闇のプレーン


 2:メースとシナモンとピスタチオと
 広大なレヒカフ沼の東側に、マサラティ村があった。この村は犬族ヴォークスの村である。村長ジンジャーのもと、規律を重んじる風習の村であった。この村では規律が絶対であり、それに反するものは排除される。そんな、空気を持つ村だった。

「それじゃお父様、行ってきます」
「ウム、気をつけてな」
 村の南東にある、ひときわ大きな家が村長の家だった。そこから出てくるヴォークスの少女。村長ジンジャーの娘シナモンだった。
 シナモンは村を見回しながら、人目を避けるように村の西側・・レヒカフ沼に向って歩いていった。
というのも、この村を縛り付ける「規律」のおかげだった。
村人に見つからないように急いで西へ向う彼女。村を出て、森の中を駆けて行く。
そこへ、行く手をさえぎる影が現れてシナモンは足を止めた。村人かとも思ったのだが、どうやら違うようだった。
そいつはドワーフだった。
「お前、魔法は使えるのか?」
いきなり、突拍子もない質問をするドワーフに、シナモンは怪訝な表情を見せた。
「・・・・あなたは誰?」
「そんなことはどうでもいい。魔法が使えるか使えないか聞いている」
「・・・・・・・・(何? 失礼なドワーフだわ・・・)」
「・・・話にならない」
ドワーフはあきらめたのか、頭を横にふった。
「・・何なの・・・・?」
「使えないヤツに用はない。死ね」
「!!?」
ドワーフが強烈な殺気を放って、目の前に深い闇を生み出した。
状況もわからず、シナモンはただ立ち尽くすしかなかった。
何故ドワーフが魔法を使うのかとか何故自分がこんな状況に陥っているのだとか考える余裕もなく。
でも、天は彼女に味方した。
「テメェ! 見つけたぜ!!」
ドワーフの後方から声がし、ドワーフが闇の発動を止める。後ろを振り返ると、チッと舌打した。
「ヒィィィ! また出くわしたっぴ〜〜〜〜!!」
「・・・・・しつこいヤツらだな・・・」
ドワーフは、邪魔が入ったといわんばかりに唸ると、ワープで姿を消した。
「あっ! ・・・また逃げられたか・・・・・くそっ!」
「ヘイ、カノジョ! アブナイトコ ダッタナ〜」
彼女は我に返った。どうやら、助かったらしい。改めて目の前に現れた一行を見やった。
闇のプレーンではほとんどみかけない、人間の旅人らしかった。同じヴォークスもいるが、村の者ではないようだ。
「・・あ、ありがとうございます・・・・」
「レイハ イラネェヨ」
古代機械が前に進み出て何やらポーズを取る。それがおかしくてシナモンはつい笑ってしまった。
「カノジョ〜、ワラウトコジャ ネェダロ〜〜〜〜」
「あ、ごめんなさい・・・」
「あの・・・」
自分くらいの年らしい少女が声をかけてきた。シナモンはそちらを見やる。
「この近くに村があるんですか?」
「ええ、マサラティ村があります。私は、そこの村の者です」
「オオ! ヤッタジャネェカ」
「野宿はまぬがれそうだな」
シナモンは、会話を聞きながら自分の用事をふと思い出した。こうしてはいられない。
恩人達を放っていくのも気がひけるが・・・・
「あ、ごめんなさい、私急がなきゃいけないから・・・・。
マサラティ村はここから東にまっすぐ行けば着きます。・・・それじゃあ!」
「あっ」
再び、走り出すシナモン。
森を少し抜けた沼のほとりに、一軒の家があった。彼女はここに用があった。
近くまで来ると、家の中からヴォークスの少年が姿を現した。彼女は笑顔になった。
「メース」
「・・・あっ、シナモン・・・」
気弱そうな雰囲気そのままに、少年は申し訳なさそうに彼女をみやった。
「どうだった?」
「・・・やっぱり、ダメだよ・・・・。誰も買ってくれない。
・・・・もういいよ、シナモン。ボクは、あの村にいちゃいけないんだから・・・・」
「あきらめちゃダメよ! いつまでも、こんなところで一人きりで暮らすというの?
こちらから積極的になじむ努力をしないと、いつまでも変わらないでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
「そうね・・・・今度は、このハンカチで・・・・・」
その時である。
「わっ! 押すな!!!」
「重いっぴーーーー!!」
「きゃーーーー、倒れる!!」
「オレニモ ミセローーーーーーー!!!」

