死のプレーン


 4:「強さ」のあり方
 今、大好きなひとと一緒にいます。一緒にいるってだけなんだけど。
それなりに気をつかってくれるし、こんな状況じゃなければ、ずっとこのままでいられたらって思う。
このままでいられないのはわかってるけど。
彼は、大きな目的のためにここに来ています。具体的に知っているわけじゃないけど、ここにその答えがあるって、彼は信じているし、私も信じてる。
どんな結果になったって、私は彼についていきたい。
どんな結果になっても・・・・・・
どんな結果を、彼は望んでいるんだろう。
そしてどんな結果を私は望んでいるんだろう・・・・・・
「キャンディ?」
 ハッとして、彼女は顔をあげた。少年が立ち止まって、少し心配そうにこちらを見ていた。
まだ乾いた荒野のど真ん中。そこには、彼らしかいなかった。
「どうしたんだい、ボーッとして」
「・・・・・あ・・・考え事・・・」
このプレーンに来てから、色々考える機会が多くなっている気がする。
何もかもわからないことだらけ。でも、本当は知っている。
このまま進む、彼の行く末。
大切な存在のために、自分を捨てて邁進している少年。
そして、それは決して「私」のためにではない事実。あくまでも、「同行者」。
ひたすら前だけを見続けて、見続けて、ソレしか見えなくなってしまって。
最後には、自分達以外はきっとどうでもよくなってしまうのだろう。そして取り残されるのは「私」。
「!?」
思わず、少年の服にしがみつく少女。彼は少し面食らった。
「・・キャンディ?」
「このまま、どこへゆくの・・・? 「アナタ」は、一体どこへ行ってしまうの・・・・
 ダメよ、そんなの許さない。「私」を見て、ガナッシュ。「私」を置いて、行ってしまうなんて、許さない・・・・・
 「私」を見てくれないんならガナッシュ、「アナタ」なんていらない」
「・・・俺は「どこ」へも行かないよ、キャンディ」
「気休めなんかいらない。下手なウソはついてくれなくていい。
 「どこか」に行くためにここに来てるクセに。「アナタ」じゃなくなるために、ここにいるクセに。
 それで「私」を置き去りにするんなら、どこにも行かせないわ、ガナッシュ」
キャンディはバッと離れると、即座に右手を彼の喉もとに突き出した。発動を待つ魔法と共に。
「私と戦ってよ、ガナッシュ。そして証明して。「私」を倒してでも、先へ進む意志を」
「・・・・・・・キミと戦う気はない」
「どうして? 戦う相手でもないってこと? このまま、切り裂いてもいいのよ?」
それでも少年は、表情を崩さない。
「キミが望むなら、そうするといいさ」
「・・・・・・・」
急に、彼女は体勢を崩し、背を向けた。
「冗談よ、ガナッシュ。本気にしないで。ちょっと、からかってみたくなっちゃっただけだから。
・・・・・先を急ぎましょうよ」
と、何事もなかったかのように再び歩き始めるキャンディ。
ガナッシュは少しの間その背中を見つめていた。
「・・・その通りだよ、キャンディ」
苦笑。そう、自分でなくなるために行くようなものだ。
「彼女」のように。
もっとも、彼女は自ら望んでそうなったワケではないのだろうが。
どちらが、罪深いのだろうか。
求めずして闇に染まりゆく少女と、求めて闇に染まろうとしている少年と。



