光のプレーン


 7:闇の陰謀
 深い深い、闇。一面が薄暗い闇に覆われた、うっそうとした森。
そこいらから、邪悪な息遣いが聞こえてきそうな、混沌とした場所に彼女はいた。
彼女の歩いた道筋には、おびただしい数の魔物の死骸。そして、今も彼女を取り巻く無数の魔物。
「・・・この女・・・・・・何者だ・・?」
エニグマの一匹が恐れおののいた。彼女はそちらをチラリと見やる。
「あなたたちザコに用はないわ。あなたたちを指揮している、上位のエニグマがいるんでしょう。
そいつを出しなさい」
彼女はバッと右手を真横に差し出して後方に魔法を放った。後ろでまた苦鳴があがる。
「・・・く、くそ・・・・・」
「くっくっく・・・・・」
周囲の空気が変わった。周りにいるザコより明らかに上位のエニグマが、彼女の前に姿を現した。彼女の数倍はある巨体に太い腕が6本ついている。
しかし、彼女は気圧されたりはしない。
「あなたが指揮しているの? これは、ケルレンドゥの意志なの?」
「・・・この女・・! なぜケルレンドゥの名前を・・・・?」別のエニグマが動揺を見せる。
しかし、巨体は動じることもなく、
「ケルレンドゥか・・・ヤツなら死んださ・・・・・たった今な・・・・くっくっく」
「・・・・・。そう・・・・やっぱり直接出向くしかないか・・・。面倒な事態だわね・・・・」
「ヤツはもうすでに王ではない。ケルレンドゥの代わりにこのエキウロクリュ様が王になる。
そして、全てのプレーンを我が物にするのだ・・・・」
「・・・・・・・・・ふーん。できるのかしら? あなたに」
「・・・・何だと?」
巨体が体を大きく揺らした。
「あなたじゃ、私どころかあの子達にも勝てないわよ。なのに王になるだなんて・・・笑わせるわね」
「・・・・・・・・・・どうかな? あのガキどもももう今頃は光のプレーンで、配下のエニグマどもと融合しているかもしれんぞ」
「それはないわ。言ったでしょ? あの子達はそんなに弱い子達じゃあない。
光のプレーンにいるなら、なお安心だわね。・・・・・それじゃあね」
彼女の姿がその場からかき消えた。
「何!? ワープの魔法だと!?」
「・・・・・・おまえら。あの女とガキどもを皆殺しにする。ガキどもを『こちら』に連れてくるのだ!」
「はいっ!」
ザコエニグマ達もワープを使ってこの場から立ち去った。
あとには、巨体が一人残された。



