彼は仲間の中心にいる少年。
明るくて、前向きで、元気な年下の少年だ。
彼に何度励まされ、助けられてきたかわからない。
とても感謝してる。
大切な、大切な仲間・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・そう、仲間止まりなんですよね・・・・・・」

物陰からじっと、彼を見つめていた少女がポツリを呟いた。



Dealings





 港町、ポートロザリア。
戦争の爪あとが残るこのファルガイアで、港町特有の活気が多少ではあるが残っている、海の玄関口。
彼らはここで、一時の休息を取っていた。

「・・・・ユウリィ、話ってなんだ?」

海が一面に見渡せる小高い丘。そこに、少女はいた。
海を見つめたまま、じっと立っている少女。
「ユウリィ?」
「・・・・・・お願いがあるんです、アルノーさん」
ゆっくりと振り向く少女・・・・ユウリィ。
「お願い?」
「はい・・・・・・・・・その、アルノーさんなら気づいていますよね、私の・・・想い」
「・・・・・・ジュードのことかい」
「・・・なら話も早いです」
「取り持ってくれっての? でもあいつおこちゃまだし、そういうの分かってるかどうか・・・・」
「ええ。だから、そのようなことは言いません。ただ・・・・・・これを」
ユウリィは両手に乗るくらいの機械を差し出した。
「これ、カメラかい」
「はい。これで・・・・・・ちょっと写真を撮ってほしいんです。その・・・色んな」
「あー、はいはい、そういうことね。ま、男同士の方が色々やりやすいもんな」
「引き受けてくれますか?」
しかしアルノーはすぐに返事はしなかった。
「・・・・・・でもアイツ素早いしね・・・いつも動き回ってるし、難しいかもなー・・・・・」
「勿論タダでとは言いませんよ」
と、懐から一枚の紙を取り出す。
「これ、この前隠し撮ったラクウェルさんの寝間着姿・・・」
「その話のったッ!! 大船に乗ったつもりでドーンと任せてくれたまえッ!」
上機嫌でカメラと写真を受け取って鼻歌歌う青年を見て、少女は「単純だわ・・・」と一人ごちた。



「はーい、チーーーズ」

パシャッ

「・・・ねぇ、アルノー・・・・・」
「なんだ?」
「昨日からやけに写真ばっかり撮ってるけど・・・・・一体どうしたんだよ」

 その翌日。朝っぱらからカメラ同伴でジュードにつきまといシャッター切っている姿に、流石に不信感を表すジュード。
一方のアルノーはやけにニタニタしながら答える。
「いいじゃねぇかよ、旅の思い出ってやつだよ」
「それでも、僕ばっかり撮るのはどういうことなんだよ」
「それは・・・アレだ、ジュード強化月間というやつだ」
「何だよそれ」
「いちいち気にすんなよ! お前はありのままのお前でいてくれればいいのさ!」
駄目だ、話が通じない。ジュードは渋面して歩き出す。それに続くアルノー。

(さぁて・・・・ユウリィに頼まれたヤツ、どこまで撮れるかな・・・・・・結構厳しいモンばっかなんだけど)

昨日カメラと一緒に渡されたメモ。
こんなジュードの写真が欲しい、という彼女の煩悩の表れ・・・いやもとい、願望の一覧だ。


寝起きのジュードv
失敗してアチャー!なジュードv
ずぶぬれなジュードv
動物とたわむれるジュードv
セミヌードなジュードvv



「・・・・・・・・・・正直だな、彼女も」
メモをしまって、ジュードに目を向ける。
昨晩は同室で泊まったので、寝起きのジュードvはゲットした。
失敗や動物は付きまとえばどうにかなるかもしれない。だが・・・・・
(ずぶぬれなぁ・・・・・海に突き落としてみるか・・・? ついでにセミヌードとやらもゲットできれば・・・)
悶々と考えるアルノー。
でも考えても仕方ない、とジュードを見やる。だが。
「!! いない! どこ行ったんだッ!?」
考え事をしてる間に、アクセラレイターで逃げられたことなど彼は知る由も無い。
「・・・ックショウ・・・・まかれちまったか・・・・!」




