き物どもがこちらに気づいて、少しずつ近づいてきたが、もう逃げる気すら失われていた。みんな、こいつらに襲われて、やられてしまったのだろうか。
「ひっひっひっひ・・・・」
「・・ああ、もうダメだ〜・・・、こんなところで・・・・・」

  ズバァァァァッ

何かを引き裂いた、激しい音が響く。フレイアは目を閉じた。もうダメ・・・!
「フレイア! シードル!」
え? 聞き覚えのある声が名前を呼んだ。恐る恐る目を開けると、さっきの生き物の姿はすっかり消え去っていた。代わりに、心強い仲間の姿が目に飛び込んだ。
「ガナッシュ!」
「オレもいるぜ〜」
「カシス!」
助かった! 二人はこちらに近寄ってくる。
「無事か、二人とも」ガナッシュもこころなしか疲弊した表情だ。
「ねぇ! 一体、何が起こったのさ? みんないないけど、どこに行ったの!?」
「・・・・・・・・・・」
無言の返事。つまりは、それが答えだ。
「・・とにかく、フレイア、先生を探してくれ。きっと、ヤツらが何者なのかは知っていると思う・・・」
「・・? 何者なのか知っている?? どうしてわかるの?」
「説明は後でするよ。あくまで推測だけど。・・・コテージの方にはまだ行ってないから、そこにいるかもしれない。頼む。俺たちは他のみんなを探してみる」
「・・・わかった」
「あ、フレイア、ボクも行くよ〜」
先生に会いたい一心で、フレイアについていくシードル。二人を見送って、ガナッシュは一息つく。
「カシス、まだ戦えるか?」
「うーん、ちょっとヤバイかもな〜。やつら、倒しても倒してもわいてきやがる・・・」
「ここらへんは囲まれているようだ。逃げられないだろうな」
「・・・・・・」


 コテージ前には、あの生き物はいなかった。しかし、クラスメイトもいない・・・。
「先生・・・どこ行っちゃったんだろ〜・・・・」
「あ!」
二人の姿を見つけて、向こうも手を振った。マドレーヌ先生!
「フレイア! シードル! 二人とも、大丈夫!?」
「先生〜! 一体何があったの!? あいつらは一体何者なの!?」
「・・・あいつらはエニグマっていう、闇の魔物なの」
「魔物!!?」
コヴォマカ国がある物質プレーン(世界)には、魔物などという邪悪なものは存在していない、というのが通説だ。
「先生・・」とフレイア。「そのエニグマって魔物が、なんで私たちを・・・?」
「・・・・・・・・・わからないわ、彼らはこのプレーンには手出しできないハズなのに・・」
「・・・・・・・・」
「ねぇ、どうしたらいいの、先生」
「大丈夫よシードル。あなたたちはしばらくコテージに隠れていなさい。先生が、あんなヤツら追い払ってあげるから」
「でも先生・・・・!」
「いい!? 隠れてるのよ!!」
マドレーヌは二人を残し、急いで海岸に向った。エニグマは何体かいたが、クラスの生徒の姿はなかった。
「生徒たちをどこへ連れて行ったの!?」
「・・ひっひっひ・・・まだいたぞ・・・・」
「答えなさい!」
マドレーヌは、瞬時に魔法を構成し、一番近くにいたエニグマにぶつけた。エニグマは眩い光に包まれ、絶叫を残して消えていった。
「な・・・! この女・・・!?」
「もう一発くらう!?」
再度、光がはじける。さらに一体、エニグマが消えた。
「・・クッ・・ここで戦うのは分が悪いな・・・・」
「光のプレーンに戻るのか?」
ん? マドレーヌは違和感を覚えた。闇の魔物エニグマが光のプレーンに戻る??
「あそこはもっと分が悪くなるだろうが。光のプレーンよりもいいところに案内してやるよ、ひっひっひっひ・・・・」
「何の相談かしら?」
マドレーヌは挑発するように、ずいっと前に進み出た。と、エニグマが動いた! マドレーヌをはさみうちにし、魔法を構成する。それは、攻撃魔法ではなかった。彼女の体は空間に歪んで消え、あとにはエニグマだけが残った。転移魔法だった。
「ひっひっひっひ・・・」
そして、エニグマ達も自らの姿を転移させた。あとには静寂が残った。
 この様子を、フレイアは木陰からずっと見ていた。
「なんで行くのさフレイア! 先生が隠れてろって言ったんだから、大人しく隠れてようよ!」
コテージ前で、彼女は安全策を拒否して先生の後を追ったのだ。そして、一部始終を目撃した。
「・・・・光のプレーン・・・?」
彼女の足は何かに導かれるように、自然と東・・・キャンプファイア跡へと向っていた。
 そこで、フレイアは奇妙なものを見た。穴である。穴とはいっても、その先はどこか異次元に繋がってそうな、不気味な穴。最初にエニグマを目撃したときには、こんなのはなかったハズである。そして、何故かここから感じる、不思議な同調感。それゆえ、引かれてきたのだが。
この穴からなら、『光』に行けるかもしれない。何故かそう感じるのである。彼女が、『光』ゆえなのだろうか。
(みんな、あの魔物に「光のプレーン」に連れていかれたんだ、きっと)
みんなを助けないと!! フレイアは意を決し、飛び込んだ!
 それをまた、ずっと見ていた者がいた。クラス最年少、昆虫少年のセサミであった。木陰からひょっこり顔を出し、嘆息した。
「・・・ふつー、とびこまねぇだろ、あんなのに・・・。フレイアまで消えちまったよ・・」
周りに魔物がいないのを確認し、姿を現した。
「もういねぇみたいだな・・・、助かったーーーーっ! 一時はどうなるかと思ったけどよ・・・」
「セサミ!?」
「!!!!?」
ギョッとして振り向くと、金髪の少年の姿。セサミにとってはちょっとヤな奴のご登場だった。
「シ、シードル!?」
しかし、こんな状況ではヤな奴だろうが何だろうが、仲間の存在がありがたかったのも事実だった。
「キミも隠れてたの?」
「おう! オレたち、助かったんだぜ!!」
「・・・助かった・・・・ボクら? ホントに??」
「マジだって! やー、生きた心地しなかったもんなぁ!」
「・・・・・や、やったぁ!」
手を取り合って喜ぶ少年達。そんな彼らに近づく影。
「・・・・・・ん?」
振り向いた先には、目と口らしき空洞が三つ、こちらをじっと見ていた・・・・


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