Let's Join Everybody in Playing

 


 ある日のこと。
諸事情により彼らはディプロに集まっていた。
一体何の事情があるのかは知らないが、自分は関係ないとばかりに自室で睡眠をむさぼる男がいた。
しかし、程なくしてこの船の最強実力者である青髪の少女が部屋に入ってきた。
「寝てるの? 起きてよ、アルベル」
起きない。
少女はふぅとため息をついて、わざとらしく大きな声で。
「こんな時、私がネルだったらすぐに起きてくるんでしょうけどね・・・・・・」
・・・・・起きない。
これはいよいよ熟睡かと、少女はためらいもなく腰に下げていた銃を取り出してその音を立てた。
と、男ががばっと起きた。
「お早う、アルベル。・・・・朝じゃないけど」
少女はニッコリと笑う。男はただ首だけを少女に向けて彼女をにらみつけた。
「そんな目しないの。ちょっと銃を構えただけじゃあないの・・・・・ま、もしそれで起きなかったらもっとすごいことになってたかもね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「良かったわ、起きてくれて。もう少しでディプロに風穴空けてしまうところだったわ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それってつまり・・・・・・・・
「・・・・何の用だ」
男は深く考えるのをやめて、本題に移った。
「ちょっと付き合ってもらいたくてね。フェイト達も待ってるわ」
「なんで俺が」
「ネルもいるけど」
「どこだ」
「・・・・・・・・・・・」
単純だわ・・・少女は困ったように笑った。
「会議室よ。みんな揃ってるから、仕度できたら来て頂戴」
「・・・・・フン」
そっけなく返事したものの、男は5分程度で会議室に現れた。

そして、その光景に驚愕することとなる。




「お、来たぜ」
「おおーい! アールベルー!! 待ってたよーー!!」

とりあえず目に飛び込んできたのは、仲間たちの姿。全員いる。
そして、楽しげに手を振ってくるフェイトとクリフの周りにある、なにやらごちゃごちゃした機械の数々。
黒光りする眩しいものや、銀色に鈍く光る細長いもの、ド派手に色塗られた奇妙なもの。
少なくとも、アルベルにとってはどれも初めてみる代物ばかりだった。

「意外に早かったわね」
こちらを振り向きながら、マリアがいつものポーズで呟いた。
「やはり、ネルで釣ると簡単だわ」
「・・・・何吹き込んだんだい」
少し向こうでネルがマリアを睨むが、マリアは意に介さず。
「まぁまぁ、いいじゃないですかぁ〜」
と、ソフィアが二人の間に入ってなだめる。そして、今度はアルベルに向かって、
「そんなところに突っ立っていないで、こっちに来てくださいよ〜」
おいでおいでと手を振る。アルベルは何が何やらわからないのだが、どうもこの女のペースは苦手なので大人しく一団に近づいてきた。


ギュイィィィィィン


「うわっ!」
頭に響くような音がして、耳を塞ぐ。
すると、フェイトがさらに楽しそうに告げた。
「はは、ビックリした? 聞きなれないと結構くるもんなぁ」
「おい、フェイト不意打ちはしてやんなよ」
「だって、やっぱり最初はやんないとさぁ」
向こうで繰り広げられる青髪とマッチョの会話に耳を傾けるも、何の話なのやらカケラもわからない。
そういえば・・・・フェイトはなにやら珍妙な機械を手にしていた。どうやらその機械から鳴った音らしい。
「ほらほら、アルベル用のもちゃーんとあるんだよ、ほらー」
ことさらに楽しげに、フェイトは自身が持っている機械と似た感じの機械を取り出した。
「・・・・・・テメェら一体何やらかそうとしてんだ」
「ん? バンド結成しようかと思って」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

長い沈黙を破って発せられた言葉は、言葉にならなかった。
「おいおい、はしょんなはしょんな」
にたにた笑ってクリフが言う。
「そうだなぁ・・・・要するにみんなで楽団やろうってことなんだけど、それならわかる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「まだわからないのか、ええとつまり・・・・・・」
「・・・・・・言わんとしていることはわからんでもない。ただ、なんでそんな流れになってんだ。俺に何の関係がある」
「バンドといえばビジュアル系じゃないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
話がかみ合っているのかいないのか。
どうやら・・・・・つるんで楽団でもやろうと言うことらしいが・・・・ビジュアル?
「説明すると長くなるんだよねー。要は、イケメン(死語)揃えて超coolな(死語)バンドをプロデュース(微妙)しようかと」
「人間語で説明しろ」
「してるじゃないか」



