死のプレーン


 6:目の前に広がる空
 そこは、宇宙だった。物質や光、闇を始めとした様々な無数のプレーンが存在する場所。
彼らは、世界を見渡す場所に立っていた。
無数に瞬く星々。無限に広がる広大な空間。生まれては消えていく小さな命達。
彼らはしばし、呆然としていた。こんな光景を見るなんて、生まれて初めてだった。
「ここは、ラキューオ。全ての魂が還る場所。還った魂は、宙(そら)に昇り、星となる。
星は新たなるプレーンとなる。そして新たなる魂が生まれる」
彼らのほとんどには見慣れない、異形の存在はかく語る。
全ての闇を司る、闇の大精霊ブラックカラント。
その姿は闇の精霊ニルヴァと酷似していたが、それとわかる者はここには一人を除いていなかった。
「答えよ。お前達は我に何を望む・・・」
 大精霊は、来訪者達に目を向けた。
生きながら死のプレーンに辿りつき、この場所へとやってきた者たち。
「・・あの・・・・」
少女は周りの仲間達を見やる。皆、彼女を見てうなずいた。
意を決して。
「私達・・・友達を捜してるんです。私達より前に、人間が来ませんでしたか?」
「来た。再生の魔窟に向うと言っていた」
仲間達は互いに顔を見合わせあった。少女は続ける。
「その魔窟に行くには、闇のヴェールがいるって聞きました。彼らに渡したんですか?」
「・・・・・仕方あるまい」
その言い方が少し引っかかったが、さらに続ける。
「それならば、私達もそこに行かないといけないんです。どうか、闇のヴェールをもらえないでしょうか・・・?」
大精霊はしばらく思案していた。
「・・・・ダメですか・・?」
「・・・・・・・・・あの者たちを捜して、何とする」
答えようとして、彼女は急に立ちすくんだ。大精霊の目が、彼らを射抜いている。
(・・・・・試されてるな・・)
誰かが思った。
彼女は慎重に言葉を選ぶ。
「・・・彼らがしようとしていることを、私達は止めないといけないんです。
取り返しのつかないことになる前に・・・・だから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
大精霊はやはり黙ったまま。
しかし。
「・・・お前達に止めることができるのか?」
「・・・・・止めてみせます!」
「・・・・・・・・・・・・・・・良かろう。
お前達を信用してみよう。魂の輪廻を狂わす存在を、滅することを望む」
その刹那、辺りは深い闇に包まれ、黒い光がフラッシングした。


 ふと、キルシュは目を覚ました。すぐ目の前で、小さな炎がくすぶっていた。
いつの間にか寝て、それほど時間は経っていないらしかった。
すぐ隣でアランシアも起き出して目をこすっていた。
「ふぁぁ〜・・・・・・」
彼らの周囲で、寝ていた仲間達も次々と起き出していた。
思わず、ホッとするキルシュ。
「よく寝たっぴ〜」あくびするピスタチオ。
「寝れたかい? あたしゃ、変な夢見ちまったよ」頭を押さえるレモン。
「オレも見たぜ! なんか、一つ目のバケモンがこっちを見てんだよ」なんだか興奮しているセサミ。
「お星様がキラキラしてて綺麗な夢でしたの〜」ウットリと呟くペシュ。
口々に仲間達が「夢」の話を始める。視点はかなり違っていたが。
「え〜、それって私も見た〜」
「私も・・・・」
「全員見たんだろ?」
キルシュの言葉に皆がうなずいた。
「・・・・夢・・・だったのかな・・」
と、ふとフレイアは手元を見やる。なんとも不思議な質感のヴェールがそこにあった。
「そ、それ・・・・・もしかして・・」
闇のヴェール。あれは夢ではなかったのだ。彼らは「ラキューオ」に居たのだ。
「すごいっぴーーー!」
「夢じゃなかったんですの!?」
「うへぇ、信じられねぇや」
「でもホントだよ〜。あのヴェールが証拠だよ〜」
一斉に盛り上がる仲間達。これで、またガナッシュ達を追いかけることができる。
「そうと決まれば、出発するよ!」
「おーーーーーーーー!!」
勇んで立ち上がる仲間達。だがしかし。
一向に盛り上がりに参加しない仲間もいた。さっきから会話にも参加せず、じっとしていた。
それに気づいたアランシア。
「?? ねぇ〜、どうしたの〜? 具合悪いの〜?」
皆もそちらを見る。
「あ、ソレは違うヌ〜・・・」あわてて弁明するカベルネ。「ちょっと、頭がクラクラするだけだヌ〜」
「元気だな、お前ら・・・・・・」木にもたれたまま呟くカシス。「さっきから耳鳴りが止まらねぇんだけど・・・」
ギクッ! 嫌なものを感じ、恐る恐る二人を見るキルシュ。
その反応に彼らも不審に思った。
「なんだよ、キルシュ・・・・・何か知ってんのかよ・・」
「し、知らねぇ!! なんでオレがんなこと知ってんだよ!!
誰も羽交い絞めたり耳元で叫んだりなんかしてねぇよ!! ・・・あっ!!」
しまったと思っても、もう後の祭り。二人がこちらを睨んでいる・・・・・・
「キルシュったら〜」呆れ声のアランシア。
一方キルシュは間髪いれずにダッシュ!
「あっ! 待て!!」
「追いかけるヌ〜!!!」
かくて、激しい鬼ごっこが始まった。
「・・・クラクラするとか耳鳴りとか言って、元気じゃんかアイツら」こちらも呆れているレモン。
「アニキ〜・・・切ないぜオレは・・・」とセサミ。
「私達も行きましょうよ」
「そうですの! 早く止めないと、キルシュちゃんが大変ですの!」
「・・・そうだね」
目指すは北方、モギナス魔窟と呼ばれる場所。
(あいつらがしようとしてることを止めるために・・・・か。そうだよね・・・取り返しがつかなくなる前にさ・・・・)
一行は、再び歩き始めた。


