一面に広がる銀色の景色。
多少・・・いや、かなりの傾斜はあるものの、十分すぎるくらいの場所を確保して。

「それじゃ、スタートだからねッ!!」

少年の元気な声が雪山に響いた。



Tactics

 




 それはある日のこと。
いきなり、唐突に、メンバー最年少の少年が仲間たちに呼びかけたことから始まった。
「ねぇ、雪合戦って面白そうだよね!」

 いきなり、唐突に言われたほうは、ポカンとするばかりだ。
「・・・・おい、おこちゃま」
「なに、アルノー」
「何を突然言い出すかな? ここは港町、雪の『ゆ』の字もありゃしない。どっからそんな単語が出てきたんだ?」
「これみてよ」
と、なにやら雑誌を広げる。それはスポーツ雑誌のようだった。
仲間たちが言われたままに雑誌に目を通す。
「・・・・・・健全で単純、かつ熱中できる子どものスポーツ・・・・・だと?」呆れたような声色で呟く女性・・・ラクウェル。「いったいどこのガセ雑誌だ、これは?」
「ガセじゃないって! だってだって、面白そうじゃんか!」
「ジュードは元気ですね・・・・」
呆れているのか同意しているのか定かではない表情で、少女・・・ユウリィも声を上げた。
どことなく、呆れるを通り越して「こいつガキじゃねぇの」なニュアンスが聞き取れたのは気のせいであろうか・・・・
「ねぇ、みんなでやってみない?」
「・・・・・・・・・・・」
3人は顔を見合わせた。
「運動はあんまり得意じゃないんですが・・・・」
「都合よく雪が積もっているような場所があったか?」
「時間と体力の無駄だね。思考がにぶる」
まぁ当然といえば当然な、反対派意見。
だが、火がついてしまった少年を遮ることができるものが果たしてあったであろうか。
「大丈夫だよ、ユウリィ! 雪玉を投げあうだけなんだからさッ!
ラクウェル、雪が積もってる場所ならあるよ! 飛空機械ならアッという間さッ!
たまには何も考えないで体動かしてみるのもいいと思うよ、アルノー!」
かなりやる気だ。こうなったら、止められない。
「ジュードがそこまで言うのなら・・・・やってみます」
「・・・仕方あるまい・・・激しい運動でないのなら、付き合ってもよい」
「あっ、おい、なんだよ結局女たちはジュードの味方かよ・・・・・・・・・はいはい、わかったよ、付き合えばいいんだろ、ったくぅ・・・・」


 そんなこんなで、彼らは思い思いに防寒具を着込んで、雪山アルジェントネーベへとやってきた。
空にはオーロラがかかっており、所々にある戦争の残骸さえなければ絶景とも言える場所である。
「・・・・・で、合戦というからには戦い合わねばならぬのだろう?」とラクウェル。
「うん、丁度4人だし2人と2人で分かれてやろうよ」とジュード。
「そうですね」とユウリィ。
「へーい。ま、適当に頑張ろうぜラクウェル」とアルノー。
「・・・・うん? お前と私が組むのか?」
「え? そりゃそうだろ、俺とお前の仲だろー」
「待ったッ!」ストップをかけたのはジュード。「年上同士で組まれたら、僕らの方が絶対不利じゃんか」
「え? でも、じゃあ、ってことは・・・・・・」
しどろもどろになるアルノーに、ラクウェルが一言。
「お前と私は敵同士だな」
「!!! そ、そんなッ! ラクウェルに雪なんか投げられるわけねぇだろッ!」
「・・・・アルノー・・・」少し、表情をやわらかくしたラクウェルだったが。「・・・すまない。だが私は遠慮なしに容赦なく投げるからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
座り込んでいじけはじめたアルノーは放っておかれ、チーム分けの話し合いは続く。
「男と女とで組むのがバランスが取れているのではないか?」
「でも、それだと私がアルノーさんと組むことになるんですか?」
「そうなるね」
「ひ弱な魔術使い同士で組んで、ラクウェルさんとジュードに勝てるわけがないじゃないですか・・・・」
「そうかぁ・・・・ってことは・・・・・・男と女で分かれることになるのかな?」
「・・・・そうだな・・・・微妙に納得はいかんが、それが一番の良策であろう」
「わかりました、頑張りましょうラクウェルさん」
「ああ、やるからには勝つからな、覚悟をしておけジュード」
「へっへーん、こっちだって簡単に負けるもんか! アルノー!! 早く早く!」
いまだいじけているチームメイトの元に駆けていくジュード。
「・・・・・結局お前とかよ・・・・・ああー、遊びとはいえ女の子に雪など投げるのは・・・・」
「スポーツだってば! 大丈夫だよ、投げるのは僕がやるから」



