闇のプレーン


 7:自由の意志
 人は、未来よりも先に過去を振り返って嘆く生き物である。未だ来ない時間を見つめるより先に、過ぎ去った昔を思い起こす。そして、未来で後悔することも。
「彼」も、なんとなくそんな感情にとらわれていた。・・・・もっとも、「彼」は「人」ではなかったのだが。

 森の中を疾風のごとく走りぬけ、ヴォークスの少年は息切れして立ち止まった。どれくらい走っただろう。もう、あの魔物どもは振り切ったに違いない。
どうにも彼はエニグマの屍骸を「エニグマの群れ」と勘違いしてしまっていたようなのだが。
ふときづいて彼・・・ピスタチオは辺りを見渡した。しんと静まり返った深い森。
「・・・・モ、モシカシテ、ヒトリキリ・・・・・ダッピ・・・?」
自業自得なのだが。今度は新たな恐怖に打ち震えることとなった。
しかし。
「ピスタチオ!」
自分を呼ぶ声。天の声!!
「カシスだっぴ!? こっちだっぴーーーー!! 良かったっぴーーー!! オイラ、ひとりきりじゃなかったっぴーーーー!!」
ほどなく、ピスタチオを追いかけてきた少年が姿を現す。ピスタチオを見つけるなり、彼は鉄槌をくらわした。
「だっ! 痛いっぴ・・・」
「馬鹿野郎! いきなり逃げ出すヤツがあるか! おかげではぐれちまっただろ、責任とれよ」
「・・・・・・ごめんだっぴ・・でも、コワかったんだっぴ・・・」
「どうしたもんかな・・・」
どれくらい走っただろうか。咄嗟に、ピスタチオをひとりにできないと判断して追いかけてきたカシスだったが、案の定3人はついてきてはいなかったようだ。もっとも、クラス1の俊足と逃げ足bPの二人の全力疾走についてこれる仲間はいなかっただろうが。
今もしもエニグマにでくわしたら、さすがに今度こそ終わりかもしれない。
「ピスタチオ」
「なんだっぴ」
「お前のそのハナであいつらの居場所とかつかめないか?」
「イエッサーー! やってみるっぴ!」
犬の鼻は人間のソレとは比べ物にならないくらい優秀だ。
しばらくクンクンとやっていたピスタチオだったが。
「なんだか、オイシソウなニオイがするっぴ」
「おいしそう?」
「きっと生で食べても煮ても焼いてもオイシイっぴ」
「何が」
「こんにゃくだっぴ。こっちだっぴーー!!」
と、ピスタチオはまたダッシュで駆け出す。
「って、待てよピスタチオ! こんにゃくは焼かねぇだろ!!」
なんかピントのズレたツッコミの後、彼もピスタチオを追いかけていった。

「ひぃやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 珍妙な叫び声がしたのは、そのすぐ後。
ピスタチオが向った先に、一人のこんにゃく様がいた。それをみてカシスもなるほどこんにゃくか、とは思ったのだが、そんなことより何故こんにゃく様がこんな森にいるのだろうか。
「な、な、なんでぺたこーーーん!? ハッ! まさか、私を食べるとかいうのでは!?
それだけはカンベンでぺたこーーーーーーん!!!」
取り乱すこんにゃく様。
「ち、違うっぴ! 食べるんじゃないんだっぴ!」
「ああ、そうさ(おいしそうとか言ってたのはオメーだろうが・・)」
それよりそもそも、仲間の居場所がわからないかと尋ねたはずが、何故こんにゃく様の居場所に来てしまっているのだろうか・・・・・考えても多分意味がないだろうと、カシスは考えるのをやめた。
きっと、ピスタチオはおなかがすいていたんだろう。
「な、なら、何の用でぺたん・・・?」
二人は一瞬言葉に詰まった。
「あ、ここでさ、その・・・俺たちの他に人間を見なかったかなと思ってさ・・」
「そう! そうなんだっぴ!」
「・・に、人間でぺたん? ・・・・・ひぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
いきなりの雄叫びに二人はギョッとした。
「食べられるでぺたこーーーーーん!!!」
「なんでそうなるんだっぴーーーー!!!」
「落ち着けよ、二人とも・・・」
一時後、こんにゃく様は事情を語った。
なんでも、ここに来る前・・・光のプレーンで人間に追いかけられて、危うく食べられるところだったとか。それ以来、人間が怖くなってしまったという。
「・・・・・でも」
こんにゃく様は神妙な面持ちで(?)語り始めた。
「さっき見てしまったんでぺたん。その人間が、今度はエニグマに追いかけられて、とっても怯えていたんでぺたん。
それを見て、私は助けなければと思ったんでぺたん。でも、また追いかけられて食べられるかもしれないと思ったんでぺたこん・・・・
助けたかったのに、助けられなかったんでぺたん。・・・・あああ、どうしたらいいんでぺたこん・・・」
話を聞いて、二人は顔を見合わせた。
やや突飛な話ではあったが、状況は理解できた。しかしそれよりも、カシスは思い当たるふしがあった。
「その人間って、どんなヤツだったんだ?」
「ええと・・・・黒くて・・・アナタより少し大きかったでぺたん」とこんにゃく様はピスタチオを指(?)さした。
「オイラより?」
「・・・・セサミかもしれない」
「そうか、セサミだっぴか・・・・・・って、えええ!!!! セサミ!? セサミなんだっぴか!?
・・・・・ああ、でも、やりそうだっぴ・・・・・」
「セサミもここにいるかもしれないな。ま、それが解っただけでもOKだな、ピスタチオ」
「おおーーーーー、だっぴ!」
「じゃ、今度こそあいつらの居場所を探し当ててくれよ」
「・・・それは言わないでくれだっぴ・・」
「今度はこっちから聞いてもいいでぺたん?」
こんにゃく様が言った。二人はどうぞと言わんばかりに彼を見た。
「お兄さん達も旅してるでぺたん?」
「まぁね」
「私のほかに、こんにゃく様を見なかったでぺたん?」
「・・・・いいや、見てない」
「そうでぺたん・・・・」
明らかに意気消沈するこんにゃく様。そのあまりの落胆ぶりが気になるピスタチオ。
「どうしたんだっぴ?」
「・・・・・今、こんにゃく様は絶滅寸前なんでぺたん・・・もう、私以外のこんにゃく様はいないらしいんでぺたん。
仲間をずっと探して旅をしているんでぺたこん。でも、見つからないんでぺたん」
「・・・・・タイヘンなんだっぴ・・・」共感の姿勢を見せるピスタチオ。
「もしもこれから私以外のこんにゃく様に出会ったら、クガンデ村に戻ってきて欲しいって伝えてほしいでぺたん。一人でも仲間がいれば・・・・」
「わかったよ」
「ありがとうでぺたん」
その時であった。
激しい光が、森の一角を覆った。それが、彼らにもわかるほどに。
「な、なんだっぴ!?」
「行ってみようぜ!」
「あ、わ、私も行くでぺたーーーん!!」
三人は光の放たれた方向に、走り出した。


