Avant-Garde Conspiracy

 

「大体、非常識なのよ! 普通、そういうことする!?」
「うるせぇ! あんなモン持ち歩く方が余程どうかしてるだろうが!」
「私の勝手でしょう、貴方にとやかく言われる筋合いはないわよ」
「・・テメェが持ってるのはともかく、それをネルなんかに見せようとするんじゃねぇ」
「あら、彼女だって興味あったかもしれないわよ」
「あいつはテメェみたく欲求不満じゃねぇんだとよ」
「だ、誰が欲求不満よ!!」

 ホテルの一室・・・・マリア・トレイターの使用している部屋で二人の男女が激しい言い争いをしていた。
昨日のことになるのだが・・・・・マリアの私物をアルベルが勝手に燃やしてしまったことが発端だった。
それで、マリアが怒っているのであるが・・・・・
「とにかく! 弁償・・・とまではいかなくてもちょっと付き合ってもらうわよ」
ジロリとアルベルを睨むマリア。一方のアルベルも何か言いたそうではあるが、様々な要因があったとはいえ彼女の私物を勝手に燃やしてしまったことは、やはり負い目であるらしかった。
何も言わず、黙って壁にもたれて立っていた。
「・・・・・・・何をするつもりだ」
マリアはいきなりニッコリと笑って、
「ちょっとした小遣い稼ぎよ。他にも・・・・女の子達を呼びたいんだけど・・・・」
「・・・・・・一体何するってんだ・・」
「みんなを集めてから説明するわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 一時のち、マリアの部屋にパーティの女性陣4人+アルベルが集まった。
何のために集まったのか誰も詳しい説明を受けていない模様。
マリアはみなを見渡した。
「ちょっと、軍資金の調達をしようと思ってね・・・・みんなに来てもらったの」
「何するの〜?」
「昔、惑星ロークや惑星エクスペルなんかで、見目麗しい人間の肖像画を描いて店に買い取ってもらってたらしいのね」
「・・・・って、肖像画を描くんですか?」とソフィア。
「わーー、楽しそう〜!!」とはスフレ。
「まぁね。さっきこの街の道具屋に聞いてみたら、有名人の絵なら買い取ってもいいって言われたの。・・・・だから・・・・・・」
マリアはチラリと横を見やる。ぼーっとつったっているアルベルとネルと。
「・・・・・・まさか・・」
「ま、そのまさかだと思って頂戴。有名人よねぇ、何と言っても」
「マリア・・・アンタの言うことはわかるけど・・・」とネル。「それで、なんで女ばっかり集まってんの?」
「簡単なことよ」しれっと答えるマリア。「ウチの男性陣、絵ヘタな人ばっかりですもの。特にクリフ。ひどいものよ」
ああ確かに、とうなずく一同。しかし。
「でもフェイトはそんなにヘタじゃないですよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・彼忙しそうだしね・・」
「・・・・・・・・」
ソフィアはなんとなく納得いかなさそうな表情だった。
マリアにしてみれば、今フェイトは邪魔な存在以外の何者でもない。
「・・・・・それでなんでコイツまで呼ぶんだ」アルベルがスフレを見た。
「あっ! アルベルちゃんひっどーい!」
「もう、バカねぇ。作者が女の子ってだけで、買値に色がつくのよ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
・・・・・・・この女性は・・・・・・。皆、色々とツッコミたい部分があったが、もうあえて何も言わないことにした。
多分言っても無駄だろうから。



 そして数刻後。部屋の真ん中で落ち着かなさそうにしているアルベルとそっぽ向いているネルを囲んで、マリアやソフィアやスフレが一生懸命キャンバスに向かって取り組んでいた。
マリアはそこそこ、ソフィアはなんだか少女漫画っぽく、スフレは・・・なんだかわからない様相の絵を描いていた。
「・・・おい、まだか」
いい加減限界が来たのか、イライラした口調で言うアルベル。
イライラしているというか・・・・・単に落ち着かないだけなのかも知れないが。
「もう、そんなにすぐ描けるわけないじゃないの」
「もう少しだけ我慢してくださいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いくらマリアに引け目があるとはいえ・・・・・何もせずにぼーっと座っているだけというのは、結構ストレスが溜まるものだ。
それはネルも同様だったらしい。
「ねぇ、ちょっと喉が渇いたよ・・・・何か飲んでもいいかな・・・」
「ええ、どうぞ」
「なんか、暑くねぇか・・・・こんな狭い部屋に5人も集まりやがって・・・・・」
さらに落ち着かなさそうに、右手で顔をあおぐアルベル。
「そんなに暑いかしら? 本当、貴方って寒暖の感覚がどこかヘンよね」
「うるせぇ 、黙れ阿呆」
しかしマリアは動じず。
「そんなに暑いんなら、服脱いだらどう?」
「はぁ?」
「そうね・・・・・普通の肖像画よりは、ヌードデッサンの方が高く売れそうよね」
おもむろにマリアが立ち上がり、アルベルに近づいてくる。
「・・・ち、ちょっと待て・・・・・何阿呆なこと・・・」
「あら、何今更恥ずかしがってるのよ。普段からこっぱずかしい格好してるクセに」
「関係ねぇだろうが!」
「ちょっと・・マリア・・」呆れた口調でたしなめるネル。「そんなヤツの裸絵なんて誰も欲しがらないよ・・・やめときな」
「・・・ふむ・・それもそうね」
「・・・・・・・・・・・・」
庇ってもらったのに、なんでこんな複雑な気持ちになるのだろう。
思い悩むアルベルの目の前で、マリアはネルに目を向けた。
「まぁ、同じ裸絵なら男より女よね」
「え」

