闇のプレーン
11:闇の中の真実
この話をするには、コヴォマカ国とエニグマとの因縁から説明しなければならない、と彼女は始めた。
元々、コヴォマカ国に魔法をもたらしたのは、グラン・ドラジェである。これは、皆も周知のことであったが。
その魔法が、一体どこからもたらされたのか・・・・・その源となったのが、エニグマであったという。
「校長は、自らエニグマと融合して、エニグマに負けることなくその力を自分のものにしたというわ・・・・・それは並大抵のことではない・・・・・」
当時からエニグマとは小競り合いが続いていたが、これを機にそれらは収束していった。
その後、グラン・ドラジェは魔法学校ウィル・オ・ウィスプを設立、魔法使いの育成を行った。
高い魔法の素質を持つ6、7歳から15、6歳の少年少女を集めて、コヴォマカ国の将来をになう、エニグマに対抗できる有望な魔法使いを生み出すために。
しかし、それが裏目に出てしまったという。
学校を卒業した有望な魔法使いに、エニグマが接触し融合してしまう事態が発生した。
これにはグラン・ドラジェはあわてた。そして自分の失策を悔いた。
ただでさえやっかいなエニグマが、自分の育てた魔法使いと融合することで強力な敵に生まれ変わってしまうのだから。
そこで、グラン・ドラジェは考えた。幼いうちにエニグマと接触させてその恐怖を体得していれば、将来的にエニグマと融合する者は少なくなるだろう、と。
もはや被害にあった生徒達の把握もままならず、確実に戦力増強しているエニグマとの対決はそう遠くないはずで、決定的に時間がなかったグラン・ドラジェは、強硬手段に訴えた。
それが、キャンプであった。
「キャンプに生徒達を向わせて、あえてエニグマと接触させる・・・・
危険な方法・・・・でも、校長はこの方法しかなかったというわ・・・。
生徒達を命の危険にさらしてまで、こんな方法はとりたくなかった・・・・・だから、
せめて私は・・・・みんなを守ってあげたかったんだけどね」
マドレーヌは寂しく笑った。
「ちっともみんなに出会えなくて。そしたら、どうやらみんなは光のプレーンにいるらしくて。
それなら大丈夫かなって、少しだけ安心したわ。・・・でも、心配することもなかったみたい。
私がいなくても、みんなはちゃんと前に進んでたんだから」
マドレーヌはみなを見渡した。ほんの二、三週間の間に彼らはすっかり見違えていた。
「でも、ガナッシュ達・・・・」
「・・・・・・・ガナッシュも、色々思うところがあったんでしょうね。
考えて考えて出した答えが、この行動に繋がったんじゃないかしら」
マドレーヌの言い方は曖昧で、わかりにくかった。
「先生・・・・」カベルネが言った。「それ・・・ヴァニラと関係があるヌ〜・・・・?」
「・・・・そうね。貴方にとっては、重要な話かもしれないわね、カベルネ。
知らない子もいるだろうから改めて話すけど、ヴァニラはガナッシュのお姉さんなの。
3年前にキャンプに参加して、みんなと同じようにエニグマに襲われて・・・・・融合してしまった」
「!!」
「彼女はキャンプから帰ったあと、すぐに学校を出て行方をくらましたわ。
その後を追って、シャルドネ・・・カベルネのお兄さんも学校を出ちゃったわね」
「そうだヌ〜・・・・・でも一年前に死んでしまったヌ〜・・・」
「一年前のあの大事故ね」ブルーベリーが付け加える。
「事故なんかじゃねぇさ」とカシス。「アレだって、エニグマとの戦争だったんだろ? 先生」
『!!!!!?』
「・・・・・まぁ、ね・・・・。世間には、エニグマの存在は隠されているから、いいように偽の情報を流しているのよ・・・・・だから、コヴォマカ国は平和なの」
「・・・・・・・・・」
一同(一部除いて)面食らって押し黙っていた。
「・・・マジですか・・・・・?」シードルが呟いた。「だ、だって、カシスだって事故だって言ってたじゃないか・・・・・」
「戦争だって言ったら信じてたか?」
「・・・・・・・! ・・・信じなかった・・・と思う。今でも信じられないもの」
「・・・参ったね」レモンが溜息をつく。「すっごい、ダマされてる気分だ」
「信じられないわ・・・・」とブルーベリー。
「そういった小競り合いって、結構あちこちで起こってるのよ」さらにマドレーヌが付け加えた。「一年前のは、かなり規模が大きかったからね・・・それに」
マドレーヌは言いよどんでうつむいた。
「こちらが数千人で挑んだのに対して、相手はたったの一人だった。
・・・・・エニグマが融合した、魔法使いの卵だったわ。彼女はたった一人で数千人もの兵士を壊滅まで追いやったわ・・・・・」
静まり返る一行。その中で、フレイアはちょっと気になる言い方に気づいた。
「・・・・・先生、今、『彼女』って言いました・・よね?」
「ええ」
「その、エニグマに取り憑かれた人って・・・・まさか・・・・」
「・・・・・・・ええ。ヴァニラのことよ」
