Thank You! My Comrades

 

 それは、ある日の夜のこと。
普段は仲がよいものの、とあるきっかけで一瞬にしてライバルへと変貌する二人の少女がホテルの一室で他愛も無い話をしていた。
その声色の高さは部屋の外にも伝わり、たまたま通りがかった男の耳にも飛び込んできたのだ。

「・・・・・そうなんですかー! 道理でなんだか仲が悪いようだったんですね」
「ええ。私も聞いた話だから、具体的には言えないのだけれどね」

何の話だ? 男はつい立ち止まって話に耳を傾け始めた。

「でも、仲が悪そうでも実は仲がいいってことって、ありますよねー」
「・・・・と、・・とか?」
「ああ、そうそう! いっつも仲悪そうにしてても、仲いいですよねー。部屋だって同じだし♪」
「・・・・でもよく彼が部屋を追い出されて廊下で寝てるトコ見かけるけどね・・・・」
「それはそれですよ! ケンカするほど仲がいいんですって!」
「そうかぁ・・・・・いいわねぇ、なんだか羨ましいわね・・・・・」
「・・・・・・・・そうですよね・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・ねぇソフィア。アナタ・・・・・例の彼とは幼馴染よね。ケンカしたりするの?」
「・・・・えーと・・・・・・・・・まぁ・・・一方的に私が怒ったりすることが多いかな・・・・なんて」
「そう・・・・・・・まぁ、仕方ないわよね」

少女の声色が低くなっていく。男は、こりゃそろそろかと肩をすくめながら立ち聞きを続行する。

「・・・・マリアさんだって、ほとんどケンカしないじゃないですか。いいえむしろ、フェイトの方が遠慮している感じしますもん」
「あら、それって何が言いたいのかしらソフィア?」
「わかりませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・心外ね。これでも、お互いに信頼を寄せている仲だと思うわよ。ただ甘ったれてるだけの間柄じゃあないの」
「・・・・・・!!! ・・・・私達だって、信頼しあってますよ!」
「そりゃあね・・・・ずっと一緒にいれば、そうあって当然でしょう。威張れることじゃないわね」
「なんですか」
「なにかしら」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

いよいよ空気は緊迫してきたようだ。友達モードからライバルモードに切り替わる瞬間。

「大体ね、ソフィア・・・・・・アナタ、ロクに戦えないクセして、この戦いについてきて・・・・・フェイトだって困ってるわよきっと」
「な・・・そんな・・・・・・」
「幼馴染として信頼はあっても、『戦う仲間』としての信頼は無いかもしれないわね」
「・・・・・・・・マリアさんに言われたくないです」
「なんですって!!」
「だってマリアさん、しょっちゅう銃の乱射するし、フェイトにばっかり構おうとして他の皆さんのジャマしてる感あるし、料理はアレだし、そんなマリアさんにどうこう言われる筋合いは・・・・・」
「ちょっと!! 料理が何ですって!!?」

ツッコむのはそこかよ・・・・・男は頭を抱えた。

「つまり、役立ってないってことですよね? でも私は紋章術でみんなを回復・・・・・・」
「ハッ! そんなのネルがいれば事足りるでしょうが! 無理にアナタがいなくてもいいのよ。
その点、私の後方射撃は前線で戦うみんなにとって必須・・・・・・・」
「それこそネルさんの黒鷹旋で十分じゃないですか!」
「キィーーーー! わからない娘ね! いいわよ、こうなったら・・・・・勝負しましょう」
「え?」
「私と貴女と、どちらがフェイトの役に立てるか・・・・・・競争よ!」
「・・・・・・いいですよ・・・・」

男は一連の話を聞いて、何故かニンマリした。
そして、鼻歌まじりにホテルの廊下を歩いて去っていった。





 次の日の朝。
寝ぼけ眼で、ホテルの一室からのっそり出てきた青年がいた。フェイト・ラインゴッド。
今日も一日、頑張ろうか・・・・そんなことをボンヤリ考えながら、彼はロビーに降りてきた。
『お早う、フェイト!!』
出会い頭に二人の少女に声をかけられ、寝ぼけていた頭がハッキリと。
マリアとソフィア。今日はまた一段と・・・・・・・
「・・・・・お早う、二人とも・・・・・・・」
「フェイト」ソフィアが近づいてきた。「朝ごはんできてるから。たくさん食べてね」
「ああ、ありがとソフィア」

