Not the Punch Line

 

 「星の船」・・・バンデーンがエリクールに現れて程ない頃。
バンデーンが狙っている、聖王国シーハーツの至宝「セフィラ」を守るため、彼らは聖殿カナンへと赴いていた。


 その最中の出来事であった。



「なんだこりゃ?」
 クリフの第一声。
そこには、石像と並んだ4つの扉。右方にはなにやら破壊跡。
「石像に何か書いてあるわよ」
マリアが覗き込んだ。それに続いて、他の皆も覗き込む。
しばらくし、彼らはその場所の意図を理解する。
そこは、4つの部屋で4体のモンスターとそれぞれ1対1で戦って、全てに勝利すれば先に進めるうえにお宝が手に入る・・・といった場所だった。
「面白そうじゃねぇか」クリフが指を鳴らす。
「あんまり時間がないんだよ、わかってるのかいクリフ・・」少しばかりクリフを睨むネル。
「バンデーンもこの部屋を通ったんだろ? もうお宝なんか無いかも知れないよ」とフェイト。
「そうかしら? あっちの破壊跡、ヤツラが先に進むために通路を作ったんじゃないかしら?」マリアが右の方を見やって呟く。
「だったら、先越されてるってことじゃんかよ!」とロジャー。
それを受けてクリフとネルが破壊跡を調べに向かった。が、首を横に振りながら戻ってくる。
「ダメだ、塞がれてる。こっちからは行けそうにねぇな」
「でしょうね・・・・・わざわざ通路を残して行くようなバカな真似はしないわよね・・・・」
頭を抱えながら溜息をつくマリア。
ということは・・・・この4つの扉を通るしかないということだが・・・・。
「4つの部屋でそれぞれ1対1だろ? ・・・・ってことは・・・・」
「誰か一人、ここに残んなきゃいけねぇってことか?」
「これもトラップの一つなんでしょ。解除すれば、残った一人も先に進めるわよきっと」
「だろうね・・・・」
「でさ、誰が残るんだ?」
ロジャーが皆を見上げ、皆も顔を見合わせる。
「・・・・・簡単なことよ」つとめて冷静に、マリアが告げる。「1対1で戦うんですもの。この中で一番弱い人が残って待っていればいい話だわ」


 恐ろしい程の長い沈黙が・・・・実際にはそれほどでも無かったのだろうが・・・・・訪れてしばし。
おもむろにクリフが再び第一声を。
「・・・ロジャーじゃねぇのか?」
「んなっ!! 何ぬかしやがんだ、このデカブツ!!」
無論、ロジャーは反発するも、他の皆は考え深げな仕草を取る。
「まぁ・・・・・確かに・・・・・なぁ」
「一番若いしね・・」
「適当に暴れてるだけだものね」
「否定もナシかよ!! 大体、考えてもみろっての!!」
ロジャーはマリアをビシッと指差した。
「マリアの姉ちゃん、一番レベル低いじゃんかよ!
ってことは、一番弱いのはマリアの姉ちゃんってことじゃねぇのかよ!?」
「ち、ちょっと! 何言い出すのよロジャー・・・!!」
それに対しても、他の皆は考え深げな仕草を取る。
「確かに・・・・・・ね」
「マリアは後方援護向きだから、1対1は厳しいかもね・・・・」
「やっぱ、これでもほんの小娘だしな・・・」
「な、何よ・・・」
真っ赤になってワナワナと震えるマリア。
「それなら、一番弱いのは私じゃないでしょ! ・・・・・ねぇ、クリフ」
ビクッと身を震わせ、マリアから目をそらすクリフ。
「それとも、私に逆らえるの?」
「・・・・・・・・あ・・・・・・いや・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・」
「でしょうね・・・ほら、これで決定だわ。『一番レベルの低い小娘』に勝てない36歳の男・・・最弱決定ね」
そんな様子を眺めながら、フェイト達は・・・・・・クリフも苦労してるなぁ・・・・などと感じざるをえなかったという。
「でもマリア」
女王マリアの暴走に歯止めをかけたのはネルだった。
「今回の場合は勝手が違うだろ? クリフはアンタには頭上がらなくてもモンスターは倒せるさ。
アンタに逆らうこともできない36歳の男でも、戦力としては充分だと・・・・」
「・・ネル・・・・・やめてくれ・・・・・・頼む・・・・・・もうこれ以上は・・・・」
すがって懇願モードに入るクリフに、ネルもさすがに憐れになって口上を中断した。

