Forester Lovers

 

「・・・・・これは・・・・・・・」

 それは、ある日のこと。任務の一環でダグラスの森方面に来ていたネルは気になるものを発見した。
ゆっくりと近づき、それをそっと手に取った。
手の中でそれはとても小さく、かすかに、それでもしっかりとそこに在った。


「おい」
 不意に呼ばれ、後ろを振り向く。そこには、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべた男の姿。
アルベル・ノックス。
「こんなところにいやがったのか・・・・・ったく、いつまでも帰ってきやしねぇ・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらネルに近づいてくる。
「・・ああ、悪かったね。みんな心配してた?」
「一応な。俺以外は」
「・・・・・・・・あっそう」
にべもない返事に苦笑し、ネルは再び手の中に視線を向けた。
「? どうした」
「ああ・・・・これ・・・・・」
ネルは手の中のものをアルベルに見せた。
そこには、小さく丸まっている鳥が一羽。
「なんだ?」
「翼を怪我しているみたいでね・・・・すっかり弱ってるんだ。どうしたらいいかと思ってね」
「・・・なんだ、てっきり焼いて食うのかと思ったぞ」
「そんなことするもんか!」怒った様子でくってかかるネル。「まったく・・・・・アンタじゃあるまいし・・・・」
「なんだと?」
「大体、すぐにそういう発想に行き着くのはどうかと思うよ、人としてね」
「フン、食うのもままならねぇ痩せた地で生きていれば自然とそうなる」
「自分の意地汚さを土地のせいにすんじゃないよ」
これ以上問答してもしょうがないと、ネルは改めて手の中の鳥を見やった。
とりあえず怪我を治してやろうと、ヒーリングを使う。
だが、怪我は治せても体力の消耗は治せない。
「何か、食べるものがないかな・・・」
あたりをキョロキョロ見回してみる。森の中なら何かありそうではあるが・・・・
「探してきてやろう」とアルベル。
「え!? 今、何て言った・・・!?」
「・・・・・・テメェのことだから、気でも触れたのかとか言うんだろうな・・・・」
「・・・・・・・・・・あ・・・いや、そんなことは・・・・」
わずかに目をそらす。それを見てやや渋面した後アルベルは森に向かって歩き出す。
それを見送ってネルは、ちょっと悪いことしてしまったかなと少し後悔した。
せっかく、協力してくれるっていうのに・・・・・・
手の中の鳥に、話しかける。
「・・・・頑張ってね、何か食べればすぐ元気になるさ。アイツもああ見えてきっと心配してくれてるんだよ・・・・ね」


「取ってきたぞ」
 アルベルが森に消えてから十数分後。その声にネルはハッと顔を向けた。
いつもと変わらない様子でこちらに向かってきているアルベルの姿。
「何を取ってき・・・」
「これだ」
と、アルベルは手甲に覆われた左手をネルの目の前に振りかざした。
次の瞬間、彼女の目の前に数cmほどの毛虫がつきつけられていた。



「きゃあああああっ!!!」


あまりにビックリしてしりもちをついてしまうネル。
一方アルベルは・・・・
「・・・くっくっく・・・・驚きすぎだろ、阿呆・・・・・」
明らかに確信犯的な笑みを浮かべて笑っていた。
「あ、アンタ!! いきなり何するんだい!!」
「何って、エサを取ってきてやっただけだろう」
「・・・エ、エサって・・・・・」
「鳥は虫を食うもんだろ」
「・・・・・・・・・・・」
それは確かにそうかもしれないけど。ネルはなんだか納得がいかない。
ゆっくりと立ち上がって、アルベルをにらみつける。
「木の実を食べる鳥だっているよ」
「ふん、ぬかりはない」
と、小さな木の実を取り出す。
こいつは・・・・私をからかって楽しんでるのか・・・・・・・ネルは渋面した。
いや、今はそれよりも。
「ねぇ、食べれるかい?」
さっきまでとは打って変わった優しい声色で、鳥に話しかけるネル。
向こうでアルベルはえらく態度ちがうじゃねーか・・などと呟いていたが。
鳥は、目の前に用意された木の実をついばんで食べた。
「・・・良かった、食欲はあるみたいだね」
「ふん」
「じゃあその毛虫は用済みだね、さっさと捨てな」
「毛虫だって生きているぞ」
「ごたくはいいから、さっさとしな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙ってアルベルは毛虫を藪に放り投げた。よほど嫌いなのか、毛虫が・・・・・
「で、どうすんだソイツは」
「うん・・・・まだ飛べる状態じゃないし、一旦街に連れて帰った方がいいかもしれない」
「だったら、さっさと行くぞ。ヤツらも待ちくたびれてんじゃねぇのか」
「・・あ、ああ、そうだね・・・・・」
二人は、鳥を連れたままペターニの街に戻った。


「どうしたんですか!? 可哀想・・・・」
「野生の鳥ね・・・・まさか飼うつもりじゃないでしょうね・・・・・?」
「弱ってるみたいだけど、きっと明日には元気になるよ」
「お? 鳥だって? 今夜のおかずか? ・・・・ぐはっ!!」
約1名ほどネルに始末されたが、仲間達も鳥を心配してくれているようだった。
「そういえば」とソフィア。「この子と同じ鳥の姿を今日よく見かけましたよ」
「そうなのかい?」ネルは意外そうに言った。「この辺りじゃあんまり見ない鳥だと思ったけど・・・・」
「仲間かもしれないですね、この子の」
「かもしれないね」



 次の日、鳥はすっかり元気になったようだった。ホッと胸をなでおろすネル達。
サンマイト草原に入り、森に近い場所でネルは鳥を空に放った。
鳥は二、三度輪をかいて飛び、森の方へ飛んで行った。
「・・・・・良かったですね」とフェイト。
「ああ・・・・本当に・・」
街へ帰ろうと、一行が背を向けた直後、ソフィアが声を上げた。
「あ! アレ見て!」
思わず皆が言葉のままにソフィアの指差す方を見やると・・・・・
さっきの鳥と、同じ種類のそれよりやや大きい鳥が二羽寄り添って空を舞っていた。
「もしかして・・・」とマリア。「あのもう一羽、恋人だったりして」
「かもしれませんね! うわぁ、ロマンチック・・・」うっとりとするソフィア。
一方でやや呆れる男性陣。
「好きだよな、女の子ってそういうの・・・」
「まったくだ」
「付き合いきれねぇな・・・・帰るぞ阿呆」
「はいはい」

とても心地よい気分で、彼らはペターニの町へ戻っていった。
二羽の鳥は、それをじっと見送っているかのように空を舞っていた。




NEXT...





戻る