「・・・・・・ああ、寝起きのジュードもなんてカワイイのかしら・・・・ありがとうアルノーさん」
「・・・・・いえ、別に」
 夜。宿屋のテラスで密談する青年と少女。
「あと4枚ですね」
「・・・・・・考えてみりゃ、1枚もらって5枚も返すのは計算あわなくね?」
「・・・・・・そう来ましたか」
予想の範疇だ、といった感じでユウリィは懐から一枚の紙を取り出す。
「当然といえば当然ですよね。だから、交換条件ということで、次が出来たらこれ差し上げます」
「・・・それは、何の写真なわけ?」
「風呂あがりでバスローブなラクウェルさん」
「俺頑張るからなッ!! 期待して待ってろよ、ユウリィッ!」
意気揚々と退出する青年を見て、少女は「正直な人だわ・・・」と一人ごちた。



 翌日。ジュードにまかれた経験を元に、アルノーはコッソリと後をつける作戦に切り替えた。
そうとも知らず、ジュードはロザリアの町をウロウロ。
と、つまずいて派手にコケた!
「・・・・・たぁ・・・・やっちゃった・・・・・」
鼻を押さえて起き上がるジュード。当人は勿論この時に、失敗してアチャー!なジュードvを撮られていることなど露知らず。
「よしよし、バスローブゲット・・・・次は何だろなー♪」
引き続き尾行を続行。
ジュードは街路で歩いていたラクウェルと遭遇する。
「あ、ラクウェル!」
「ジュードか」
ニッコリと微笑むラクウェル。なんだよ、ジュードにはあんな笑みを見せるのかラクウェル・・・・!?
物陰でアルノーが歯軋りしていることなど全く気づかず、二人は会話する。
「何してるの?」
「散歩をしていた。この町は海風が心地よいからな」
「そうだね」
「ジュードも散歩か?」
「うん、まぁね・・・そんなとこ」
「なら、少し一緒に歩くか?」
「うん!」
物陰でアルノーがより一層激しく歯軋りしていることなど全く気づかず、二人は歩きはじめる。
と、そんな二人に犬が一匹近寄ってきた。
「あ、おいでおいで」
「ほう、手馴れたものだなジュード」
「うん、動物は好きなんだ」
「そうか。・・・それならば、将来動物に関わる仕事をするのもいいかもしれないな」
「あはは、そういうのもありかもね」
他愛もない会話をする二人。当然、動物とたわむれるジュードvを撮られていることなど露知らず。
(都合よく犬が現れてくれたもんだな・・・・まぁいい、これで三枚目っと)



「これで三枚目ですね。じゃあ、これと・・・・これ」
「・・・・・・・! な、なんと・・・・ッ!」
 夜。宿屋のテラスで密談する青年と少女。
「あと2枚、よろしくお願いしますね、アルノーさん」
「おう、勿論だとも! ああ、眠そうなラクウェルもいいなぁ・・・・」
「難しいとは思いますけど、頑張ってくださいね、私のために」
「・・・しかし湯上りも捨てがたい・・・・うわッ、もうちょっと、もうちょっとで・・・・・ッ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞いちゃいないわ・・・・・ユウリィはため息をついた。




 翌日。明日にポートロザリアを発とうということになり、コッソリ写真を撮るチャンスは今日だけとなった。
しかし、ずぶぬれにセミヌード・・・・厳しいお題が残っている。
とはいえ、ユウリィのため・・・ではなくラクウェルの写真のためならば男アルノーやり遂げてみせる・・・ッ!
と、彼は今日もジュードのストーカー行為を実行していた。
しかし、こんなの偶然で撮れるような代物ではない。
(やっぱり海に突き落とすか・・・・・)
ジュードにバレないように、どうやって円満に突き落とすことができるであろうか。
ここは、気さくに話しかけてウッカリ突き落としてみるか。
都合よく、ジュードは港で船を見ていることだし。
「よぅ、ジュード。何してるんだ?」
「・・・・・・船を見てるんだけど・・・」
「そうかそうか、船かぁ、船はいいよなぁ!」
「・・・何なんだよ、一体・・・」
どうやら、まだ警戒しているようだ。
「船に乗ってみたいのか、ジュード?」
「うん、まぁね。アルノーは乗ったことあるの?」
「おう、勿論。こう見えても渡り鳥だ、色んなところに行ったからな」
「へぇ・・・・・・すごいな」
「お前も大きくなったら乗ってみるといいさ」
「おっきくならなくても乗れるだろー?」
「あっはっはっは、そりゃそうだ!」
と、バシバシとジュードの背中を叩くアルノー。
今だ!
「あっ!」
強く、背中を叩いた。ジュードの体が前につんのめった。
「うわっ!」
「ジュード!」


