潮風吹く、ポートロザリア。
彼らは、彼らが出会い集ったこの町に再び戻ってきた。






Dejectedly





 イルズベイル監獄島に向かうには、海を越える手段が必要。
船を手に入れるべく、ジュードたちは港町ポートロザリアにやってきた。

「じゃあ僕達は船を探してくるよ」
ジュードとユウリィは船を探すべく港へと。
「では私達は宿の手配をしておこう」
アルノーとラクウェルは宿泊先を確保すべく潮風亭へと。
だが。
「・・・・・・あの、やっぱり『あの』潮風亭・・・・?」おずおずと尋ねるジュード。
「そこしかなかろう」あっさりと答えるラクウェル。
「・・・・・・・・・・はい」
「? どうしたのだ、ジュードは」
「さぁ?」
さらにガックリとうなだれつつ港へ向かうジュード達。
それを見送るラクウェル。
「・・・そんなにあそこが嫌なのか? ・・・・・・私達が出会った場所だというのに・・・」
「・・・・・・ああ、そうだな・・・」
もう随分と前の話のような気もする。
ガラの悪い兵隊くずれに絡まれた店のお姉さんを助けた・・・・
正確には助けたのはラクウェルで、後3名は事の成り行きを見守っていただけだったが。
「そういやぁ・・・・・・あいつら、潮風亭で出された料理が口に合わないって言ってたっけ」
「そうなのか?」
「ああ、ロクに食わずに残してた」
「・・・・・・ふむ・・・成程。巷の評判もなまじ嘘ではないということか」
「? 評判?」
「とはいえ、泊まれる所などあそこしかあるまい。二人には我慢してもらわねばな」
それだけ呟いて、ラクウェルは潮風亭に向かって歩を進める。アルノーも後からついてきた。
「なんだぁ、あそこって評判悪いのか?」
「食事処ではあるが、味の方はいまいちであるらしい」
「・・・・そうだったのか・・・・でも、結構うまかったけどなぁ。おかわりまでさせてもらったし」
「・・・・・・・・・・・・好みという問題もあるのだろう」
「そうかぁ・・・・・・でもそれじゃ、あいつらにはキツいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
話し込んでいるうちに、潮風亭に到着する。
お姉さんはこちらを覚えていたようで、お礼にと無料で宿泊させてもらえる運びとなった。
それとさらにラクウェルはお姉さんと何か話し込んでいるようだった。
話し終わって、戻ってくる。
「こちらの料理が口に合わないというのなら、料理だけは私達でどうにかすればよいではないか?」
「お、そうだな・・・その方があいつらも・・・」
「ジュード達はまだ戻って来ないのだろう、戻ってくるまで私が何か作っておこう」
「おっ、ラクウェルの手料理かぁ、いいねぇ」
少し微笑んで、ラクウェルは早速支度に取り掛かり始めた。
・・・むしろ、こちらの方がジュード達にとって地獄であろうとは、彼らはまるで気づいていなかったが。


 厨房を借り切って、料理の支度をするラクウェル。
音だけが静かに響く。その後姿をアルノーはじっと見つめていた。
「ジュード達は」沈黙を破ったのはラクウェルだった。「まだ帰らないのか」
「そういや、遅ぇな・・・・・・よっぽど港が遠いんだろうよ」
「そろそろ出来上がるのだが・・・・早く帰ってもらわないと、料理が冷めてしまう」
「お、出来上がりか? ちょっと試食・・・」
「こら」
「固いこと言うなよー」
どこからかスプーンなど持ち出して、鍋の中身をすくう。そして、
「おお! うまい!」
「そ、そうか・・・?」ラクウェルは少し顔を赤くした。
「うん、最高。いいお嫁さんになれるぜー」
「ッ!!!」
紅潮は『少し』から『一気』に変わった。
「で、でも、だが、私は・・・・・・・」赤くなってしどろもどろになりつつも・・・ラクウェルは表情を暗くする。「・・・・・おそらく、そうはなれぬ・・・」
誰にも聞こえないくらい、小さな声で呟いた。すぐ隣にいたアルノーにも聞こえないほどに。
ソレマデ、イキテハイラレヌ───・・・・
「ん? どうした?」
「・・・・・・いや、なんでもない」
おそらくは、何気なしに口をついて出た科白だったのだろう。だが、彼女にとっては・・・・・
なんとも、残酷な科白だったのかもしれない。



「・・・・なんで、こんな事に・・・・・」
 潮風亭に戻って来たジュードが真っ先にもらした言葉はこれだった。
よりにもよって、ラクウェルの料理がお出迎えしてくれたのだから。
「遅かったな、ジュード、ユウリィ」
「・・・・・・兄さんがいたんです」
「あいつが? この町にか?」
「はい・・・・・・・」
ユウリィの表情は暗かった。原因は兄のことだけではなかったかもしれないが。
ユウリィは兄・・・クルースニクのことを語った。失意の渦中にいる青年の姿を。
「私・・・・兄さんが心配で・・・・このままだと・・・・・・」
「・・・・・・ユウリィ」
「だから・・・」ユウリィは伏目がちに呟いた。「一人で考えたくて・・・・せっかく作ってくださったんですけど・・・」
ジュードが思わずユウリィを見た。
「そうか・・・・仕方がないな」とラクウェル。
「ごめんなさい」
ユウリィは一人、客室の方へと向かう。
ジュードは思った。

逃げた・・・・・・と。

「料理が余ってしまうな・・・」
「・・・だったらよ、あいつに差し入れでもしてやるかぁ? なんて」笑って言うアルノー。
『それだけはッ!!』
ジュードと、退出したはずのユウリィが同時に突っ込んだ。



「・・・で、結局俺にまわってくるわけね。そんなに太らせたいのかねぇ」
 ユウリィが退出し、ジュードは「ちょっと食欲が・・・」などと言って逃げ・・・・立ち去って。
食堂にはアルノーとラクウェルだけだった。
「多かったら残してもよいのだぞ。三人分もあるのだから・・・・」
「いいや、せっかくラクウェルが作ってくれたんだもんな、残すなんて」
「・・・・・・・・・・・・無理はするな」
「ああ。しかし、ユウリィはともかくジュードのやつは・・・・・」
「・・・・・・仕方あるまい」
食器を片付けながら、ラクウェルはため息をついた。
なんだかんだで、結局料理を食べてもらえなかったことが寂しいようだった。
そんな彼女の様子を見ながら。
「・・・・元気出せよ」
彼女はゆっくりと振り向いた。
「・・・・元気がないように見えるか?」
「ああ、見える。気持ちはわかるがな・・・・」
「・・・・・・・・・・・・大丈夫だ・・・・」
ゆっくりと、空いた食器を取りまとめる。
「ゆっくり食べるといい・・・宿の者には遅くなると言ってあるからな・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
食器を洗うため、厨房へと消えるラクウェル。やはり、じっと見つめるアルノー。
「・・・無理してんのはどっちだよ・・・」



支えてやりたいと告げて、数日。
まだ、彼女の全てを支えるには何もかも遠い。






to be continued...






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