光のプレーン
3:それぞれの思惑
次の日。フレイア達は急遽、南に向うのを余儀なくされた。昨日もムスコさんがチラリと言っていた事を、彼らは失念していた。エニグマ。
ワクティ村の南には、古い時代の宮殿があるという。おそらくは、レモン達もここに行き着いているに違いないだろう。そして、この宮殿には現在、エニグマが住み着いているらしい・・・・・。フレイアは、ワクティ村でもらった地図を見ながら南へ向っていた。
「こっちね」
「ねぇ〜、なんか変なニオイしな〜い?」
「これはきっとイオウのニオイだっぴ」
フレイアの進むまま、3人は先へ向う。そしてその先に。
「・・・・・・・・・・・」
温泉場があった。
「なんで温泉にたどり着くんだよぉっ!!!」
キルシュがフレイアから地図を奪い取る。そしてじっと見つめる。
「・・・・・東側じゃねぇか!! オレ達が向うのは南だろーがぁぁぁ!!」
「あらぁ?」
「あらぁ? じゃねぇよ!」
「そーいえば〜」とアランシア。「フレイアって、結構方向オンチだよね〜」
「てへっ」
「前、学校で迷子になってたよね〜」
「やだ、ソレは言わない約束でしょ〜!?」
『・・・・・・・・・・・・』
知ってて任せてたんかいっ! 思ったが、言ってもきっと無駄だろう、アランシアには。キルシュは頭を振った。
「やれやれだぜ、ブラザー」
「せっかくだから、温泉に入るっぴ?」
「んなヒマねぇっての」
「ん?」
ピスタチオは、何かの物音を聞いた。近くのしげみからだろうか。近づくピスタチオ。そこには・・・何か白いものが転がっていた。
「?? なんだっぴ??」
「・・・・・・・み・・・・・・みず・・・・・」
「ぴっ!!? ナ、ナ、ナ、ナンダッピ〜〜〜〜!?」
「・・・・・水を・・・・」
・・・どうやら、目の前の白いものから発せられているようだ。おっかなびっくり、ピスタチオはそいつを転がして覗き込む。すると、目が合った。
「!!!!!!!??」
それは、丸いフォルムのツボだった。しかし、ソレには顔があった。今にも死にそうなくらいに歪んだ表情だった。本当に死んでしまいそうなその雰囲気に、ピスタチオはツボを抱え上げて、
「み、水が欲しいんだっぴ?」
「・・・水を汲んで・・・下さい・・・」
「わ、わかったっぴ!!」
急いでツボを温泉に浸して水(お湯)を汲み上げた。他の3人は何やってんだ、といった表情だったのだが。
「ぷはーーーーっ!! 生き返りましたっ!!」
『!!!!!!!!』
ツボは元気に跳ね(!)、着地するとピスタチオ達に向き直った。さっきとは全く違う、生き生きした表情だった。
「ありがとうございます! 旅に出たはいいけど、遭難して2年と4ヶ月と12日・・・・。流石にヒビ割れて死ぬかと思いました・・・・。あなた方は命の恩人です!」
私達は何もしてないけど・・・フレイア達は思ったが、言うのはためらわれた。
「よ、良かったっぴ・・・・」
「何かお礼をしたいんですが・・・・」
「えっ・・・い、いいっぴ・・・いらないっぴ・・・・」
「いえいえそう言わずに。・・・そうだ! 疲れた時、もし旅のポットに会うことがあったら、雨水をわけて欲しいと言ってみてください」
「雨水? 何かあんのか?」とキルシュ。
「き・ぎ・ょ・う・ひ・み・つ」
「ふざけんなぁぁぁぁっ!!!」
「それでは、私はこれで! ありがとうございました!」
「あっ! コラ! 言い残して逃げんな!!」
飛び跳ねてツボは立ち去ってしまった・・・・・。
「・・・なんていうか・・・・」呆然と、フレイア。「もう何見ても驚かないかも・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
温泉場を後にした一行は、今度はキルシュを案内役に南に向った。小一時間ほどで、森の木々の向こうに建物の影が見えてくる。相当、大きな建物のようだ。さらに少し歩くと、宮殿を取り囲む高い壁の一部に遭遇する。壁は彼らの数倍も高く、その規模がうかがえた。
「・・・ホントにここにレモン達、来たのかなぁ〜?」
アランシアが口にする。拳を鳴らし、それに答えるキルシュ。
「いなかったらいなかったで、とりあえずここのエニグマぶっとばして魔バスに戻るだけだろ」
「エ、エニグマをぶっとばす!? ほ、本気で言ってるっぴ!?」
「マジもマジだぜ!」
「ひぃぃぃぃ・・来るんじゃなかったっぴ・・・・・」
ふとフレイアは防壁を見上げた。宮殿を守るように張り巡らされている壁に、暖かい影を感じた。彼女の視線の先には、ベールをまとった小さな姿が見えていた。
「・・・・・レモン達、この中にいるんじゃないかな・・」
「フレイア〜、どうしてそう思うの?」
