Snow Fight!

 


「みんな、おはよう!」

 アーリグリフの宿屋の寒い朝。
今日も雪はしんしんと降り積もり、寒さに身をすくめている仲間たちを見渡して、朝から明るく告げる青年一人。
そしてその傍らには同じ色の髪を持つ少女の姿。
そんな二人の姿を・・・・他の仲間たちは色んな思いの混じった視線で見つめた。

ホント、朝から元気なんだから・・・・・
異様に明るいな・・・・また何か企んでるんじゃ・・・・・・
寒くっても元気でないとね、見習わなきゃ☆
あー、寒ィ・・・・・・


「みんなそろったところで聞いて欲しいんだけど」
 少女・・・・マリアがみなを見渡して告げた。
「今日の雪の積もり具合は尋常じゃないみたいね。こんな大雪じゃ町の外になんて出られないから・・・今日は待機ね」
「それで」青年・・・フェイトが続ける。「せっかくだし、ここにいてもやることないんだし、みんなで雪合戦でもして交流を深めないか?」


ああ、要はそれが言いたかったわけか・・・・・


そう思った者4名、思わなかった者4名。

「雪合戦〜!? 面白そう! やろやろやろ〜!!」まっさきに諸手をあげたのはスフレ。
「オイラもやるじゃんよ!」続いてロジャー。
「運動苦手だけど、面白そうかも・・・・手加減してくれるんなら」同意を見せるソフィア。
「うむ、雪の合戦にて己を心身共に鍛えるのもまた精進じゃな」などとアドレー。

思わなかった者4名は参加の意思を表明する。が。

「私は宿で読書でもしようかと思ったんだけどね」とネル。
「めんどくせぇ。寝る」とアルベル。
「・・・・そんなコトする年じゃねぇしな・・・・」とクリフ。
「あら、クリフ。いつもなら面白がって参加するのではないですか?」とミラージュ。

思った者は微妙な態度。
そこへ、青髪コンビは追撃をかける。

「まぁまぁまぁまぁ。言ったじゃないか、交流を深めようって。
みんなで一緒に一つのことをすることで、みんなの意識を一つに・・・・・」
「どうせなら全員でやりましょうよ。でないと楽しくないじゃない」

「そうだよ〜! みんなでやろうよ〜!」
「宿なんかにこもって何もしねぇなんて男らしくないじゃんよ!」
スフレもロジャーも青髪コンビに加勢。
「アタシは女だけどね・・・・」
「ああっ、お姉さまはまた別ですよぉ〜。お姉さまはそう、例えるならまるで雪の妖精のように可憐で清楚なお方なんでございますよ」
「ロジャー・・・・・言ってて寒くならないかい・・・・?」
「そんなことありませんとも〜」
猫なで声でネルに擦り寄るロジャーに、冷たい一声がかかった。
「言っておきますけど、私も一応女なんですよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、いや、その・・・・・」
ミラージュにニッコリと微笑まれ、ロジャーは背筋が凍った。
「そんくらいにしといてやれよ、ミラージュ」
彼女の恐ろしさをよく知っているクリフが制止に入った。
しびれを切らしてマリアが告げる。
「で、やるのやらないの? ・・・・もっとも、やらないなんて選択肢はないわよ」
などと、おもむろに銃に手をかける。
「わ、わかったわかった・・・・・ったく、すぐ脅しかけやがって・・・・・・どんな教育受けたんだったく・・・・・」
「お前が育てたんだろクリフ」とフェイト。
「ばぁか、俺だけじゃねぇよ。ミラージュもだ」
「クリフも参加するのですか? それなら私も参加してみてもいいですけど」
ミラージュも参加を表明。それを確認して、青髪コンビの視線は残りの二人に向けられる。
「・・・・ったく、しょうがないね・・・・」あきらめたようにため息をつくネル。
「めんどくせぇな・・・・」言いながらも、場を立ち去らないアルベル。これは承諾の意思だろうか。
「決定ね」
ニッコリと笑って、マリアがみなを見渡す。
「で・・・・2チームに分かれて対抗戦やろうかと思ってるんだけど。負けた方は罰ゲームね」
「基本だよな」とフェイト。
「それはいいけど・・・・どう分かれるんだい」



 町の片隅にある、やや開けた広場に集まる一行。もう既に両サイドに分かれて陣営も整えている。
「ルールは二つよ! 相手チームを全員戦闘不能状態にしたチームの勝ち! 雪玉に石ころはつめないこと! 以上!!」
「戦闘不能って・・・・随分過激にやるんだな、マリア」傍らでクリフがつぶやく。
「あら、やるからには本気でやらないと面白くないでしょう?」とミラージュ。
・・・・クリフは頭を抱えた。
「がっはっはっは! そう落ち込むものではないぞクリフ殿! なぁに、実践さながらの演習だと思えばよい!」
落ち込むクリフの背中をばしばし叩いて高笑いするアドレー。
「がっ、い、いや、だからな・・・・・・」
「楽しまなきゃソンだよクリフちゃん☆」
またひときわ明るく響くスフレの声に、クリフはもうどうでもいいかと思った。

