死のプレーン


 1:無機質な色
 あの事件が起こる前、彼女・・・ヴァニラ・ナイトホークは大人しくて無口な少女であった。
それでいて心優しい少女だった。彼女をよく知る者は、それを知っていた。
だが、あの事件・・・・3年前のキャンプが、彼女を変えた。
彼女をよく知る者に、彼女の豹変ぶりが明らかに見て取れるくらい、彼女は変わってしまった。
力に固執し、強さを追い求めるようになった彼女。やがては学校を飛び出してしまう。
その事情を、理由を、自分は知らずに校長達は知っていた・・・・それが、許せなかったのだ。

 ふと、目を覚ます。寝ていたのか?
「気づいた?」
少女の声がする。ここはどこだ? 眼前に広がったのは、無機質な色の空。
少年は体を起こす。やや離れた場所に、少女は立っていた。寝ていたのは、岩肌だった。
「・・・・・キャンディ」少年は少女の名前を呼ぶ。
彼女が答えを知っているはずがないとわかって、彼は素直な疑問を問うた。
「ここは、どこなんだ?」
「・・・死のプレーン・・・・」
「死のプレーン・・・・・?」
あの時・・・・・時空のゆがみに思わず飛び込んで・・・・その後どうなったのか。
死のプレーンに渡ってきてしまったようだった。
少年は立ち上がった。
「この世界に、俺の探しているモノがいるんだな?」
「・・・・・・そうよ・・・・」
「そうか。・・・・君にはすっかりつき合わせてしまったな・・・」
「気にしないでよ。何度も言ってるけどね。私が来たかったから。だから、アナタが気にすることはないの」
「・・・・・・・・・ああ、わかった」
目の前にいる少女は、今まで彼が見て知っている彼女ではなかった。
その心に、別の存在が棲みついている。何故、そんなことになったかはわからない。
「ホラ、行こうよガナッシュ!」
手を引っ張られ、歩き出す少年。
果たして、どの彼女が本当の彼女なのか・・・・実はどれも彼女自身なのか・・・・・答えは出ないまま。
目の前にいる、エニグマに憑かれた少女と自分の姉を、重ね合わせて見つめていた。



 そこから程遠くない場所、しばらく経った時間。
新たな次元の歪みが発生し、大きなモノが姿を現した。
「到着〜、だぜ」
それは、バスだった。乗員乗客(?)16名を乗せた魔バスが、この乾いた大地にやってきた。
「よ・・酔った・・・・・・」
口を押さえて、少年が一人バスから降りてきた。
そして、目の前の光景に目を奪われることになる。
「・・・・ここが、死のプレーン・・・・・?」
眼前に広がるのは、果てない砂漠。近くから波音がする。砂漠というより、海岸といった方が正しいのだろう。
空も、大地も、色を失っていた。「死」を色にするとこんな感じなのかと思うほど、ここは無機質で生きていない。
「色」を持っているのは、彼らだけ。そんな世界。
あまりに強烈な違和感に、少年は気分が悪かったことも忘れてしまっていた。
「キルシュ〜、大丈夫〜・・・?」
窓から、少女が声をかけてくる。
「あ・・・ああ。なんか、治まっちまった・・・・・」
「なら、バスに戻れよ。これからどうするか会議しないと」別の少女が言う。
「・・・・・・ああ」

