死のプレーン


 3:道標
「もーーダメだぁ!! 歩けねぇよぉ・・・」
 ひたすら歩き続けて、どれくらい時間が経ったのか。ついに耐え切れずにセサミが座り込み、それを受けて他の仲間も次々と。
「どこまで行けばいいんだヌ〜・・」
「本当にガナッシュ達、こっちに来たの〜? 途中で道間違えたんじゃないの〜?」
「知らねぇよ、んなこと!」
「オイラも限界だっぴーーー!! だから来たくなかったっぴーーーー!!!」
「元気出してくださいですの・・・」
一行の歩みはついに完全に止まってしまった。
「ハァ・・・参ったねぇ・・・」思わずレモンも呟く。
果たしてこの先に彼らの求めるものはあるのか。ないとしたら・・・・・
「どうするんだ? これから」
「・・・・カシス、アンタ割と平気そうだね・・」
「割とな」
「どうするも何も・・・・」
仲間たちを見やる。疲れが一気に出たらしく、誰もが無口に座り込んでいた。
この状態では、先に進むことは難しいだろう。
「・・・・ガナッシュ達・・・、平気なのかしら」
「なんじゃねぇの?」
「・・・・・キャンディもいるんだし、そんな遠くへは行ってないと思うけど・・・。全然影も形もないわね・・」
やはり、途中で道を間違えてしまったのだろうか。だが・・・・
「なんで影も形もないかわかってるか? それだけ、先に進んでるってことだろ」
「でも! ガナッシュ一人ならペースも速いと思うけど、キャンディがいるんだから・・・・」
「キャンディには」カシスはチラリとキルシュを見やった。彼はこっちの話は聞いていないようだ。「エニグマが憑いてるだろ。そのエニグマが、このプレーンに詳しい可能性もある」
「・・・・・で?」
「もうちょっと考えろよレモン。道を知ってるから、先に進んでるってことだろうが。
でなきゃ、こんな何もないプレーンで闇雲に動けるわけねぇだろ? あの計算高いガナッシュがだ」
「・・・・・・! ・・・だとしたら・・・・・」
彼らが目指している場所があるはずだ。だから、南に向っている。
「・・ま、どっちにしても、この状態じゃ動けねぇな」
「・・・・・・・・・そうだよね」
レモンも溜息をついて物思いにふける。
とりあえず、モンスターはいなさそうだし、当面の危険はないだろう。
死のプレーンだから、モンスターすらも存在できないのか。そう考えると、彼女はゾッとした。
本当に何もない世界。死んだら、何もなくなってしまうんだ。
そんな、何もない世界にガナッシュ達は何を求めているのだろう。
しばらくは、沈黙が続いた。

「おや?」
 沈黙を破る声が響いた。だが、誰もその声に反応しない。する元気がないのだ。誰の声なのかも考えずに。
声はさらに続ける。
「・・・・・死んでるんですか・・・?」
「死んでないわよ!」
思わずレモンがつっこむ。そして、目の前にあったモノに、彼女は絶句した。
それは、丸いフォルムのツボだった。しかし、ソレには顔があった。
「・・・・・・・幻覚か・・」と、済まそうとするレモン。
「あっ! 失礼な!!」
「なんだよ、うっせーな・・・・」面倒くさそうにキルシュがそちらを見やった。そして。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・て、テメェは!!!」
「!!?」
いきなりの剣幕に、ツボもビックリしたらしく、飛び上がった。
「どうしたの〜、キルシュ〜・・・・・って・・・・あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!  あの時の!!!」
続いてアランシアも反応、それによって他の仲間もようやく興味を引かれたらしい。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!! ツボが! ツボが!! 喋ったーーーーーーーー!!!!」
「まただっぴーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
また出たっぴーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
セサミとピスタチオの絶叫。直後にうるせぇ、とカシスにこづかれる。
「キルシュちゃん、アランシアちゃん、このツボさん知ってますの?」とペシュ。
「知ってるもなにも!!」やけにキルシュは興奮気味だ。「忘れもしねぇ! ヒトをおちょくって、さっさと逃げやがった、あのムカつくツボじゃねぇかよ!!」
「・・・キルシュの説明はわかりにくいヌ〜」呆れるカベルネ。
代わりにアランシアが説明を始めた。
「あのね〜、温泉で死にかけてたの〜ツボさんが〜。水ですくって、元気になったのよ〜」
「・・・・・・・・・余計にわからなくなるヌ〜・・・」
「私が説明するわ・・」頭を押さえながら、フレイアが言った。
光のプレーンで、彼ら(キルシュ・アランシア・フレイア・ピスタチオ)は喋るツボに遭遇した。
温泉場で死にかけてた(ヒビ割れかけてた?)ツボを、助けたのだ。
皆(ツボ含め)うなずいて話に耳を傾けた。
「・・・お話はわかったんですけど、それはボクではありませんねぇ」
「えっ!!?」
「なんせボクは村の近辺から遠出したことないですからねぇ。多分それは、旅のポットですね」
皆は耳を疑った。
ポット違いだとか、旅してるとか、その部分にではなく、その前の部分に。
「村があるのか!?」
「え? ええ。も少し南にポット族の村、ガスパチョ村がありますよ」
その言葉は皆を元気付けるに充分だった。村がある! ・・・しかし。
(・・・こんなのがうじゃうじゃいる村か・・・・・?)
キルシュは少し気乗りしない表情だった。