「そんな・・・」
ただ呆然と、カベルネが言葉を発した。
「カベルネ・・・」
話が繋がっていく。一年前に起こった戦争に参加した、彼の兄はそのせいで死亡した。
・・・ガナッシュの姉と戦って。
「・・・・アニキ・・・それでなんだヌ〜・・・・やっと、わかったヌ〜・・・・・・」
「え?」
カベルネは涙ぐんでいるようだった。
「アニキ・・・・死ぬ間際に、戦いの起こった城が見えるところに埋めてくれって言い残したんだヌ〜。・・・・今まで、なんでそんなコト言ったのかわからなかったヌ〜。
でも、やっとわかったヌ〜・・・」
カベルネは空をあおいだ。空は見えなかったが、その向こうに向って。
二人は付き合っていたから。ヴァニラが飛び出したのを追いかけたのだって、彼女が心配だったからで。
好きだったひとにその命を奪われても、それでも彼女を見守ろうとしたのかもしれなかった・・・
「・・・・ヴァニラは・・その後どうなったんだヌ〜・・?」
「取り押さえられて、そのままその城に幽閉された・・・って聞いたわ。
・・・ガナッシュには、この事実は伏せられていたわ。でも・・・・どこかで知ってしまったみたいね・・・・・。だから、彼は東に向った」
バスは順調に東に向って走っている。
「東に何かあるんですか?」
「今はもう使われていない鉱山・・・・キスニカ鉱山があるわ。多分、ショコラが見た穴っていうのは、ここのことだと思う」
マドレーヌは、真剣な表情になった。
「心して聞いてちょうだい。ここからが、とても重要な話だから。
そのキスニカ鉱山にね・・・・恐ろしい存在が棲みついているといわれているわ。
ガナッシュは、そいつの力を求めている可能性がある・・・」
「な、何なんだっぴ・・・・コワイっぴ・・・」
「恐ろしい存在・・・・って・・・」
マドレーヌは、一息ついて。
「すべてのエニグマの頂点に立つ、最強のエニグマ。
エニグマの王、ケルレンドゥ」
「最強のエニグマ!!?」
「・・・・・これは・・・」
彼は、目の前の光景に驚愕した。そして、彼の求めるものはもう、ここにはないと知った。
その代わりに、眼前にあるのは時空のゆがみ。
「・・・・・・・この先に行けば、俺の求めるヤツに逢えるか・・・」
「そんな感じね」
隣にいた彼女は、至って冷静で。それも仕方ないことだ。今の彼女は彼女であって彼女ではない。ただ、彼女自身はそれを知らない。それは、彼女にとって幸せなのか不幸なのか・・・わからない。
今は、そんなことにこだわっている場合ではないのだから。
「・・・みんな、心配しているだろうか」
「かもね」
「・・・・それでも、俺は立ち止まるわけにはいかない。ついてきてくれるかい、キャンディ・・・」
「勿論よ。私は、最後まであなたについていく。そして、見届けるから」
「そうか・・」彼は微笑んだ。
彼女を連れてくるつもりなどなかったのだが、いざ一緒にいると心が落ち着く自分がそこにいた。普段は鬱陶しいほどまとわりつかれていたのにも関わらず。
きっと、これからの自分の未来を真に理解してくれる存在になりうるからなのだろうか。
「ガナッシュ!!」
呼ばれて、彼は振り向いた。
今、決して歓迎されない追っ手が、訪れたことを知って。
「追いついたわ、ガナッシュ・・・」
「先生・・・・・俺は」
いいかけたガナッシュの前に、キャンディが立ちはだかった。彼を守るように。
「ダメよ、先生。彼のジャマはさせないから」
「キャンディ・・・・・」
直に会って、マドレーヌも確信に至った。やはり、キャンディはエニグマに憑かれている・・・・。
「ガナッシュ・・」
「キャンディ!! 無事か!!」
いてもたってもいられなくなり、オリーブとキルシュが進み出る。
「お願い、戻ってきて、ガナッシュ・・・・・・」
「オリーブ・・・・・君にはいつも心配ばかりかけるな・・・・・。
でも、今回は・・ダメなんだ・・・・。これを逃したら、俺はずっと出口にたどり着けない。
君にはわかってるんだろう?」
「・・・・・・・・・それでも・・・・・ガナッシュ・・」
「ああ、面倒くせぇ!!」
と、いきなりキルシュが我慢できずに進み出る。
「こういうヤツにいくら言ったってムダだろ。なら、無理やりにでも連れ戻ーす!!!」
「キルシュ、でも・・・・」
「つーわけだ、ガナッシュ!! さっさと戻りやがれ!!」
「キルシュ!」
ヒュオオゥ
キルシュの足元で、小さな竜巻が発生して彼の進入が阻止される。
「・・キャンディ」
彼女の仕業だった。
「お願い・・・彼の好きなようにさせてあげてよ・・・。彼は、ただ、お姉さんを助けたいだけなのに・・・・・」
「でもよ、キャンディ・・・・!!」
「助ける方法は他にもあるでしょ」マドレーヌが言った。
「・・・どうすればいいのさ、先生」自嘲気味に呟くガナッシュ。
「・・・・・・それは・・・・・」
「やっぱり。本当はないんだろ? だから、本当のことは全部内緒にして!