 海に程近い砂浜。ここに留まって、4日目になろうとしていた。
「オラオラ、もっとリキ入れて押せよ!! ちっともすすまねぇじゃねぇかよ!!」
「オシテルッテノ!! ソッチコソ ソンナトコニノッテナイデ オリテオセヨォ!!」
「馬鹿野郎が!! エンジン回さないでどうすんだよ!!」
「落ち着いて、落ち着いて!」
相変わらずの風景。魔バスを砂浜から脱出させるべく奮闘している一行。
しかし、思いのほか砂浜が広くて先がまだ見えない。
「キカイヅカイガ アライオッサンダゼ、マッタク」
ブツブツ呟くカフェオレ。その隣では、「つーかーれーたー」と座り込むショコラが。
いくら力自慢とはいえ、簡単にコトを成せるほど甘くはなかったようだ。
「頑張って・・・」
手伝うこともできず、ただ声をかけ続けるオリーブ。
と。
「オヤ? オリーブ、アトノフタリハドウシタ?」
カフェオレは応援係が今オリーブしかいないことに気づいた。
「ブルーベリーとシードル・・・・何か思うことがあるって・・・先生に言って、先に行ったみたい・・・」
「・・・・・ナンダッテェ!!? ソリャ、ドウイウコトダイ!」
「わかんない・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
思案にくれるカフェオレ。バルサミコからすぐ野次が入り、バス押し作業に戻ったが。
「ハヤクシナイト、サキニイッタ ミンナガ クロウシテルッテノニ・・・・アア、モドカシイ・・・・」
しばらくして、先に行ったという二人が南の向こうから戻って来るのが見え始めた。
やや疲れた表情で戻ってきた二人は、すぐにこう言った。
「カフェオレ、砂浜が終わるのはもう少しだよ」
「ヨウヤット!? ワザワザ ミニイッテクレタノデスカ」
「それで、場所がある程度特定できるなら、アナタの力でワープできないかと思ったんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アッ」
カフェオレに注目が集まった。
「ワープって?」マドレーヌ先生が問う。
「ドワーフに改造してもらったらしいんです。プレーンの中なら移動可能って聞いて、せめて砂浜からでも脱出できないかって・・・・」
「・・・・まぁ。それならそうと、早くいいなさいよ〜カフェオレ〜?」
マドレーヌに睨まれて、恐縮するカフェオレ。
「・・・ア・・・・イヤ・・・・・スッカリ、キオクニアリマセンデシタ・・・・・・」
「やっぱり」頭を振るシードル。
「デ、デモ、ケッコウフタンガ カカリマシテネ。
イッカイヤルダケデ ダウンシテシマウノデスヨ。ソレナノニ・・・」
「その一回でバスが動ける場所に行ければ、充分でしょ?」とブルーベリー。
「・・・・・・タシカニ・・・・・」
「決まりね」
その足で向った先と、現在位置との距離を計算し、向う先を決定する。
あとは、カフェオレが正確にワープしてくれるのを祈るのみ。
みんな魔バスに乗り込み、カフェオレも中からワープ装置を動かし始める。
彼自身、取り付けられた直後に一回だけ試運転しただけなので、不安は残るのだが。
この際そうとも言っていられない。
「ミナサン、シッカリツカマッテテクダサイ! デハ!」
魔力ではない特殊な力場が発生し、バスが大きく揺れ始める。
そして、消えた。

 程なく、魔バスは砂浜の南、何もない荒野に姿を現した。
「やったぁ! 脱出したよ!」
窓から外を見やって、シードルが思わず叫んだ。
「ドワーフの技術も大したものね」感心するブルーベリー。
「ご苦労様、カフェオレ」
「・・・・プシュゥゥゥ・・・・・・・・」
すっかりダウンしてしまうカフェオレ。マドレーヌは微笑んだ。
「バルサミコ、準備おっけーよ」
「任しとけ! やっとブイブイ走れるぜーーー!!
俺様の華麗なハンドルさばきをとくと見ろーーーーーーー!! うぉーーーー、燃えるぜーーーー!!」
「早くしてってば〜」
「おおっと、スマンスマン。行くぜ!!」
またいきなり急発進し、乗客が後ろにつんのめる。
ようやく、追いつくことができそうだ。
「・・・・すぐに行くから、早まってはダメよ・・・・ガナッシュ・・・」
誰にも聞き取れぬほどの小声で、マドレーヌは独りごちた。
この、色を失った空の下のどこかにいる、悲しい運命を背負った少年に向けて。




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