The Triangle Quarrel

 

 その日は、なんてことない平和な一日だった。
「これくらいでいいの?」
「ああ、あんまりたくさん買っても邪魔になるしね・・・」
買い物を終えて道具屋から出てきたフェイトとソフィアは、珍しい光景にでくわした。


「いい加減にしろっ、しつこい女だなっ・・・!」
「うっさいね! アンタこそいい加減に観念しておとなしくしなっ!」
「冗談じゃねぇ! 大体テメェ、そんなモン振り回すんじゃねぇ!」
「アンタだって普段振り回してるだろっ」
「街中では振り回してねぇっ!」
「どうだかねっ」
「とにかく俺は絶対に嫌だからなっ!」
「アンタに拒否権なんかないんだよっ・・・!」


 右から左へと。
ペターニの大通りを駆け抜ける一組の男女。
まるで疾風が吹き抜けるごとく、凄まじいスピードで駆け抜けていった彼らを黙ったまま見送るフェイトとソフィア。
「・・・・・・・今の・・・・ネルさんとアルベルさんだよね・・・・」
「ああ・・・・・」
二人は顔を見合わせた。
「何があったのかな・・・・」
ソフィアの自然な問いに、フェイトはうーんと唸った。
「あの二人のケンカはいつものことだけどさ・・・・・でも今回はちょっとヤバイかなぁ?」
「え?」
「ネルさん、刃物振り回してたしなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人は、彼らが消えていった方向を見つめた。
「・・・わかった、フェイト! きっと、アルベルさんったらネルさんに隠れて浮気したんだよ! 絶対そうだよ!」
「・・・・・・浮気ねぇ。・・・・・まぁ有り得なくも無いな。アルベル隠すのヘタそうだしな」
同意してしまうフェイト。ソフィアは意気込んで続ける。
「ホラ、よくあるじゃない。服に知らない口紅とかついてて、『アナタ! この口紅は誰のなの!』『知らないよ』『ウソばっかり!! この前だってついてたわよ!』・・とかさぁ」
「・・・・・・・・・・・・いや・・間違ってもあの二人の間にそんな会話は成立しないだろ・・・・・・」
「・・・・やっぱり?」

「二人とも、そんなとこで何してるの?」
 道具屋の前でずっと立ち話していた二人に近寄る二つの影。
青髪の女性と大柄な男性。
「ああ、マリア、クリフ・・・・」
フェイトは事の次第を二人にも話す。
それを聞いてマリアは首をかしげた。
「・・・浮気は違うと思うけどね」
「そうですか?」
「だって、あのアルベルよ。浮気なんて器用なこと出来るワケないじゃない」
「あ・・・それもそうですね」
散々な言われようだ。
「あいつらのケンカなんていつものことだろ。そんな騒ぐことでもねぇんじゃねぇか?」とクリフ。
「確かにそうだけどな」
「どうせアレだ、またアルベルのやつがネルにくだらねぇこと言ってお怒りを買ったんじゃねぇのか?」
「くだらないことって例えば?」
マリアがクリフを見上げる。クリフはしばし考えてから・・・・・
「・・・・もっと露出を激しくした方が女ウケがいいのか? ・・・・とか?」
「バカだろお前」
フェイトが思わずつっこんだ。
しかし。
「女ウケを狙うなら、もっと優しくなればいいのよ。ねぇソフィア」
「そうですね・・・・・でも、あれはあれでいいんじゃないかな〜とか思いますけど」
「でもね・・・・・あれ以上出したら、そろそろ犯罪よね」
「・・・あ・・・お前ら・・・・冗談で話発展させなくていいって・・・・」
申し訳なさそうにクリフが付け加えた。
 とにもかくにも。
「本人に聞いてみるのが一番かな」
「そうね」
このまま放置しておくのも面白くな・・・いや、気が引けるので、彼らは手分けして二人を探すことにした。



