闇のプレーン
4:氷点下の世界
闇の世界特有の異常気象のせいか、常に氷点下の気候にあるこの小島は、氷の島と呼ばれている。
ここに入り込んだものは、殆ど帰って来ない等言われているが、彼らはそんな場所に来ていた。
「ヒエマスナ〜・・・・、チョイト ヤバイカモシレネェナァ・・・・」
最初に船から降りたのはカフェオレ。彼は機械なので急激な温度差には弱いのだが・・・・
「コレ着てても寒いっぴ〜〜〜〜〜〜・・・やっぱり残ってれば良かったっぴ・・・・・」
「んもう、いまさら何よ。頑張りなさい」
船頭さんに防寒用の服を色々借りて着込んでいるピスタチオに、冷静に喝を入れるフレイア。
「・・・・・・フレイア、まだ怒ってるっぴ・・・・?」
「でも、さっきのはちょっと意外だったよなぁ。結構、大人しそうってイメージだったんだけど」
言いながらカシスも船を降りる。
「フレイアは怒ったらコワイんだっぴ。オトされるっぴ」
「はっはっは、いいねぇ」
「行くわよ」
「オテヤワラカニ タノミマスゼ〜」
まさに、氷穴という表現がピッタリくる、氷の壁で出来た洞穴だった。生き物も住んでいないだろう。
中は身も凍る寒さだ。
「あんまり長い時間は居れないな。早めにやっちまおう」
「おう〜〜だっぴ(メースには負けないっぴ・・!)」
「ナンダカ カラダガコオリツイテル ヨウナキモシマス・・・・」
「・・・・行きましょう」
それぞれに思いを抱えて、彼らは氷穴に侵入した。
(・・・・・村の人を恨んではいけないよ・・・)
(彼らは、恐れているだけなんだ・・・)
(・・・死ぬのは、私達だけでいい・・・・)
幼い頃、両親は病床から彼に告げた。村人を恨むな・・・と。
誰でも、死ぬのは恐ろしい。それは、彼の両親も村人たちも。
両親は言った。自分達を助けるために、ジェラ風穴に入った村の誰かがもしも命を落としてしまったら。
それで生きながらえたとしても、決して救われることはないと。
子供だった自分にはどうすることもできず、両親が死に逝くのを見守ることしかできなくて。
だから・・・・・・
「・・・・メース! メース!」
呼ばれたような気がして、彼はふと目を開けた。気づいたら、気を失っていたらしい。
このまま倒れていたら、死んでいたかもしれない。死ぬわけにはいかないのに。
「メース! イキテルゼ〜!!」
「良かった・・・・」
少年は、ゆっくりと周りを見渡した。あの、人間達だ。
「あ・・・ボク・・」
「危ないところだったな。も少し寝てたら死んでたかもな」
「・・・・・・・ありがとうございます・・・・。行かなくちゃ・・・・アイスシードを探さないと・・・」
メースは、ゆっくり立ち上がってさらに先を目指そうとする。
「待って! 一緒に行きましょうよ」
そういえば、とメースは彼らに振り向いた。どうして彼らがここにいるのだろうか?
「そうだっぴ! 一緒に行くっぴ!」
「・・・でも・・・・皆さんに迷惑をかけるわけには・・・」
「ココマデキタラ、イチレンタクショウ サ! キョウリョク シタホウガイイッテ」
「・・・・・・・・すみません・・・ボクが無力なばっかりに・・」
メースは申し訳なさそうにうつむく。
「無力? シナモンのために一人でこんなとこまで来れるんだから、立派なもんだぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「行きましょう。急いだ方がいいんでしょ」
「・・・はい!」
風穴の奥に、ソレはあった。アイスシード。メースは、それを見ると思わず走り出した。
シナモンを救える、アイスシードだ。
「・・・・・・!?」
何か、風が起こった。辺りを見回すカシス。
「どうしたの?」
「・・・・ちょっとヤバいかもな・・」
「アッ! アレハ〜〜〜!?」
さらに奥から、大きな生き物がゆっくりと姿を現した。固い甲羅をもつ、カニのような生き物。
「ぴ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! 出たっぴ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
巨大カニは、こちらを見つめていた。そして、その大きなハサミを大きく振り上げた。
「メース! 早くこっちに!!」
「え、うわっ!!」
ずぅぅぅぅぅん・・・
ハサミが振り下ろされ、辺りに大きな振動が伝わった。間一髪、メースは身をかわして無事だった。
しかし、肝心のアイスシードはカニの足元に生えたまま・・・・
「・・・・戦わざるをえないようだな・・」カシスが身構えた。
「クゥ・・・コンナサムイトコデ バトルデスカァ・・・・・・ミモココロモ コオリツキソウデス」とカフェオレ。
「泣き言いうなよ、来るぜ!」
カニは巨体ながら意外に機敏に動いてきた。大きなハサミでこちらを押しつぶそうと、振り下ろしてくる。
寒さで動きにくいため、中々反撃の手立てがなかった。
後方から、光の魔法の援護が来るも、あまり効き目がないように見える。
「ヒィヒィ、チョット、マッテクダサイヤ、カラダガコオッテ キタデスゼ」
「何ィ!」
あまりの低温に、カフェオレの機械の体が凍り付いてしまっているようだった。
「チッ・・・、まずいな・・・・。カフェオレ、下がってろよ」
「ウウ、コノキカイノカラダガ ウラメシイ・・・。デ、ソレハソウト コオリツイテ ウゴケナイノデ、アッチマデハコンデクレルト タスカルノデスガ、イカカデショカシスサン」