 ガスパチョ村から一路東、荒野を抜けて大きな岩山がそびえ立つそのふもとに、マッドマンの村モイロロトがあった。所要時間にして約三日。
そろそろ魔バスに来て欲しいと思い始める者もちらほらと。
 マッドマン族自体、物質プレーンでは希少な種族とされていて、ショコラ以外のマッドマンを見るのは皆初めてだった。
動かなければ、岩とみまごうその姿。ショコラも発見された時は岩だと思われたらしい。
彼らが村に入ろうとしたときだった。
「ようこそだなっす」
『!!!!?』
見ると、入り口で一人のマッドマンがこちらを見ていた。右手を上下に振っている。・・・・手を上げているのだろうか。
「し、しゃべったぜ!」
「バカ、ショコラだって喋るじゃないか」
「で、でも・・・」
ショコラの喋りは「うーみー」だの「んー、らくちん」だの、かなり一言系。
勿論、彼がそんなだから他のマッドマンもそうなんだろうと考えるのは、極めて自然。
「最近ニンゲンがよく来るんだなっす。珍しいんだなっす」
「ニンゲン・・・!?」
ガナッシュ達に違いない!
「その人間、もうこの村にはいないの?」
「かなり前に出て行ったんだなっす」
「そうか・・」
かなり・・・・微妙な表現だ。
「どこに行くとか、聞いてない〜?」
マッドマンはしばらく考えていたようだったが。
「んー、わからんっす」
行き詰る。また、聞き込みしなければ。
「・・・・ということで、みんなで協力してガナッシュ達の行く先を突き止めるわよ! 突き止めるまで帰ってくんじゃないよ!」
「無茶だぜ、レモン!!」
「いいからさっさと行きなっ!!」
「ひぇ〜〜〜〜!!」
クモの子を散らすように、男子数人が追い立てられる。
「私達も行きますの!」
「仕方ないな〜、ガナッシュも。何をそんなに急いでるのかな〜・・・」
ペシュとアランシアがそれに続く。
「何を急いでるのか・・・・・かぁ」とフレイア。「本当、なんで急いでるのかしら?」
「そりゃアレでしょ。アタシ達に追いつかれたらマズイからなんじゃあないの?」
「マズイ、かぁ・・・・・・。追いつかれたらマズイようなことを、しようとしてるワケね?」
「・・・・・・・・そういや・・・・何しようとしてるのかしらね・・・・」
エニグマに憑かれて、今は捕われの身となっているお姉さんを助けたい。
そのために、エニグマの王と呼ばれるエニグマに接触しようとしている・・・・・
接触して、どうするのか? 助けてもらえるワケでもないはずだが・・・・・

「力を手に入れる。それだけだろ」
「力って・・・・・力を手に入れて、それでどうなるって言うんだヌ〜?」
「どうもならねぇよ。ヤツはソレに気づかない。力があれば、なんでもできるって勘違いしてやがるのさ」
 そうは広くないモイロロト村を見渡せる位の、小高い岸壁があった。
姉御の言いつけを聞かずに、聞き込み作業をサボっている少年達の姿。
「力を手に入れるっていうのは・・・・つまり・・・・・・・このバアイ・・・・」
「融合」
「そう! ソレだヌ〜・・・・・・・・って・・・・それってメチャメチャやばいヌ〜!!!!!」
絶叫するカベルネ。
「だからこうやって追いかけてんだろーが」
「で、で、そ、それでもしも間に合わなかったら、ガナッシュまでエニグマになってしまうヌ〜!?
そんなのダメだヌ〜!! 絶対、止めるヌ〜!!!」
「わかりきったコト言うんじゃねぇよ」
「な、なんでカシスはそんなに冷静なんだヌ〜!?」
「あせったってしょうがないだろ?」
ん? と彼はふと思い出す。レモンに、あせっていると指摘された。
ソレは、ある意味当たっていたかもしれなかった。
「どうしてもあいつらの方が先越してんだからな、よほどのことでもないと追いつけないと思うぜ」
「タイヘンだヌ〜〜!! こんなトコでこんなことしてるヒマはないヌ〜!! 早く出発しないとダメだヌ〜!!」
そもそも情報収集を現在放棄している彼の言い分は、やや支離滅裂。
「落ち着けよ、カベルネ」
「落ち着いてるヌ〜〜〜!!」
「どこが」
苦笑し、カシスは村を見渡した。
無味乾燥した、マッドマン達の村。おそらくは、殆ど来訪者などいないのだろう。
「・・・ガナッシュの気持ちもわからなくはないけどな・・」
「えっ?」
「俺も昔は、強さが全てだって考えてた頃もあったからさ。
・・・・って、今でもそうかもな」
「カ、カシスもエニグマと融合したいんだヌ〜〜!!!? 考え直すヌ〜〜〜!!!」
「なんでそうなるんだよっ!! そういう強さじゃなくて、何ていうか・・・」
目を細める。そう遠くない昔のこと。
強さを求めて、力を手に入れた。でもそれは、とてもちっぽけな力だった。
そんな力を振りかざして、強くなったと息巻いた。バカみたいだったな。
本当の強さというものは、カタチに現れるものではないはずなのに。
「・・・「力」で本当にどうにでもできるんなら、オヤジも死ななかっただろうし、俺もこんなになっちゃいなかっただろうな」
「・・・?」
「例え「力」があったって、どうにもならねぇことがあるんだよ。
 どんなに強くなったって、上には上がいる。「他人」に頼るなんざ、もってのほかだな」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
それきり、彼は口を結んだ。
「・・・・・・あ、呼んでるヌ〜」
遠くに、クラスメイトの姿が自分達を呼んでいるのが見えた。
「行くヌ〜」
「ああ」
「・・・・オレには詳しい事情はわからないヌ〜。
でも、カシスはカシスだヌ〜。それでいいと思うヌ〜」
「・・・・・・・・・・・・」
「おーーい、今行くヌ〜!!!」
カベルネはダッシュで仲間の所へ駆け出す。
「・・・・・・・・比べんなってか。確かにな」
また苦笑する。
「・・・でも、苦労してたことを他のヤツにあっさりこなされると、結構こたえるもんだぜ」
ひとりごちる。まさにそれこそが、「あせっている」原因なのだろうと彼も自覚している。
自分の強さをちゃんと確かめたくなるから。
頭を横に振り、彼も後を追いかけた。