!?
一瞬、向こうにいたマリアがもの凄い形相になった気がしたが・・・・・・・気のせいだろうか?
「フェイト」
そんな彼の思いとは裏腹に、マリアはとても爽やかな笑顔で彼に微笑みかける。
「コーヒーがいい? それとも紅茶かしら?」
「え・・・・あ、コーヒーを・・・・」
「はい、どうぞ。お砂糖は? ミルクは?」ニッコリと笑いかけてくる。
「・・・・・・・あ・・・・ありがと・・・・・・・」

!!
今度はソフィアが鋭い視線を投げかけてきたような気がしたが・・・・・・どうなのだろう?
「オッス、フェイト」
上階からこれまたかろやかに現れる大男・・・クリフ・フィッター。やけに清々しい。
「お早う、クリフ」
「おい、今日はどうすんだ。また手近なモンスター退治でもすんのか」
「どうしようか・・・・・・アイテムクリエイションもしたいな・・・・・・」
「あ、私手伝うよフェイト!」
「私も手伝うわフェイト!」
少女達が同時に叫んで、そしてお互いににらみ合った。
「・・・・・・・?」
一方のフェイトは何が何やら。
「・・・んっとにニブいな、お前は・・・・・・・」
そしてクリフは呆れ顔だ。
「そうと決まれば! 行くわよフェイト!」マリアがフェイトの右腕を取ると。
「一緒に行きましょう!」ソフィアがフェイトの左腕を取った。
そしてずりずりと引き摺って行く。
「ああ〜〜〜〜〜・・・・・・・!!」
そんな哀れな青年を見守るマッチョ・・・・・・

「・・・・・全く、好きだねあの娘たちも・・・・」
 上階から、赤髪の女性が姿を現す。続いて、黒と金の髪を持つ長身の男も。
「よぉ、お二人さん。なかなか激しいぜ、今回は」
「あの情熱を、違うところに向けてくれればいいのにね・・・・」
「言っても仕方ねぇだろ」
クリフはやれやれ、とポーズを取って、二人を振り返る。
「お前ら。ちょいとよ、相談があんだけどよ」ニンマリと笑うクリフ。
「相談?」ネルは眉をひそめる。
「賭けようぜ」
「は?」
クリフは身を乗り出して話を続ける。
「どうやらあの嬢ちゃんがた、勝負をしてるみてぇなんだよ。どれだけアイツの役に立ってるかとか。
んで、今日の夜に結果が出るみてぇなんだが・・・・どうなるか賭けねぇか」
「・・・・・好きだね、アンタも」
「何を賭けるってんだ」
「・・・・そうだな・・・・・今夜の飲み代を負けたヤツが払う・・・ってのはどうだ」
一瞬、二人の目つきが変わったのをクリフは見逃さない。
まぁなんだかんだ言っても、人のカネで飲める酒ほど美味いものはないわけで・・・・・・
「じゃあアタシは・・・・ソフィアにしようかな」
「んじゃ俺はマリアにするぜ。おい、お前は?」クリフはアルベルを見やる。
「・・・・・・・・同じのに賭けても面白くねぇな・・・・・決着つかねぇ、にする」
「よし、成立だな」
純粋な少女達の純粋な思いを弄ぶ、大人どもの邪悪な遊びが成立。
様子見にと、彼らも工房へと向かった。




「フェイト、疲れたでしょ・・・・・・はい、ジュース」
「ああ、ありがとうソフィア」
「フェイト! 材料調達してきたわよ」
「ありがとうマリア」
 薄暗い工房で、フェイトはとりあえず執筆などしているわけだが・・・・やけに二人が親切すぎて、流石に訝しさを感じていた・・・・・・・
「・・・・ねぇソフィア、マリア・・・」
『何!!?』
「・・・・・(な、なんだ・・・・?)あのさ・・・・良かったら、執筆を手伝ってくれないかな・・・・・」
『わかったわ!』
執筆してくれていれば、静かになるだろう・・・・・フェイトは少し安堵した。
しかし。
「フェイト、この表現はこう直した方がいいと思うわよ」
「あ、そこ字が間違ってるよフェイト・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ダメ出しが始まった・・・・・フェイトは頭を抱えた。
まぁ、「執筆を手伝う」ってのは、こういうことかも知れない。
一体・・・・どうしたんだ、彼女達は・・・・・・・
こんなに二人して自分に構ってくるなんて、珍しい。嬉しいのは嬉しいのだが・・・・・どうにも彼は困っていた。
小さな親切大きなお世話・・・・・まさにそんな感じ。
こんな状況では、執筆みたいな神経を使う作業に集中出来ない。
「僕、ちょっと外歩いてくるよ」
逃げるように立ち上がるフェイト。しかし・・・・・
「あ、私も行く!」
「付き合うわ、フェイト」
(え!!)
こりゃ・・・・・もう逆らうのは無駄な抵抗かもしれない・・・・・・フェイトは半分あきらめた。



