「わたし思うんですけど」
「ん?」
「ラクウェルさんって、もっとオシャレしたらきっとすっごく可愛いと思います」
「──ッ!!」
思わず、飲んでいた紅茶を噴いてしまった。
Persuasion
港町、ポートロザリア。神剣・・・ディバインウェポンを打倒してから早数日。
ジュードの村の者も待つフロンティアハリムに戻ろうということになっているのだが、
どうせなら思い出の町めぐりでもしようぜなどとアルノーが寄り道ばかりしているため、未だハリムに到着できないでいる時分。
とはいえ、この感じのよい港町で過ごすのも悪くはなく、潮風に吹かれながらユウリィとくつろいでいたのだが。
「ラクウェルさんって美人だし、背も高いし、大人っぽいし、もっと女の子らしい格好してみてもいいと思いますよ」
「──ッ、な、何をいきなりッ・・・・!!」
見れば、随分とウットリした表情で見つめているユウリィ。
「わ、私は・・・・・そういうのは苦手でな・・・」
「だったら、わたしが協力しますよ! せっかくなんですし、お店見て回りましょうよッ!」
「だ、だが・・・・」
「いいじゃないですか! 女の子同士でショッピングって楽しいですって! ホラホラ!」
「・・・み、見て回るだけだぞ」
こうなったユウリィは異様なほどに行動力がある。
仕方なしにユウリィに引き摺られ、ロザリアの商店街に向かった。
そして、こういう時に限って巡り合わせというか、タイミングが悪いものだ。
「あれ、ユウリィ、ラクウェル」
「嬉しそうだな、ユウリィ」
「あっ、ジュード、アルノーさん。はい、ちょっとショッピングを」
なんというか・・・・こんな時に一番出逢いたくない奴に出くわしてしまったか・・・・
案の定、あの男はこちらを珍しそうに見ながら、
「へぇ、ラクウェルも? 付き添って? そういうことする感じには見えないけどなぁ」
「・・・放っておけ」
「ラクウェルさんって、オシャレしたらすごくキレイになると思いませんか?」
──ハッ!
いかん、この発言は地雷に・・・・・
「思うッ! そりゃもう全力で思うぞッ! ユウリィッ!!」
ああ、やっぱり・・・なんだかやけに生き生きとした表情で声を上げるアルノー。
そして、この展開は彼女にとっても起爆剤になるわけで。
「ですよねッ!! だから、いっぱい可愛いお洋服とかアクセサリーとか見繕ってあげたいんです!」
「よぉーっし、いいぞユウリィ! 金に糸目はつけるな! 力の限りショッピングしよう!」
もうわけがわからぬ・・・・・いやそれ以前に、軽々しく無駄遣いを推奨するでない・・・・
「何の買い物すんの?」
ただひとり、この不気味な盛り上がりから一歩退いているジュード。
この場合、彼の存在はある意味救いかもしれない。
「女の子らしい、可愛いお洋服とか、グッズとか、靴とか、色々です」
「へぇ・・・」
「もう少し着飾れば、ラクウェルもちっとは女らしくなるかもな」
いらぬ世話だ。
一方、ジュードは不思議そうな顔をする。
「女らしい・・・」
「ああ、そうか、おこちゃまには『女らしい』ということがどういうことかわからんか、そうかそうか」
「かわいい服とか着たら女らしいってことなの?」
「・・・まぁ・・・その一環ではあるな」
「でも、今のまんまでもラクウェルは『女らしい』感じするけど」
ッ!!?
「じ、ジュードッ!?」
何故か血相を変えるアルノー。
「お前ッ! わかってないだろ絶対! 身の丈もある大剣振り回して『剣の錆びになるのは誰だ?』なんて暴れまわる様子は、決して女らしいとは言わんッ!!」
・・・・・今度、鉄断食らわせてやろうかあの男・・・・・
「行動基準はともかく、内面というか考え方は女性らしいとは思いますよ」
・・・・ユウリィ、それはフォローなのか・・・・?
「いや、ユウリィ・・・やっぱ見た目からじゃねぇのか?」
「ですよね」
「というわけだから、これを機会にラクウェルに是非女の子らしくなってもらいたいな。なぁ、ラクウェル!」
「・・・その同意を、私に求めるか・・・・?」
「行きましょう、ラクウェルさん! わたしがバッチリ見繕いますからッ!」
「さぁ行くぞラクウェル!」
ああもう・・・こういう時にこの二人はやけに気があうのだから・・・・・
引っ張られて向かうその後方から、ジュードもついてきていた。
「これなんかどうですか?」
「・・・少し短すぎる」
「ならこれは? ここのデザインが可愛くないですか?」
「こんなのがついていたら、動きづらくて邪魔だと思うが」
「・・・・・ラクウェルさん・・・」
ん?
「オシャレに、動きづらいとかそういうのあんまり意識しなくてもいいと思うんですけど・・・・・」
「だが、動きづらかったら戦と・・・・モガッ」
「ユウリィ! ラクウェルは戦闘第一なんだよ、何故かさ。まぁそこんとこはちょっと言いくるめてみるからさ」
い、いきなり後ろから現れるな、驚くだろうが・・・!
そのまま、少し離れたところに・・・引き摺られる。
「・・・ラクウェル。たまには、戦闘から離れてみろよ」
「・・・・・・・そうは言っても・・・・」
「気持ちはわかるけどさ。今日だけはそういうの忘れて、『マイトフェンサー』じゃない『ラクウェル』に立ち戻ってみろよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「例えば、絵筆を取ってる時は『マイトフェンサー』じゃないだろ?」
「・・・・・・・! そう・・だな・・・・・・」
絵を描いている時だけは、戦いの日々を忘れられる時間・・・・
「それに・・・俺としてもよ・・・やっぱ、普通の女の子っぽいカッコとかして欲しいって思うし・・・・」
・・・・・・ああ、そうか・・・・・
普段あまり見せない、照れた様子の彼を見ていて・・・・・
こんな私でも、『女性』として、見てくれているんだと改めて思った。
「・・・努力はしてみる」
「マジで!? なら戻ろうぜ、ユウリィ待ちくたびれてる」
「ああ」
手を引かれ、ユウリィのところへと戻る。
楽しそうにあれこれ選ぶユウリィと、横から色々口を挟むアルノーと、わからなさそうにしているものの興味深げに眺めるジュードと。
こんな雰囲気も悪くはないと、そう感じた。
きっと、今しか出来ないことだから。
「ちょっと買いすぎではないか?」
「いいんですよ、たまには」
ユウリィが気に入ったものを色々と買い込んだ結果、男二人にすっかり荷物持ちをさせてしまうくらいの量になった。
だが、アルノーは妙にニヤけ顔であるし、ジュードもどこか嬉しそうだ。
「・・・また、買い物しましょうね」
「・・・・・・・・・ああ・・・」
無邪気な笑顔を向けるユウリィに、曖昧に答える。
これから、ハリムに戻る。ジュードやユウリィはハリムに滞在するのだろう。
私は・・・・
──この戦いがひと段落ついたら、そいつを探しにいこう! ファルガイアは広いんだ、どっかに治療法はあるはずさ──
アルノーの言葉が頭をよぎる。
そう・・・・おそらく、ずっとみんな一緒にはいられないから。
別れの時が、近づいている。
to be continued...
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