・・・・・卑怯だよ、先生もグラン・ドラジェも・・・・・・」
ガナッシュは、背を向けた。
「ガナッシュ!!」
「先生。俺は行くよ。『彼』に会いに。
・・・・・さよなら・・」
彼は、時空のゆがみにバッと飛び込んだ!
続いて、キャンディも。
「あっ! 待ちなさい!!」
「キャンディーーーー!!!」
キルシュが、それに続こうとしたがマドレーヌがあわてて止めた。
「ダメよ、キルシュ!」
「なんでだよ!」
「・・・おそらく、あの先に繋がっているのは『死のプレーン』よ・・・・いきなり行くのは危険すぎるわ」
「う・・・・・」
「魔バスに戻りましょう。バスで待ってるみんなにも報告しないと・・・」
マドレーヌは、二人が消えた場所を見やった。さらに奥で不気味にたたずむ巨大な魔物の屍骸を目にやきつけ、そして元来た道を引き返した。
鉱山の奥で起こった出来事は、皆を驚愕させるに充分だった。
そして、次に彼らが取るべき道が提示されたのだ。
「・・・・・・ガナッシュ達を止めないと・・・・・」フレイアが言った。
「まったく、相変わらず勝手なヤツだね・・・・・・」レモンが嘆息する。
「追いかけるの〜? どうやって〜?」とアランシア。
自然に先生に視線が集まる。
「・・・『死のプレーン』っていうのは、文字どおり死んだ人が行くプレーンと言われてるわ」
「じ、じゃあ、ガナッシュ達は・・・」とセサミ。
「もうテオクレなんだっぴかーーーー!! ・・・あだっ!」
叫んだピスタチオにレモンの鉄槌がくだる。
「バカなこと言ってんじゃないわよ!」
「でも先生、なんでその先が死のプレーンだってわかるわけ?」とシードル。「もしも違う場所だったら?」
「それは大丈夫よ。・・・・エニグマという魔物はね、死んでもまた転生してエニグマに生まれ変わるの。
そのためには、彼らは死のプレーンに行かないといけない。
あの鉱山に最強のエニグマがいるって言ったでしょう?
彼もまた、生まれ変わるために死のプレーンに行ったと考えたら、そこから死のプレーンに繋がる道があっても不思議ではないでしょう」
「・・・・でも・・・・・」
ガナッシュ達がその道から死のプレーンに行ったのだ。
それなら、余計に戻らずに追いかけたほうが良かったのでは?
「先生・・」ブルーベリーがマドレーヌに向き直る。「・・・行く方法があるから、追いかけずに戻ってきたんでしょう?」
「ふふ・・・さすがね、ブルーベリー」
『じゃあ!!?』
「魔バスのワープジェネレーターに私が魔力を注いで、どうにか空間を突破できれば・・・・
そしたら、普通に死のプレーンに行くことができると思うわ」
みながうなずいた。もう、取るべき道は一つ。
死のプレーンに渡って、ガナッシュ達を止めること。
「でも・・・・危険な方法に変わりはないわよ。死のプレーンだって、どんなとこかわからないし・・・・それでも、行くのね?」
マドレーヌは生徒達を見渡した。
「とーぜん! キャンディを助けないと!」鼻息荒くキルシュが言った。
それを、アランシアはあまり面白くなさそうな表情で見ていたが。
「放っておけないよ〜。怖いけど、早く行ってあげようよ〜」
「オレサマモ、サイダイゲン キョウリョクサセテ モラウゼ」カフェオレが胸を叩いた。
「そうね、カフェオレには働いてもらわないと」
「エ?」
「アナタの魔道力ジェネレーターが再び役に立つ時が来たわよ〜」
「エ? エ? エ? ・・・・ア、キュウニ オナカガ・・・・・」
「いいからこっちに来なさい!」
「アアア〜〜〜〜〜〜〜!!!」
カフェオレ退場。
「死のプレーン・・・・」思わず、ブルーベリーが呟く。
「聞くだけで震えるヌ〜」とカベルネ。
死んだ人間が行くといわれるプレーン・・・・果たしてどんな場所なのか。
ガナッシュ達は無事なのか・・・・・・
「何があろうが、やるっきゃねぇだろ!?」
キルシュが落ち込み気味な一行にハッパをかけた。
「そ、そうだよな、アニキの言う通りだぜ!」
「声震えてるよセサミ」
「う、うるせぇ!!」
「行くわよーーーー!! みんな、しっかりしがみついとくのよーーー、振り落とされないようにねーーーー!」
「行くぜーーーー! 全開だ、バッキャローーーーーーー!!」
「ガガガガガガガガガ、アアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!!!!」
先生達の声と共にバスは激しく揺れだし、やがて・・・・・消えた。
後には、何も残さずに。
⇒NEXT
⇒小説の間へ