そうか、わかったよ…
ひとのぬくもりは、誰かをあたためるためにあるものなんだな…
だいじょうぶだ、お前が傍にいてくれるから、私はもう震えない───…





Superfluity





 村の外れ、木々が立ち並ぶ小さな林。
小さく息切れしたまま、女性は木に寄りかかっていた。

「・・・・・・そういう、こと・・・・・・なんだろうか・・・」

そして一人ごちた。



 昨日のこと。
自らを蝕む戦争の爪あとを癒す術を、この村を救う仙草に求めてしまった。
激しく後悔した。
だが、その感情を包んで抱きしめてくれた存在がいた・・・・・



「・・・・・・探しに行こう・・・・か・・・・。だが・・・」
 女性は暗い表情を作る。
明日にも果てるやもしれないこの命に、そこまでしてもらう価値があるかどうか・・・・彼女には判断できかねていた。
それはつまり、彼の人生そのものを犠牲にしてしまう事かもしれないのだから。
「・・・・今考えるのはやめよう・・・・そうだ、今は、神剣を止めることを考えねば・・・・・・」
そう、探しに行く以前にこの戦いを終わらせなければならないのだから。
女性は、息を大きく吐いて整え、いつもの表情で再び歩き出した。


 彼女の仲間たちはまだ工房にいた。
唯一の出入り口から薄暗い中に入ると、3人ともすぐの作業場に揃っていた。
「あ、ラクウェル」
「お帰りなさい」
「・・・・あ、ああ・・・・」
生返事を返す。さっき飛び出したばかり故にまだ多少いづらい。
何より・・・・・・
「立ちっぱなしもなんだし、座ってろよ」
いつもの飄々とした表情で語りかけてくる青年。
まるで、昨日のこともさっきのことも無かったかのように。
言われるがままに近くにあった椅子に腰掛けるラクウェル。
「・・・今、何をしていたのだ?」
「うん、回復アイテムの補充。やっぱり、これから先はポーションベリーじゃきついしさぁ」
「ポーションベリーよりもミラクルベリーよりも、もっと強力な果実があるらしいんですよ。それがあれば心強いと思いませんか?」
「ああ、そうだな」
やはり生返事だった。仲間たちはそれには気づかない。
心、ここにあらずだ。

どうしたらいい。心が静かに乱される。
一緒にいてくれると・・・そう言ってくれた。だけど・・・・・

「・・・・・ウェル、・・ラクウェルってば!」
ハッと我に返るラクウェル。ぼーっとしていたらしい。
「お話聞いてなかったみたいですね・・・・なら最初からお話します」
「あ、ああ、すまないユウリィ・・・・」
「新しく調合してみた新薬の実験台は誰が適役だと思いますか?」

・・・・・え?

