闇のプレーン


 8:運命の交差
「ねぇ〜・・・・少し休みましょうよ〜・・・・・疲れたよ〜」
 エニグマの森の最東端部、もう少しで森を抜けて山岳地帯に入るあたり。フレイア達とは別に、移動している一団がいた。
「そうだな、この辺で少し休もう」
一行はやや開けた場所に腰を下ろした。この辺りまでくると、エニグマも数が少ないようで、戦闘に苦労はしなかった。
森の入り口で大量のエニグマが死んでいたのには驚いたが、おかげで全体のエニグマの数が減っていると考えればありがたかった。ガナッシュにとっても、みなにとっても。

 ガナッシュ達一行・・・ガナッシュ、キャンディ、カベルネ、オリーブは、マサラティ村でシードルと別れた後、このエニグマの森に進入した。仲間を探すために。
エニグマとの戦いも多くあったが、戦闘自体はかなり楽だった。彼らもこの冒険の中で少しずつ強くなっていったし、何よりガナッシュの天才的ともいえる戦闘センスが大きかった。
彼自身、普段そういうことをしているワケでもない。クラスメイトの中ではレモンが昔格闘を習っていたとか、カシスは不良時代にはケンカばかりしていたとか、武勇伝はあるのだが。
ガナッシュ自身は、いたって普通だった。だから、周りから「何でもできるヤツ」とか言われたりするのだ。
でも、周りがそう思うほど、彼自身はなんでもできると思っているわけではない。いや、むしろ自分の無力さをかみしめるほどに。

 その一方で、キャンディも色々考えを巡らせていた。
「・・・・キャンディ、どうしたヌ〜? 目がうつろだヌ〜」
ハッと、キャンディは我にかえってカベルネを見た。
「あ、な、何でもないのよ。ちょっと、考え事してただけ・・・」
また、考え込むキャンディ。だが、少しして彼女はオリーブに向き直った。
「ねぇ、オリーブ・・・・ちょっと、話があるんだけど、いいかなぁ・・・・」
「え、私・・・・?」オリーブはちょっとビックリしたようだ。
「うん・・・・ここじゃちょっとアレだから、少しあっちに行こうよ」
「・・・・うん・・・わかった・・・・・」
「気をつけろよ」ガナッシュが声をかけた。
女子二人はやや離れた場所に向う。
キャンディはずっと、考えていた。マサラティ村を出た辺りから。
前を歩いていたキャンディが立ち止まる。
「ねぇ、私達は・・・いえ、ガナッシュは一体どこへ行こうとしてるの・・・・?」
「えっ!? ・・・・どうして、私に聞くの・・・・・?」
「アナタなら知ってるんでしょ」
キャンディは振り向いた。ちょっぴり、意地の悪い顔で。
「カベルネに聞いたのよ。アナタ、人の心を読む力があるんだってね。アナタ、ガナッシュの思ってることも、読めるんでしょ?」
「・・・・・・・・私・・・・」
オリーブはうつむいた。今の、キャンディの気持ちも伝わってくる。とげとげしい、痛い気持ち。
決して、人の心を読むことがいいことばかりではない・・・・・
キャンディがガナッシュに好意を寄せているのも感じている。だから、そういうことを彼女は決して口にはしなかった。
でも、今のキャンディは・・・・
「ガナッシュは仲間を探すとか、エニグマを探すって言ってるけど・・・・・ならどうしてこんなトコまで来なきゃいけないのかわからない。ガナッシュはまるで行く先を知ってるみたい。アナタも言ってたでしょ」
「・・・ガナッシュは行き先を知っているワケじゃ・・・・ないと思う。・・・反対に、行き先がわからないから先に進んでるんだと・・・・・」
「・・・・・・・・・やっぱり、アナタ知ってるのね。ガナッシュが何の為に進んでいるのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
気持ちはとてもわかる。キャンディの気持ちも、ガナッシュの気持ちも。
「・・・私も・・・全部知ってるわけじゃない・・・・ただ」
「ただ?」
「ガナッシュは・・・お姉さんを助けたいだけ・・・・」
キャンディは首をかしげる。
「助けたいって・・・・・ガナッシュのお姉さんって確か行方不明って言ってたよね?」
「うん・・・・・」
「お姉さんを探し出すためってこと?」
「・・・・・・多分・・・」
ますますキャンディは首をかしげてしまう。
「・・・でも、それってコレとは関係ないんじゃないの?」
「ガナッシュのお姉さん・・・・・三年前にキャンプに参加してた・・・そして、私達みたいに襲われて・・・」
「エニグマにさらわれたって? でも、戻ってきたんでしょ?」
「・・・・・・・」
オリーブはそれ以上語らなかった。キャンディも、なんとなくは感づいていたから。
エニグマと融合してしまったんじゃないかって。
「・・・助けるって・・・どうやって? 私達がこうやってただ進んでいるのと、関係があるの?」
「・・・・・もっと強いエニグマの力があったら、どうにかできるかもしれないって・・・・・」
そこまで聞いて、キャンディはようやくガナッシュの真意に近づけた気がした。
でも、それは彼女らにとっては衝撃的で、信じられない内容だった。
だから、キャンディはその感情を目の前にぶつけるしかなかった。
「そんな! それって、ヤバいことなんじゃないの!? アナタ、そこまで知りながらなんで止めないのよ!」
真に責められるべきなのはオリーブではない。わかっていても、流れ出す感情が彼女を突き動かした。
「・・・私・・・・・」
「信じられない! なら、私とカベルネは何も知らずに連れまわされてたってワケ。
アナタはソレを知ってて・・・・ズルいよ。アナタだけ・・・・・」
「キャンディ・・・・私だって・・・・・(知りたくて知ったわけじゃない・・・)」
「・・・・知ってた? 私、アナタのこと前から嫌いだった。アナタの、そんなとこが、大嫌い」
吐き捨てて、キャンディは目の前の少女をにらみつけた。
感情が流れ込んでくる。オリーブは拒絶したかった。そう、知りたくもない気持ちだって彼女には伝わってしまう。だから、彼女はいつからか無口になって、他人と関わりを持たなくなってしまった。
こんな気持ちを知りたくなかったから。
「・・・キャンディ・・」
「知らない! アナタなんか!」
バッとキャンディは駆け出していた。追いかけられず、オリーブは立ち尽くした。