「追いついたよ・・・・! さぁ、あきらめて戻るんだね」
「クソ虫が・・・・! 誰があんなとこに・・・・・!」
 幸か不幸か、ペターニの町外れでいがみあう二人を発見したのはフェイトだった。
「おーーい! 二人とも!!」
フェイトが近づく。二人は一瞬だけ彼に目をやった。
「みっともないね、漆黒団長ともあろう者がさ・・・」
「うるせぇ! 関係ねぇだろうが! テメェこそ、それでいいのかよクリムゾンブレイド!」
「時と場合によるね」
「あの〜・・・・二人とも〜・・・・・・」
改めて、二人はフェイトを見やった。
「何してるんだ?」
「見てわからないかい?」
ネルの言葉に、フェイトは二人を改めて凝視した。
どこぞの民家の外壁に背を預けてなんだか焦った表情を浮かべる漆黒団長と、そんな彼に刃物をつきつけて身構えているクリムゾンブレイド。
・・・よく見たら・・・・・・そのクリムゾンブレイドの持っている刃物は包丁で、何気にエプロンなどつけているではないか。
「・・・・・・何してるんだよ」
フゥと溜息をついて、ネルは構えをといた。でも包丁はつきつけたまま。
「この私が作った新作料理を味見してもらおうとしたら、コイツが問答無用に逃げ出したんだよ」
「・・・・・・・・はぁ?」
思わず、フェイトは聞き返した。しかし、二人の口論は続く。
「テメェ・・! あんなモン食ったら死ぬっつってんだろうが!」
「アンタ、人の料理にケチつける気かい? ねぇ、フェイト」
「・・・・・」
フェイトは少し考えた。そして出した結論は。
「そうだね、ネルさんの料理に間違いはないよ」
「ほらみな。フェイトもこう言ってるよ」
「それはテメェらの思い込みだっ!!」
フェイトはアルベルの文句をスルーし、アルベルの腕をつかむとネルに微笑みかける。
「ネルさん、事情を知ったからには僕も協力しますよ。僕はいつでもネルさんの味方ですから」
「え・・あ、ありがと・・・」面食らうネル。
「フェイトッ・・・・・!! テメェ後で絶対殺すっ・・・!!」
「できるのかい?」
「んなっ・・・!!」
「じゃあ、工房に戻ろうか。フェイト、そいつ逃げないように押さえててね」
「任せてて下さい」
「離しやがれ・・・・・!!!」


 かくして、フェイトを味方につけた(?)ネルは二人を引き連れて工房に戻ってきた。
戻ってきて・・・フェイトは思わず顔をしかめた。
ものすごい香辛料のきつい香りが充満していたため。
「これなんだけど」
ネルが運んできた料理を見て、フェイトは固まった。
それは鍋だった。
しかしながら・・・・・その汁は激しく赤かった。
「・・・ネルさん、これって・・・・」
「ん? ああ、超絶火鍋って言うんだって」
「言うんだって・・・・って、ネルさんが作ったんじゃ・・・・・・」
「ああ、色々手伝ってもらってね。ほら、アイツに」
ネルが指し示した先には、両手に包丁を握って振り回している殺人シェフの姿。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フェイトは、ちょっとだけ前言撤回を決めた。
ネルさん(の料理)にも間違いはある。アイツと組むなんて間違いだって犯すさ・・・
「・・・じゃ、アルベル。頑張れ」
「テメェ! これを見てもそう言いやがるかよ!」
「だって・・・食べるの僕じゃないし・・・」
「ブッ殺す・・・・・・!!!」
「フェイト、ついでだしさ」ネルの言葉に、フェイトはイヤな予感がした。「アンタも食べてみなよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」




「どこにもいねぇか・・・・」
「どこに行ったのかしらね・・・・・・」
 アルベルとネルを探せずに宿屋に戻っていたクリフとマリアが宿屋から出てきた時、珍しい光景にでくわした。


「だから言っただろうが、阿呆っ!!」
「悪かったよ・・・・・!! ってか、なんで僕まで巻き込まれなくちゃいけないんだよっ!!」
「テメェが勝手に首つっこんで来たんだろうが!!」
「コラーーーッ!! 二人とも待ちなっ!!」
「誰が待つか阿呆!!」
「ネルさんとにかく包丁はしまって・・・・・!!」
「フェイト!! アンタ私の味方するって言ってたじゃないかっ!!」
「ごめんなさいっ、ネルさん!! 僕だって命は惜しいんですーーー!!!」
「とにかく待てーーっ!!」


 左から右へと。
ペターニの大通りを駆け抜ける二人の男と一人の女。
まるで疾風が吹き抜けるごとく、凄まじいスピードで駆け抜けていった彼らを黙ったまま見送るマリアとクリフ。
「・・・・なんだありゃ?」
「さぁ? 仲のいいことね」
呆れたように肩をすくめて、二人は溜息をついた。
彼らを見た瞬間に感じた事。関わったら巻き込まれる、と。
「・・・・見なかったことにするか」
「それが賢明ね」
二人はまた、何事もなかったように宿屋の中へ消えていった。




END





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