 レーミッツ宮殿の西側は広大な岩場地帯になっており、北方にトルーナ村、西方にゲアラヴァ村が存在する。
フレイア達が進入したのは広大なイベンセ岩場の南東部分。比較的地形はなだらかで、木々も数多い。
一行は、とりあえずドワーフが住むというゲアラヴァ村を目指して進んだ。
ドワーフは機械技術に優れた種族。レーミッツで発見できなかったカフェオレが、何か関わってしまっているかもしれないからである。
 一行はおおよそ数時間ほど歩いたのち、おのずと歩みが止まった。
「そろそろ休憩しようじゃないの」
光のプレーンには、「夜」という概念がないらしかった。
一日中(何を以て一日とするのかも不明確であるが)太陽の明るい光に包まれている世界なのだ。
ゆえに、それに慣れていない彼らは当初戸惑ったのだが、「食べたくなったら食べる、眠たくなったら寝る」スタイルを取ることにしている。
ただ、アランシアなんかは「や〜ん、太っちゃう〜」と不平をこぼしていたが。
 レーミッツ宮殿を探索し、さらに西に向ったところで、流石に疲れが出たらしかった。
岩場に座り込むなり、早速寝てしまうピスタチオ。
「・・・・・ま、ここにもモンスターはいないみたいだし、大丈夫ね」
レモンも岩にもたれて目を閉じた。
「でも、一人は起きてた方がいい気がするな〜」とアランシア。
「じゃあ、アランシアお願いね」とはフレイア。
「え、え、え〜! やだ〜、そんなつもりじゃ〜・・・」
「オレが起きとくよ」
とキルシュ。しかし、直後に大あくび。
「・・・・・心配すんなって・・・ふぁぁぁ・・・・」
「・・・(ダメだわ・・絶対寝る・・・)なら、私が少しの間起きておくから。寝てていいよ」
「え〜、ゴメンね〜フレイア〜」
いいつつも早々に岩にもたれかかって寝る体勢を取るアランシア。
「大丈夫だって、フレイアも休んでいいぜ。・・・・ふぁぁぁ・・・・・」
「(また・・・)」
「大丈夫、大丈夫・・・・・」
言いながら、寝息を立て始めるキルシュ。溜息をついて、フレイアは改めて地図を取り出した。
今、イベンセ岩場の南部か中央部あたりだろうか(彼女は全く違う場所を見ていたが)
地図で見れば、ここから西に数時間ほどでゲアラヴァ村に到着するはずだ。
果たして、カフェオレは見つかるのだろうか・・・。そして、まだ見ぬクラスメイト達に出会うことができるのか・・・・・
「・・・疲れたな、なんか・・・」
ずっと気を張っていたから、どっと疲れが出たようだ。
クラスでは委員長だし、皆が自然と彼女を頼りにしているきらいがあった。
ゆえに、自然と彼女もしっかりしないとと思うようになってしまう。
普段は別にそれもいいのだが、今回は状況が状況だけに、彼女だって対応しきれない部分もあるのだ。
ちょっぴり気弱になるフレイア。これから、どうなるのか・・・・・
「フレイア?」
呼ばれて、思わずフレイアはバッと顔を上げた。この場にはいないはずだった声に。
前方、彼女達が向おうとしていた先の道に、立っている少年の姿を認めた。
思わず笑顔になるフレイア。
「カシス!」
「こんなとこにいたのか」
一人きりのようだった。フレイアの近くまで来て、そこに座った。
「レモンにキルシュにアランシアにピスタチオ・・・・・こんだけか?」
「東の方に魔バスが来てるんだけど、そこにブルーベリーとペシュがいるはずよ」
「魔バスまで来てんのか。ふぅん、だったら魔バスで帰れるんじゃねぇの?」
「それが・・・」
魔バスが壊れてしまっていること、修理のためにカフェオレを利用しようとして逃げられたこと、そのカフェオレを追っていることを説明した。
「カフェオレか・・・・そーいや少し前に見かけたぜ」
「えっ! どこで!? いつ? 何時何分・・!」
「いいよ、それは。ええと、一時間くらい前だったな。周りにドワーフどもがいたから手ぇ出さずに見送ったんだが、多分西のドワーフの村に行ったんじゃねぇかな・・・」
「やっぱり・・・・・。でもOK、目的地がハッキリしたわ。・・・・で、カシスは一人で何してんの?」
「・・・ショコラを見なかったか?」
「いいえ」
「そっか・・・・・」
「ショコラを探してるのね。他のみんなは見なかった?」
「ああ、そうそう。ガナッシュ達。キャンディとカベルネとオリーブが北の村にいたから、シードル押し付けて一人で出てきたのさ。今頃はもう出発してるだろうな」
「北の村・・・」
地図をまた見るフレイア。
地図では北の方に村らしきものが記載されている。ここからだとやはり数時間かかる距離っぽい(いや彼女はやはり違うところを見ていたが)
「でも良かった。ガナッシュ達も無事なのね。キャンディが無事って知ったらキルシュ喜ぶわね」
「はははは」
「あ、起こそうか? 話することもあるかもしれな・・・」
「あっ、待て!」
あわてた感じで止められ、フレイアはなんで? と彼を見た。
「あ、いや、疲れて寝てんだろ? 寝かしといてやれよ。後で話しといてくれればいい」
「・・・・? うん」
起こすのをやめ、座りなおすフレイア。
「・・・・・ねぇ」
「ん?」
「これから、どうなっちゃうのかな・・・・私達。もとの世界に帰れるのかなぁ・・・」
「なんだよ、弱気だな」
「だって・・・・いきなりこんなことになっちゃって、どうしたらいいかもわかんないし、エニグマには襲われるし・・・・」
「エニグマか・・・・・」
「どうしてエニグマは私達を狙ってくるの? なんで、こんなトコに連れて来られたのかな・・・何か目的があったのかなぁ・・・・」うつむくフレイア。「・・・って、わかんないよね答えなんて」
「・・・・・・目的は知らない。でも多分『融合』したくてこっちに連れて来たんだろ。
こっちで俺達を疲れさせて、弱ったところを狙って融合する・・・そんなとこだろ」
「融合・・・・でも、それなら海岸ですることもできたんじゃ・・・・」
「ムリヤリには出来ないんじゃねぇのか?」
「・・・・そっか・・・それなら・・・」
「だから、こっちがしっかり気を張ってれば、融合されることはねぇだろ・・多分だけどな。
・・・・・じゃ、俺はそろそろ・・・」
と、立ち上がるカシス。
「あ、ねぇ、どうせなら一緒に・・・」
「いや、俺は俺でやってみる。一人の方が動きやすい」
「・・・・・・・・そう・・・・」
すっかり意気消沈な表情を見せるフレイア。
「そんな顔すんなよ。ショコラを連れ戻したら合流する」
「うん・・・気をつけて」
「サンキュ。お前らも気をつけろよ。・・・まぁレモンにキルシュもいるし大丈夫だろうけど」
「うん」
「それじゃ」
そのまま口笛まじりに歩いていくカシスをフレイアはじっと見送った。
「ん・・・・ふぁぁ・・・」
ほどなく、レモンが目を覚ました。もう彼の姿はすっかり見えなくなっていた。



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