「ねぇフェイト、疲れたのなら休んだ方がいいわよ」
「あそこのベンチに座らない?」
「い・・・いや・・・・ちょっと散歩したいんだ・・・・・」
「あ! 私も歩きたかったんだー!」
「奇遇ね、私も散歩したいと思ってたのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 本当に、この状況は一体どういうことなのだろうか・・・・・・
やけに構ってくる二人の少女を扱いあぐね、フェイトはフラフラとどこへともなしに歩いていた。
何かヘンなものでも食べたのか・・・・? などと考えている時点で、少女達の思いには気付いていないようだった。
そんな時だった。
「きゃっ!」
ソフィアの悲鳴に、フェイトはハッと振り向いた。
いつの間にか町外れに来ていた彼らの前に、モンスターが姿を現していた・・・・!
「しまった・・・・! クソ、戦うぞ!」
「うん!」
「援護は任せて頂戴!」
心強い返事にフェイトは深く頷いて、剣を抜いた。
フェイトが斬りかかる動きに合わせて、モンスターを牽制するように銃弾が飛ぶ。
「よし! ありがとマリア!」
「いいえっ」
「・・・・・・・・!」
私も援護しなきゃ・・・! ソフィアは術を発動し始める。

しかし。

「きゃあっ!!」
ソフィアの足元の地面に、銃弾が数発被弾する。ビックリして詠唱が中断してしまった。
ソフィアはすぐさま向こうのマリアを睨んだ。するとマリアは悪びれもせず、
「あら、ごめんなさい、銃が暴発しちゃったわ」
「・・・・・・・! マリアさん・・・・・・」
そう来るのか。ならば、こっちだって・・・・!!
フェイトの援護に入ろうとマリアが前に踏み出した瞬間。
「グラヴィテーション!!」
マリアの頭上に重力球が発生し、彼女を包み込む!
グラヴィテーション・・・・・移動速度を下げる紋章術だ。
「・・ち、ちょっとソフィア・・・・・!!!」
「あ、ごめんなさーいっ! エンゼルフェザーと間違えてしまいました・・・・・」
「・・・・・・・この小娘・・・・・・!!」
「だって、そっちが先に仕掛けてきたんじゃないですか・・・・・!」
「うるさいわね、問答無用・・・っ!!」
マリアは銃をソフィアに向かって構えた。ソフィアはあわてて退避する。
だがその刹那!
「うわぁぁぁっ!!」
二人の少女はハッとした。
彼女たちの目に飛び込んできた、青年が肩を押さえて倒れる姿。
そして、彼に振り下ろされんとしている爪。