 大きな闇が、森を覆いつくそうとしていた。気づいていたものは、いなかった。


 ガナッシュ達を追いかけるフレイア達は、道すがらということでこんにゃく様(名前はバシュラールというらしい)も同行、総勢7名となっていた。
森の南東あたりにクガンデ村という、こんにゃく様の(元)村があるらしいので、そこまで彼を連れて行くことになったのだ。
今、もうこんにゃく様は彼しかいないという。世界を巡っての仲間探しにメドも立たないまま、彼は故郷の村に帰ることにしたのだった。
村に向い始めて約半日。バシュラールが声を上げた。
「見えてきたでぺたん!!」
この辺りには大量のヒトデ花が群生しており、それが目印でもありカモフラージュでもあるのだという。
こんにゃく様は、その容姿から外敵に狙われることも割と多いらしい(現に彼もセサミに追いかけられたし)
そうして少しずつ数が減り、彼一人になってしまった。
村は・・・・もう誰も住まなくなって久しい、廃退ぶりを体していた。彼もそれを知っているようで、特別な反応はなかった。
・・・・ある一点を除いて。
村に、来訪者がいたから。
「ど、どなたでぺたん?」
バシュラールの後ろで、一行(一人除く)はあっと声を上げた。
見覚えのある、ヴォークスの少年が村の様子を見つめていたから。
少年は振り向いた。
「あっ・・・!!」
彼は二点に反応した。こんにゃく様がいたこと、そしてやはり知っている存在がそこにいたことと。
「メース!」フレイアが言った。
「知り合いなのか?」とはセサミ。
「まぁ色々あってね」シードルが返した。
メースは小走りにこちらにやってきた。
「なんだか久しぶりな感じですね」メースは一礼してから、こんにゃく様に向き直った。
「・・・ここがこんにゃく様の村なんですよね?」
「そうでぺたん。・・・・・でも、もう私しかいないのでぺたん」
「そうですか・・・・噂は本当だったんですね」メースはうつむいた。
「せっかく来てくれたのに、何もできないでぺたん。でも、ゆっくりしてほしいでぺたん」
バシュラールは右腕(?)を上げた。メースは少し笑った。
 メースはあれから沼の東側に渡って南下してきたという。その辺りにある村、バソリモ村でこんにゃく様の村の噂を聞いて、こちらに向ってきた。
「ボクなりに何か協力できないかと思ったんですが・・・・」
「・・・協力してくれるでぺたん!? ありがたいでぺたこん!!」
「皆さんもですか?」
話をふられ、一行は一瞬返事に詰まった。
「・・あ、いや、俺たちは・・・」
「バシュラールが村に帰るっていうから、一緒に来たんだっぴ!」
「そうなんですか」
「もう、すぐに旅立たなきゃいけないけど、ね・・・・」
そう、こんなところでグズグズしているわけにはいかないのだから。
こうしている間にガナッシュ達に水を空けられてしまう。
「もう行ってしまうのでぺたん・・・?」
バシュラールは寂しそうな表情になる。
「悪いとは思うけど、ボクらにもボクらなりの事情ってやつがあるからね」とシードル。
「メース、トコロデシナモンニハ アッタカイ?」とカフェオレ。
「・・・・・・・・・・・」
メースはうつむいた。同時に、水面下でカフェオレに蹴り&肘鉄ツッコミを入れるカシスとシードル。
「イダッ!! ナニヲスルンダ〜!」
「(馬鹿かっ! 出し抜けに聞くやつがあるか!)」
「(多分それは一番触れちゃいけない話題だよ。・・・・ホラ、一気に空気が暗くなったじゃないか)」
「・・・・・ア、アウ」
「あ、彼女は・・・・元気にやってるんですか? ははは、は・・・」
「シナモンなら、旅に出たわ」
「・・・・え?」
「アナタを追いかけて・・・」
同じ女だから、その気持ちがよくわかる。好きな人についていきたい思い・・・・
「いつかは出会うかもしれない。その時は・・・・・」
言いかけて、フレイアは言うのをやめた。ここから先は、二人の問題だから。
メースはしばらく呆然としていた。
「・・・・そろそろ行きましょうよ」
「そうだね」
一行は、少し休憩した後、出発した。バシュラールと、メースを残して。
二人は気をつけて、と見送ってくれた。多分、心中は複雑なんだろうが。
「・・・・村、元に戻るといいな」ポツンと、セサミが呟いた。
「元に戻ったら、みんなで遊びに来ようよ」とシードル。
「そしてこんにゃくパーティだっぴか」とピスタチオ。
「食べちゃダメーーー!」
一行は大声で笑いあった。
ひとしきり笑ったあと、フレイアはふと後ろを振り返る。もう村は見えない。
「頑張ってね、メース・・・・・」
悲しい運命を背負った少年。生きていく道で、光明を見出すために。
そして、できれば彼女と幸せになって欲しい。このまま別れるのは切な過ぎるから。
小さな小さな新しい物語が、静かに始まっていた。




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