    ずしゃぁぁぁぁっ・・・

 シナモンの後ろで、雪崩が起こった。
「あ、あなたがたは・・・・・」
さっきの恩人達が、ひとかたまりになって倒れ込んでいるではないか。
「ア、ドウモ」古代機械が一番上で片手を振った。
「どけ、カフェオレ!! 重いんだよ!」
「ナンダッテ? イットクガ、オレハ ジマンジャアナイガ ケイリョウカ ヲハカッテ ツクラレタンダカラ、キカイニシテハ カルイホウダト・・・・」
「ごたくはいいからどけーーーっ!!!」
「二人ともケンカはいいからどいてよ〜〜〜!! ピスタチオがつぶされちゃう!」
「・・・・ぴ・・・・キレイなお花畑が見えるっぴ・・・・・」
一番下で一番小さな少年が目を回していた。


「ノゾくつもりじゃなかったんですけど・・・・・」
 メースの家に招待され、一息つく一行。
どうやら、あの後シナモンが気になって後を追ってきたところ、彼氏に密会!?と見えて盗み見・・・という経緯であったらしい。古代機械カフェオレが姿を見せたらバレるから、と彼を後ろに追いやったが、彼も見たがって結果雪崩・・・・だそうだ。
「いいえ、いいんです。私ったら、ロクにお礼もしてなくて、気になってましたから丁度良かった」
シナモンがお茶を入れる。
「あ、シナモン、ボクがやるよ」メースが声をあげる。
「いいからいいから」
「・・・・・・・・」
二人の様子を、ピスタチオがジッと見ていた。
「シナモンを助けてくれたそうですね、ありがとうございます。ボクは、メースといいます」
少年が頭を下げた。
「それほどのことはしてませんから、そんな・・・」
「ソウソウ。コッチモ ジコショウカイ シマショウゼ。マズ、オレサマガ チョ〜イカスコダイキカイ カフェオレ サマサ。
ソレカラ、ムコウノカノジョガ フレイアデ、アッチガカシス、ソコノイヌガ ピスタチオ!」
「犬・・・・だっぴか」
「おいおい、向こうさんもヴォークスだぜ。わかって言ってんの?」
「・・・・・・・・・ア、イヤ、チガウ、ソウジャナクッテ・・・・ソノ、ツマリ・・・・・・・」
あわてふためくカフェオレを見て、皆が笑った。
「・・・・オレハ サンマイメ カヨ・・・・・」
「皆さんは旅人ですか?」
「まぁそんなとこだ」
やや違うような気もするが、事情を話しても仕方ない。それよりも・・・・
「メースはなんでこんなとこで一人で住んでるっぴ?」
「・・・・・それは・・・・」メースはうつむいた。
「ちょっとピスタチオ、失礼よ」
「でも、なんだかカワイソウだっぴ」
しばらくうつむいていたメースだったが、顔を上げた。
「色々あって・・・・・・・マサラティ村の人は、ボクを怖がってるんです。
でもそれは仕方ないことなんです。村の人に迷惑をかけたくないし、ここにいればみんな平和に暮らせるから・・・・」
「メース! 仕方ないなんて言わないで!」
お茶をテーブルに置いて、シナモンが声を張り上げた。
「あなたは何も悪くない! 悪いのは・・・・・」言いよどんで、シナモンは顔を伏せた。「・・・ごめんなさい、こんな話、旅人である皆さんに聞かせる話じゃないわ・・・・。どうか、忘れてください」
一行は、しばらく黙ったままだった。が。
「・・・・話すだけ話してみたら、少しは気がラクになるかもしれないぜ?」
「そ、そうだっぴ! オイラにしたら、なんだかヒトゴトじゃない気がするっぴ!」
「で、でも・・・・・」
「デキルコトナラ、キョウリョク スルゼ〜」
「どこまでできるかは、わからないけど・・・」
意志は、皆同じくしていた。それは、二人にも感じ取れた。
「・・・・・・・今から、十年以上前の話なんですけど・・・」