「村の北の岩山の向こうには、森と湿原があるそうよ。その向こうに、ガナッシュが目指している場所がある
・・・・・名前は、モギナス魔窟」
 地図をもらい、広げてみる。「場所」と呼べるような場所は数えるほどしかなかったが。
「この奥には再生の祭壇と呼ばれる場所があって、死んだエニグマは転生するためにここを目指すそうよ。
ガナッシュが捜し求めているエニグマの王とやらも、ここにいる可能性が高いわね」
「ほー、よくそこまで調べたもんだな」とはカシス。
「サボリは黙ってな」
ピシャリと言い放ち、レモンは続ける。
「でも、この魔窟は死んだモノが生まれ変わるためにいく場所だから、生きているモノは入れないみたいなわけ」
「ここからは私達の情報ですの!」ペシュが引き継いだ。「生きたままここに入るには、『闇のヴェール』というものが必要なんですの!」
「これで死人になりすますんだって〜。結構怖いわよね〜」
「闇のヴェールは、闇の大精霊ブラックカラントが持っているらしいんですの」
「ぶらっくからんと??」
「そこまでは、ちょっと・・・・」
「そこからはオレに任せろ!」
今度はキルシュだ。皆が一瞬不安な表情を見せる。気づいているのかいないのか。
「えー・・・ら・・・らく・・・いや、らか・・・・・・・・とにかく、ナントカって場所にソイツがいるって話だぜ!!」
ビシッと親指立てるキルシュ。だが、誰も反応しなかった・・・・
「・・・・誰だい、コイツに情報収集なんかさせたの・・・・・」イラつくレモン。
「追い立てたのはレモンちゃんですの・・」
「もう一回聞いてこよ〜よ〜。そのほうがいいよ〜」
「そうね、行きましょうアランシア」
「うん」
「あ、おい! 待てよ! オレの情報・・・・!!!」
誰もキルシュの叫びを聞いていなかった・・・
「なんだよ、カンジわりぃ。おいっ! セサミ!!」
「うっ・・・あ・・・いや・・・・・アニキのことは信じてるけど、フォローできることとできないことが・・・・」
「テメェーーーーーー! 裏切り者っ!!」
「ぐぇぇぇーーーーっ!! 首! 首しまっ・・・・・!!」
そんな微笑ましい(?)光景を見て皆笑った。





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