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 毎日が生死をかけた戦い。
今までそんな日々とは全く無縁な生活を送っていた少女には、それは非常に過酷なものだった。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
どんなに問うても、答えは出ない。
今はただ、戦うだけ。
「ソフィア、危ない!!」
え? ふと我にかえって前を見る。大きな影。そしてその大きな腕は自分を狙っていた。
「きゃあああーーーーっ!!」
だが。
自分に襲い掛かっていたはずの腕は宙を泳いだ。
ものすごい勢いで自分の体が後方に吹っ飛んでいた。・・・・彼女を抱きかかえた青年も一緒に。
「・・・・・・あ・・・」
「つ・・・大丈夫か、ソフィア・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
ソフィアはただうなずくしかできなかった。
彼女の無事を確認すると、彼は立ち上がって再び戦いの中へと身を投じていった。
その後姿を、ただ見つめる少女・・・・・・




「・・・『ソフィア! 危ない!』・・・・・なんて、羨ましいわよねぇ」
 街に戻ってきた一行は、宿屋でようやく安息を得て雑談を交わしていた。
話のタネは、どうやら戦闘中のフェイトの行動のようだった。
「もう・・・・からかわないでくださいよ、マリアさん・・・・・」
「別にからかってるわけじゃないわよ。ただ、そうやって守ってもらえるってことが羨ましいだけよ」
「ならマリアさんだって、クォークのリーダーなんだからクリフさんにでも守ってもらえばいいじゃないですか」
「・・・・しれっと言うわね、アナタも・・・・・・・」
「まぁ落ち着きな、二人とも」
喧嘩腰になりかけた二人の会話を遮るネル。大概、この二人は仲が悪いので仲裁役の彼女はいつも苦労する。
「ソフィア、戦闘中にボーッとするのは感心しないね・・・・フェイトが気づいたからいいけど、そうでなかったら死んでたよ、アンタ・・・・・」
諌めるような口調に、ソフィアはうつむいた。
「・・・・・・・ごめんなさい」
「フェイトも、アンタのことばかり気にかけてるみたいだし、あんまり心配かけんじゃないよ」
このネルの一言は余計だった。
「・・・・・・・それは本当なの、ネル?」
マリアの静かな声に、ネルもしまった・・・・と気づいたようだった。
「た、例えの話よ、マリア。二人は幼馴染だし、気にかけて当たり前じゃないか」
「なら、他のみんなのことはどうでもいいってわけ?」
「そうとは言ってないじゃないか」
「そう聞こえたわよ」
その時、宿屋の外にいた男性陣が彼女たちのいるロビーに姿を現した。
ネルとマリアの口喧嘩に、彼らは意外そうな表情を浮かべた。
「だから違うって!」
「なら、もしも私がピンチになったらフェイトは私を助けてくれるの?」
「・・・多分・・・・・」
「何よ、それ!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
クリフがニヤついてフェイトをみやった。
「お前の話題みたいだぜ、色男」
「か、からかうなよ・・・!」
そして、照れるフェイト。そんな男性陣に気づかず、会話は続く。

「だからマリアさんにはクリフさんって、カンペキなボディガードがいるじゃないですか」ソフィアも口喧嘩に再度参加してくる。
「だったら、フェイトに守ってもらっちゃいけないっていうの?」
「そうとは言ってないじゃないですか!」
「いいじゃないかマリア。フェイトよりはクリフの方が頼りになると思うんだけど・・・・」
「頼りなくてもいいのよ! どうせなら若くてカッコいい方に守られる方がいいじゃない」
「マリアさん、欲望丸出しですね・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
フェイトがクリフを見上げる。
「・・・・・クリフだって若いじゃないか」
「心にもねぇ慰めはやめろ・・・・」
顔は笑っても、心で泣く。男クリフを尻目に、会話は続く。

「ネルだって、そう思わない?」
「・・・・・アタシは・・・・・別に・・・・・・・」
「ネルさんは守ってもらわなくても強いじゃないですか。そこらの男の人よりよっぽど」
「それもそうだわね」
「ちょっとアンタ達・・・・・よってたかって何好き勝手言ってんのさ・・・・・
そりゃアタシだってねぇ、時には思うことだってあるさ。これでも女なんだよ」
「でもフェイトには手を出さないことね」
「出すもんか!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
再び、クリフがフェイトを見やる。
「・・・・ネルには嫌われたな」
「・・・・・・・・それは・・・・・」
思うところがあったから、フェイトは何も言わなかった。さらに会話は続く。

