Raise the Wind

 

「はぁ・・・・・・欲しい・・・・でも高いなぁ・・・・・・」
 武器屋で一振りの剣を手にしたままため息をつく青年。
そんな彼の様子をジッと見つめる一人の少女。
なんとかしてあげたい。
そんな思いが、彼女を突き動かした。


「フェイトのためか、カワイイこと言うじゃねぇか」
「からかわないで下さいよ・・・・」
悪い悪い、と笑うクリフ。一方のソフィアはむくれてしまう。
「そう怒んなよ。・・・・しかし、だ」
クリフは周囲を見渡した。そこは、ペターニの工房内。
薄暗い内部にはやたらとものものしい槌やら工具やら置かれている。
そして当のソフィアはどこであしらえたのか猫型のヘルメットをかぶって、重そうなハンマーを一生懸命支えている。
「・・・お前さんにゃ、あんな剣作んのは無理だと思うぜ」
「でも!」
「だから、俺がやってやるっつってんのに」
「それじゃあ意味がないんです!」
やれやれと、クリフは肩をすくめる。
まぁ、気持ちはわかるのだが。自分でなんとかしようという、その心意気は彼も感心しているところだ。
しかし・・・・適材適所という言葉もある。
細くてかよわいソフィアが刀鍛冶なんて、無謀もいいとこだ。
「・・・ソフィア。発想変えてみろよ。無理にお前さんが剣を作らなくても、その剣を買えるだけの金を工面してやりゃいいんじゃねぇか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。そうですよね・・・・・!」
途端にソフィアは槌を投げ出して、ヘルメットを置いた。
「ありがとうクリフさん!」
「ああ・・・・・」
意気揚々と外へ向かうソフィアを見送るクリフ。
「・・・・普通は、逆だよな・・・・・・発想」


 いつの世でもそうだが、簡単に金を工面できるほど甘い世の中ではない。
ペターニの町並みを歩きながら、どうやって金を稼ごうか考えふけるソフィア。
と、前方に見慣れた仲間の姿を発見する。それで、ふと思いついた。
「あのー、アルベルさん」
呼ばれて振り向くアルベル。意外な呼びかけ相手に少し驚いたようだった。
「・・・・何だ」
「あの・・・・ちょっと協力して欲しいんです」
ソフィアは、剣を買うためにお金が必要だと事情を説明する。
「・・・・で、協力って何させるつもりだ」
「はい! モンスター倒してお金を稼ごうかと・・・・・・」
少し、反応するアルベル。根っからの戦い好き。
最近少し体がなまってたところでもある。
「フン、そういうことなら手伝ってやってもいい」
「え! 本当ですか!?」
「・・・・どれくらいの金が要るんだ?」
「ええと〜・・・・・・・・8万フォル」
  ガタガタッ
バランスを崩して近くの樽によろめくアルベル。
「・・・ま、待て・・・・8万だぁ!? 阿呆なこと言ってんじゃねぇぞ、んな大金どこにあるってんだよ!」
「うう・・・・・・でも・・・・・・・私だって・・・・・・・」
うつむいて落ち込むソフィア。うっすらと涙ぐむ。
その様子に、さしもの彼も少したじろぐ。
いつの世も、男は女の涙には弱いものである。
「・・・わかったよ、とりあえず行くから泣くな」
「ほ、本当ですか?」笑顔を見せるソフィア。
「でもテメェは来なくてもいい。邪魔だ」
「え、でも・・・・・・・」
返事も待たず、アルベルは北へと歩き出す。
比較的モンスターが強力なサンマイト草原方面。
ソフィアはジッとそれを見送った。
「・・・・・・どうしよう・・・」
彼だけに負担をかけるのも忍びない。
彼女は彼女なりに、さらに何かできないか考えた。