「なんとなく」
ふ〜ん、とアランシアは言った。
「フレイアが言うなら、そうかもしれないよね〜。フレイアの勘って、当たるんだから〜」
「だな」
最後尾からフレイアは、3人を見つめていた。彼らは、小さな存在に気づいていない。最初から、見えていないのだ。それは、精霊だった。クラスメイトの中でも、フレイアにしかその姿を見ることは出来なかった。
『アナタのお友達がここを通りましたよ』
その声を聞いたのも、彼女一人だった。
精霊はプレーンに存在し、様々なものに宿る存在である。それはまぎれもない事実なのだが、物質プレーンでは一般的な認識ではなかった。殆どの人間に、精霊の姿は全く見えないからだ。ソレが見えるフレイアは、少なくとも自分が『特殊』な存在であることは自覚している。それが原因で、幼い頃は友達がおらず寂しい思いをしたから。勿論、クラスメイトにも内緒だった。
彼女が見たのは、彼女の属性と同じ光の精霊ルクスである。この宮殿には、ルクスが多く居ついているようだ。光に守られた宮殿。ここに、対となるはずの闇の魔物エニグマも住み着いている・・・・・
「おっ! 門っぽいのが見えたぜ!」
「ふぃ〜、やっとだっぴか・・・・。もう歩き疲れたっぴ・・・・」
「ねぇ〜、少し休もうよ〜」
「賛成〜」
「なんだよなんだよ、早くしようぜ」
一人意気込むキルシュを尻目に、3人は門の近くに座り込む。
「レモン達に早く追いつかねぇと!」
「レモン達もそうだけど・・・」とフレイア。「もっと気をつけないといけないものがあるでしょ」
「何だ!? そりゃ!?」
「・・・・・・・・・エニグマ」
「あっ」
「疲れてる時に遭遇しちゃったら、ちょっとやばいんじゃないかな〜って思うんだけど」
「・・・・・・・・そうだな」
キルシュもストンと座る。なんだかんだ言っても、彼も疲労しているようだ。そして、何かジッと考えにふける。
「・・・ねぇ・・」とアランシア。「なんで、エニグマは私達を狙うんだろ〜・・」
「・・・・・融合・・とか言ってたけど・・・・」
口元に手をあてるフレイア。さらなる力・・・一つになる・・・融合するために、みんなを光のプレーンに連れ込んだのだろうか。
「なんにしても、ヤツらと戦わないことには自由にはなれそうもないわよね」
「イヤだっぴ〜〜〜〜〜〜・・・・オイラ、戦うのはイヤだっぴ・・・・・」
頭を振るピスタチオ。シッポもすっかり下がってしまっている。
「ピスタチオ〜、そうは言っても・・」
「オイラ、魔法が使えないっぴ。戦えないっぴ。オイラ、ジャマ者なんだっぴ・・・」
「! そんなことない!」とフレイア。「誰もジャマだなんて思ってない。ね?」
「そうだよ〜」アランシアも同意する。「魔法が使えるとか使えないとかなんて、関係ないよ。友達じゃない〜」
「うう・・・・アリガトだっぴ・・・」
「心配すんなよ、ピスタチオ」
今まで黙って考え事をしていたキルシュが割って入る。
「それからフレイアもアランシアも。戦いの時にはオレが守ってやるから」
「キルシュ・・・・・」
「・・・・考えてたんだよ、色々。考えんのニガテだけど、どーにか。オレにできることって何か・・・ってさ」
『もしも、今みたいに魔物なんかに襲われて、みんなに命の危険が迫ったような時に、だ』
薄暗い、海岸で。目の前でクラスメイトが魔物に連れ去られ、何が何だかわからずにひたすら暴れていたキルシュに、彼はこう言った。
『戦う力の乏しい子供ばっかりで、闇雲に暴れてもどうにもならない。そうだろ?』
『じゃ、どうすりゃいいんだよ!!』
『落ち着けよ、キルシュ。アタマに血ィのぼってちゃ、勝てるものも勝てないぜ』
『一人きりの場合は別として、何人か仲間が周りにいるなら、戦えるヤツが前にでて戦って後のみんなを守る。そして援護してもらうのさ』
『・・・・・・・・・』
『お前なら、多分やれると思う』
『・・・・・・・・・』
「今はひたすら前に進むしかない。きっとエニグマが立ち塞がるだろうけど、戦わないと道を切り開けないんなら、戦うしかない。
・・・・死ぬかもしれない。でも、誰も死んだらダメなんだ。だから、戦えるヤツがみんなの代わりに戦って、守らなきゃいけない。
・・・って、アイツが・・ガナッシュが言ってたんだ・・・・・。あんときは、よく飲み込めなかったんだけど・・・・今ならわかる」
キルシュはまっすぐ3人を見つめた。
「みんなで力を合わせて、エニグマなんかブッ潰してやろうぜ! そして、全員で元の世界に帰るんだ!!」
迷いはなかった。みんなも、うなずいた。
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