ばっしゃーーーんっ


やったっ! アルノーは思わずほくそえんだ。
「ジュード! すまん、強く叩きすぎた!」
手を差し伸べるアルノー。手をつかむジュード。
だが。
「のわぁっ!!」


どばしゃーーーんっ


「へへっ、お返し」
なんてことか、突き落としたジュードに引っ張り落とされた!
「っ、て、テメェーー!!」
「うわっ! なんだよ、おあいこだろっ!」
「ぬけぬけと・・・・っくしゅん!」
「アルノー、早く出ないと風邪ひくよ」
「お前が引き込んだんだろーがッ!」
「ジュード! アルノー! 何をやっているのだ!」
見ると、ラクウェルがこちらを覗き込んでいるではないか。
「早くあがってこい! 風邪を引くぞ!」



「・・・・・・で・・・・ジュードに海に引き込まれた結果・・・・・カメラが壊れた、と」
「すまんッ! ・・・・・本当にすまんッ! まさか、引っ張り込まれるとは思ってなかったもんで・・・・・っくしょい!」
 夜。すっかり風邪を引いてしまったらしい青年と少女の密談。
「仕方ないですね・・・・3枚手に入ったからよしとすべきなんでしょうし・・・・ありがとうございます、アルノーさん」
「や、いいってことよ。こっちもいいもん貰ったわけだし」
「これでカメラが壊れなければ言うことなかったんですけどね」
「・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
「いえ、いいんですよ。無理を言ってすみませんでした」



「・・・・っくしょい! あー、マジで風邪引いたかも・・・・早く寝よう」
 夜の宿屋の廊下を一人歩く青年。と、向かいから人影が。
「あ、ラクウェル!」
「・・・・アルノーか」
向かいから来たのはラクウェルだった。いつもの格好、いつもの表情。
「お前の部屋に向かおうと思っていたのだが、こんなところにいるとは」
「え!? 俺の!? やー、ラクウェルったら大胆だなぁ〜、でも今日は俺風邪気味だから〜・・・・」
「・・・・そういう意味ではない」
瞳を閉じて、ラクウェルは息を吐く。そして、アルノーを睨みつけた。
「お前・・・・港でわざとジュードを海に落としたように見えたが・・・・どういうつもりだ?」
「!!?(ば、バレてる!?) ・・・・・な、何の話だよー、つい力入れすぎただけなんだって・・・・・」
「この前もコッソリと見張っていなかったか?」
「・・・!! な、何の話だかわかんねぇなぁ・・・・・」
「そうか・・・・・・ジュードと話している時お前の視線を感じたのだが・・・・気のせいだったのか」
「え? 俺のトキメキ熱視線を感じてた!? やっぱり俺とラクウェルは離れられない運命なんだな・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・感じてた・・・・・か」
「おう! ・・・・・・・あれ?(俺もしかして、口すべらせた?)」
「やっぱり見ていたんじゃないか! 貴様、一体何のつもりだ!?」
「うわーーーっ!! 誤解だーーー!!」
ばさばさっ
逃げようと身を翻したアルノーの懐から、何かが落ちた。
「? なんだこれは・・・」
「あっ!!!」
それは、勿論ジュードの写真の報酬に貰ったラクウェルの(あられもない)写真だった。
やばい・・・
「・・・なんだ、これは?」
「や、その・・・・あの・・・・」
絶体絶命。
「ゆ、ユウリィに貰って・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ここ最近ユウリィの様子がおかしいとは思っていた」
それだけ呟いて、ラクウェルは写真を縦に破り裂いた。
「あっ、あー・・・・・・!」
「・・・・・・こんなものは必要ない」
何回も、何回も破る。最早原型もとどめないくらいに。
「・・・・ああー・・・・・そんなぁ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・今日のところはこれで勘弁しておいてやる」
本気で落ち込むアルノーを尻目に、ラクウェルは元来た廊下を歩き始めた。



(こんなものに頼らなくとも、見せてやる気構えはあるんだがな・・・)


悔しいので本人には言わないけど。





 結局。海に落とされてアルノーがすっかり風邪を引いたため、出立は延期になった。
その間、カメラを修理したユウリィがジュードを付回していたという目撃談が後を絶たなかったという・・・・




End.





阿呆話。私の中のユウリィとアルノーの間柄を書いたつもり。お互いの恋愛成就のために裏で手を組みそうな二人。

何気にアルラク。
(2005/6/11)