「どうしたの、ソフィア?」
 女の声。その声に、ソフィアは敏感に反応した。
彼女にだけは、事情を知られてはならない。そう考えながら、ソフィアは振り向いた。
そこにはマリアが腕を組んで立っていた。
「マリアさん・・・何でもないですよ」
「そう? さっきアルベルと何か話してたじゃない」
「そんな、大したことじゃないですよ・・・・・それじゃあ!」
足早に立ち去るソフィアに、明らかに不審を抱くマリア。
何か考えて、彼女もまた歩き出した。


 ソフィアはマリアから逃げるように街の東側にやってくる。
「あれー、ソフィアちゃん」
前方から駆けてくる、少女の姿。スフレだ。
「どうしたのー、何かあわててるみたいだけど」
「あ・・・・・違うのよ、スフレちゃん・・・・」
久しぶりに走ったから、息切れがする。運動不足だわ、と彼女は思った。
とりあえず、スフレにも事情を説明してみる。フェイトの名前は伏せて。
「お金が欲しいんだ、ソフィアちゃん」
「うん・・・・」
「んー・・・・・ならさ、バイトしたら?」
「バイト・・・・」
「そ☆ 例えば・・・・・酒場の踊り子さんとか」
「・・・・・・・・・それはちょっと私には・・・・・・・」
「ならねぇ・・・・・・流れの踊り子さん! その辺りで踊りを見てもらって、お金をもら・・・・・」
「あ、あの、スフレちゃん。踊り子さん以外じゃダメかな・・・・・・」
スフレはキョトンとした。
「・・・・・・・・・わかんない」
ソフィアは大きくため息をついた。


 トボトボと街を歩くソフィア。ふと、近くを見やると武器屋の看板。
そしてまたため息をつくソフィア。8万フォルは、大金だ。並大抵のことでは稼げない。
ああ、もっと自分に力があったら・・・・・才能があったら・・・・・・

   どんっ

「きゃあっ!」
ボーッとしてたら、武器屋から現れた人にぶつかった。
「あ、ごめん!! ・・・・・って、ソフィア!」
え? ソフィアはぶつかった相手を見やる。それは、フェイトだった。
「フェイト! あ、大丈夫・・・・?」
「ああ、僕は平気だよ、ソフィアこそ大丈夫かい」
「うん、平気・・・・・・・」
ふとフェイトに目をやったソフィアは、あることに気がついた。
フェイトが持っているもの。細長い形状で布に包まれている。
彼は武器屋から現れたのだ。
「・・・・フェイト、その剣・・・・・・・・」
「ん? ああ、さっき買ったんだ。ずっと欲しくてさ。・・って、なんで剣だってわかったんだい?」
「あ、その・・・・なんとなく・・・・」
「ははは、僕が持ってればそう考えるよな。
お金が足りなかったんだけどね、クリフとマリアが寄付してくれて」
え・・・・? ソフィアは耳を疑った。
クリフはまだいい。もう一人・・・・・マリアだって?
「お金がないんだったら素直に言えって怒られてさ、クリフに。周りに気を使わせるなってマリアにまで怒られちゃったよ・・・・・って、ソフィア?」
「・・・・・・え? あ、な、何、フェイト・・・・・・」
「二人に、ソフィアに謝れって言われて・・・・・何のことかわからないんだけど、ごめん」
「え?」
ソフィアも何のことかわからない。
・・・どうやら、金がなくて困ってたフェイトを見かねて、ソフィアが金を工面して回った・・・・とされているらしかった。
でもクリフは事情を知っているはずだが・・・・・・ソフィアは考えた。
もしかして、マリアに事情を尋ねられて、ソフィアの考えがマリアに伝わらないように誤魔化してくれたんじゃ・・・・・?
「気を使わせたみたいだね・・・・」
「ううん、いいのフェイト。良かったね、剣が買えて」
「ああ、ありがと」
二人は笑いあった。
打算もなにもなく、ただ彼の願いが叶ったことがソフィアは嬉しかった。




 ただ彼女は一つ忘れていた。



その日の夜、ボロボロになりながら鬼のような形相で、大金抱えて宿屋に舞い戻ってきた漆黒団長の姿を見るまで・・・・・・・





END





戻る