Pretty Call

 

「えへへ〜、よろしくね! 張り切ってこーー!!」
 その少女は、クルリと一回転して右手を振り上げた。
スフレ・ロセッティ。
フェイトとソフィアは一度ハイダで面識のあった、ロセッティ一座の踊り子である。
ここは、ムーンベース。第5宇宙基地。
フェイト達はロキシ博士の研究所を調べるべく、ここを訪れていた。
そして、スフレと再会したわけだ。
フェイトとソフィアは面識があるが、他の仲間は初対面。当然ながら、スフレの興味は新たな友人達に向けられる。
「ねぇねぇ、みんなの名前教えてくれるかなぁ。ほら、一応仲間じゃん。ね?」
「ああ、そうだね」
フェイトは仲間達を振り返る。
「ソフィアの隣にいる女性(ひと)が、マリアさん」
「・・・マリア・トレイターよ。・・・よろしく」彼女はスフレの同行に反対していたためか、そっけない。
「・・・・それから・・・・あっちがクリフ、向こうがアルベル。わかった?」
「うん! マリアちゃんに、クリフちゃんに、アルベルちゃんね」

え?

聞き慣れない響きに一同(のうち数人)が固まった。
一方のスフレはニコニコして気にもとめていない。
「・・・・・フェイト」とクリフ。
「・・・・うん、そうなんだ。僕もずっとフェイトちゃんさ・・・・」遠い目をして呟くフェイト。
「あ、かわいいから・・いいんじゃないかな・・・」
ソフィアがフォローするも・・・そもそもフォローなのか?
「まぁ、彼女が言うからいいんでしょうね」呆れて溜息をつくマリア。「もう一歩譲って、ソフィアでもまだいいとしてもね」
「マリアさんでも大丈夫ですよ!」何故か意気込むソフィア。
「そうかしら」
「そうですよ!!」
「・・・・本当に? 例えば私が」マリアはフェイトに向き直った。「あなたを『フェイトちゃん』なんて呼んだらヘンでしょ?」
「・・・・・・・・」フェイトはしばし考えた。「・・・・いや・・いいんじゃないかな・・・・・・・」
マリアはキョトンとした。
「本当に?」
「うん」
「・・・・・・・そうかぁ・・・・私もまだ捨てたもんじゃないってことね・・・」
フェイトは顔をしかめた。そういう意味に繋がるようなことなのだろうか・・・
「なら、ここにいる間だけでもみんなをそう呼んでみようかしら」
と、突拍子もないことを言い出す始末。
「ソフィアもどう?」
「ええ?? ・・・あ・・・えーと・・・」
「そうしようよ〜、ソフィアちゃん! お仲間お仲間♪」
スフレも会話に加わり、一気に打ち解ける。スフレ同行に反対していたマリアも楽しげだ。
女性陣が何やら面妖な話で盛り上がっている一方で・・・・・
「・・・・・・女ってのは、好きだな・・」
格段に盛り下がっている男性陣。まぁ盛り下がるだけならまだいいのだが。
マリアが彼らを見やる。
「あなたたちもどう?」

 再び固まる一同(男性陣)。
彼女は・・マリアは・・・・時々こういう妙なことを言い出すのだが・・・・クリフは知ってはいても、対処する術もない。
「・・・・どう・・・って、どういうことさ?」とフェイト。
「フェイトちゃん達も〜、みんなでちゃん付けしたらきっと楽しいよ〜!」とスフレ。
いや、楽しいとは到底思えないのだが。
「なんで俺達まで付き合わなきゃならねぇんだ?」とクリフ。
「仲間じゃないの」
「関係ねぇだろ」
「クリフ、最初は私のこともちゃん付けだったわよね」
「いつの話だっての。あん頃はお前だってまだガキだったろうがよ。・・・・大体、なんでそんなにこだわるんだよ」
マリアは、髪をかき上げた。
「気が向いたから」
そうだ・・・・クリフは思った。気が向いたから行動に移すヤツなんだ、こいつは・・・・・
「決定ね」
マリアは軽やかに告げた。
もはや、反論など許されていないらしかった。
「・・・・あきらめよう、クリフ・・・・要は、呼ばなければいいんじゃないか・・」フェイトが呟く。
「・・・・・・・そうか、そうだな」
その刹那。
「エイミング・デバイス!!」
可視レーザー光線が、二人の間をかすめて向こうで火花を起こす。
「なんだ!? マリア、敵か!?」
「違うわ」マリアは手にした銃を降ろす。「フェイト、ルール違反よ」
「え?」
「今。クリフって呼んだでしょ。ルール違反。次は部分的に当てるわよ」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
ルール違反って・・・・・・・エイミングデバイスって・・・・・・そんなに厳しい遊びなんですか、これは・・・!?
「・・・・呼ばなきゃいいんだよ、耐えるんだ・・・・!」
「お、おう・・・そうだな、フェ・・・あ、いや、なんでもねぇ」
冷や汗と脂汗の入り混じった様相で、彼らは自分に言い聞かせる。
しかし、耐える必要があるのはこれだけではなかった。
「それじゃ、行きましょうか。フェイト『ちゃん』、クリフ『ちゃん』♪」

呼ばれる恐怖・・・・・・・

「・・・・いや、まぁ・・・考えようによっちゃあ・・・・」頭を抱えるクリフ。「カワイイ女の子になら、まだ・・・・って気はするわな」
「そうだな・・・・・・でも、男同士は絶対イヤだな」
「全くだ」
その時だった。
「おい・・・」別の低い声。
二人はビクッと体を震わせる。そういえば・・・・もう約一名、絶対にこんな関係を貫きたくない人物がいた・・・・
「さっさと先に進めよ、クリ・・・・」
待てッッ!! その先は言うな!! 俺の名を呼ぶな!! 呼んだらぶっ殺す!!」
「・・・・・・なら、フェ・・・・・」

「ブレードリアクタアアアアアアア!!!」

激しい衝撃がムーンベース内に震撼する。アルベルを狙ったわけではなかったが、とにかくフェイトはそうせずにいられなかった。おかげで誤魔化せたようだ。
「・・・・テメェ・・・・ワザとか・・・・?」とクリフ。
「くっくっくっく・・・・・阿呆共がうろたえるのを見るのも一興だな」
「なんだとっ、アルベ・・・・・!!!」
「ストーーーーーーーーップ!!!! クリフ駄目だ、その先は言っちゃ・・・!!!」
「離せフェイト、こいつぶっ殺す!!」

   カッ・・・・・・!

次の瞬間、激しい閃光が彼らを襲った。
そして、倒れ伏す二人。
「・・・・全く」頭を振るマリア。「根性がないわね、二人とも」
「・・・・・・・本物の阿呆だな」とアルベル。
「さ、行きましょう。スッキリしたことだし。あ、回復術かけてあげてね」
自分がやっておいて・・・・・
ソフィアが回復の紋章術を使う。複雑な思いで。
「・・・ありがとう・・・・・」
「・・・・・・・・早く行こうぜ。耐えられねぇ。研究所に着く前に死んじまう」
「ええ・・・・」
以後、ここで彼らはすっかり無口になってしまったらしい・・・・
そしてここを出てからも、時々マリアやアルベルにからかわれる日々がしばらく続いたという。




END





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