「僕はやだよー、だって僕健康だもん」
「効果がわかる人でないといけませんよね、やはり」
「・・・で、なんで俺を見るのかなお二人さん」
「アルノーさんなら何飲んでも平気かしらー・・・と思っただけですよ」
「何飲んでも平気ってんなら、実験台にならねぇだろー?」
「・・・・・・・あ、それもそうですね・・・・・・ふぅ」
「ユウリィ・・・なんでそんなに残念そうなんだ・・・・・?」
わいわい話し合う仲間たちの声を、呆然と聞き続ける女性。
私は・・・とんでもないタイミングで戻ってきてしまったらしい・・・・・・
「し、新薬とは、どんなやつなのだ?」
「あ、これです」
それは、見たこともない色合いのベリーだった。ヒールでもポーションでもましてやミラクルでもないベリー。
「貴重なミラクルベリーを費やして作ったんですよ」
「でも貴重なのなら実験台にするのは勿体無くはないか・・・?」
「それでも、未知のものをいきなり実践に投入するわけにはいかないじゃないですか」
それはそうだが・・・・
と、アルノーがこちらに近づいてきた。
「何なら食べてみるか?」
「・・・・・! わ、私を実験台にするということか」
「大丈夫だって、ちゃんと書いてある通りに、この俺がやってみたんだ。間違いねぇって・・・・きっと」
「『きっと』は余計だ・・・・・!」
ベリーを受け取り、しばし見つめる。見たこともない色のベリー。
流石の彼女といえど、食すのはためらわれた。
「・・・・・・俺はそんなに信用ないか?」
「・・・・・・・・・・・・!!!」
思わず、バッと顔を上げた。真剣な表情がそこにある。
その時まるで昨日のことを言われているような錯覚に陥った。
いや、それも含んでいたのかもしれない・・・・・
「・・・いや、そういうわけじゃあ・・・・」
と、不意にアルノーの顔が近づいた。
「・・・ッ!?」
「・・・もしかしたら、体に効くかもしれないだろ?」
耳元で囁かれた。
・・・ああ、そうか・・・・・・いつも、考えてくれているんだ・・・・・・・
・・・・・・信じたい。
「・・・仕方ないな、そこまで言うなら実験台になってやってもよい」
「なんだよ、引っかかる言い方」多少ばつの悪そうな表情を浮かべるアルノーだったが、すぐにいつもの表情に戻る。「よーく味わって食してくださいませ、1個2万ギャラの高級食材ですので・・・・」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
思わず聞き返していた。
「2万? 2万と言ったか!?」
「あ、ああ・・・・・・」
「なんでそんなに費用がかかるのだ!?」
立ち上がって詰め寄るラクウェル。
「いや・・・だってよ、ほら、色々かかんだよ・・・・材料費とか、光熱費とか、人件費とか」
「誰に払う人件費だッ! 2万だぞ! わかっているのか!?
2万もあったら、スレイハイムソードが2本買えて釣りが来る値段だぞ!?」
「や、やけにお詳しいことで・・・・つーか、剣を2本も買うこたぁねぇだろよ・・・」後ずさるアルノー。
「そういう問題ではない! こら、ジュード! ユウリィ! お前たちもそんな大金かけて研究などやっているのではあるまいな!?」
いきなり矛先を向けられて、揃ってビクつくお子様たち。
「・・・・・・で、でも、これから先の戦いには・・・・」
「とりあえず、落ち着いてくださいラクウェルさん・・・・・!」
「全く・・・・・・・そこまでして行う程のものなのか? 金の無駄遣いではないのか?」
「まーまーまーまー・・・・落ち着けって」とアルノーが割って入る。
「アルノー!」
「ほらよ・・・・アレだ・・・・・・・金に関しては、お前に全てがかかってるんだ・・・・・わかるか?」
「はぁ?」
真剣なまなざしで、彼女の両肩を掴んで、彼は語った。
「お前の強力な一撃をだな、メルコム・リッチに食らわしてやれば・・・・・・!」



強力な一撃は代わりに工房内で食らわされた。






「・・・行くぞ、私たちは立ち止まってなどいられぬ」
 旅荷物を肩にかけ、身の丈もあろうかという剣を背に背負い、女性は開拓村を後にする。
「・・・・・・アルノーがうっかり喋るからいけないんじゃないかぁ・・・・・」
「余計なこと言い過ぎなんですよ、アルノーさんは・・・・」
「なんだよなんだよ、全部俺のせいかよ?」
「あーあ・・・新しい防具作りたかったのに」
「結局作れたのがベリー1個だけなんて、せっかく工房を使わせていただいたというのに・・・・・宝の持ち腐れです」
「あーあーあーあー、俺が悪かったよ! どーせ俺がいらんこと言ったのがいけなかったんですよ!」

世界に広がる驚異を食い止めるための戦いに赴く少年達。
無心に邁進する剣士を筆頭に、ガックリと肩を落としながらついていく3人。
旅はまだ、前途多難である。




to be continued...





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