『フェイト・・・・・!!』




目の前で繰り広げられる・・・・・・・・・・はずであった惨劇は・・・・・・・

「・・・・ったく、手間かかるぜ・・・」
「もう少し強いヤツはいねぇのか・・・・つまらん」
「フェイト、大丈夫かい!?」

呆然と立ち尽くす彼女達の前に、現れた3つの人影。
モンスターは瞬時に倒され、彼女達も彼も無事であることを知った。
「すみません、ネルさん・・・・・でも、どうしてここに・・・」
「・・・・・それは・・」言いあぐねるネル。よもや、動向が気になって尾行していたとは言えない。
「まぁいいだろ、んなことは」クリフが誤魔化した。
「立てるかい、フェイト」
「あ、はい・・・ありがとうございます」
フェイトをクリフに任せ、ネルは少し向こうで未だ立ち尽くしている少女達を振り返った。
「アンタ達・・・・・・」
「は、はいっ!」
「ネ、ネル・・・・あの・・・・・」
ネルは二人に近づいた。
そして。
勢いよく、何かを引っ叩いたような乾いた音が二つ鳴った。
男性陣も、当の彼女達も一瞬何が起こったのかわからなかったようだった。
「何やってんだい、アンタ達!!」
怒号にビクッと身を竦ませる二人。
「戦闘中に、つまんない意地の張り合いしてんじゃないよ!! フェイトを殺す気かい!?」
「・・・・・・あ・・・・・」
「・・・その・・・・これは・・・・・」
「言い訳はいいよ。全く、揃いも揃って何やってるんだ・・・・・
役に立ちたいって? 足の引っ張り合いしてるような役立たずは必要ないよ!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
もう言い返す言葉もなく。
「・・・・まぁまぁ、少し落ち着けよネル」クリフがなだめに入った。「フェイトも無事だったしよ・・・・とりあえず、戻ろうぜホテルへ」


「・・・・・二人とも、一体何があったんだ・・・?」
 フェイトが溜めていた疑問をついに吐き出した。ホテルの一室に集まる一同。
こうなったら白状する他無く、二人は経緯を話し始めた。
彼女達がどれだけフェイトの役に立っているか・・・・・それを確認したくて。
判断基準は・・・・・フェイトの「ありがとう」。

「・・・・・・・・・はぁ・・・・・そうだったのか・・・・・・・」
フェイトは頭を抱えた。そして改めて、落ち込んでいる二人を見やった。
その瞳に、怒りの色はない。
「その気持ちは嬉しいけど・・・・そのせいでケンカなんかしないでくれないか・・・・・
仲間なんだから。役に立つとか立たないとか、そういう基準で集まってるワケじゃないだろ?
ソフィアにはソフィアの、マリアにはマリアの出来る事、やるべき事をやってくれればいいんだから。ね?」
「・・・・・・・ごめんね、フェイト・・・・・ケガ大丈夫?」
「ネルさんに治してもらったから平気だよ」
「ごめんなさい・・・・ちょっと・・・大人気なかったわ」
「いや、いいんだ。わかってくれれば」



「・・・・いい話だねぇ、泣けるぜ・・・・」
「いい歳した男が何言ってるんだい」
「うるせぇ、歳なんか関係ねぇよ・・」
 少し離れたところで、青年達を暖かく見守る大人たち。
クリフはなにやら感動している。もうネルも怒ってはいないようだった。
「役に立つとか、立たないとかそういう基準じゃない・・・・・か。確かにね・・・・・・」
「ちゃんとわかってるじゃねぇか、ウチのリーダーはよ」
「・・・・だからこそ、彼女達にも好かれるんだろうね・・・・・・・」
「モテる男は違うってか」
「モテない男のひがみかい?」
「違うっつの!」
「おい」
ん? クリフはひょいと横を向いた。仏頂面で突っ立っているアルベル・ノックス。
「おう、お前も何か感銘でも受けたかよ? ま、そんなガラじゃねぇだろうがよ、がっはっはっはっは・・・・!!」
「・・・・・フン。とりたてて騒ぐほどのことでもないだろう、浮かれ過ぎだ阿呆」
「うぐっ・・・・・・ったく・・・相変わらずだな、テメェはよ」
「浮かれて忘れているようだから、忠告しておいてやる」
「あ?」
「とりあえず・・・・・・・・・俺の勝ちだ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
一瞬、何の話か理解できなかった二人だったが・・・・・・・・
そうだ!!
賭けてたんじゃないか・・・・・・!!
「うぉぉぉぉぉっ! こんないい話の後なのに、こいつの一人勝ちだなんて納得いかねぇっ!!」
「よく考えてみな・・・・・ソフィアの方が微妙に役立ってなかったかい・・・・?」
「何を言いやがる、ネル! それならマリアの方がポイント高いって! 絶対!」
「・・・・・・往生際の悪ィやつらだな・・・・・・いいから行くぞ」
「待てっ! ちゃんとした判定を・・・・!!」
「アンタにタダ酒なんて冗談は顔だけにしときなっ・・・!!」
納得行かない二人を引き連れたまま、彼らは夜の街へと消えていった・・・・・





END





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