Happy Christmas

 

「サンタクロースって知ってる?」

 何気にフェイトがお子様二人に問いかけた質問。
これが事の発端だった。
お子様二人(スフレ・ロジャー)は全く違う返事をした。
「知ってるよー、やだなぁフェイトちゃんたらー」
「なんだそれ? 食べ物かなんかか?」
その返事にフェイトはふーむと唸った。
「そうか・・・エリクールにはクリスマスって風習はないのか・・・・・まぁ確かに宗教が違うしな」
「なー兄ちゃんー、なんだよそれ」
「ああ、あのな・・・・」
そんな会話を、やはりすぐ向こうで聞いていた他のメンバー。
「サンタクロースね・・・・そういえば、そんな人もいたかしら?」とマリア。
「さんたくろーすって、人なのかい?」こう投げかけたのはネル。「施術か何かかと・・・・」
「どういう発想だ、そりゃ」呆れるクリフ。
「ああ、でもそんな感じの名前の術ってありそうですよねー」同調するソフィア。
「ノらなくていいから」
「しかしフェイトのやつ、なんでまたいきなりサンタの話なんぞ・・・・・」
「あら、地球ではそろそろクリスマスの時期なのよ」
「くりすます?」またもネル。
「・・・・ああ、どう説明したらいいのかしらね・・・・・・・・・」


「だったらオイラもお願いしたらサンタさんが持って来てくれるのか!?」
突如、ロジャーの大音量が響いた。
そちらを見やると、目を輝かせているロジャーと、スフレと、困ったような表情のフェイトと。
「・・・フェイトのやつも、自分から余計なこと言い出しやがって・・・・俺は知らねぇからな」
「あら」とマリアがイジワルそうにクリフを見やる。「普段保護者ぶってて、こんな時には知らないフリするのね」
「な、なんだよそりゃ・・・!」
「いいのよ。別にね」
「おい、マリア・・・!」
言い合う二人を尻目に、ソフィアはネルにクリスマスというものの説明をしてみる。
地球のある宗教の聖人の生誕を祝う行事である・・・・と、こんな感じ。
「ふぅん・・・・・・アンタ達の世界にも宗教はあるんだね」
「ええ」
そんなに次元の違う内容の話でもなかったため、ネルも納得したみたいだった。
「・・・で、ロジャーが言ってるのはどういう意味?」
「ああ、サンタクロースの話ですね・・・・」
ソフィアはわかりやすく説明してみる。
子供達にプレゼントを運んでくるというサンタクロースの話。
「へぇ・・・・欲しいものをお願いすると貰えるわけなんだね」
「はい・・・・・ま、もっとも、御伽噺の類なんですけどね」
「でも夢があっていいね」
「ええ」
そんな他愛も無い話を、さらに少し向こうでジッと聞いている男がいた。
アルベル・ノックス。




「・・・・まぁそんなわけで・・・・・・・」
 すっかり困った表情で、フェイトがホテルの自室に皆(といっても、スフレとロジャーを除く)を集めてこう告げた。
「今夜・・・・・僕はサンタクロースになろうかと・・・・」
「バカねぇ」
「・・・・・・言わないで・・・・・・」
マリアに冷たく告げられ、落ち込むフェイト。
「たまにゃあいいんじゃねぇか? どうせあいつらのことだ、そんな大した要求でもねぇんだろ?」楽観的なクリフだったが。
「・・・・・・これ・・・」
フェイトが差し出した紙切れに、記されていた。



ステージ衣装(なるべくセクスィーなやつネ)

新しい超破壊武器(スターフォールを超えるくらいで頼むじゃんよ)




『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

一同、しばらく呆然と紙切れを見つめていたのだが。
「・・・とても『子供』の要求とは思えないわね」
「何か勘違いしてやがるな、こいつら・・・・・」
「どうしようかと思って・・・・・」
まったく・・・自分から話を振っておいて・・・・皆が思ったが、言わないでおく。
そのつもりであったにしても、これはひどい。
「スフレちゃんのはアテがなくもないですケド・・・・」とソフィア。
「本当かい、ソフィア!?」
「うん」
と、ソフィアは横を向いた。その視線の先を他の皆も見つめて。
「ダメ。却下」
「ちょっとそれはスフレがあまりにも気の毒だわ・・・・・」
「サイズあわねぇだろ」
「そういう問題じゃないよ、クリフ・・・・・」
その一方、交わされる会話の意図が掴めないでいる男が一人。
「・・・・何見てやがるクソ虫ども」
「いいやー、何でもないよアルベルー」
適当に誤魔化すフェイトに、首をかしげるアルベル。
「そういう方向性で行くんなら、ロジャーもアテがあるわね」
マリアはそう呟いてフェイトを見た。
「・・・・・あのー・・・・・マリア?」
「破壊力はバツグンよ。でも扱いきれるかどうかが問題ね」
「確かにな」
「クリフまで・・・・」
「冗談はそれくらいにしときなよ」
ネルお姉さまの一言で、議論はまた振り出しに戻った。



 結局、フェイトとクリフとマリアとで適当に見繕うということで話が落ち着いて。
二人に悟られないようにソフィアが誤魔化すということになって。
それぞれの役目のために誰もいなくなった部屋で、ネルはフゥ、と一息ついた。
彼女は彼女の役割を果たさなければならない。
「おい」
「・・・・・・・・」
来たか・・・と、ネルはそちらを見やった。
放っておくと何をしでかすかわからない狂犬・・・・アルベルの世話。
「さっきから、一体何を話してやがったんだ」
・・・・やはりとは思っていたが、ちっとも理解してなかったのか・・・・・・・。
でも、理解してないのなら、うっかりロジャーやスフレに喋ることもないだろう。楽な役目だね。
「あのガキどもになんかくれてやるって感じの話だったか・・・・?」
「・・・・なんでそういう微妙な理解の仕方してるのさ」
「さっき俺を見ていたのは何だったんだ」
「・・・・・・・・・」
さっき・・・・・ああ、あの話か・・・・・わずかにネルは目をそらした。
「・・・・・・・・色々あってね・・・・」
「色々でわかるか阿呆」
「わかんなくてもいいよ」
「・・・・・・・・・・・・・」