「いいから引っ込んでろっ!! 手間かけさせんなっ!!」
「オゴッ!!」
思いっきり蹴りをくらい、転がるようにフレイア達のところへ戻って来るカフェオレ。
「ウウ・・・ヒドイ・・・」
「今のは仕方ないと思うっぴ・・・」
「あっ! ・・・ピスタチオ、カフェオレをお願い!」
入れ違いにフレイアが飛び出した。
「あっ!」
「マテヨ、フレイア! キケンダッテ!」
それでもフレイアは立ち止まらない。彼女は、巨大カニの足元を見つめていた。
カニは、チラリとフレイアの方をみやった。まるで動くものを標的にするかのごとく、カニはフレイアに狙いを定めた。
「フレイア!」
ずぅぅぅぅぅぅん・・・・
大きな振動が響き渡る。誰もが目を覆った。
「・・・痛・・・・」
頭を押さえてカシスが体を起こす。どうやら無事なようだ。自分も、腕の中にいる彼女も。
「・・・・フレイア! 何やってんだよ!」
「・・ご、ごめんなさい・・・・・・でも、あの、これ・・・・」
フレイアは手にしていたものを見せた。アイスシード。
「踏み潰されそうになって・・・これを探しにきたのに、これがないとシナモンさんが」
「・・・・・・・・フレイア・・・・・・」
二人の頭上に、巨大カニのハサミが迫る。
「アブナイッ!!」
「!!」
「ダメだっぴーーーーーーーーーっ!!」
ごんっ
またも、鈍い音が響き渡る。ハサミの動きが止まり、カニは頭を押さえて(いるように見える)その場に立ち尽くした。
ピスタチオの魔法だ。
「キイテルゼ、ピスタチオ!!」
「え、え、やったっぴ?」
「モウイッパツ、クラワセテヤレッ!」
「オウ! だっぴ!!」
続いて魔法を使うピスタチオ。固い甲羅に固いもの(クルミ)をぶつけるのが効いているようだった。
「いいぜピスタチオ、そのまま動きを止めておけよ」
狙いを定めて魔法を構成し始めるカシス。
狙うは、固い甲羅の隙間の部分。
「行くぜっ!! ブロシェットッ!!」
凄まじい剣圧のごとき衝撃波が二本、巨大カニめがけて襲い掛かる。
ソレは寸分たがわず甲羅の隙間、脆い部分に入り込んだ。
グォォォォォォォォ・・・・ッ
重低音のように響く断末魔と共に、巨大カニはその場に倒れこんだ。また、大きな振動。
「オオ〜!! ヤッタゼ!!」
「カシス! ひどいっぴ〜〜!! 一番オイシイとこ持ってくっぴ〜〜〜〜!!!」
「へへ、悪いな」
ニヤリと笑って、カシスは力なくその場に座り込んだ。
「どうしたっぴ!?」
「疲れただけだよ」
「カシス・・・」
フレイアが近づいて隣にしゃがみこむ。
「ケガしてる・・・・私のせいね、ごめんなさい・・・・・」
「気にするなよ。大したことねぇよ」
「クゥ〜、カッコイイネ!!」
「カフェオレはちょっぴりカッコワルイっぴ」
「ナ、ナンダッテ!? シンガイナ!!」
「皆さん・・・・」
事を見つめていたメースが近づいてきた。
「何と言ったらいいのか・・・思いつかないです・・・。ボクのために、こんな・・・」
「メースのためじゃないっぴ。シナモンさんのためだっぴ!」
「おい、ピスタチオ!」
「間違ってないっぴ」
フン、と横を向くピスタチオ。でも、メースは快く笑った。
「ですよね。でも、ありがとう・・・・」
「メース、これ・・・」
フレイアは、手にしていたアイスシードをメースに手渡した。
「あなたから、渡してあげて・・・」
「え・・・いいんですか?」
「もちろん」
フレイアはニッコリ笑った。皆も。・・一人を除いて。
「メース、急いだほうがいいんだろ。先に行ってな」
「え、でも」
「もう少し休んでいくから」
「・・・・・・・・・」
メースは、ただ無言で深く頭を下げた。何回も。
そして、彼は踵を返して元来た道を戻っていった。
「・・カシス、ワザとだっぴ・・・?」一人不服そうに睨むピスタチオ。
「お前じゃメースには勝てねぇよ」
「な、なんでだっぴ!」
「なら、お前は一人でここに来れたかい?」
「うっ・・・・・・そ、それは、その・・・・・。
・・・・・・。わかってるっぴ・・・・・・オイラだって・・・・・・」
うつむくピスタチオ。事情がよくわからないフレイアとカフェオレは互いに顔を見合わせた。
「ソロソロ、カエロウゼ〜」
「くっくっく・・・・・・」
『!!!!!!!!』
とても場違いな、そして不吉な笑い声。
カニが姿を現した場所から、現れたドワーフの姿。エニグマ=ドワーフ。
「・・・・なんてこと!!」
「チッ・・・・こっちが弱るのを待ってやがったな・・・・」
「くっくっく・・・・。俺と戦う力が残っているかな・・・? くっくっく・・・」
ドワーフはゆっくりと近づいてきた。身構えるが、正直こいつと戦う余力はないとこは皆気づいていた。
寒さと疲れで、彼らは消耗しきっているのだから。
「俺の勝ちだ・・・くっくっくっく・・・」
その時であった。ドワーフの足元から、無数のつたが生えてきて、ドワーフの体を絡め取った。
「!!?」
つたには、無数のトゲがついていた。まるで、バラのつるのごとく。
「・・・まさか!」
「全く、いざって時に頼りにならないんだから・・・・」
彼らの後方から、新たな声がした。
美魔法の使い手、シードル・レインボウだった。
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