「アンタ達のライバルにはなりたくないからね。・・・・身がもたない」
「それほどでもないと思うんですけど・・・・・」
「フォローしなくてもいいわよ、ソフィア。考え直されたら困るわ」
「それもそうですね」
「ま、その心配はないでしょうけどね・・・・・だって、ネルにはアルベルがいるじゃない」
「あ、そうですね」
「ち、ちょっと待ちな! 何アンタ達だけで納得してんのさ! 誰に誰がいるって? 気色の悪い冗談はよしとくれ!!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
クリフとフェイトは、少し後ろでやはり女性陣の会話を立ち聞きしていたアルベルに目をむける。
「・・・・・・・言われてるぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事はなかった。そしてやはり会話は続く。

「えー、でも仲いいじゃないですか」
「だから誰が!」
「ムキになるって、余計に怪しいわよね」
「違うって言ってるじゃないか!」
「彼もまんざらでもなさそうよ? わかりやすいわよ、彼は。
どっちつかずの誰かさんや、いつまでも進展しない誰かさんと違ってね」
「・・それって、誰のことですか?」
「さぁ。誰のことかしらね」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
クリフとフェイトは顔を見合わせた。
「・・・・・・俺たちのこと・・・・・・・か?」
「・・・・多分・・・・・・・・」
そんなつもりはないんだけど・・・・・二人同時に思った。会話はまだ続く。

「クリフさんって、もう36歳なんですよね? まだ結婚とかしないんですか?」
「そんな話は聞かないわね・・・・いつまでも独身貴族気取っててもしょうがないのにね」
「彼女がそうなんじゃないのかい? ええと・・・・ミラージュさんだっけ?」
「ええ。きっとね。でも、クリフは違うって言い張ってるみたいね」
「ええ〜! それはウソでしょ! だって、あんなに通じ合ってるのに・・・」
「アレよ、一緒にいる時間が長いと、発展しにくくなるもんなんじゃないの?」
「私とフェイトみたいに?」
「・・・・ぬけぬけと言ってくれるわね・・・」
「落ち着きなマリア!」

ここで。
彼女たちはふと見やったその先に、男性陣の姿を見つけた。


時が止まった。


「・・・・何してるの、アナタたち・・・・・・?」
「ま、まさか、ずっと聞いてた・・・・・・?」
「答えな・・・・・返答によっては、タダじゃすまないよ・・・・・」
女性陣が揃って立ち上がり、各々の武器を構えた。たじろぐ男性陣。
「・・・な、何言ってんだよ、俺たちゃ今ここに来たばっかりだぜ、なぁフェイト!」
「そ、そうだよ、何も聞いてないって! なぁ、アルベル!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事はない。フェイトが見やると、なんだか不機嫌そうな様相のアルベルが。
「・・・ああ、知らねぇよ。せいぜい勝手に夢見てろ、クソ虫が」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


再度、時は止まった。





マリアの言葉。
わかりやすいわよ、彼は。

きっと、ウソがつけないタイプなのだろう。
ああ、話を本当に聞いていないのなら、あんな発言がなされるのはおかしいはずなのに。




「・・・・・・・なぁ、もしかしてあいつらは・・・・」
「・・・何だい、クリフ・・・?」
「俺たちのこと、本当はどうでもいいとか思ってるんじゃねぇのか・・・?」
「・・・・・少なくとも、あの会話を聞いた限りでは、クリフのことはどうでもよく思われてるかもしれないな・・・・・」
「・・・・・・・・・そうかよ」
「うるせぇぞ、黙って寝ろ阿呆」
『お前のせいでこうなったんだろっ!!』


 宿屋の入り口近く。薄暗い夜の星空を見上げながら、女性陣に宿屋を締め出された男3人は、それぞれに複雑な思いを抱いて街中で野宿するハメになっていた・・・・・





END





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