マジカルバケーション
〜何よりも大切な時間〜
プロローグ 〜キャンプイン〜
「海が見えたぜーーーっ!」
誰かの声と共に、バス内のクラスメイト達は一斉に窓の外に目をこらす。遠くに、光り輝く海岸線が見え、また沸き上がった。
彼らは、魔法学校ウィルオィスプの生徒である。夏休み、学校行事の一環で彼らは遥かヴァレンシア海岸にキャンプにやってきたのだ。ヴァレンシア海岸は有名なリゾート地で、毎年ウィルオウィスプの生徒がキャンプに訪れている。もちろん、それによる様々な噂話なんかも飛び交っているのではあるが・・・・。ほとんどのメンバーが今日の日を楽しみにしており、これから起こるであろう様々な体験に胸躍らせていた。
「はいはーい、キャンプ場に着いたらまずコテージ前に集合してくださいね〜。注意事項とか、色々ありますからね〜」
引率するのは、マドレーヌ先生。(自称)24歳の、おっとりした女性である。普段ぼーっとしているため、一部生徒にはややナメられてもいるのだが、本人はお構いなしマイペース。だがとても慕われている先生である。
「一番のりだぜっ!」
「あ〜〜、ずるい〜〜!!」
「アニキっ、待ってくれよ!!」
到着するやいなや、一番に飛び出したのは割と小柄な少年だ。クラスで一番やかましいガキ大将、キルシュである。続いてロングヘアの少女とフードの少年。慌てて飛び出そうとして、もつれあって出てくる。キルシュの幼馴染アランシアと、彼の弟分(子分?)のセサミ。
「ちょっと、降り口でモタつかないでよ〜」
ポニーテールの少女、キャンディがせかす。
「海がオレを呼んでるんだ、行くぜーーー!」
「待ってくれよーー、アニキーーー!!」
「ちょっと〜、どこ行くのよ〜!?」
何やら叫んで走り出すキルシュとついていくセサミ。それを見てアランシアがもう、と溜息をついた。
「・・キルシュったら、泳げないクセに何が、海が呼んでるよ〜。ノリやすいんだから〜」
「へー、そーなんだー」とキャンディ。
「みんな、荷物はコテージに置いてね〜。6番と7番が私達が泊まるコテージだからねー。6が男子で、7が先生と女子よ〜間違えないでね〜」
続々とバスを降りたクラスメイト達がそれぞれにコテージに向った。
「やっと着いたわね」
大人びた、青い髪の少女が海を見つめて、隣にいるニャムネルトの少女に話しかけた。
「まったくだわ。いつまでもみんな集合しないから、一時はどうなることかと思ったわよ」
クラスの優等生ブルーベリーとその親友レモンと、出発前のことを頭に巡らせた。
出発前、朝7時に学校に集合・・・までは良かったのだが。
「んもう!! 見つかりませんの!! みんな、どこに行ったんですの!?」
学校内を走り回る・・いや、文字通り飛び回る少女がいた。愛の大使族という、愛に生きる種族である少女、ペシュであった。彼女には羽があって宙に浮くことができるのだ。そんな彼女が、職員室の前でブルーベリーと帽子の少女を発見し、小躍りした。帽子の少女・・クラスの委員長フレイアだった。
「フレイアちゃん! ブルーベリーちゃん! 探しましたの!」
「ペシュ、どうしたの」
「もう出発の時間だっていうのに、誰も校庭にいないんですの!! もうすぐ魔バスが来てしまいますの!」
「魔バス?」フレイアが聞き返した。
「わざわざ魔バスで行くの?」ブルーベリーは違う部分に反応した。「・・・と、魔バスは校長が国王から頂いたっていう、貴重なものなんだって。魔法の力で動くバスだから、魔バス。結構、安直よね」
「それはいいんですの! 他のみんながどこにいるか、知りませんの!?」
「探しましょうか」
マドレーヌ先生のクラスは16人。個性豊かで奔放なメンバー揃いで、ある意味有名なクラスでもある。こんなときに協調性が薄いのも特徴的。きっと、それぞれあちらこちらでウロウロ暇をもてあましているのだろう。
「私は禅部屋に行ってみるわね」とブルーベリー。
「私はもう一回教室を探してみますの」とペシュ。
「じゃあ、私は・・音楽室とか探してこようかな」とフレイア。
3人の少女は、ひとまず別れてクラスメイトを探しにあたった。
