闇のプレーン
5:少年達
シードル達がマサラティ村にやってきたのは、フレイア達が到着する半日ほど前だった。
一緒にいたのは、キャンディとカベルネとオリーブ、そしてガナッシュ。
当初、彼らはこの村で休息を取る(そして救助を待つ)つもりだったのだ。少なくとも、シードルとキャンディは。
しかし。
ガナッシュはそのつもりではなかったらしい。
彼は、「他のみんなを探してくるよ。みんなはここで休んでいてくれ」と言い残して一人、南に向おうとした。
そんな彼を追って、まずオリーブ、次にカベルネ、あわててキャンディも南に向ってしまった。シードルは、足を向けることができなかった。
仕方なく、彼は一人で待つことにした。
そんなころ、フレイア達もマサラティにやってきた。でも、彼女達もガナッシュと同じことを言うのだ。
シードルには、彼らの気持ちが理解できずにいた。
次の日、彼もまたメースと門番の口論を立ち聞きしてしまった。どうやら、病気になってしまった人を助けるためにメースがアイスシードとかいうモノを取りに行くとか行かないとか。
ジェラ風穴のことは、昨日村の人からチラリと聞いたのだ。なんだか危ない場所らしい。そんなところに一人で行くなんて、バカじゃないの?
歯牙にもかけなかったのだが、フレイア達まで行くと言い出すではないか。
何故?
彼の胸に、痛々しい過去の記憶が蘇っていた。
この時の彼に、フレイア達の思いは理解できなかったのだ。
でも、一人になって考えた。
もしもこのまま彼らが戻ってこなかったら・・・・『過去』の自分のように、助けを待っていたとしたら・・・・
今、行かなければきっと、一生後悔することになるかもしれない。漠然と、そう感じた。
彼は、追いかけることを決意した。
「シードル!!」
案の定だ。ここに来てから何が起こったのかはわからないが、みんな(ピスタチオは除いて、かな)ボロボロじゃないか。しかも、ヤバそうなヤツを相手に。
「やぁ。生きてるかい?」
「ミタラワカルダロウガヨ!」
「はっはっは、そりゃそうだ」
笑うシードル。その間も、彼の放ったバラのつるはエニグマ=ドワーフを拘束し続けていた。
魔法の実力だけでいえば、彼はクラスでもトップレベルの力を持っているのだから。
「くっ・・・・!」
エニグマ=ドワーフは恐ろしい形相で戒めを振りほどいた。だが、疲労も相当のようだ。
「・・今日のところは、見逃してやる・・・・・覚えていろ・・・・・!」
捨て台詞を残して、ワープで消えた。
「あっ! 逃げたっぴ!」
「逃がしてやればいいよ」冷静に呟くシードル。「不意をついたからうまくいったようなもんだし、マトモに戦っても勝てるとは限らないしね」
「シードル・・・・」とフレイア。
「・・・・・何も言わないでよ。言いたいことはあるんだろうけど。とりあえず、ここから出ようよ。話は、それから・・・・」
帰りの船の上でだった。
おもむろに、シードルは『過去』を語り始めた。
「ボクさ・・・・・小さい頃に、ママに連れられてパナシェ山の芸術祭の準備をしてたんだ。
準備に夢中になっているうちに、山が吹雪いてきちゃってね・・・ボクとママは山のアトリエに閉じ込められちゃったんだ。
何日も吹雪はやまなくて、ついに食料も尽きちゃって。それでも救助はなかなか来なくて。
ついにママが救助を呼びに、山を降りたんだ。ボクは一人、じっと山の中で待つことしかできなくて。
さらに何日も経って、ようやく吹雪も収まって、やっと救助隊の人が来てボクは町に帰れた。
・・・・でも、ママは帰って来なかった。
助けられるのを待つことしか出来なかった幼いボクは助かって、・・・ボクを助けるために危険を冒して下山したママは戻らなくって・・・・・『助ける』ってどういうことなんだろう、『助かる』ってどういうことなんだろう・・・・
誰かを助けるために、それで自分が死んでしまったら、結局その人だって助からなくなるかもしれない。
それだったら、最初から助けようとしないで助けを待つ方がいい・・・・・・そしたら、その人だって助かるかもしれない・・・・・・・
そう、思ってたんだけど」
シードルは目を細めた。
「それでも誰も助けに来てくれなかったら・・・・・どうなってしまうんだろう。
あの時は来てくれた・・・けど、もっと早く来てくれてたらママは死なずに済んだかもしれない・・・・・
どうしたら良かったのか、答えも出ない。・・・きっと、答えなんてないんだ・・・・どう行動するかってことが、答えになるんだ・・・・・・。
行動しなかったら、後悔してたかもしれない・・・・だから、来たんだ」
皆、黙って彼の話を聞いていた。
「・・・・・・それで、来てみてどんな気持ちだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。
今すぐ、ママを助けに行きたい・・・でも、もうどこにもいないんだなぁ・・・・・・」
座ったまま膝をかかえ、顔をうずめる。誰も、何も言わなかった。
静かにマサラティ村が見えてきた。
村に着いたころには、シードルも大分落ち着いてきたようだった。いつもの表情。