 とはいえど。皆疲弊していることに変わりはなかった。村があるとわかっても、そこまで行く元気がもはやなかったのだ。
ツボは、案内すると言ってくれているのだが・・・・・
そうだわ、とふとフレイアは閃いた。
「ねぇねぇツボさん」
「ボクはポットですってば」
「どっちでもいいから。あのぅ・・・もし良かったら、雨水を分けてもらえませんか?」
皆は何言ってるんだという表情だったが、ツボは違った。
戦慄が走ったような、驚愕の表情を浮かべていた。
「・・・・(な、何かヤバいこと言っちゃったのかしら・・・)」不安になるフレイア。
「・・・・・・・・そう・・そうですか・・・・・。そういうことだったのですね・・・・。
それならば、エンリョはいりません。さぁ、グイッと行っちゃってください!」
と、ツボはその中に溜まった水をフレイアに、さぁ飲めと言わんばかりに差し出した。
『・・・・・・・・・・』
皆が、彼女の一挙一動を見守った。一方の当人は引くに引けなくなってしまっている。
(飲むしかないわね・・・)
フレイアは、覚悟を決めた。
改めて、ツボの中の水を覗き込む。澄んでいておいしそうだが・・・雨水だし。
勇気を出して、手で少しすくって飲んでみるフレイア。すると。
「・・・おいしい」
同時に、体の疲れが一気に取れるのが感じられた。それは、周りにも伝わる。
「これ・・・雨水じゃないの?」
「ポット族が体に溜める雨水は、普通の雨水じゃあごさいません! ホラ、甘露っていうでしょ」
その例えは彼らにはよくわからなかったのだが、少なくとも疲れが取れるおいしい水だということは見て取れた。ゆえに。
「オレにも飲ませろーーーー!!!」
「私も飲みた〜い!!」
「こっちによこせよ、バッキャローーー!!」
「年齢順だ!! 下がってろガキどもっ!!」
「年下からだっぴーーーーーーーーーーー!!!!」
さっきまでの疲れはどこへやら、押すな押すなの大盛況と相成った。


 一通り水も行き渡り、一行はツボの案内のもとガスパチョ村へとやってきた。なるほど、さっきの場所からものの数十分の場所にあった。
ポット族・・・ツボの形をした無機物に生命が宿った種族である。彼らは無機物の生命であるがゆえに、死のプレーンで「生きて」いられるのだという。
「ここからずーっと東に行くと、マッドマンの村がありますよ」
「マッドマンの?」
マッドマン・・ショコラと同じ種族だ。彼らは本来、その呑気な外見とは裏腹に、非常に哲学的なことを考えて生きている種族だという。
ショコラがそうだとは、誰も思わなかったが。
「どうぞゆっくりしていってくださいね。皆さんは、ポット族に認められたヒト達なんですから」
「認められた?」キルシュが問う。
「あ、でもだからといって女の子(のツボ)をナンパしないで下さいね?」
「するかっつーーーの!!!」
「それじゃ、また後で!」
「あっ! 待てって!!! ・・・・ちくしょーーーー!!!」
あの時よろしく、キルシュはまたツボ相手に地団駄を踏むことになった。

 その後情報収集により、ガナッシュ達らしき二人連れが、東・・・マッドマンの村に向ったらしいとの話が聞けた。タイムラグは、およそ一日半くらい。
「すぐにでも追いかけた方がいいわね」
「でも〜、そんなに離れてるんじゃ、追いつけないかも〜」
「準備もしないと。どれくらいかかるかもわからないんだから」
レモンは頭を抱えた。あせっても仕方ないとわかってはいるのだが。
「・・・女連れで、そんなに速く遠くに行けるモンなのかしら・・・・」
「俺達も似たようなモンだろ」
「!」
いつの間にか、どこかへと消えていたカシスが隣にいた。
「そうか・・・結局同じペースで追いかけてたら、いつまでも追いつけないわよね・・・そりゃそうだわ」
「なんなら、俺が先行しようか。ゾロゾロ連れだって歩くより、効率はいいだろ」
「ダメ。それはさせらんない。何があるかもわからないのに」
「何もないんじゃねぇの。今までみたいにさ」
「・・・・・・・・・」
レモンは、しばし考えを巡らしていた。
「でもダメよ。ただでさえあの二人とはぐれてるってのに、これ以上別行動されちゃたまんない。
アンタが何をあせってるのかは知らないけど、こういう場所でのスタンドプレイは命取りよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしても行きたいってんなら」チラリと委員長を見やるレモン。「フレイアを説得してからにすることね。説得されるのがオチでしょうけど」
「・・・・ははは、冗談だよ」
「(どうだか)」
放っておいたら、一人で勝手に出ていきかねない。そういうことを平気でするヤツだ。
困ったヤツが多いよ、このクラスは。色々と。


 少し後、彼らもまたマッドマンの村へと歩を進めることになる。
それぞれに、思いを抱きながら。道のりはまだ遠い。




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