「で、結局どうするんだい?」
 いい加減時間も経過してきて、いよいよゆっくりしている時間もなくなってきた。
フェイトが業を煮やして本題に戻す。
要は、5人のうち4人が1対1に挑めばいいのだ。誰か一人が「残る」宣言をすればいいのだが・・・・・
残る宣言イコール、自分は弱い宣言となってしまっている状況がここにあった。
どうにも負けず嫌いというか自信家が揃っているためか・・・・誰も自分は弱い宣言をしようとしなかった。
「・・・・こうなりゃ・・・・・勝負するか?」
クリフが再び指を鳴らす。
「勝負って・・・・・こんなとこで仲間同士で戦うとでもいうのかい?」ネルがクリフを見やる。
「んなことしても意味ねぇだろ。バトル以外のモンで勝敗を決めようぜ」
「バトル以外・・・・・・・・って?」
「・・・・例えば・・・・・腕相撲とかな」
「それは公平じゃないわ」マリアがキッパリと否定する。「ここはやっぱり、料理対決でしょ」
「なんでさ」「マリア、自滅する気か?」
ネルとクリフが同時に言った。
「何か言った、クリフ?」
「・・・・いや、何も」
再びクリフは目をそらす。と、ロジャーが進み出た。
「勝負といったら、男勝負じゃんよ! 男らしさで勝負だ!」
「私は女よ」即座にマリアが打ち消した。
「我慢比べとかどうだい・・・?」ボソリとネルが提案する。
「なるほどな。それもいいかもしれねぇな」
「でも、どうやって勝負すれば・・・・」
フェイトの素朴な疑問に、ネルは少し考えて・・・・
「まずいシチューをどれだけたくさん食べられるか・・・・・」
『それは我慢比べじゃないっ!!!』

 一向に話が進まない。
「いつまでも話し合っててもしょうがないでしょ、どうするの」
「おいフェイト、お前の意見はねぇのかよ」
さっきから何気に聞き役に徹していたフェイトに、クリフが声をかける。
フェイトは渋い表情でうーん、と唸ってから。
「・・・・こうなれば運試しでジャンケン・・・・ってどうだい?」
思いつかなかったから言い逃れ同然の意見だったのだが、意外にも皆の反応はかんばしかった。
「もう何だっていいっての」
「そうだね、勝っても負けても恨みっこナシで」
「仕方ないわね・・・」
「よぉーし、それじゃ行くか! ジャンケン・・・・!!」






運とは、時として奇妙な結果を呼ぶ。




「だから、ロジャーが残った方がいいって言ったんだ、バカ野郎!」
「マリア姉ちゃんだって弱っちいっつったじゃんか!! オイラだけのせいにすんな!!」
「うるさいわね、お互い様でしょう!」
「クリフは戦力になるって言ったじゃないか・・・」
結局、もといた場所でぎゃーぎゃー言い争う彼らを、フェイトは一人遠目で眺めていた。
ジャンケンの結果、負けてしまったクリフが留守番となったのだが、あらかじめ意見が出ていた通り、『弱い』と言われた両名が敗退し、先にすすめずじまいだった。
しかも当の両名がまた、素直にそれを認めないものだから・・・・・余計に話がこじれてしまっていた・・・・・
(・・・こんなんで、先に進めるんだろうか・・・・)
フェイトは頭を抱えた。
「いいから今度は俺が行くって言ってんだよ!」
「だったら誰が残るっていうの! 恨みっこナシって言ってたでしょ?」
「恨みもクソも、勝てねぇんだったら意味がねぇだろうが!」
「私も、ロジャーかマリアが残った方がいいと思うけどね」
「お姉さままで!! ちょっと油断しただけですよぉ〜・・・・今度こそは必ず!!」
「見てろ、俺様がお宝ゲットしてみせる!」
「一人じゃムリよ、4人でやらないと」
「で、誰が残るのさ?」


 フェイトはふと思った。
「・・・・みんな・・・・セフィラのこと忘れてるよな・・・・・」
いつまでもわいわい言い合う仲間達を見ながら、フェイトもどうでもいいやと溜息をついた。

こんなこと思っててもみんなに言い出せない自分が、実は一番(立場が)弱いんじゃないかな、とか思いつつ。



追記。
数時間後、らちがあかなくなったクリフが破壊跡から無理矢理通路を作り出し、ようやく先に進めたという。




END





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