フレイアが音楽室に入ると、ドンピシャ、クラスメイトの姿を見つけた。男子達だ。何か、話し込んでいるようである。
「・・・そんなワケないじゃないか。そんなのウソだよ。大体、それが本当なら、キャンプなんか行くワケないよ」
「オレもそう思うヌ〜。そりゃ、怪しい感じはするヌ〜。でも・・・」
「でも、毎年キャンプの時期に、学校の校門が何者かに破壊されるっていうしさ、なんかあるんだよ。行方不明者も出てるって聞くしな」
どうやら、キャンプにまつわる噂の話をしているようだ。彼女は話を聞きつつ近づいた。
「行方不明って・・・」金髪の少年、シードルがあきれたように呟く。「それだって、なんか疑わしいよ。本当に誰か行方不明になったわけ?」
「・・・・・ガナッシュの姉ちゃん・・」パペット族の少年、カベルネがボソリと「・・行方をくらましたヌ〜・・・確か、キャンプの後だったヌ〜・・」
「それは、キャンプの後でしょ? キャンプ中にいなくなったワケじゃないんじゃないか」
「・・・・」長髪の少年、カシスはしばしジッと聞いていたが、「・・・ハァ、夢がねぇなぁ、シードル・・」
「行方不明になるって話のどこに夢があるのさっ! もういいよ、やめよう! キリがないよ。これから行くって時にする話じゃないよ」
「・・・そうだな。フレイアも呼びに来てるし」
「おおっ!? いつの間に! 気づかなかったヌ〜!」
苦笑するフレイア。件の噂話は、彼女も聞いたことがあった。毎年、ヴァレンシア海岸にキャンプに行った生徒が数名、行方をくらましている、と。でも実際に誰が行方不明になるわけでもなく、先生達も何も言わない。火のないところに煙は立たないというが・・・・
音楽室から出ると、古代機械を従えたペシュとでくわす。古代機械といっても、クラスメイトの一員、カフェオレだ。
「あっ、フレイアちゃん! 早くバスに乗りますの! もう来てますの」
「ミンナ アツマッテナインダッテ〜? ソリャ〜、アンナウワサガアッタラ・・・・・ヒョアアアアア、ヤメヨウ、カンガエルノハ・・・・・・」
「カフェオレちゃん! 急ぎますの!」
魔バスに向うと、すでにブルーベリーが呼び集めたらしく、大半の生徒が来ていた。だが、先生は来ていない。
「やっぱ〜、キャンプの醍醐味といえば、夜中の告白大会よねぇ」
キャンディの大きな声が響く。
「え〜、キャンディったら、もしかして誰か気になるヒトいるの〜?」とアランシア。
何、と密かにキルシュがそちらを向いた、が、キャンディ達は気づかず話を続ける。
「う〜ん、それは今夜のお楽しみ? ・・ねぇねぇ、二人はどうなの?」
キャンディはレモンとブルーベリーを見た。
「私は別に・・・・」やや困った表情のブルーベリー。
「私も特にはいないわね。大体、私より弱い男は願い下げね」
「レモンらしい発言だわ〜」
「フレイアはどう〜?」
「え・・・・! えと・・・・」
「今夜のお楽しみなんでしょ? 今聞きだすのは反則だわ」
「・・・・・・・」
ブルーベリーの発言に、女子達が黙ってしまった。
「・・先生、まだ来ないのかなぁ」
シードルが沈黙を破るように呟く。と、誰かがタラップから中に入ってきたようだ。
「あー、おほん」髭の老紳士だ。「みなさん、いよいよ今日からキャンプですな」
バス内がちょっとした緊張感に包まれた。だが、何だかわからず、隣にいたペシュに耳打ちする犬族の少年がいた。
「あのじいさんは、ナニモンなんだっぴ?」
「んまっ! ピスタチオちゃんたら! この学校の校長先生グラン・ドラジェですのよ!!」
「!!!!! あ、あのじいさんがだっぴ!?」
「じいさん呼ばわりはやめてくださいですのっ!!」
「・・・話を続けてよいかね?」
「ハッ! ご、ごめんなさいですの・・・」
改めて、老紳士・・グラン・ドラジェはバス内を見渡した。
「ちょっと、皆さんにお知らせしておきたいことがあって、こうしてやってきたわけですが・・・。今回のキャンプは、皆さんの魔法の実力を測るテストでもあります。よって、もしもキャンプの途中でネをあげて帰ってきたりしたヒトは・・・・退学です」
「・・・え?」