 そして、冒頭にいたる。
雪で陣地に向かい合う形で壁を作る。陣地の奥に旗を立て、取られた方が負け。
「それじゃ、スタートだからねッ!!」
同時に、雪玉の応酬が始まる。互いに、投げつけているのは武闘派の二人。
スピードはジュードが、威力はラクウェルが勝っているようだ。
「・・・ラクウェル、マジで遠慮ねぇし・・・・うわっ!」
やや男子チームが不利なようだ。
「くっ、力じゃ負けるな・・・・このままじゃ押し負けちゃうよ、アルノー」
「・・・・・こういうときこそ、剃刀のような鋭い思考ってやつさ」
「何か方法があるのッ!?」
「力が無いなら、倍加させてやればいいさ・・・・・ハイパー」
攻撃倍加の魔術が陣地を包む。
「・・・・ラクウェルさん、見ましたか?」
一方、女子チーム。
「ああ・・・・相変わらず、小ずる賢いことが得意な男だな」
「でも、大事なことを忘れていますね・・・・・・私も、術を使えるって」
「・・・・・あっ」
「スピードで負けているなら、速度を増やすまで・・・・・・クイック」
反応上昇の魔術が陣地を包む。
「わっ、向こうも魔術使ってるよ! これじゃ同じじゃんかッ!」
「落ち着けジュード、こういった術の腕なら俺の方が勝ってるさ・・・・・・ディスペル!」
「あっ!」
補助効果の消失魔術。女子チームの補助効果が打ち消された。
「・・・・くっ、やるな・・・・・」
「これでは、魔術をかけても意味がありません・・・・」
「ふっ、ならば私が討って出よう」
おもむろにラクウェルが立ち上がる。手には大量の雪玉。
「・・・疾風怒涛に畳み掛けよう・・・・イントルード!」
『!!』
イントルード・・・集中力を高め複数の行動を一気に行うラクウェルの得意技・・・・・
数回分の雪玉を畳み掛けられる男子陣営。
「・・・・・・ってぇ・・・・・ま、マジで容赦ねぇ・・・・・・・」
「こうなりゃ、僕達もフォースアビリティで・・・・・・!」
「どこにジャンプしろっつのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっ」
「お前のミスティックも、どう応用するってんだ? ・・・・くそ、術は有利でもこいつは不利か・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ジュード?」
「・・・やるだけやってみるよ」
今度はジュードが立ち上がった。構えを取り、その手に光り輝く武器が現れる。
「何ッ! ARMだとッ!!」
「ジュードッ!!」
女性陣から非難の声があがる。だが、ジュードはお構いなし。
「お、おいっ、ジュード・・・・ッ! さすがにソイツは・・・・ッ!!」
「うおおおおおおっ!! ファントムライン! 雪玉仕様ッ!!」

ががががががッ!!

銃弾が発射されるはずの銃口から、雪玉が連射され飛び出したッ!
「きゃああっ!!」
「・・・・な・・・・!!?」
想像だにしなかった攻撃に、女性陣の体勢が崩れる。
「・・・・お、お前・・・どんなセンスの持ち主だよ・・・・」あきれ返るアルノー。
「やってみるもんだね、さぁっ、一気に行くぞ!」
続いて、再びARMを構えるジュード。放つは、全弾をブッ放す捨て身の技!
「ガトリングレイド!! 雪玉仕様ッ!!」
雪玉全弾が、女子チームに襲い掛かる!
「な、ジュードのやつ・・・・・!! よけきれるか・・・・・ッ!?」
「ラクウェルさん!! 動かないで下さい!」
「え?」
「・・・・・・リプレイス!!」



ARMを放ち終え、一息ついたジュード。と、そのとき、周囲の風景が一変した。
「え?」
「ここ、女の子の陣え・・・・」
何気に振り向いたアルノーの眼前に飛び込んできたのは。



「・・・・・ユウリィ・・・・・何というか・・・・お前は恐ろしいな」
「咄嗟の判断だったものですから・・・・・でも、仕方ないですよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、そういうことにしておくか・・・・」
男子陣営で旗を手にしたラクウェルは、元いた自分たちの陣地で起こっていた悲劇から目を逸らした。
リプレイス・・・・・かけた対象と自分たちとの場所を入れ替える魔術。
自分たちの放った玉を自分でくらってノビてしまった相手チームを見やり、ラクウェルは流石に同情を禁じえなかったという。



後日。

「雪合戦というのは結構面白いものだな。ストレスの発散になる」
「またやりませんか?」
『もう結構ですッ! 遠慮しますッ!!』

彼らの中の雪合戦という遊びの位置づけが多少変動したという。




End.





ふと思いついた話。夏に冬な話を書くのもまたオツなもんです。

世界の危機とか全く考えてないよこの人たち(笑)
(2005/7/3)