彼らには退けない理由がある。
そして、彼女らにも退けない理由がある。
お互いの意地のために、彼らはぶつかりあい、そして決した。
Peevish
イルズベイル監獄島。
重度の罪人たちを隔離し、閉じ込めている監獄。
侵入されず、脱出もできない強固な防御を誇る孤島の留置場に彼らは来ていた。
悲しみを乗り越えて。
「少し休憩しないか」
進入してから、ただの一度も立ち止まらずに駆け抜けてきた少年達。
ブリューナクの副長ファルメルに立ちふさがれはしたものの、寸手のところで決し、乗り越えて来ていた。
そんな彼らでも、1回立ち止まった時一気に疲れが押し寄せてきた。
「・・・・そういえば、ここに来てからちっとも休憩してないね」
「休みますか?」
「うん、なんだかおなかも空いてきちゃった」
「なら、何か作りますね」
おこちゃま達が気楽に語り合う、そんな最中、ラクウェルはやや険しい表情をしていた。
「疲れたろ」
そんな彼女を気遣って、声をかけるアルノー。
「・・・・・・そうでもない・・・と言いたいところだが」
「ま、無理はすんなよ」
「ああ、済まぬ」
暴走体が来れないような隅の隠れた場所を陣取って、一行は休憩を取った。
料理に夢中になるユウリィ、隅に座って目を閉じ精神統一するラクウェル。
男の子たちは・・・・・
「しっかし・・・・・さっきのお姉さん。強かったな」
「ああ・・・でも、戦わなきゃいけない理由なんか無かったはずなのに・・・・なんかもやもやする」
「まぁ、な・・・・・・。男としちゃ、あれだけ美人でこう・・・色々すごいお姉さんと戦うのは抵抗があるよな」
「女の人と戦うのはいやだけど・・・・・・そんなもんなのかな?」
「おこちゃまにはまだわからねぇかもな。いやー、スタイルも良かったし、あの露出具合もなんとも・・・・」
ざんっ
すぐ間近で何かが突き立つ音がした。
見ると、アルノーのすぐ足元に突き立てられている剣。そしてすぐそばに仁王立ちしている、ラクウェルの姿・・・・・
下から見上げる彼女の迫力は、いつも以上の何かが感じられた。
「・・・・ら、ラクウェル・・・?」
「手がすべった」
「・・・ッ!? って、さっきまで向こうに居たじゃ・・・・!」
彼女は剣のつかに手をかけ、少し向こうに押し倒した。それにつれ、切っ先が青年の肩口に近づく。
「私がどこにいようと、私の勝手であろう」
「・・・・・ら、ラクウェルさん・・・・もしかして、怒ってる・・・?」
「別に。怒ってなどおらぬ。今更、腹も立たぬわ」
「な、何の話・・・・」
「所詮、男というものは女をそういう目で見るという習慣があるのだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それだけ呟いて剣を引き抜くと、きびすを返して歩き始めるラクウェル。
一方・・・・・
(・・・さ、さっきの会話聞かれ・・・・・・)
これはやばい。あわてて取り繕おうと、立ち上がるアルノー。
「どうしたの、アルノー?」
だがおこちゃまジュードは何が何やら。
「・・ジュード、将来のためにお前にも言っておくが、意中の女性の前で他の女性の話は禁句だからな・・・・・ッ!」
「え?」
返事もせずに、ラクウェルを追いかけるアルノー。
やはりジュードにはよくわからなかったみたいだった。
ただ、片隅でコッソリ話を聞いていたユウリィは少しだけ顔を赤くしていた。
「ラクウェル!」
休憩場所からやや離れた場所まで彼女はやって来ていた。
呼ばれて振り向いた彼女の形相は・・・凄まじいものが。
「・・・・・ッ! あ、あのさ・・・・」
「何の用だ」
「いや、あの・・・・なんか誤解してるみたいだし、ちょっとそいつを解きに・・・」
「別に誤解などしておらぬ。真理というものだろう」
「気を悪くしたんなら、謝る・・・・だから、話を聞いてくれよ」
「・・・・・・・・・・・」
否定しないという肯定。アルノーは慎重に言葉を選ぶ。