 これ以上問うても答えは返ってこないと判断したか、アルベルは話を最初に戻した。
「なんであのガキどもにくれてやる必要があるんだ」
「・・・アタシもよく理解してないんだけどさ・・・・・」
さんたくろーすに欲しいものを願っておくと、くりすますの夜にさんたくろーすがやって来て、欲しいものをくれるって話。
ソフィアのした説明と微妙にニュアンスが違ってきているが、ネルは気付かない。
「ほう・・・・・便利な風習だな」
「でも一年に一回だけなんだよ」
「ふん、それくらいで丁度いいだろうが」
「まぁね・・・・」
「それが、今夜ってわけなんだな」
「ああ、そういうことになるね」
「そうか・・・・」
何か、含む言い方にネルは訝しむ。
じっと何か考えている様子のアルベル。やおら、こちらを向いて、
「あのガキどもだけ欲しいモンが貰えるのは不公平じゃねぇのか」
「・・・・・・・・・・・」
なんとなく、彼の言わんとしていることが判った気がして、やや渋面するネル。
ああ、こいつも何か欲しいものがあるんだ・・・・・・
「なら、願ってみれば? もしかしたら、貰えるかもよ」
大人気ないんだから・・・・思わずネルはクスリと笑った。
「何笑ってやがる」
「だっておかしいんだもの」
「フン」
それだけ呟いて、アルベルはネルに近寄った。
「誰に願えばいいんだ」
「ええと・・・・さんたくろーす・・・だったかな」
「・・・・・・・・・・・・・・なんだそれは」
「知らないよ」
「フン、惨太だか何だか知らねぇが、そんな得体の知れねぇモンに頼むなんてどうかしてるぜ」
「・・・ち、ちょっと、今なんか変な発音しなかったかい?」
「気のせいだ」
「・・・・そう」
「欲しいモンは自分の力で手に入れるもんだろう」
「まぁねぇ」
「・・・今夜くらいは便乗してやってもいいが」
「・・・・・・はぁ・・・」
一体、何が言いたいんだろう、この男は。
とりあえず、気になったことを聞いてみることにした。
「アンタ、一体何が欲しいのさ」
「お前」
「ふぅん・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
何を言った? 思わずアルベルを見やる。アルベルもこちらを見ていた。
「聞こえなかったか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な」
その言葉の意味に気付いて、一気に顔が紅潮した。バッと顔をそらす。
「・・な、何言ってんだい、バカじゃないの・・・・・! 寝言は寝て言うもんだよ!」
「別に寝てはいないぞ」
「だから・・・・・!!」
つっかかろうとして、いきなり抱きしめられた。力強く。
「・・・・・・・なっ・・・!」
「惨太なんかに願って、手に入るモンなのか? これは・・・・」
「っ、だから発音・・・!」
「いや、違うな。願っても簡単に手に入らねぇから、求める価値があるもんだ・・・そうじゃねぇか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思っていた以上に暖かい腕の中で、色々と頭の中で巡って行って。
うすぼんやりと、さっきソフィアとした会話を思い出していた。




『・・・でもクリスマスって、それ以外にも意味があるんですよ』

『それ以外?』

『はい! クリスマスの夜は、イコール、恋人達の甘い夜なんですよー、きゃーーー!』

『・・・・・・・ソ、ソフィア・・・・・・?』

『クリスマスの夜の街には、そこらかしこに恋人達や恋人達、そして恋人達・・・・・・・・
そう・・・・・独り身なんかお構いなしに・・・・・・・・ふふふふふふ・・・・・・・・』

『落ち着きなソフィア!!』




そんなモンじゃないんだけども。
でも。
ちょっとだけ。



それもいいなって思ってしまった。





「・・・・・それだったら・・・」
 ゆっくりと、彼の背中に手をまわして。
「きっと・・・アタシには、アンタの言う価値なんて無いと思う」





だって・・・・・・・・













薄暗いホテルの廊下で、壁にもたれながら青年が独りごちる。

「・・・・・・ここって、僕の部屋なんだよねー・・・・・二人とも絶対忘れてるよなー・・・・・・」












「うわーい! やったー! セクスィー!!」

 翌日。
サンタさんに『セクスィー』なステージ衣装をもらってホクホクのスフレ。
そんな様子を見て、マリアは。
「ちょっぴりシースルーなだけなんだけど。やっぱり子供ね、単純だわ」
「マリアさん、ロジャーくんには何を選んだんですか?」
「ああ、それはね・・・・・・」


ごぉぉぉぉん・・・・




「何やってんだよ! メラ不発じゃんかよーー!!」
「仕方ないだろっ! 僕だってまだ扱いきれてないんだから・・・・!!」
「役立たずじゃんか!」
「何をっ!!」
マリアが指し示した先には、ロジャーと最終兵器フェイトの悲しい言い争いが勃発していた。
「・・・・結局・・・・フェイトになっちゃったんですね・・・・」
「いつまでもつか見物よね」
「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・」
「ちなみに、あっちには・・・・・・」



ずどどどどどどどっ!!




「無限に行くぜぇ!(半分ヤケ)」
「兵器2号クリフ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ソフィアは・・・・・サンタさんも大変なんだ・・・・・と心底、彼らに同情したという。


そんな、クリスマス。






END




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