 光に包まれ、エニグマは絶命した。光のプレーンと違って、この森ではエニグマはその亡骸を残したままだった。光では存在すらできないのかもしれない。
そんなことは彼女らにはどうでもいいことだった。一回戦闘になると、次々とエニグマが現れるのだ。
だが、体力や魔力には限界がある。
光の魔法は闇であるエニグマには効果的なのだが、連発するとフレイアの体にも大きな負担となる。
カフェオレやシードルも援護はするものの、決定打に欠けている。正直、絶対的不利であった。
「ヤバイゼ〜、コノママジャ イツカ ヤラレチマウ」
「で、でも、だからってどこに逃げるっていうの?」魔法を放ちながら、シードル。「ここは、エニグマの森なんだよ。どこにいっても、エニグマだらけに決まってるよ!」
この間、セサミは何もできず呆然としていた。
圧倒的数のエニグマに立ち向かう仲間達と、一人あたふたと逃げ回っていた自分と。自分は、なんて脆弱なんだろう。何にもできない子供。もっと、強かったら・・・・・
彼は、そっと後ずさりした。逃げ出したかった。この場所から。今いる自分から。
「どこに行く気だ?」
「っ!!!」
セサミのすぐ後ろに、別のエニグマが待ち構えていた。しかも、こいつは・・・・彼をここに連れてきたエニグマではないか?
「力が欲しいのだろう?」
セサミの心を見透かしたかのように誘いかけるエニグマ。
「お前は力を、俺は肉体を。お互いに望むものをお互いに与えられるのさ。悪い話ではないだろう?
俺と融合しろ・・・そうすれば、世界すら思いのままだぞ・・・」
「・・・・あ・・・・・・・」
傾いていく。世界が、自分が。
「俺を受け入れろ。そうすれば、お前はもっと強くなれる」
「・・・・強く・・・・・・」
「ダメよ、セサミ!!」
ハッとしてセサミは後ろを見た。戦いで傷つきながらもそれでもなお抗う、仲間たちの姿。
「・・・あ・・・・・オレ・・」
「逃げられるかい?」
声は上から響いた。エニグマの大きな存在が、彼を包み込んでいた。
「セサミ!」シードルも叫んだ。
「ユウゴウナンカ スルナヨセサミ!」カフェオレも叫んだ。
でも・・・・彼は地面を見つめた。みんなは戦えるから、強いから。オレはあちこち逃げ回って、結局守られて、さっぱり弱いだけで・・・・・融合するのは怖いけど、それで何かを変えられるんなら・・・・・・
「セサミ!」
今度は彼らのものではない声。エニグマの群れの一角が派手に切り崩され、助っ人が姿を見せる。
「ビンゴだな」
「フレイアだっぴ!! セサミもいるっぴーーー!!」
「カシス! ピスタチオ! ・・・・・と、こんにゃく様・・・・?」
約一名、見覚えのない存在はあったが、これで仲間が揃った!
「なかなかヤバげな状況だな」
周りのエニグマを見、セサミを見、フレイア達を見て呟くカシス。
「セサミ! 何やってるっぴ! 早くソイツから離れるっぴ!!!」
「くっくっく・・・もうコイツは俺たちの仲間さ。そうだろう?」
セサミは無反応。
「カシス、セサミが・・・・」フレイアがカシスを見上げる。
「・・・・・いいんじゃねぇの」
「えっ?」
「セサミが融合したいんなら、させてやればいいだろ」
「ナッ、ナニヲオッシャイマスカッ!!?」とがめるカフェオレ。
「融合するもしないも、セサミの自由。俺たちが止める権利はない。そうだろ?」
「・・・・・・・・・・」
みなが、セサミに注目した。当のセサミはまだうつむいたままだった。
強さって、何だろう?
そう考えたとき、彼の中で答えは出ていた。
「・・・・オレは・・・」
セサミはエニグマに向って手を差し出した。エニグマは、ニヤリと笑う。
「・・・・・・・・力じゃない・・・・・自由を手に入れるんだ!」
差し出した手から、急発生した魔力が放たれ、それは巨大な蜂の姿となってエニグマに襲い掛かった!
「セサミ!!」嬉しそうに、誰かが叫んだ。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」不意をつかれ、エニグマがひるむ。そこへ、さらに魔法を叩き込む!
エニグマはそれに耐えられず、絶叫を残して倒れた。
そのエニグマが倒れたのを受けて、他のエニグマが退散し始めた。どうやら、統率していたエニグマらしかった。
「やったっぴーーーーー!!」
「やったでぺたこーーーーん!!」
抱き合って喜ぶピスタチオとこんにゃく様。
「・・・セサミ」
シードルが、セサミに近づいた。
「・・・・・さっきはちょっと、言い過ぎたよ。キミって何言われてもこたえないんだって思ってたから、つい」
「・・・言い訳になってないし・・・」フレイアが頭を抱えた。
「へっ、オレだってやろうと思えばやれるんだよ。もうバカになんかさせねぇからな!」
「期待してるぜ」
「まかしとけよ!!」
一行は笑いあった。ようやく戻った、平和な瞬間だった。




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