死のプレーン


 5:炎
 モイロロト村の東方・・・深い森の広がるその先に、その場所はあるという。
マッドマン曰く、あらゆる魂の終着点という場所、「ラキューオ」。
死した魂は再生の間で新たな命へと生まれ変わるが、転生を繰り返し、昇華しきった魂はこの場所で星になるという。
 森を抜けて、その向こうにやや開けた場所があった。とはいっても、開けているだけで、特別何かがあるわけでもなかった。
ただ、「何か」があった痕跡のみが、そこに存在するだけ。
「・・・・ここなのか?」
キョロキョロと辺りを見回すキルシュ。
「疲れた〜」アランシアがその場にしゃがみこむ。「ねぇ〜、少し休憩しようよ〜」
「地図誰が持ってるの?」
「あ、オレだヌ〜」
地図を広げ、覗き込む。モイロロト村の東方にバツ印がつけてある。ここが、目指す場所だというのだが・・・・
「距離的にも、ここら辺に違いないはずなんだけど・・・」とレモン。
「だったら、ここじゃあないの?」とはフレイア。
「・・・・・・何にもないじゃないのさ」
特別に名称があるのだから、何かある場所だと考えるのが普通だろう。
「そもそも、その『ラキューオ』って場所、どういう場所なのか聞いたワケ?」
「どういう・・・・って、魂が・・・」
「そういう意味じゃなくて。建物なのかとか、目印とか・・・・・・」
「全然。そういうことは、一言も言ってなかったわ」
はぁ、と溜息を一つ。
おそらく、彼らもそこまでは知らないのだろう。あの図体のでかいなりでこんな場所まで遠出するとは考えにくい。あくまで、知識、情報として知っているだけなのだろう。
そもそも、このプレーンで暮らす彼らには、このような場所など意味のないものなのだろうから。
とりあえず、考えても仕方ないので休憩することにした。