「俺はさ、いつも、何かと注意深く周りを見ながら生きているつもりだ」
「・・・・・・・・・・・」
「本当に重要な情報を、落としてはならないヒントを見逃さないようにな・・・・そうやって、今まで渡ってきた」
「・・・・・・・・・・・」
「そういう情報を掴むためにはな、それの何倍もの事柄に注意を向けなければならないんだ・・・・・わかるか?」
黙って話を聞いていたラクウェルは、ポツリと呟いた。
「つまりあの女性の体型や服装がお前にとって重要な情報だったということか」
「違うって!! だから・・・!!」
「お前の理由付けは、論理的に行おうとして逆に言い訳くさくなる傾向があるようだな」
「ぐあ・・・ッ! き、きつい・・・」
自分を見る目線がますますきつくなってくる。アルノーはなんだか泣きたくなった。
「別によいのだ。お前が誰に目を向けようがな」
「・・・って、ラクウェル・・そりゃない・・・・」
「・・・・・・・・お前としても」
彼女はうつむいた。やや、赤くなって。
「こんな可愛げもないような無骨な女よりは、色気の一つでもある女の方がよいのではないか・・・?」
「え?」
「なんでもないッ」
バッと顔をそむけるラクウェル。
その顔は赤かった。
・・・ああ、そうか。
怒りは、悔しさの表れだった。
「悪かった、ラクウェル・・・・お前がいるのに、俺は・・・」
「・・・な、何の話だ・・・・」
ヤキモチだ。そう気づいた瞬間、彼は目の前の彼女が改めて可愛く思えた。
「大丈夫だよ、他の女の子に目移りなんかしないからさー」
「な、そ、そのような・・・・・ッ!」もう彼女は真っ赤だ。
「ラクウェルにはラクウェルの可愛さがあるんだから、もっと自信持ってもいいと思うぜ」
「・・・・ッ、だ、だが・・ッ、わ、私は・・・・その・・・・・・あの女性ほど・・・・・・その・・・胸も無いし・・・・・スタイルも・・・・・・・」
うつむいて、真っ赤になって、搾り出すように呟かれる言葉。
か、カワイイ・・・・・・ッ!
一瞬理性が飛びかけたが、必死に抑えて彼女を抱きしめた。
そして。
「ラクウェル・・・・ッ! そんなこと気にすることじゃない! 例え貧乳だろうがズン胴だろうが、俺はお前が一番だからな・・・ッ!!」
「・・・なんだと?」
急激に低くなった声のトーンに、瞬間アルノーは固まった。
飛びかけた理性のおかげで、何か、今、とんでもないことを口走ってしまったような・・・・・・
「・・・・・・・・あ、いや、その・・・・・・・」
「・・・・・・言うに事欠いて・・・・・何と言った、貴様・・・・・・・」
ラクウェルの呼び方が「お前」から「貴様」に変わったら、それは果てしない怒りの絶頂の証。
「そこまで言うということは、見たことでもあるというのか、貴様・・・・・ッ!?」
「無い無い無い、有りませんッ! 見たいけど有りませんッ!! ただ、言葉のアヤってやつで・・・・・・!!」
「・・・踊れ、凶桜」
「・・・・・二人とも遅いね、ユウリィ。食事冷めちゃうよ。何してるのかなぁ・・・・・」
「・・・そうですね・・・」
なんとなく、二人が今何をしているかを察しているユウリィは、あいまいに答えた。
わざわざジュードに説明することではない。
「探しに行ってこようか」
「・・・ッ! あ、いえ、お二人なら大丈夫ですよ・・・・・ッ!」
「? 大丈夫って・・・」
「あ、え、いえ・・・・・・もう少し待ちましょう。きっとすぐ戻ってきますよ」
「そう?」
わざわざ邪魔しにいくこともないし、邪魔されたくもない。彼女の胸中はちょっとだけ複雑。
こうして二人でゆっくり時間を過ごすもの、悪くないから。
そんなゆったりした時間が、激しい剣戟の轟音と共にかき消されるのはもう間もなくのことである。
to be continued...
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