どこまでも続く、白い砂浜。照りつける太陽。果てまで広がる青い海。
恋人同士な二人がたわむれるにはうってつけのデートスポット。


そんな砂浜にたたずむ二つの人影。

「・・・・・・・・・こんな場所まで呼び出して・・・・・何なんだよ一体・・・・?」

ワケがわからない、といった風で頭をかく少年。



ここは、ブルーアミティビーチ・・・・・モンスターと商人が徘徊する危険スポットである。




Chastener






「お前を呼んだのは、他でもない」
 呼び出した張本人らしき青年は背を向けたまま呟いた。
彼らはついさっきまでポートロザリアにいた渡り鳥たちだ。他にも連れがいるのだが、今ここには二人しか来ていなかった。
青年はゆっくりと振り向く。
「さっきの戦い・・・・・・俺は納得がいかん」
「・・・・・というと?」
青年はビシッと少年を指差した。
「お前の戦い方がだッ!」


 時間は数時間ほど遡る。
ポートロザリアの潮風亭にて一泊した彼ら。だが翌日・・・つまり今日、ブリューナクのコマンダーが町を襲ってきた。
彼らはそいつを撃退したわけだが・・・・・・


「戦い方ってどういう意味だよ」
「・・・・あいつを1回ひるませた時に、あいつが使ってきた・・・・なんだ、あのクモみてぇなやつ」
「・・・・・・ああ、あの妙なARMのこと・・・」
「いくら油断してたからって、お前アッサリ捕まりすぎじゃねぇのか? アクセラレイターなんつーモン持ってるお前がだよ?」
「な、そ、それは・・・・・でもアルノーだってしっかり捕まってたじゃないか・・・」
「俺はいいんだよ! 特別な能力とか持ってない一般人なんだからよ!」
「なんだよそれー・・・・・」
「しかも・・・・・・クルースニクが来ていなかったら、今頃俺達は・・・・情けないとは思わないか!?」
「・・・・・・・ああ・・・・・・それは確かに思うよ」
「そこで、だ。特訓をする」
「え?」
「こんな戦い方じゃあ、イルズベイルに乗り込めてもあっさりやられてジエンドだ。それじゃ意味がない。特訓が必要だと思う。
特にアクセラレイターを持つお前がもっと能力を活かすことが出来るようになれば、戦力は格段にアップするッ! そうじゃねぇか?」
「・・・・・・・・・言いたいことはわかるけどさー・・・・・・・」
「やるのか? やらねぇのか?」
「・・・・わかったよ、やってみるよ。何するのか知らないけど・・・」

 青年は満足げに頷いた。


計画は成功だ・・・・・・・





実のところ、彼が立て並べた理屈は半分でっちあげたようなものだった。
彼の真意は違うところにあった。

時間をさらに遡ること一日。
彼は仲間の少女と宿を取り、少年たちのために料理をこしらえて待っていた。
だが、こともあろうか少年は「食欲がなくって・・・」などとぬかして料理をボイコットした(ように彼には見えた)ッ!
せっかく作った料理を食べてもらえなかった、彼女の寂しげな表情を彼は忘れることが出来なかった。
大切な存在である彼女であるが故に。



まぁ特訓にかこつけてちょいとこのガキに仕置きしてやろう、などと大人げないことを企むアルノー・G・ヴァスケス(18)であった。




「お前の弱点は、ズバリ、魔法だ」
「・・・・・・・・」
「魔法喰らって、まっさきに倒れるのはいっつもお前だ。そうだろ?」
少年・・・ジュードはややぶすったれた表情を浮かべた。
「ラクウェルだってそうじゃないか・・・」
「彼女は俺が守るからいいんだよ」
「何だよそれ・・・」
「わかっちゃいねぇな・・・・・男たるもの、女の一人や二人守り抜くのが道ってもんだろうが。
でもお前じゃダメダメだね。守るどころか、アニキにお株奪われているようじゃな・・・・」
「ッ!!」
思い当たるふしがあり、ジュードは押し黙る。
そう・・・・ついさっき。ピンチを、よりにもよってユウリィの兄クルースニクに助けられた。
ユウリィを守るって、約束したのに。
「わかったよ・・・・・・で、どういう特訓すんの?」
「簡単さ、魔法をかわす特訓をする」
「・・・・・・・・・・・・・」
「強くなるには、弱点を克服するのが近道さ」
「・・・・わかったよ」
ジュードはストレッチを始める。
「あ、そうそう・・・・反撃はアリ?」
「反撃する気かよ・・・・ARM使わないなら構わないぜ。ARMなんぞ使われたら、俺がヤバイもんな」
「そう、わかった」
ストレッチが完了し、ジュードは自分に気合を入れる。
「よし! いつでも来い!」
「ハイ・ブラストッ!!」