 一方・・・・
「・・・マリアにしてはぬるいんじゃないか、そのルールは・・・・・・。
若さあふれるナウでフレッシュなヤングチームの底力見せてやるさ! はっはっはっは・・・・・!」
「フェイト、その言い回しがもうフレッシュじゃないよ・・・・・」おずおずとソフィア。
「フェイトの兄ちゃんも面白いヤツだよなー」とロジャー。
「それに、向こうにだってスフレちゃんやマリアさんいるし・・・・・・」
「ヤングじゃねぇのはあのデカブツとオッチャンと・・・・・あ、いや、デカブツとオッチャンだけだよな!」
何かを言いかけて、あわてて言い直すロジャー。
・・・・おそらくその先を続けていたら、彼の運命は恐ろしいものに変わっていたに違いない。
「こんなもんでいいのかい、フェイト」
ずっと雪玉製作に取り掛かっていたネルが、フェイトを見上げる。
「ああ、十分だよ。ありがとうネルさん」
「私よりもこっちがやってくれたようなもんだよ」とネルはいまだに仏頂面のアルベルを見やる。
不機嫌そうな割には、真剣に作業している。
「ああ、アルベルもありがと〜」
「やめろ気色悪い」
「・・・・なんだよー・・・・・」
「そろそろいいかしら、フェイト?」
マリアの声。フェイトもそれに応える。
「ああ。じゃあゲームスタートだ!」


 始まりの声と同時に、早速雪玉の応酬が始まる。
率先してやり始めた子供衆も、始めは嫌がっていた大人連中も、いつの間にか真剣に、一つのことに取り組んでいた。


「よし、狙うはクリフだ。あいつを潰せば、かなり有利になるからな」
「誰が投げるんだい」
「僕がやるよ」
フェイトがおもむろに、大きく振りかぶって雪玉を投げつける!
狙いはクリフ。それをクリフも察してか、瞬時に身をかわす。




ごすっ




かなり鈍い音がした。
クリフが後ろを見やると、さっきの雪玉がアドレーに命中していた。
そして激しい振動を共に後ろに倒れ去る。これには驚くクリフ。
「な、なんつー威りょ・・・・」
「フェイト・・・・やってくれるじゃない」
マリアが、フェイトの投げつけた玉を拾い上げる。
雪に覆われたその中から、青光りする鉱石が姿を現した。
「・・・・サファイアですね」
「な・・・! あ、あいつら・・・・・!!」
クリフが思わずフェイトに文句をつけようとして・・・・マリアに止められた。
「マリア!?」
「・・・・・・フェイトに先手を打たれるとはね・・・・・気づいていたのね、裏ルールに」
「裏ルール!?」クリフとスフレが同時に声を上げた。
マリアは腕組みをして、さも当然のように。
「雪玉に石ころはつめない・・・・・逆を言えば、石ころ以外なら何をつめてもいい・・・・・・・ってことよ」
『!!!!』
「こっちでも準備してたんだけどね」
マリアは自軍の雪玉の一つを割る。中から黒光りする鉱石が・・・・・
「こうなればもう、総力戦ね。互いの手の内を探り合ってる場合じゃなくなってきたわよ」
話している間にも、フェイト軍から雪玉が飛んでくる。
雪の地面に落下して、割れた中から鉱石がごろごろと。
「・・・・あいつら・・・・容赦ねぇな・・・・・」
「こちらも遠慮する必要はなさそうですね」
と、ミラージュがいくつもの雪玉を手に、向こうの雪玉を巧みに避けながらフェイト軍に投げつける。



どごぉぉぉぉんっ



爆発が起こった。
「・・・・ミラージュ。何入れた?」
「電磁スタンボンバーですが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




