闇のプレーン


 3:命の意味
 シナモンの案内でマサラティ村に到着した一行。彼女は父に伝えてくる、と先に向かい、一行は続いて彼女の家・・・村長の家に向った。その途中。
「あっ!」
ピスタチオが声を上げた。左・・・村の北側を凝視して。ならって、皆がそちらを見る。
「・・・・どうしたの?」
「シードルだっぴ!!」
「えっ!?」
北側の家(どうやら、旅人向けの宿屋らしかった)の入り口付近に、明らかに村人ではない「普通の人間」がウロウロしていた。目の覚めるような金髪。そのいでたちも、間違いなくクラスメイトのシードルだった。
「行こうぜ!」
「オーーーーイ! シードルーーー!! コッチダーーーーーーーー!!!」
声に反応して、当人もこちらを見た。
「・・・みんな」
シードルは別段驚いたふうでもなかった。駆け寄る仲間達。
「シードルもこっちに来てたのね」
「まぁね・・・・・」
「お前がいるってことは、ガナッシュ達もいるんだろ?」
「・・・・・・・・・ガナッシュは・・・」
少し、彼は目をそらした。
「・・・・ど、どうしたんだっぴ・・・・・・?」
答えずに、シードルは南側を指差した。南側は沼が広がっており、変わった形の船がいくつか停泊している。
「行っちゃったよ。南にさ。・・・確か、エニグマの森って言ったかな」
「エ、エ、エ、エニグマの森だっぴかーーーーーーーーーーーっ!!??」
恐怖に叫ぶピスタチオ。
「それならなんでお前はここにいるんだ? 留守番か?」とカシス。
「そんなんじゃないよ。ガナッシュ達は、みんなを探しに行ったのさ。・・・どこにいるかもわからないのにね」
「・・・??? シードルはついていかなかったんだっぴ?」
「だって、そのうち校長たちが助けに来てくれるんでしょ。迂闊に動き回らないほうが賢明だと思わない?」
『・・・・・・・』
「だから、ボクはここでしばらく待ってようと思ってね。キミたちまでこっちに来てるとは思わなかったけど、やっぱりエニグマ?」
皆は顔を見合わせた。そして、フレイアが説明し始めた。
「私達は・・私とカフェオレとピスタチオは、一回学校に帰ったの。魔バスが直ったらこちらに来てくれることになってるから、それからいないみんなを探そうと思って」
「・・・・・帰った? 学校に?」訝しむシードル。「なら、なんで救助でもなんでもよこしてくれな・・・・」
「シードル」カシスが遮った。
「・・・何だよ、間違ったことは・・」
「言ってないさ。お前の言うこともわかる。でも、待ってても誰も助けには来てくれないぜ」
「な・・・・」
「コウチョウハ、オレタチニキタイシテルンダッテナ。オトナレンチュウニ タヨラズ ジブンデミチヲ キリヒラケッテナ」
「何だよ、それ!」思わず、声を荒げるシードル。「何考えてんのさ! 何もかも自分でどうにかしろっていうこと!? そんな無責任な話ってないよ! ボクたちに、一体何ができるっていうのさ!!」
睨みつけるように皆を見つめるシードルに、皆しばし無言だったが。
「・・・シードル・・・・、一緒に行きましょう」
「どこにさ、フレイア」
「進むべき道を、進めばいいのよ。何もしないでとどまるより、できることをするのが大事だと思うし・・・・」
地を見つめるシードル。
「・・・・・・・・・わからないよ。自分達だけでなんとかなるって思うわけ? ボクたち、まだ子供だろ? 大人の支えがないと、生きていくことさえできないのに。それって、傲慢じゃないの?」
「シードル・・・そうじゃなくて・・・・あっ」
「もういいよ、フレイア。これ以上言ってもムダだ」
カシスはチラリとだけシードルを見やると、背を向けた。
「行こうぜ、シナモンが待ちくたびれてるだろ」
「・・・・・・行くっぴ! シードルなんかもう知らないっぴ!」
「マァマァ、ピスタチオ」
「・・・・・・・・・・・・・ボクは、ここで救助を待つよ。動き回ってケガしても、仕方ないからね」
シードルもまた、背を向けた。ピスタチオがその後ろから舌を出して、またカフェオレになだめられる。
「シードル」
「・・・・・・・・・・・・・」
背を向け合ったまま、少年は呟く。
「自分たちでどうにかできるとか、そういうんじゃなくてよ・・・・クラスの仲間を助けたいって気持ちだろ、要するにさ・・」
「・・・・・・・・・・」
返事はなかった。一行は歩を進める。シードルは、立ち尽くしていた。


 マサラティ村の村長ジンジャーは娘の恩人を快く迎え入れてくれ、歓迎してくれた。
だが、厳格な性格で知られる村長は、娘の一連の行動についてはあまり言及していない様子だった。単に気づいていないだけ、とも考えにくいが。
さっきの宿屋に部屋を取ってもらい、一行は村長の家を後にした。そこで、彼らは村長の家の門番が何やら口論している場面にでくわした。相手は、他でもないメースだった。
「だから、私がお嬢さんに届けておくと言っているだろう」
「で、でも・・・・直接手渡したい・・・」
「ダメだ、ダメだ! お前をこの家に入れるなと村長にいわれている。出直してくるがいい」
「・・・・・・・・・・・・・」
あきらめて、メースは一礼すると背を向けて歩き出した。
「・・・・・・ひどいっぴ・・・」
「コリャ、オモッタイジョウニ ミゾハフカイ デスナァ」
唸るカフェオレ。
「メースは何にも悪くないのに・・・」
立ち去る彼の背中は、とても小さく寂しそうだった。