ゴォォォォンッ

「うわわっ!! 急すぎるって!!」
「何言ってる、敵は待っちゃくれないぜ!」
次から次へと繰り出される攻撃魔法を、かろうじてかわしていくジュード。
「お次は・・・・・スロウダウン!」
ジュードの周囲の時の流れが緩慢になる。補助魔法だけはかわしきれない魔法だ。
「よけきれるか? ハイ・ブラストッ・・・!
「なんのッ! アクセラレイター!!」
アクセラレイターはジュードの動きを思いっきり速くする異能力。
時間にしてものの5秒くらいだが、周囲にとってはほんの一瞬の出来事のように感じられるだろう。
「・・・ッ! どこ行ったッ・・・!」
ジュードの姿を見失い、辺りを見回すアルノー。後ろにいることに気づき、体勢を整える。
「反撃してもいいって言ってたよね」
「・・・ああ。ARM以外ならな」
ジュードは意地悪な笑みを浮かべた。
「これ、なーんだ」
手の平くらいの黒いものを取り出すジュード。アルノーはそれに見覚えがあった。
「・・・・ま、まさか!」あわてて懐を探る。「テメッ・・・! そりゃ俺のサイフ・・・・!!」
「うわー、小銭ばっかりだ」
「しかも見てんじゃねぇッ!! 返せッ!」
つかみかかるが、また一瞬のうちに後方にまわられる。
「・・・・あれ? なんでラクウェルの写真が入ってん・・・・」
「わーーーー!!! 馬鹿! 見るんじゃねぇーーーッ!!」
「あ、わかった! 強くなるおまじない?」
「アホガキーーーーーッ!!」
最早魔法のことなど忘れ去ったアルノー・G・ヴァスケス(18)、己のサイフを取り戻すべくジュードに挑みかかる。
こちらが一瞬早かったか、どうにかジュードを捕まえた。
「・・・・そういうメンタルな反撃に出るかよ? そんなに陰険なやつだとは思わなかったぞ・・・・」
「なんだよ、ARM以外の反撃ならいいって言ってただろッ!?」
「だからって人のサイフ盗むたぁいい度胸じゃねぇか・・・・ロクな大人になれねぇぞ・・・」
「子供相手に本気で魔法ぶちかます自称大人よりマシだいッ!」
「言いやがるなおこちゃまが・・・・ッ!」
「やるってんならさぁ!」
バッと離れ、身構える二人。もはやその雰囲気は特訓などという生易しいものではなかった。
みなぎる殺意。



「何をしている! やめないか!」

 その度を越えたケンカは突如響いた声により中断された。


見ると、仲間の少女二人・・・ラクウェルとユウリィがこちらに向かって来ていた。
「お前たち、こんなところまで来てケンカしているのか!」
「急に二人ともいなくなるから、心配しました・・・・」
「アルノーにいきなり呼び出されてさぁ」
「鍛えてやろうと思っただけだよ」
男子二名、互いに一瞬にらみ合ってすぐにそっぽを向いた。
「・・・・・・さっきの戦いのせいか。油断が慢心を招いた結果だったが・・・・」
「でも、ケンカはよくないです」
「そうだな、仲違いしていては鍛えるも何もないだろう」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
女子に説得され、二人はしぶしぶケンカをやめた。
「明日には閉鎖空港に向かうのだ、明日のためにも今日はゆっくり休んだほうがいいと思うぞ」とラクウェル。
「うん、そうだね」
「今日は私が何か作りますよ」とユウリィ。
「ホント? やったー!」
他愛のない会話を、アルノーは後方でじっと聞いていた。
本当にジュードは裏表がない。態度をキッパリ表わしすぎる。
ユウリィの申し出をアッサリ承諾して喜ぶジュードだが・・・・昨日とはあまりにも態度が違いすぎる。彼はそこが気になっていた。
あれでは、ラクウェルが・・・・・
「どうした?」
気づいたら、隣にラクウェルがいた。
「・・・・いいや」
「厳しい顔をしていた」
「・・・・・・・・・・・・・」
彼女は・・・・特に何も感じないのだろうか。わざわざ切り出すことでもないが。
「ラクウェル」
「ん?」
「例え、誰かがお前の(料理)を避けたとしても、俺だけはそんなことしないからな」
「・・・・・・・・・・・・ッ!?」途端に赤くなるラクウェル。「な、何をいきなり・・・・言い出すのだ・・・」
「だから自信もてよ。見返してやればいい。お前の(料理)が一番だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
なんてこと。さりげなしに、ものすごいことを言われた。もう真っ赤なんて問題ではない。
これは、どういうことだ? もう色んな経緯をカッ飛ばしているのか? ももももしかして、これは、アレか・・・・!?
だけど。
「大体ジュードのやつがいけないんだ・・・・・わかりやすすぎんだよ・・・・・もうちょっと気を使うことができないもんかな・・・・」
ジュード?
「・・・・・・・・・・・な、何の話・・・・だ?」
「あ? 何って、料理の話だけど・・・・・・・」
「・・・・・・・料・・・理?」
呆気に取られる。そして・・・・・脱力した。
なんだ・・・・・何を変なふうにとらえていたのか私は。
でも・・・・それでも嬉しいことには違いなかった。
「・・・・・・・ありがとう」
「え? ・・・・あ、いや・・・・・・」
今度はアルノーが赤面する番だった。

「本当だってばー! ねーアルノー!」
だが、おこちゃまの声が空気を破った。
「強くなるおまじないだよねー、ラクウェルの写真持ってるの!」

『ッ!!!?』

ラクウェルはアルノーを見上げた。アルノーはジュードを睨んだ。ジュードは無邪気にこちらを見ていた。ユウリィは何か期待するような眼差しを向けていた。
わなわなと震える青年。
「・・・・・・んっとに・・・・・・気のきかねぇおこちゃまだな、テメェはッ!!!」
「うわっ!! なんだよー、そんなに怒ることないだろー!」
「るせーッ!」
激しい追いかけっこが始まる。猛ダッシュで駆けて行ってしまった男子たちを見送る女子たち。
「・・・・・・あいつらは・・・仲が悪いのか?」
呆然と、ラクウェルは呟いた。
「ケンカするほど仲がいいっていいますよね」
ユウリィが答えた。

白い砂浜は、少しずつオレンジへと染まっていった。





to be continued...





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