Sweet Sweet Parfait

 


「ちょっと小腹がすいたな・・・・・ちょっと喫茶店に寄って行かないか?」

 ペターニの街でのこと。買出しの帰り道。
大荷物抱えてヒィヒィ言ってるクリフを尻目にフェイトが、こんな提案をした。
同行していたソフィアもネルも特に反対もせず。
荷物を持って入るのは・・・と、クリフは最初渋ったが、「じゃあ先帰ってろよ。僕はソフィアとネルさんとお茶してくから」とのフェイトの発言に、なんともいえぬ悔しさに襲われ結局同意。
4人は近くにあった喫茶店に足を向けた。
「・・・・・なんだかボロい店だな」
フェイトの言葉どおり、店の外装は一部・・・・いや、かなり大部分破損しており、あまり見た目のいいものではなかった。
「おや、おかしいね・・・・・ここは最近出来たお店のはずだけど」
ネルがフォローを入れた。
「そうなんですか?」とはソフィア。
「そういう仕様なんじゃねぇのか? 客もいるみてぇだし、ここでいいからさっさと入ろうぜ」とクリフ。
4人は連れ立って、その喫茶店に入った。

「いらっしゃいませ〜★」

明るい声で出迎えてくれた、長い青髪の女性の姿が彼らの視界に入るのはその直後のことだった。



「・・・・マリア?」
「お客様4名さまですか、あちらのお席へどうぞ〜★」
 フェイトの呟きは軽くスルーされた。しかし、間違いなくそのウェイトレスはマリアだった。
疑問を抱いたまま、彼らは案内されたテーブル席につく。程なく、当のウェイトレスがお冷を持ってきた。
「・・・何やってんだ、お前」とクリフ。
マリアはニッコリと笑った。
「アルバイトよ。見てわかるでしょう」
「いや、そりゃわからんでもないけどな・・・・・なんでバイトなんかしてんだよ」
「ふふふふ、お客様〜、プライベートなご質問にはお答えできませんことよ★」
「いや、プライベートも何もな・・・・・」
ウェイトレスはお冷をテーブルに並べ、メニューを置いた。
「色々事情があるのよ」
「色々じゃわからないよマリア・・・・・」とフェイト。
「・・・・話すと長くなるけど、いいかしら?」
「・・・・・・・・・・ああ」
「そう、あれは昨日のこと・・・・・丁度この店の前を通りがかったときに、後ろをつけてくる不審な気配を感じたの・・・・」
「ちょっと待てマリア」クリフが遮る。「なんかよ・・・お前の言いたいことわかった気がする」
「ああ・・・・・」ネルもまた同意する。「これ以上はいいよ、マリア・・・・・・」
その一方でソフィアとフェイトは理解していない表情を浮かべていた。
「これはもしかしてストーカー!? と思ったわ」マリアは二人の呟きをも華麗にスルー。「いやもしかして何者かがクォークのリーダーである私の命を狙っているのかもしれない・・・とね」
「エリクールで、んなことあるわきゃねぇだろ」
「だとしたら、先手を打たれる前に迎撃しないといけない・・・そう思った私は、振り向きざま咄嗟に銃を発砲したわ」
「街中でかよ!!」
「そしたら・・・・・なんてことかしら、私の後ろをアルベルが歩いていただけだったのよ!
でも発砲してしまったおかげでこの店の外装にちょっぴりキズをつけてしまってね・・・・・・ま、早い話修理代を稼がなきゃいけないの」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
もはやどこから突っ込んだらいいんだろう。

「マリア・・・・とりあえずこんな場所で銃は使っちゃダメだろ・・・・」
「どこが『ちょっぴりのキズ』だぁ? メチャメチャだったぞ」
「アルベルが不審なのは認めるけどね」
「それにしてもマリアさん、ウェイトレス姿も似合ってますよね〜」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