1時間後。

「・・・・阿呆どもが・・・」
話の概要を聞いたアルベルの第一声。
「まー、趣味だよ趣味。戦ってばっかりじゃ疲れるだろ、息抜きも必要なんだよ」
「俺にとっちゃ戦いが趣味みたいなもんだが」
「・・・・まー・・・そこはそれ。これはこれ。こっちに置いといて・・・・」
「置くな」
「戦ってばっかりじゃ心に潤いがないだろうから、たまには芸術的なものに触れてみるのも教養だと思うんだ」
「必要ねぇ」
「いけずー」
「二人ともそれくらいにして頂戴」
押し問答まがいな会話にうんざりし、マリアが割って入った。
「アルベル、若気のいたりと思って付き合ってくれないかしら。すぐに飽きるわよきっと」
「あ、酷いなマリア! 君だって乗り気だったじゃないか・・・・」
「まぁね」
「・・・くだらねぇな・・・」
呆れてため息をつくが、立ち去ろうとしないところを見ると付き合ってやる気はあるらしい。
それを見通して、フェイトは例の機械をアルベルに手渡した。
「アルベル右利きだよね。なら左肩にベルトをかけて・・・・」
「つーかそんなナリで左利きだったら悲惨だよな」
後ろで呟いたクリフに睨みをきかせ、アルベルはしぶしぶ言うとおりにする。
「きゃーー! アルベルさんカッコイイーーー!!」ソフィアの黄色い声援。
「長身だとサマになるわね・・・・うんうん、イイ感じよ」とマリア。
「それはベースなんだ。パートの中でも一番重要なところだから、しっかり頼むよ」
「・・・・ふん」
「フェイト達は何をやるんだい」とネル。
「僕はリードギターで、クリフがドラムです」
「?」
「・・・・・僕がメロディーで、クリフが効果音です」
「ああ」
「ちょっと待てフェイト! なんだその説明は! オマケみたいに言うんじゃねぇよ」クリフからツッコミが。
「やだなぁ、クリフ・・・お前のパートが一番重要なんだから」
「お前それアルベルにも言ってなかったか」
「気のせいだってば」
「目をそらすな」
「ばんどってやつは効果音が一番重要なのか」
「ああ、間違った認識がっ!!」



さらに1時間後。

「よし! 曲になってきたな」
 満足げにフェイトが汗を流す。
「・・・・・これ、動かさなくても鳴ってるんだが・・・・・」
「ああ、いきなりやるのはムリだろうから、ベースギターはオート操作にしてるんだ。アルベルは立っていてくれればいいよ」
「・・・・・・・・・なんだそれは・・・」
「すごーい!! 感動しましたー!!」もうソフィアは感激しっぱなしだ。
「トーシロがいきなり始めたにしちゃ、いいデキなんじゃねぇのか」とクリフ。
「アタシにはそういうのよくわかんないけど、悪くないんじゃないかい」とネル。
おおむね好評のようだ。
「・・・・で、肝心なものが抜けてる気がするんですけど」
「まだ何かあるのか・・・?」
アルベルの問いに、ソフィアは爽やかに答えた。
「はい! ボーカルがいないと歌じゃないですよ」
「・・・・・・歌ぁ・・・・・?」
歌だったのか。
楽器みたいなものをかき鳴らして騒ぐことをばんどって言うんじゃなかったのか・・・・・・
「ああ、それなら・・・・・」
「私の出番ね」
颯爽と、ステージ(?)の中央に立つ青髪の少女。
「マリアさんがボーカルですか!? うわー! 歌うたえるんですねー!」
「ある意味適役だな」とクリフ。
「目立つの好きだもんな」とフェイト。
和気藹々としている中、一人だけは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「・・・・ねぇ、マリアって歌うまいのかい?」
「あら、愚問だわネル。ねぇ、クリフ」
マリアはクリフを見やるが、クリフはしばらく考え込んで答えた。
「・・・そういや、お前が歌ったの見たことねぇよな」
「そうなんだ。ますます楽しみだな」とはフェイト。
「・・・大丈夫なのかい・・・・・?」不安げなネル。
「頑張ってくださいー!」
「任せて頂戴。行くわよ、みんな! 魂のパーカッションよ!!」
「おーーー!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・アルベルはなんだかワケのわからないノリについていけなかった。
そして、さっきまで練習(?)していた曲を演奏し始める・・・・・






「あら、リーダー。ずいぶんと晴れやかな表情ですけど、何かいいことでもあったんですか?」
「ん、まぁね。スッキリしたっていうか、ストレス発散はできたわね」
「ところでクリフはどこに行ったか知りませんか? さっきから通信入れているのですが、いっこうに返事がなくて・・・・・」
「ク、クリフ? さぁ・・・・部屋で寝てるんじゃないかしらー・・・・・」
「そうですか」
ミラージュはさして気にするでもなく、再び作業に取り掛かる。
一方マリアは・・・・・・
「・・・大丈夫・・・よね・・・・・・・・まさか、死にはしないでしょ・・・・・・」
密かに会議室の出入り口にロックをかけた。そして心の中にしまっておくことを決意した。

しかし、嫌な予感がしてコッソリ抜け出していたネルによって、その事実が発覚してしまうのは間もなくのことだったのだが。





END





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