Pride of Battle

 

「ハァ・・・・・切ない・・・」
 雪の降る街角。寒々しい灰色の空を見つめ、ため息をつく男。
彼は今、ちょっとした病気にかかっていた。・・・・・恋煩い。
意中の女性は、年上の大人の女性。向こうは、自分など見てくれてもいないだろう・・・・・
しかも、やたらと彼女の周囲には男が多い。
一見爽やかそうだが、腹の底では何を考えているかわからない男(でも一番好き)、
図体ばっかりでかくて知能がついていってないマッチョ男(きっと全てが筋肉に違いない)、
いっつも人を見下していて鼻であざけり笑ってるいけ好かない男(服装の趣味が変だ)・・・・・
まさかこいつらに彼女がなびくなんてことはないだろうが、万が一ということもある。
早急に手を打っておかないと!!
「・・・やるぜーーーー!! ヤツラなんかに負けてなるもんかよ!! やるぜオイラは!!
待っててくださいネルお姉さま、きっと必ずこのロジャーが貴女を迎えに上がります〜」
雪の降る街角。寒々しい空の下、やたらと熱く燃える男。
ロジャー・S・ハクスリー。


「じゃあ、僕とマリアとアルベルで行くから、後のみんなは街で待機。あ、物資調達も頼むよ」
「オウ。任せとけ」
「じゃ、行こうか」
 彼らは、とあるものを探しにアーリグリフ城下町に来ていた。
それはどうやら地下水路にあるらしく、みんなでゾロゾロ行くことはないと二手に別れることになった。
・・・・・決定方法はジャンケンだったが。
とにかく、フェイト達が地下水路に向かい、待機組はクリフ、ネル、ロジャー。
何やら話し合う二人を見ながら、ロジャーはほくそえんだ。
お邪魔筋肉男はいるが、ここは男を上げる大チャンス!
頼れる男を演出すれば、ネルお姉さまも心動くに違いない!!
・・・・・こんなことばかり考えるから、いつまでも子供扱いされることに気づいていない彼だが、お構いなし。
「お姉さま!! 買い物に行くんでしょ〜、オイラが荷物持ちますよ〜」
ネルは意外そうな表情でロジャーを見下ろす。
「・・・・アンタが? 無理しなくてもいいよ、せっかくクリフがいるしね」
そのクリフに対抗するためにやるんじゃないか。
「大丈夫ですよ〜、オイラこう見えても力あるんですよ〜お姉さま」
「ほう〜・・・・」
明らかにバカにした口調で呟くクリフ。
「なんだよバカチン」
「お前がねぇ・・・・・ま、いいけどよ」
「うるせぇな! ちょっとぐれぇ図体でかいからってでかい面すんなよバカチン!!」
「なんだと? やんのかクソガキ」
「おう!! ボッコボコにしてやんぜ!!」
「ほざいてんじゃねぇぞ、チビ」
二人は互いに構えあった。そしてにらみ合う。
「私は買い物してくるよ、ケガしない程度にね」
一方、ネルは一人スタスタと店の方向へと歩いていく。
おっと、これじゃ意味がないじゃんよ! あわててロジャーはお姉様待ってください〜、と追いかけていった。
クリフはやれやれと肩をすくめて、後ろからついてきた。


 ネルが向かったのは道具屋。先程いた溶岩洞で色々道具を使い果たしてしまったので、その調達である。
彼女は店頭で考えながら色々見回る。
「お姉様、オイラがお荷物お持ちいたします!」
「・・そう、なら頼もうかな」
よっし! 心の中でガッツポーズ。少しでも、頼られる男を目指さねば。
一方のクリフは事の成り行きを見守っている。
「ええと・・・・・ブルーベリィが15個にブラックベリィが12個・・・・・」
ロジャーが抱えた買い物カゴに次々と商品と入れていくネル。
「スィートポットが13個にミックスシロップが9個、フレッシュセージが18個・・・・・」
次々入れられる商品の量の多さに、ロジャーは少し不安な表情に。
「フェイトがスーパーボトルも買ってくれって言ってたっけ・・・・・20個、リキュールボトルが7個、マイトビーズが7個・・・・・・」
「・・・・お、お姉様・・・・・」
「ん?」
いっぱいに山に積まれた買い物カゴを両手で懸命に支えながら、ロジャーは声を振り絞る。
「・・も、もう入りきらないですよ・・・・・・」
「じゃあ、もう一個カゴ持ってきて」
「はぅっ!!」
彼はチラリと入り口を見やる。ニヤニヤしてこちらを見ているクリフの姿。
カチンとくる。
「おい。バカチン。これ持っとけよ」ロジャーはいっぱいの買い物カゴを差し出した。
「はぁ? なんでだ。おめぇが持つんじゃなかったのかよ?」
「うるさい!! オイラの腕じゃカゴ二つ持てねぇんだよ!」
「はっ。無理するからだぜ」
「うるさいっつーの!!」
「ロジャー、カゴ持ってきてってば」
「あ、は、はい!」
ネルお姉様の催促が来る。しょうがないので、いっぱいのカゴを近くに置いてそちらに向かう。
それを見てクリフはしゃあねぇな、と笑った。

 結局この後もネルは次々と買い物をし、カゴ3つ分も購入したわけだが。
「持てる? ロジャー」
「だ、ダイジョウブですよ、このくらい〜・・・・・」
いっぱいに詰まった大きな袋を背中にしょって、苦悶の形相でネルに笑いかけるロジャー。
意地を張って、全部持つなどと言ってしまったからなのだが・・・・・・
「全く・・・・・テメェも大概バカだよな」呆れるクリフ。
「うるせぇ・・・・・!!」
文句はつけるものの、荷物の重さで動けない彼はつっかかることが出来なかった。
「・・・・・・・しょうのねぇガキだぜ」
「うわっ!!!?」
ロジャーはひっくりこけた。いきなり、背中の荷物が軽くなったためバランスを崩してしまったのだ。
驚いて後ろを見ると、大荷物をクリフが抱えている。
「ま、努力は認めてやってもいいがな」
と、スタスタと歩き始めるクリフ。
「・・・・・なんだよ・・・・・テメェ、オイラの役目を・・・・!!」
「落ち着きな、ロジャー」ネルが諌める。「大人しく、アイツに任せておきなよ。力だけは有り余ってんだからね」
「・・・・・・・うう・・・・・でも・・・・・・」
「・・・ま、アンタも頑張ったね」
「・・・・・・・・お姉様」
ネルはロジャーに薄く笑いかけると、クリフが歩いていった方へと歩き始めた。
ロジャーはへたりこんだまましばらく呆然としていたが。
とりあえず・・・・・・男の株は上昇したみたいだ。
「・・・・・・・ま、いっかぁ」
よっ、と彼は立ち上がり、急いでネルの後を追いかけていった。
少しずつ、男を上げていけばいい。今回はテメェの勝ちでいいさ、デカブツ・・・・・
でも、次は負けねぇかんな!


 それ以来。ロジャーは何かと他の男性陣と張り合うようになった。
だが、戦闘面でアルベルと張り合ったり、アイテムクリエイションでフェイトと張り合ったりと、何故か勝ち目のない勝負ばっかりしていることに、悲しいかなロジャーは天然で気づいていなかったのであった。




END





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