「マドレーヌ先生はキャンプの途中で『もう帰りましょう』とか言うかもしれませんが、それはワナです。その言葉につられてノコノコ帰ってきたヒトは、即!退学です」
『・・・・・・・・・・・・・・』
校長先生の表情は髭と帽子に隠されて見えなかったが、決して冗談で言っているのではないことだけは、生徒達にも感じ取れた。
「ああ、それとこのことはマドレーヌ先生には内緒にしておいてください。私が言ったことも秘密ですよ。と、先生が来たようなので私は退散します。楽しいキャンプを過ごしてください」
ほぼ入れ違いに、マドレーヌ先生が巨大な岩を押してやってきた。
「んもう! ちゃんと歩いてよ、ショコラ!」
「んー、らくちん」
・・岩、なのだがこれ・・いや「彼」もクラスの一員なのだ。マッドマンという、岩に手足が生えて顔があるような生き物なのだが、彼・・ショコラはマッドマン族である。マドレーヌが汗だくで彼を押してきたのも、自主的に集合しようとしない彼を強引に連れて行くためなのだ。
マドレーヌは生徒を数え始める。・・15人。
「先生!」キャンディが挙手した。「ガナッシュがいません! 休みなんですか?」
「・・休みとは聞いてないけど・・・・」
「あ、私、探してきます!」バスの隅でじっとしていた、小柄な少女が立ち上がった。
「そう、頼むわねオリーブ」
「私も行く!!」
即座にキャンディも立ち上がるが、二人で探す必要はない、とマドレーヌに止められる。悔しそうな、表情のキャンディがそこに残された。
学校の裏手、小川が流れている清閑な場所がある。ここが、彼のお気に入りの場所だと彼女・・オリーブは知っていた。一人でいることを好む彼は、静かなこの場所でよくオカリナを吹いているのだ。
「ガナッシュ!」
小川のほとり、大樹の下で一人の少年がハッとこちらを見た。そして、少し微笑んだ。
「・・・オリーブか・・」
「キャンプには行かないの? もうみんな、集まってるよ・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・お姉さんのこと考えてたんでしょ・・・・」
「・・・・・・・見透かされてるか・・・・」少年・・ガナッシュは苦笑した。
「逃げてちゃダメよ・・・・。ねぇ、ヴァレンシア海岸に行って、調べてみようよ。何か、手がかりが見つかるかも・・・」
「何もないよ。ただ、波が打ち寄せているだけさ。そして、楽しそうに笑うやつらを横目に、自分の闇の血を呪うのさ」
「・・・ガナッシュ・・・・・私、わかるんだ。あそこには、何かあるよ。何なのかはわからないけど・・何かが・・・・。きっと、お姉さんも、そして私達も・・・・・!」
「あ!! 遅いぞ〜!! 早く早く!!」
ガナッシュを連れたオリーブが帰ってきて、ようやくクラス16人が揃った。やっと、出発だ。と、そこへ。
「レディ〜〜〜〜ス、エ〜〜ンド、ジェントルメ〜〜〜〜ン!!」威勢のいい大音量がバス中に響き渡る。思わず何人か耳を押さえた。「本日は当バスをご利用いただき、ま〜〜こ〜〜と〜〜に〜〜アリガトウゴザイマ〜ス!! 臨海学校inヴァレンシア海岸!! 現地まで皆様をご案内いたしますのは、さすらいの天才ドライバー、ブゥワルゥスワミ〜〜コ〜〜!! ドンドンドン! パフパフパフ! キャ〜ッ! カッコイ〜!」
『・・・・・・・・・・・・・・』
バルサミコ・・・ウィルオウィスプの職員で、主に送迎バスの運転手などやっているのだが、わかるとおりノリのいい面白い魚人である・・・。
「それじゃ行くぜ〜! しっかり捕まってなよっ!!」
天才ドライバー(?)バルサミコの口上の後、バスはゆっくりと発車し始めた。と、思ったら急発進!! みんな思わず声をあげて後部座席につんのめる。ハイスピードのバスはそのまま校門に向かい・・・・そして、
ドガァァァァァッッッ!
そのまま校門に体当たりをかまして、何事もなかったように学校を出発した。校門は・・・見るも無残な姿になった・・・・。
「校門を破壊って・・・・・」
「・・・・・・」
何か言いたげにシードルが呟いていたが、カシスは何も言わなかった。
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