一行は、しばし黙った。
「・・・で、注文はどうするの?」
沈黙を破ったのは、それまでの身の上話をアッサリと無いことにしたマリアの一声だった。
これ以上の問答は受け付けない。
そうともとれるまとめ方に、一行はもう追及するのをあきらめた。
「・・・・俺はコーヒーでいい」
「アタシはレモンティー」
「私は〜・・・・・イチゴケーキのセットをオレンジジュースでお願いします」
「そうだなぁ・・・・・このパフェおいしそうだよなソフィア」
「あ、ホントだね〜」
「おいフェイト、パフェなんて野郎が頼むモンじゃねぇぞ」笑いながらつっこむクリフ。
「いいだろ別に・・・・あ、僕フルーツパフェね」
「はーい、ご注文繰り返しま〜す。
ホットとレモティーとイチゴのセットOJ、フルP・・・以上ですね〜」
「どうでもいいけどマリア、お客に確認するときに名前略しちゃだめだよ」
「それではメニューお下げしま〜す」
意気揚々と、マリアは戻っていった。
「・・・・なんか、意外とああゆうのも似合ってるもんだね・・・・」片肘ついてネルが呟く。
「結構マトモにやってるよな。こんな場所で働いたことなんかねぇはずなんだが」とクリフ。
雑談に花が咲く一行。

 だが。
「あ!」
ソフィアが唐突に声を上げた。一行が注目する。
「ね、ねぇ、フェイト・・・・・パフェ頼んだの・・・・ヤバくないかなぁ」
「? なんでだよ」
「あのね、私の友達が喫茶店でバイトしてるんだ。それで色々話聞いたりするんだよね」
「うん、それで?」
「こういう軽食喫茶って、お料理は厨房で作るけど飲み物とか簡単な料理・・・パフェとかはお店に出ている人が作ったりするんだって」
「・・・・・って、どういうことだい?」よくわかっていないフェイト。
「・・・つまり」ネルが引き継いだ。「パフェなんかは中にいるコックじゃなくて、外にいるウェイトレスが作ったりする・・・ってことだろ?」
ここまで呟いて、一行の動きが止まった。




パフェは外にいるウェイトレスが作る
   ↓
今マリアはウェイトレスだ
   ↓
パフェをあのマリアが作る危険性がある




「・・・・ま、まさか。だって、昨日今日入ったばっかりの新人にそんなことさせないだろ・・・・・」
「で、でも・・・万が一ってことも・・・・・・・」
と、彼らの耳に入ってくる店員の会話。
「マリアちゃん、パフェとってきたの」
「はい★」
「だったら試しに1回作ってみる?」





ガタガタッ





顔を青くしたフェイトが無言で席を立ち上がる。
そして、無言のままマリアのいるところに詰め寄っていく。
「フ、フェイト?」
「・・・あの、パフェの注文取り消してもいいですか」
「え? なんでよフェイト」
「僕もコーヒーだけでいいです。まだ死にたくな・・・・あ、いや、おなかすいてないんで」
「・・・・・・・・・・・・ちょっと!」
マリアはぐいっとフェイトの腕を引っ張って店の片隅に。そして耳打ち。
「私が取ったオーダーの金額で、私のバイト料の査定されるのよ。キャンセルされたりしたら、バイト料が減っちゃうわ」
「そ、そんなの自業自得じゃないか・・・・・! 大体マリアはすぐに銃を乱用するんだか」
フェイトの顎の下で、ジャキッと聞き慣れた金属音がした。
「フルーツパフェ、1個ご注文でよろしかったかしら?」
「・・・・・は、はい・・・・・」
脅迫だ・・・・! フェイトは思ったが口には出せなかった。

 そして注文のキャンセルに失敗したフェイトは肩を落として皆の待つ席へと戻ってきた。
「・・・・・キャンセルできなかったのか」
「・・・・・ああ・・・・どっちを取っても死ぬという選択肢しか残されてなかったよ・・・・・・・」
「・・・まったく、マリアにも困ったもんだね」
「どうするの、フェイト・・・・マリアさんの作ったパフェ食べるの・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・仕方ないじゃないか」半ば自暴自棄気味な声色で。「例えパフェが動こうと鳴こうと光ろうと何かに変身しようと、マリアがそこで見ている限りは逃げられる術なんかないんじゃないのか!?」
「・・・・・・悲惨だね、フェイト・・・・」
「同情するぜ。協力はできねぇが」
「もしものことがあったら、レイズデッドかけてあげるから」
慰めにも似つかない慰めをもらい、さらに落ち込むフェイト。
彼はガラにもなくパフェなど頼んだことを激しく後悔した。