 ネルが思わずマリアを見やると・・・・・マリアはこちらを見てニッコリ笑っている。
「・・・・・まさか・・・」
「ま、そのまさかだと思って頂戴。ネルってばスタイルいいからきっといい値がつくわよ」
「そ、そんな問題じゃないだろう!! 大体、裸の肖像画なんてあるわけないじゃないか!」
「ネル、貴女肖像画の意味を履き違えてるわよ。
服を着ていようと着ていなかろうと、顔形が似てれば肖像画なのよ」
「・・・な・・・!」
マリアの言う事は正論である。しかし・・・・・・
「何恥ずかしがってるの。女同士じゃない」
「すぐそこに男がいるじゃないかっ!」
「・・・・・ああ、そうね。でもどうせ近いうちに見せるんでしょ? 今も後も変わらないわよ」
何馬鹿なこと言ってんだいっ!!
必死に拒むネルに、迫るマリア。恐怖の女王、降臨・・・・・・
そんな様子をただドキドキしながら見守るソフィア。
「・・・・マリアさんって・・・・・・・・・結構ダイタン・・・」
何か微妙な思い違いをしている模様・・・・・・
 そしてその一方で・・・・
「おい子供。どうせ描くなら格好よく描けよ」
「描いてるってばぁ〜ホラ!」
「・・・・・なんだこれは。落書きか?」
「違うよ〜! こっちがアルベルちゃんで、こっちがネルちゃん」
「待て!! このザリガニみたいなのが俺だってのか!! テメェ俺をナメてんのか!!」
「ザリガニじゃないってば〜、アルベルちゃんだよ〜」
なんだかほのぼのとした平和な会話が広がっていた・・・・・
「・・・・」
それを面白くなさそうに見つめるマリア。
「・・・・・・・アルベル、貴方ねぇ・・」
マリアがずいっと近寄って、耳元で囁いた。
「ネルがピンチだってのに、何スフレと戯れてんのよ・・・・貴方それでも男なの・・・?」
「はっ? ・・・テメェの仕業のクセに何言ってやがんだ」
そりゃそうだ。
「これでも私、応援してるのよ」
「何を」
「貴方とネルのこと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
思わず、聞き返した。今マリアは何を言い出したのだ・・・・・・
「とぼけないで。知ってるのよ、貴方、ネルのこと好きなんでしょ?」
「・・・・だ、誰が!! あんな乱暴で暴力的ですぐ殴りかかってくる女なんか!」思わず声を荒げるアルベル。
「それ全部同じ意味よ」
「う、うるせぇ!!」すでに顔が真っ赤だった。

「それ、誰の話だい?」

ハッ・・・・・
冷静な声が、部屋を取り囲んだ。
ネルが、怒りを押し殺してこちらを見ているではないか・・・・・・
「・・・・だ、誰もテメェだなんて言ってねぇだろうが・・・」
「じゃ、誰の話?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
否定できない肯定。ネルはスッと立ち上がった。
「・・・・マリア」
「え、な、何?」いきなり呼ばれてマリアは動揺を見せた。
「どうも・・・・アンタこの前から何か企んでるっぽいよね・・・・・・・・何のつもり?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと・・・・・・・・」
「とぼけないで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
怒りに押され、さしものマリアも反論できず押し黙る。
それでも、屈しなかった。
ネルはそれを見て溜息をついて、部屋の入り口に向かって歩き出す。
「・・・・アタシ、用事を思い出したからここまでね。じゃあね」
静まり返る一同を尻目に、ネルは部屋から出て行った。
「・・・・・・・・ネルさん・・・?」事情を知らないソフィアらは首をかしげるばかり。
一方・・・・マリアは顎に手を当てて考え込んだ。
どうも・・・・ネルには悟られているようね・・・・・・気をつけないと。
ちょっと、あからさまだったかしら・・・・・・?
そしておもむろに、隣でやはり事情を把握していない様子のアルベルを見上げた。
「・・・・じゃ、続き行きましょうか。脱いで」
「はぁっ!!?」
やっぱりマリアさんダイタン・・・・・・ソフィアは思った。










 自室まで戻ってきて、ネルはベッドに倒れこんだ。
ヤバイかもしれない。私。
どうしたらいいんだろう。なんだかシャクだ。

こんな職業なんてやってるから・・・・・・・
だからきっと、聞かなくてもいいことまで聞こえてしまうのだ。

「・・・・・マリアの言ってたこと・・・・・・・本当なのかな・・・・・」
自分に問うてみても、答えは出なかった。





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