 これからどうするか、という話だが。シードルによれば、ガナッシュ達がクラスメイトを探すためにエニグマの森という場所に向ったらしい。
みんなエニグマにさらわれたのだから、エニグマに近づけば可能性は高くなるのだが。
どちらにせよ、彼らとてみんなを探すためにここにいるのだから、ここはガナッシュ達を追いかけるのが打倒だろう。
一泊し、出発前にピスタチオがシナモンに挨拶したいっぴ、と言い出したので一行は村長の家に向った。

 入り口で、またメースと門番との口論が展開されていた。一行は、立ち止まって事を見守る。
「どうして、会わせてくれないんですか・・・? ボクは・・・」
「ダメなものはダメだ! お嬢さんもお前には会えないと言っている」
「・・・彼女がそう言ったんですか?」
「も、もちろんだとも! 疑うのか!?」
「あ、いいえ・・・でも、どうして・・・・理由は・・・・・」
「り、理由だと? ・・お嬢さんはだな、・・・・そ、そう、病気になってしまったのだ!」
『!!!』
「シナモンが!?」驚愕の表情で門番に食い下がるメース。
「う、そ、そうだ! しかも、あのウーズ熱にかかってしまったのだ! お前みたいな悪魔とコソコソ会っていたりするから、こんなことになるのだ!!」
メースは、しばらく呆然としていた。そして、考え込んで、彼は言った。
「・・・・・わかりました」
「そ、そうか。これにこりたら、もう二度と現れるなよ!」
「取ってきます・・・・・・アイスシードを・・」
「!!!」
今度は、門番が驚愕する番だった。メースは黙って引き返し始める。
「ア、アイスシードを取ってくるだと!? ・・・・ア、アイスシードなんかが、ウーズ熱に効くわけがないだろう! 
取りに行くだけ無駄だぞ! おい! ・・・・・・・・・・・・・フ、フン、このまま帰ってこなければいいんだ・・・・」
話を一部始終聞いていた一行。
「・・・シナモンサン、ウーズネツニ カカッテシマワレタ ノデスカ〜・・・・?」あわてふためくカフェオレ。
「どうだか。メースを追い払うための詭弁じゃねぇのかよ?」とカシス。
「シナモンさん、昨日は元気だったっぴ〜〜〜! 病気なんて、ウソだっぴ!!!」とピスタチオ。
「それより! メースったら、本当にアイスシードを取りに行くつもりかしら!?」
フレイアの言葉に皆は顔を見合わせた。
「まさか・・・キケンな場所なんだろ?」
「デモ、メース シンケンナ カオシテタゼ〜」
ピスタチオはメースが去った方を見て考え込んでいた。
(シナモンさんが本当に病気になってたら・・・・オイラがアイスシードを取ってくるっぴ! メースには渡さないっぴ!)
「追いかけるっぴ!!」
やもたまらず、ピスタチオが駆け出した。
「ど、どうしたの、ピスタチオったら」
「オレタチモ イコウゼ フレイア!」
「ええ!!」
「やれやれ」
フレイア達もピスタチオに続いて走り出した。

 氷の島とも呼ばれている、沼の小島へは船を使わないと行けない。船着場には、二艘の船と、ヴォークスの少年、そして見覚えのある少年がいた。とはいっても、ヴォークスの少年の名はピスタチオ。メースはいなかった。
「シードル!?」
「やあ。・・・君たちもジェラ風穴に行くの? それともエニグマの森かな」
「君たち『も』って・・・・・じゃあメースはまさか・・・・!」
「ああ、彼か。彼ならジェラ風穴に行くって。たった今出たかな」
「・・クレイジー ダナ〜 ホントウニ イッチマッタゼ」
「メースのやつ、あのオッサンの話を真に受けたのかよ!」
「大変! 早くメースを助けに行かないと・・・・」
「デモ、カンガエテミリャ タスケニイク ッツッテモ、オレタチダッテ キケンダヨナ〜」
「シードル! お前も来てくれよ」
シードルはキョトンとした表情を浮かべた。
「なんで?」
「ジェラ風穴は危険な場所らしいんだ。一人じゃ戻ってこれないかもしれないからな」
「ふぅん・・・・・でも、ボクは行かないよ。全然知らない人だし」
「ソンナノ、カンケイナイダロ!」
シードルは固い表情になり、それを曇らせた。
「他人のために、しかも知り合って間もないような人に、なんでそんなに真剣になれるのさ?
自分達だって危ないってわかってるのに、命かけることができるわけ?」
そして頭を振った。
「ボクにはわからない。わかりたくもない。・・・・・みんな、死んじゃえばいいんだ」
「シードル・・!」
    ぱんっ
即座に、何かをはたいたような軽い音が響いた。
「何てことを言うの!」涙を浮かべて、フレイアが叫んだ。「・・もういいわ、シードルには頼まない! 行きましょう、カシス、カフェオレ、ピスタチオ」
キッパリと告げて、彼女はまっすぐ船に向った。
何が起こったのか、少年はまだ把握しきれていなかった。ただ、左の頬がじんじんとしていた。
「・・・・・オイラも人のことは言えないっぴ・・、でも、ちょっとヒドいっぴ・・・・・・」
「カッテニシロヨ。ソンナニ ツメタイヤツダトハ オモワナカッタゼ。ミソコナッタ」
「フレイアがやってなきゃ、俺が殴ってたぜ」
3人も、フレイアに続いた。それを、見つめるだけの少年。
「・・・・・・・・他人のために、なんて・・・・・・・」
シードルはその場にうずくまった。
「・・・もしも、そんな人が『あの時』いたら・・・・死なずにすんだのかなぁ・・・・・・」
もう遠い過去。少年は戻らない時を思い出して、一人声を上げずに泣いた。




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