「お待たせいたしました〜」
 来た!
コーヒーとレモンティーとケーキと一緒に運ばれてきた、フルーツパフェ。
しかし・・・・・


((((・・・・意外と普通のパフェだ・・・・・・・))))


そう、見た目はごくごく普通のフルーツパフェだった。
今までの経験からしてマリアが手をつけた料理は、大概不気味に変色していたりしたものだったが。
となると、考えられるのは二つ。


1:他のウェイトレスさんが作った普通のパフェ

2:一見普通に見せかけた、マリア作、命の危険を感じる(2)パフェ


さて、一体どちらのパフェなのか・・・・・・

「試しに食ってみろ、フェイト」
「んなっ! き、危険すぎやしないか!?」
「でも、頼んだのはフェイトだしアンタが食べないことにはね」
「大丈夫だよ、フェイト! だって、見た目も匂いも普通だもん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
確かに。本当にまんま、普通のパフェそのものだ。一見。
しかし、もしもマリアが手がけていたりしたら・・・・命はないだろう。フェイトの背中を冷たいものがつたい落ちる。
「行け! フェイト!」
「がんばって、フェイト!」
「死ぬ気で挑みな、フェイト」
仲間の暖かい(?)声援を受け、フェイト・ラインゴッド(19)は目の前のパフェを見据え・・・・・・
全力を振り絞って少しすくって口に入れた・・・・・・!!!



「・・・・・・・・・ど、どう?」



「・・・おいしい・・・・・・・」

一斉にもれる安堵の溜息。
一方のフェイトはさらに次の一口も。信じられない表情で。
「そうか、マリアが作ったパフェじゃなかったわけだな・・・・良かったなフェイト」
「本当だね・・・・・命拾いしたね、フェイト」
「いいなぁ・・おいしそう・・・・・マリアさんが作るんじゃないんなら、私もパフェにすればよかったなぁ〜」
結構好き放題呟く仲間たち。そしてフェイトは驚きと生還の喜びに打ち震えながらかみ締めていた。
どこかなつかしい、そのフルーツパフェの味を。



「それじゃ僕らは帰るよ」
「ごっそさん」
「おいしかったよ」
「マリアさん、がんばってね〜」
「ええ、ありがと★ また来てね、もうしばらくバイトしてるから」
満足げにお帰りになるお客様の笑顔に、マリアも自然と顔がほころぶ。
「ああ、いいわ・・・これぞ労働の喜びってやつね・・・・」
などとガラにもないことを口走りながら。
「おい」
低い声が、奥から響いた。
「あっ、ありがと★ しっかし、本当にあなた甘いもの作るのうまいわよねぇ」
「・・・昨日から何回も問うたが、また問う。なんで俺がテメェの借金の尻拭いを手伝わなければならないんだ阿呆!」
厨房の奥から顔を出したるは・・・・昨日マリアにストーカーと間違われて狙撃されたアルベル・ノックス張本人だった。コックの格好で。
「あら、だって・・・あなたが私の後をつけてなければ、私が発砲することはなかったんですもの。でしょ?」
「テメェで勝手に間違えておいて、なんだその言い草は・・・・」
「あら、やる気?」
「フン、後悔させてやる」
隠し持っていた銃を構えるウェイトレスと出刃包丁を構えるコックが対峙。
「おい! 新人! いいから仕事しろ仕事ー!! 借金増やす気かーー!!!」
店長の怒声が響く。
「あ、はーい★ ほらほら、仕事しないと仕事」
「・・・ったく、なんでこの俺がこんなマネを・・・・・・・」


 そんな事実をフェイト達が知ることになるのは、行方不明になっていたアルベルを探しに再度店を訪れた、すぐ後のことであった。




END





戻る