 メースの両親が、ある日病気にかかってしまった。ウーズ熱という厄介な熱病で、アイスシードという実を使って治療しないと数日のうちに死に至る恐ろしい病気だった。アイスシードは、レヒカフ沼に浮かぶ小島にある氷穴・・ジェラ風穴にあるのだが、ここは非常に危険な場所。アイスシードを取りに行って、そのまま帰らない者も多く、村の者は恐れて近づかない場所だった。
 メースの両親の場合も、そうだった。誰もアイスシードを取りにいけないまま、二人は帰らぬ人となってしまった。しかも、ウーズ熱は悪魔の病気だとして、村長が一家を村から追放してしまった。
 それで、今でもメースは村に入れない状況になっている。村人は、彼と関わるとウーズ熱にかかってしまうと信じている。例え、それが彼自身のせいではなくても。幼馴染のシナモンだけが、こうやってメースのために尽力しているのだという。

『・・・・・・・・・・・・』
「どうやったら、メースが村に戻れるのか、いい方法もなくて・・・・・」
「・・・いいんだよ、シナモン。一人でも大丈夫だから・・・」
「でも・・・・」
違う。そんな理由じゃない。察してほしいのに。会いにくるのにも、村人の目をさけなきゃいけないのに。シナモンは溜息をついた。
「シナモン、もう村に戻ったほうがいいよ。あんまり留守にすると、疑われる」
「・・・・・・・・・・・・・」
彼女は、一行を見やった。
「・・・・私は村に戻ろうと思います。皆さんも、どうぞ村へ・・・・父にも紹介したいし・・」
「シナモンさん・・・」
複雑な思い。どうにもできないことだって、世の中にはある。
「切ないっぴ〜・・・・」
「・・・・・・・・・・」

 村へ向う途中のことだった。
「カシス、聞きたいことがあるっぴ!」
「は?」
ピスタチオが立ち止まって真剣な表情を見せた。
「大きな声じゃ言えないっぴ・・・・・耳を貸して欲しいっぴ・・」
「何だよ、一体」
座り込んで、話を聞くカシス。
「・・・・・シナモンはメースと付き合ってるっぽいっぴ?」
「・・・はい?」
「だから、二人はコイビト同士っぽいっぴ? 見た感じ、どう思うっぴ?」
「・・・・・・・・・・恋人っていう感じじゃなさそうだが・・・」
「やっぱりそう思うっぴか! それならOKだっぴ!! チャンスはあるっぴ!! ファイトだっぴ!!」
一人盛り上がるピスタチオ。
「なんだぁ?」
・・・どうやら、シナモンを気に入ってしまったようだ。
元々、彼女が気になるといって追いかけるよう提案したのはピスタチオだった。
二人の様子を食い入るように見ていたのもピスタチオだった。
「・・・・・・・・」カシスは頭をかいた。「・・・・恋人って感じじゃなかったけど、そのうちそうなんじゃねぇの? アレは。・・・ま、いいけど」
「置いてかれるっぴーーー、早く来るっぴ!!」
「へいへい」
はしゃぐピスタチオにせっつかれ、歩き始める。大概、ヤツも前向きだな・・・・カシスは溜息をついた。




  ⇒NEXT


  ⇒小説の間へ