 バスの中はかなり静まり返っていた。キルシュ同様、気分がすぐれない者が多いせいだった。
闇のプレーンからやってきた際のワープに、ある種特別な力が作用したせいなのか、経路でのバスの旅は最悪だったらしい。
もっとも、「死」する者が行き着くという世界に生きながら来たのだから、それ相応のリスクはあって然るのだろうか。
そんな中でも、もっとも辛そうだったのが、他でもないマドレーヌ先生だった。彼女は死のプレーンに着くなり、すぐに横になってしまった。
このプレーンに来る際に大きな魔力を使ったため、疲労してしまったらしい。
「これからどうするかって、どういうことだよ」
とりあえず元気になったキルシュが言う。
「色々よ」レモンが答える。
「色々?」
「問題大アリだぜ、少年!!」バスの前方・・・運転席から大声が。「この砂浜のせいでタイヤが砂に取られて動けねーんだよ!」
「・・・・・・え。・・・・ってことは・・・」
「歩いて行かなきゃ・・・ってことでしょ?」ややふてくされたように呟くのはシードル。「せっかく魔バスで来たってのに、なんだか不条理だよ・・・・ブツブツ」
「もうちょっと気の利いた場所に着いて欲しかったな」とカシス。
「いまさら言ってもしょうがないよ〜」フォローを入れるアランシア。
「それでちょっとモメてるの」レモンが頭を振る。「魔バスをこのままにしておくワケにもいかないでしょ? でも早くしないとガナッシュ達に追いつけないし・・・・どうしたらいいのかしらね」
うおーーーーー!! 動かねぇーーーーーー!! 誰だーーー!! 俺から風を奪うヤツはーーーー!!
走らせろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
大音量がバスに響いて、皆が耳を塞いだ。バルサミコだ・・・
「・・・ちょっと待っててね・・・」眉間にシワを寄せてひきつりながら、レモンが席を立って前へ向った。
程なくして、「うるせぇっ!!」と言う声と、何かをたたきつけたような鈍い音がした・・・・
「・・・・・・それで、二手に別れましょうって話が出たんだけど・・・」とブルーベリー。
バスに残ってバスを砂浜から脱出させる&先生の付き添い係と、ガナッシュ達を探す係と。
「まだ気分すぐれない子もいるし、そういう子は残ってもらって、後のメンバーで外に出たらいいんじゃないかな」レモンが戻ってくる。
「レモンちゃん、なんだかスッキリした顔してますの」とはペシュ。
「そう?」不敵に笑うレモン。
「じゃあ、そうと決まれば早くしようぜ! こうしちゃいられねぇよ!」
「アニキの言うとおりだぜー!! グズグズすんなよ!!」
キルシュ&セサミがやたらと意気揚々。
「・・・ということは・・・」
メンバーを見渡す。まだ気分が悪そうなのはオリーブとブルーベリーとフレイア。行きたくなさそうにしているのがシードルとピスタチオ。今にも飛び出さんとしているのがキルシュ・セサミ。
「じゃあ、オリーブとブルーベリーとフレイア、そんでペシュも。バスに残って・・・」
「あ、待って・・」フレイアが初めて口を開く。「私なら大丈夫だから・・・・」
「でも・・・」
「第一、女の子だけじゃバスを動かせないから、力のあるヒトに残っていてもらわないと・・・・」
「あ。そっか」
再度、メンバーを見回す。外に出るにあたって、どんなモンスターが棲息しているかもわからないため、戦える人間は探索に出たほうが望ましい・・のだが。
「レモンなら一人でもイケんじゃねぇの?」
「も一回言ってみなっ!!!」
「テイアンガ アリマ〜ス! ココハヒトツ、オレサマガヒキウケテ アゲテモヨイノデアルガ、イカガダネ?」
カフェオレが進言。・・・なんだか偉そうだが。
でも、カフェオレなら力(馬力?)はあるだろう。
「・・・カフェオレ、戦いたくないんだっぴ・・・・・?」
「オオット、ピスタチオ! ソレハ キンクダ、ベイベ〜」
「・・・じゃあ、カフェオレに残ってもらうとして・・・・でも一人じゃ・・・」
「やーるー」
名乗りあげたのは、ショコラだった。
「オオ! ドウシ! オマエガイレバ、ヒャクニンリキダ!」
「んー」
ショコラの大きな腕をとって固い握手をかわすカフェオレ・・・だが、握手というより抱きつく感じ。
「なるほど、力仕事には最強のコンビだね」とシードル。
「適材適所ってよく言ったものよね」とブルーベリー。
「じゃ、決まりだね」いつの間にか仕切り役のレモンが言う。「フレイアは外に出るの? 大丈夫? ・・そう。・・じゃ、オリーブとブルーベリーとペシュと、カフェオレとショコラ。以上がバス残り組・・・・」
と、これに待ったをかけた仲間が数人。
「レモンちゃん、今度は私も行きますの!」
「ボクは行かないよ」
「オイラも留守番してるっぴ!!」
それぞれ、ペシュ、シードル、ピスタチオ。
皆が3人に注目する。
「・・・・・じゃ、それぞれ理由言ってみな」
「みんながケガした時に、治してあげなきゃいけないですの!」
「具合が悪いのを治療する魔法の開発に専念したくてね」
「戦いたくないっぴ!!!!」
「・・・・・ピスタチオ、却下」
「何でだっぴーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
当然である。

「良かったの? ブルーベリー」
フレイアがふとブルーベリーに話しかける。
「・・・・イジワルね。いいの、バスで行くならともかく、徒歩だとみんなに迷惑かけちゃうからね」
彼女は薄く笑った。
「シードル、新しい魔法作るんだヌ〜?」小声でカベルネ。
「ん? ・・・・まぁ、ね・・」
「・・・・・・・行きたくないからって、適当に理由つけただけ・・・ってことはないヌ〜?」
「ち、違うよ!」あわてて否定。「美の魔法にはそうゆう力もあるっていうしね。みんなが具合悪そうにしてるの見ると、どうにかしてあげられないかなって思うもん」
「・・・・・なんだか、シードル、印象違うヌ〜・・・? 何か、あったのかヌ〜?」
何か? 何かという言い方をするのなら、あったのだろう。「何か」が。
きっとあの時かな、とシードルは考えた。氷の島での一件。
「ま、頑張ってよ、カベルネ。ボクの分までさぁ」
「言われなくても頑張るヌ〜!」
「よぉーーーーーーっし!! 決まりだな!! 行くぜーーーー!! 待ってろキャンディ! ・・・・っとガナッシュ!!」
「(アニキアニキ、そんな大声でゆったらバレちまうって!!)」セサミがあわてて止める。
「お、おおっと、そうか・・・」
途端にクールダウンするキルシュ。バレるとは、キャンディのことだろうか。
「あれでバレてねぇつもりかよ、キルシュのやつ」とカシス。
「ほっといてやんな。隠したいみたいだし。・・・隠せてないけど」とレモン。
「・・・・ふーんだ」少し向こうで、アランシアがそっぽを向いた。
そんな様子をじっと見ていた少女が一人。
「・・・・愛ですの〜」
一人、フフフとペシュは笑った。

 外の世界は、今までのプレーンとは全く異質。道もない、ただの世界だった。
「気をつけてね・・・・」
「ええ、オリーブ」
残り組の見送りを受け、探索組は死のプレーンへと足を踏み入れる。
しかし・・・・どこに向えばよいのか・・・・。
「あっ! 見ろよ!」セサミが声をあげる。
そして、一人走り出す。
「おい、どこへ行くんだよ」
「来て見ろって!!」
言われるままに、皆はそちらへ向う。海岸の東側は岸壁になっていて、砂浜はそこで途切れている。
そのあたりの砂の上に、セサミはいくつかの穴を見つけたのだ。
「・・・こいつは・・・・」
それは、四つの列を形作った浅い穴。ずっと、南に向ってのびている。
「足跡ね・・・・二人分の」
決まった。一行は互いにうなずきあう。
目指すは、南。




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