俺がついてやる。
俺がずっと支えつづけてやる。
足に力が入らなくなったら、俺がおぶって歩いてやる。
瞳から光を奪われたら、俺が世界を歌って聞かせてやる。
俺がずっと傍にいるから…俺と一緒にいる時は、もう、震えないでくれ…
お前と一緒に…いつまでも、一緒にいたい…
それが俺の見つけた旅の目的だから───…






Remedy







 目に眩しい光。飛び込んで来る白。
やけに眩しくて、それから避けるために体を横転させた。
そして、そのまま意識は安息へと堕ちる。

「おい! まだ寝ているのか!」

!!

少し怒ったような声に、ビクンと反応する。
反応するままに体だけバッと起こすと、視界の隅に見慣れた女性の姿が飛び込んできた。
「ようやく起きたようだなアルノー・・・・・もう昼近いぞ」
それだけ告げて、女性は背を向けて退室した。

そう・・・・・・つい昨日のことだ。
開拓村を蝕む毒素を浄化するため、死眠へと誘う渓谷に向かい仙草アルニムを採ってきた。
毒素を浄化する仙草・・・・・・その響きに負けそうになった彼女を慰めたのも・・・・

「・・・・・・・あー・・・・なんか、今思い返すと、ちょいとこっぱずかしいな・・・・・・」

半分勢いもあったかもしれない。
でも、小さく肩を震わせる彼女を放っておけなかった。
ずっと感じていた想いを告白してしまった。

一夜明けた今日・・・・・・当の彼女は何事もなかったかのごとく、いつもどおりだった。



「あ、おはようございますアルノーさん」
 ようやく起き出したアルノーが階下に降りて来ると、まず出会ったのがパラディエンヌの少女ユウリィ。
昨夜は村外れの建物を借りて泊まったわけだが、どうやらこの建物何らかの工房であるらしかった。
立ち並ぶ本棚、無造作に置かれた色んな書物、様々な実験道具。
昨日は目を向ける余裕がなかったのだが・・・・
「何してるんだ?」
「はい、今朝アーチボルトさんがこの工房を自由に使っていいと仰って・・・・それで、色々試しに」

ぼんっ

話途中で軽い爆発音。見ると、さらに向こうで仲間の少年がなにやら煙を発している物体を手にしたまま呆けていた。
「失敗ですか、ジュード」
「・・・・・・っかしいなぁ・・・・・・書いてある通りにやったんだけど・・・・ゲホッ」
「いきなりうまくは行きませんよ」
と、ユウリィはまたこちらを振り返って話を続けた。
「試しに挑戦してみようということになったんです」
「挑戦?」
「はい、アイテムをアイテムを調合して新たなアイテムを作り出す実験です」


 どうやら昼近くまで寝ていた間に色々話が進んでいたらしい。
仙草アルニムのお礼がわりにとこの工房を使用することになったこと、これから先のためにも強力なアイテムの研究をしておこうではないかということ・・・・・・・
「しかし、この情報量はすげぇな・・・・・ワケわからんモノばっかりだが」
作業場のさらに奥の書斎で本棚をあさるアルノー。
誰かが持ち込んだんだろうが・・・ありとあらゆる道具の調合方法が記されている。
とはいっても、役に立ちそうにもないワケわからんモノも多数あるのだが。
「アルノー」
呼ばれて振り向くと、入り口に立っている女性の姿。飲み物を持っている。
「・・・よぉ、ラクウェル・・・」
「食事に来なかったな。何も口にしていないのだろう、コーヒーを持ってきてやった」
「ああ、ありがと」
コーヒーカップを受け取る。カップからたちのぼるあたたかい湯気。うっすらと緑色。
「・・・(コーヒーってこんな色してたっけか・・・まぁいいか)」
そこで、まぁいいか、で済ませてしまえるのが彼のいいところ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お、おいしいか?」
「・・・ああ、うまいよ」
「そ、そうか・・・・・良かった。何故か誰も飲んでくれなくてな・・・・」
そりゃ緑色してりゃ誰も飲みたがるまい。
「お前も何か調合とやら、やってみるのか?」
「ああ・・・だってあいつらがやるって言ってるんだろ?」
「そうだな、新しいもの好きだからな・・・・私はよくわからないから・・・」
「・・・・・・・・・・・」
別段、いつもどおりの会話。
昨日あんなことがあったとしても、まるで無かったかのように普通。
「・・・・・(ま、いいけど)」
「何か言ったか?」
「・・・・いいや」
冷静になって考えたら・・・・・・結構すごいことを言った気がする。
本心ではあるのだけれど。
彼女に背を向けたまま・・・・・・恥ずかしさに赤くなってしまう。
彼女がいたって普通だから余計に。
「・・・・な、なぁ」
「なんだ?」
「お、お前だけ何もしないのもヒマだろ、どうせなら何か読んでみたらどうだ?」
「・・・・・・あんまり難しいものはな・・・」
「もしかしたら、特効薬の作り方とか載ってるかもしれないぜ」
一瞬反応した様子が背中越しでも伝わった。
「・・・・・・・・・どうかな・・・果たして、医者にも見放された体を治す術などが、こんなところにあるかどうか・・・・」
「そんなの、探してみなきゃわかんねぇだろ」思わずアルノーは振り返って彼女を見た。「まさか、すっかりあきらめてるわけじゃねぇよな?」
「そ、それは・・・・・・」暗い表情でうつむくラクウェル。
「嘆く前に、色々探してみようぜ。もしも見つかったらラッキーだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
さらに表情を暗くするラクウェル。
「・・・・・・そう・・・だな。運がよければ、見つかるかもしれぬな・・・・・・」
しまった・・・アルノーは少し後悔した。ラッキーなどという言い方はまずかった。
「・・・じゃなくて・・・必ず、見つけるんだ。おこちゃまじゃないが、頑張ればどうにかなるってもんさ」
「・・・・・・・・・そうかな・・・・・・」
「ここで見つからなかったら、他で探せばいいんだ。そうだ! この戦いがひと段落ついたら、そいつを探しにいこう!
ファルガイアは広いんだ、どっかに治療法はあるはずさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ラクウェル?」
「・・・・・・・・・いや、なんでも・・・ない」
と、ラクウェルは急にバッと背を向けて駆け出して行った。
「あっ! おい、どうしたんだよ! ・・・・俺、またなんかマズイこと言ったっけか?」
はぁ、とため息をついてみる。
そして、昨日の出来事を思い返してみる。
「・・・やっぱ・・・アレだよな・・・? 向こうも、それなりには思ってくれてる・・・んだよな?
でなきゃ、あんな風には言わないはず・・・・・・期待して、いいんだよな・・・・?」
自問自答しても、答えは出ない。
あまりにも普通すぎた彼女の態度に、彼はどうも不安を隠せないでいた。



「ラクウェル!?」
「ラクウェルさん?」
 奥から駆け出して来た女性は作業場で実験をしていた二人の少年少女の側を通り走り去ってしまった。
二人は顔を見合わせる。
「どうしちゃったんだろ、ラクウェル」
「・・・・・・・・・・・・」
「ユウリィ?」
「・・あ、いいえ・・・・本当に、何があったんでしょうね・・・・・」
走り去った後の工房の入り口をジッと見つめる少女。
一瞬だけどチラリと見えた、真っ赤になっていた彼女を思い浮かべながら。





to be continued...




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