「さて、村長のウチに行きますか」
「そうだっぴ! シナモンさんが気になるっぴ!!」
「アッ! マテヨ ピスタチオ!!」
「ボクも一応行かせてもらうよ」
一人走り出すピスタチオを追ってカフェオレもドタドタと走り出す。後三人はゆっくり歩いて向った。
村長の家に向う途中、ピスタチオはメースと出会った。アイスシードを持ち帰り、シナモンに届けたはずであったが・・・表情は暗かった。
「メース?」
「・・・あっ・・・・・・」
ようやくメースはこちらに気づき、薄笑いを浮かべた。それでも、寂しげな雰囲気は変わらない。
「アイスシードヲ トドケタンダロ?」
「あ、うん、まぁ・・・・・そうなんだけど・・」
「だったら、何でそんなだっぴ・・・・・・あっ、まさか、シナモンはもう・・・・!? ソンナーーーーー!!」
「あっ、違うんです!!」
取り乱すピスタチオに面食らって、あわてて弁解するメース。すぐに、暗い表情に。
「そうじゃなくて・・・・・・。あ、色々ありがとうございます。ボク、決心したんです」
「ケッシン?」
「ええ・・・・・旅に出ようと思って・・・・」
「オオ! タビカ! タビハイイゾォ!!」
「旅って、何でまた?」
「・・・・・・・・・・・・・」
彼はさらに表情を曇らせる。理由は、推して知るべし。メースは語ろうとはしなかった。
しかし、単純な好奇心でピスタチオは、
「シナモンさんも一緒なんだっぴか?」
「・・・・・!」
なかなかどうして、人の気持ちに鈍感な二人のこと。メースの表情の変化に殆ど気づいていなかった。
「・・・・あ、いいえ・・・・・」とても言いにくそうに。「・・一人旅ですよ。あちこち見て回ろうか、なんて・・・・」
「ケンブンヲヒロメヨウ ッテワケカ。イイネェ、ワカイウチノボウケンハ カッテニシロッテ イウシナ」
「言わないっぴ」
「オオ? ソウダッタカ?」
「色々お世話になりました。それじゃボクはもう・・・仕度とかしなくちゃいけないから・・・・それじゃあ」
足早に、メースは立ち去ってしまう。その背中を見送るピスタチオとカフェオレ。
そこへ、後から歩いてきた三人もやってきた。
「どうした?」
「メースが一人で旅に出るって言ってたっぴ!」
「ケンブンヲ ヒロメルンダッテサ」
『・・・・・・・・・・・』
顔を見合わせるカシスとフレイア。
「はぁ・・・・そうかよ」
「メース・・・」
「? どうしたんだっぴ?」
「もう、ニブすぎだよ二人とも」たまりかねてシードルが割って入った。「結局うまくいかなかったってことでしょ?」
「エ? ソウナノカ? ・・・・ソウイエバ、ナンダカ インキナ フンイキデシタガネェ」
大きく溜息をついて頭を抱えるカシス。
「もういいよ。解り合うことができないんなら、解り合う必要もない。ヤな感じだ・・・」
「シナモンは知ってるのかしら・・・このこと」
「そうだっぴ! シナモンに話さないといけないっぴ! このまま別れちゃダメだっぴ!!」
「お? どうしたピスタチオ。チャンスじゃねぇのか?」
「もういいんだっぴ!」ピスタチオはブンブンと頭を横に振った。「だから、せめてうまくいってくれないと、オイラがカワイソウだっぴ!」
いうやいなや、再び走り出すピスタチオ。
「何の話?」シードルがカシスを見上げる。
「いやまぁ、色々とな」
「オレタチモ ハヤクイコウゼ! ホラ、フレイア!」
「押さないでよぉ!」
「行こうよ」
彼らも、村長の家に向った。
その翌日、彼らは色々仕度を整えて南に向う準備に余念がなかった。
目指すは、エニグマの森。ガナッシュ達が目指した場所を追うことになった。
「大丈夫かしら、シナモン・・・・」
「ダイジョウブダッテ。アレデ、ケッコウツヨイト オモウゼ、カノジョ」
「・・・・・うん・・・」
案の定(というか信じていたのはメースやピスタチオくらいのものだったが)病気でもなんでもなかったシナモン。
メースが一人で旅立つつもりだと知ったシナモンは、父親の言葉にも耳を傾けずにすぐさまメースの家に向った。だが、もうメースはいなかった・・・・
シナモンは、危険と知りながらもメースを追って旅に出るとこを決意したのだった。
それが、自分の運命なら受け入れる、と彼女は言って。
父ジンジャーも、わかっていた。おそらく、誰よりも。たった一人の娘なのだから。
「いつか、出会うこともあるかもしれないし。今度はゆっくりと話してみたいもんだね」
シードルも付け加える。
「お?」意地悪そうに言うカシス。「お前、一人でここで待つんじゃなかったのか」
「あっ! ・・・・なんだよ、それぇ。ボクがいないとダメなんじゃないの?」
「いいやぁ。別に? 動き回ってケガしても知らないぜ?」
「んもう、キミって人は全く!」
皆が一斉に笑った。
「ソレジャ、イクゼ〜」
「エニグマの森へ!」
「・・・行きたくないっぴ・・・・・・・・」
一人ほど不平をこぼしながらも、一行は船に乗せてもらい、南・・・・エニグマの森と呼ばれる密林地帯へと向った。
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