 今まで野営などする際には、必ず火をつけて見張りを数人置いていた。万が一に備えて、である。大概年長者がソレを担当しており、この時は次点の3人が起きていて話込んでいた。
「・・・だから〜、大変だったのよ〜」
「それはすごいですの! 感心しますの!」
「それほどでも〜、あるかもしれないけど〜・・・」
いつやむとも知れない甲高い会話に、耳を傾けるでもなく火をジッと見つめる少年、キルシュ。
女はホント、キラクだなと思いつつ。
おそらく、他の誰よりも今回の件を大きく受け止めているのが、彼だった。
本人は未だ認めていないのだろうが、彼女・・・・キャンディのこと。
あんな状況で、キャンディは迷いもなくガナッシュについていった。
何故?
考えると、胸が痛む。理由なんか、とっくに解っている。
「・・・・・・(オレの出る幕はねぇってか・・・・・?)」
いつからだろう。気になり始めたのは。
気づいたら、彼女を目で追うようになっていた。明るくて、ハキハキした彼女が、とても魅力的に映った。
でも。
彼女には、他に好きなヤツがいるのだ。
どうしようもない。わかってるのに。
「・・・・・キルシュ〜?」
呼ばれて、ハッと顔を上げる。アランシアとペシュがこちらを見ていた。
「あ〜、良かった〜、寝てたかと思ったわよ〜」
「ちゃんと見張りしないとダメですの」
見張りってのは、ペチャクチャ喋ることを言うのかよ・・・・思ったが、口には出さなかった。
最も、いまだにこのプレーンでモンスターらしきモノに遭遇していないので、見張る必要があるかどうかはわからないが。
「考え事してたんだよ」
「え〜〜、珍しい〜!」
「アランシア! そんな、オレが考え事しちゃ悪ィかよ?」
「悪くはないわよ〜。でも、いつもあんまり考えてないじゃない〜」
アランシアはキルシュの顔を覗き込む。思わず顔をそむけるキルシュ。
「・・何だよ。たまにはいいだろ」
「そうね〜、たまにはね〜。何考えてたの?」
「いっ、いいだろっ、別に!!」ムキになるキルシュ。
「何で怒るのよ〜」
「怒ってねぇよ!!」
「怒ってるよ〜」
「・・・・・・・・・」チラリと、彼女の顔色を伺う。「・・・・・悪ィ」
「・・・・どうしたの〜? キルシュ、なんだかヘンだよ〜」
「何でだよ」
「だって〜、ここに来てからずっと、考え込んでるみたいなんだもん。
あんまり騒いでないしさ〜。何かあったの?」
「・・・・・・」
答えない。彼女に話すことではない。
いやそれよりも、気心知れているというのは、厄介だ。ちょっとした変化を敏感に感じ取ってしまうのだから。
10年以上の付き合いは伊達ではない。
「・・・何でもねぇよ」
「ウソ! 絶対、何かあったんだよ〜!」
追及モードに入るアランシア。
彼女がこうなったら、引き下がらないのも彼は知っている。・・・彼女がこうなるのは専らキルシュのみだということには気づいていないのだが。
「・・・・オマエに、いちいち言わなきゃいけねぇコトじゃねぇだろ? ほっといてくれよ」
「・・・・・・・・どうしてそんなコト言うのよ〜・・」
「どうしてって・・・」
キルシュはギョッとした。アランシアは涙を浮かべている。
古来、男子というものは女子の涙に弱いものであるからして。
「な、泣くなよ、何で泣くんだよ・・・おい!」
「だって〜・・・・・」
「ああ、もう!! なぁ、ペシュ、どうにかしてく・・・」
と、もう一人の見張り役に目をやるが・・・・彼女はいつの間にやら横になってスースー眠っているではないか!
「おい! テメェ、ちゃんと見張りしろとかゆっといて! 起きろ!!」
激しく揺さぶるが、ペシュはいっこうに起きる気配もない。
「・・・・全く・・・・。アランシア、とにかく泣くのはよせよ。そろそろ見張り交代してもらうから、もう寝ろよ。寝たら落ち着くって」
「・・そうやってごまかして〜・・・・・」
だが、泣くのはやめたようだ。
「次の当番は誰だっけ」
「え〜と〜・・・カシスとカベルネだったかな〜」
「そうか」
キルシュは近くで寝ているカベルネに近づく。
「起きろ!!」
やはり激しく揺さぶるが、こちらも起きない。叩いてつねって、しまいには羽交い絞め始めるが、同じ。
それに、アランシアが訝しい表情を浮かべる。
「何だってんだよ。ちっとも起きやしねぇ・・・」キルシュが息切れしながら呟く。
「・・・・・どうしちゃったのかしら〜・・・・」
「オレ達にずっとやらせる気かよ。冗談じゃねぇ!」
と、今度は木にもたれて寝ているカシスに近づく。
「起きろーーー!!! 寝てんじゃねぇーーーー!!!」
かなりの大音量で耳元に叫ぶも、こちらも反応がない。そして、大音量にも関わらず他のみんなも誰一人として起きてこない。
 流石にキルシュもおかしいと感じ始める。
「や、やだ〜、何が起こってるの〜?」アランシアがしがみついてきた。
「・・・・・タヌキ(寝入り)・・・じゃねぇのか・・・・?」
焦って、キルシュは他のみんなの所へ行く。が、皆同じ。
「どうしちまったんだよ!! なんで、みんな起きねぇんだよ!!」
「や・・・・やだ〜・・・・まさか・・・・・・」
「まさか、何だよ!! ヘンなこと言うんじゃねぇぞ!」
震えながら、アランシアは一番近くにいるペシュに近づく。そして、そっと触れてみる。
すると、安堵にも似た表情を浮かべた。
「・・・・・・・・まさかは、違うみたい・・・・・でも、起きないのは変わらないし・・・・」
改めて、少年を見やるアランシア。しかし、どうしようもないのも事実。
考えるのが苦手なキルシュも色々思案していたようだったが。
「・・・・とりあえず、このままにはしておけねぇよな」
「どうするの〜・・・・?」
怖さと不安とで、彼女は自然と身を寄せてくる。思わず身を固くするキルシュ。
(・・・・そーいや・・・・こんな時になんだけど・・・・なんか二人っきりじゃんかよ・・・・・・・・・)
「と、とりあえず、ここからは動けねぇよな・・・うん」
「でも〜・・・・それじゃあ、ガナッシュ達が〜・・・・」
「・・・・・・・・ガナッシュ・・・か」
いまだ小さく燃える焚き火の炎を見つめ、キルシュはまた思案に暮れる。
ガナッシュ。クラスでも浮いたヤツだが、基本的に何でもこなすデキたヤツ。だから、キャンディもアイツを・・・・
悔しいけど、アイツには勝てないのかもしれない。
「・・・・何としても止めないと・・・・な、アランシア・・」
と、隣で寄り添って船を漕いでいる少女の姿が。眠気に勝てなかったのか、キルシュの隣で安心して気が抜けたのか、わからない。
だが、悪くはない。こういう感じも。
「・・・・オレも寝るかぁ」
どうせ、モンスターなど襲ってはこないだろう。それに、寝たら近づけるかもしれない。
いやそもそも、この現実すら実は悪夢なのかもしれないんだし。
程なく、辺りは静寂に包まれた。火のはぜる音だけを残して。






 それは、夢だったのだろうか。








 気づいたら、そこは一面の暗闇だった。右も左も、上も下も。黒一色の世界。
そこに立っているのかもわからない、全くの黒。これは、夢? それとも現実?
そう思うに至ったとき、暗闇に変化が起こった。
 かすかな光の種が空虚に生まれた。それは、手を伸ばせば届きそうで、いくら手を伸ばしても届かない光。光は、次々と暗闇に生まれ落ちていった。
これ以上生まれたら、今度は暗闇がなくなってしまうかもしれない。だが、光と闇は渾然一体となって「そこ」に在り続ける。
ここは、一体?

その時、目の前が開けた。

 光と闇の交わるその場所に、自分は立っていた。今度は、ハッキリと。
そして、立っていたのは自分だけではなかった。
皆、同様にこの場所に立っていた。何故かはわからないが、皆、自分と同じモノを見てここにいると理解した。
「生きながら死せる大地に足を踏み入れし者たちよ・・・・」
声が、した。それは、この暗闇全てに響き渡った。
そして、彼らの目の前に現れる影。
「ここは、全ての魂が還る場所。お前達は我に何を望む・・・・」
影は、その一つきりの大きな目を来訪者達に向けた。
彼の名は、闇の大精霊ブラックカラント。
そして、この地をラキューオと言った。




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