「・・・・・くっ・・・・流石はミラージュさん・・・・ためらいのないキリングマシーンだ・・・・・・みんな、無事か!?」
「ど、どーにか・・・・・」
「私は大丈夫・・・・ありがとうフェイト・・・」
「アタシも平気だよ」
「ナメやがってあの女・・・・・・・・!」
何かが切れたのか、新たな雪玉を速攻作って半ばヤケ気味に敵陣へ放り投げるアルベル。
「ていうかその雪玉細長っ!!」
「なんじゃありゃあ!!」
棒状の雪玉(?)の襲来に、あわてて退避するマリア軍。
ざくっと音を立てて地面に突き刺さる。
「チッ・・・・・はずしたか」
「お前こりゃもう玉じゃねぇだろ!」
文句をつけるクリフの横で、ミラージュが解体してみると。
「・・・・・酒瓶ですか・・・・やりますね」
「瓶!!」
ていうかそんなものどうやって雪で包むんだ?
「ならこっちはこれでどーだっ!」
今度はスフレが彼女の頭ほどもあるような大きい雪玉をブン投げた。
フェイトたちも退避するが・・・・・
鈍い音を立てて落下し、ゴロゴロと転がるにつれ現れてきたその中身は・・・・・・・
「コ、コラッ!! スフレ!! シーハーツの大事な大事な至宝になんてことするんだいっ!」
激昂したのはネルだった。中から出てきたのは、セフィラだった。
「・・・これ当たったら死んじゃうかなぁ」
「無事では済みそうにないよな・・・」
「これでも食らいな!」
ネルもまた似たような大きさの雪玉を投げつける。やはりよけられるが、地面に落ちて雪玉も中身も割れた。
と同時にマリア陣地に放たれるすさまじい異臭。
「く、臭っ!!」
「ネ、ネル! アナタ、魔界のドリアン入れたわねっ・・・・!!?」
「ひゃあーーー、ハナが曲がりそう〜・・・・!」
「ふん」
「ネルさん、お疲れ様です」とフェイト。
「あの女もアレだが、こいつも相当の根性悪だな」とアルベル。
「・・それは、本人には言わないほうがいいと思います・・・・・」とソフィア。
「聞こえてるよ」

「やってくれるのう、あの女子も・・・・」
先ほどようやく目が覚めたアドレーが唸った。悔しがっているのやら感心しているのやら。
「アドレー! あなたからも一発、あの外道どもにくれてやって頂戴!」
「任せい!」
アドレーは猛々しく吼え、両手を上空に差し出した。
「エモーション・トーレン・・・・・!!」
『ちょっと待てーーーーー!!!』
あわてて止めに入るクリフたち。
「スキルは反則だろ!」
「そりゃ、確かにモノを投げつけるスキルだけどさ〜、限度ってものがあると思うな〜アタシ」
「クリフとスフレの言うとおりですよ」とミラージュ。「せめて、雪に包んで投げてください」

「そういう問題じゃないだろっ!!」
フェイト軍から文句があがる。
「理論は間違ってはいないけどね」
「ネルさんまで!」
「雪には石以外何をつめてもいいんだろ?」
「・・・・そりゃ、確かにそういいましたけど」
「だったら、これもアリだと思うだろ?」
ネルは数本のクナイを取り出し、施術で氷をまとわりつかせる。
「ネ、ネルさん! 凍牙ですかそれ!?」ソフィアが声を上げる。
「雪は固めたら氷になるんだ、間違ってはないよ」
「そ、それはそうかもしれませんけど・・・・・」
「大体ね」ネルは大きく息をつく。「アドレー様のアレを雪につつんで容認なら、これだって容認されるべきだよ。でないと差別だ」
「・・・・そ・・・それは・・・・・・その・・・・・・・」
「危ない! みんな避けろ!!」
フェイトの声に、ハッと顔を上げるとどでかい雪の塊がフェイト陣営の上空に投下されていた。
そのまま落下を待たずに崩壊した雪玉のその中には・・・・・・

「フェアリー・アーツッ♪」

素敵な妖精さん(身の丈2.5m)が上空から滑空してきていた。




どぉぉぉぉぉぉんっ・・・・





「やったか!?」
「よくあんな大きい玉投げられたわね・・・・流石に尊敬するわクリフ・・・・」
しかし、その瞬間。
彼らの目の前に1個の雪玉があった。






どぉぉぉぉぉぉんっ・・・・















「陛下、緊急のご報告申し上げます!」
「なんだ?」
 政務に追われ、忙しい日々を送っている、時のアーリグリフ王アルゼイ。
部下のただならぬ様子に、彼は眉間にしわを寄せた。
「はっ! アーリグリフ城下町において、原因不明の爆発が多数発生している模様!
爆心地と思われる広場に兵士が向かっておりますが、あまりの惨状に打つ手がない様子です。
・・・・それと・・・・爆発が起こる前に広場の辺りでアルベル様とそのお仲間の姿をみかけたとの情報も・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・ということは、これはもしや『彼ら』の仕業なのだろうか。


「・・・・わかった。引き続き調査にあたってくれ。・・・・・深追いはしないようにな」
「・・・・は、はっ」



「・・・・困ったものだな、救国の勇者たちにも」
言葉とは裏腹に、アルゼイは口の端に笑みを浮かべていた。





なお・・・・・超高精度ハイブリッドボムによって相打ち状態となった雪合戦の行方は結局引き分けになったそうだが、
破壊し尽くしてしまった町の復興を罰ゲームよろしく行っている一行の姿も目撃されたそうな・・・・・






END





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