Intellectual Desire

 

 少し前から、ちょっとだけ気になっていた。
戦闘中もついつい、そちらを見てしまう。細い腕、華麗に舞う肢体から繰り出される一撃。
一体どうなっているのだろう。知りたい。
多分永遠にわからないのかもしれないが、それでも知りたい欲望は尽きることはなかった。

ある日、彼は意を決した。



 交易都市ペターニのうららかな昼下がり。休息を兼ねて立ち寄ったこの街で彼らは時間を過ごしていた。
「マリアさん、このくらい買えばいいですか?」
「そうね・・・・多く調達しておくにこしたことはないわ」
「・・・・でも、その大荷物を持ってるのは僕らなんだ、ってコトを頭の片隅にでもとどめておいて欲しいなぁ・・・・・」
「だらしねぇなぁ、兄ちゃん」
「チビっこいからって荷物持ち免除されてるヤツが偉そうに言うんじゃねぇよ!」
「俺まで付き合う義理があんのかよ・・・・・帰るぜ」
道具の買出しに来ていた一行。楽しげに買い物するマリアとソフィアを尻目に、大荷物抱えてヒィヒィ言ってるフェイトと、口ゲンカし始めるクリフとロジャー、付き合わされて来たものの引き返したアルベルと。
いつもの光景だった。

しかしこの時彼は一人きりになった。それが、きっかけ。


 宿屋には彼らの旅の荷物が置きっぱなしになっている。街をウロつくのだからと、皆武器も置いていっている。そこに、彼は目をつけた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ヤツは当分帰ってこねぇか・・・・・」



「はぁ〜・・・全く、あのデカブツはどうしようもねぇな」
 一方。クリフとの口ゲンカの末「テメェ邪魔なんだよ、宿屋に帰れ!」と追い立てられたロジャー・S・ハクスリーが、ブツブツ文句を言いながら宿屋に戻ってきた。
街をブラブラしてもやることがないので、あのプリン頭でもからかうかと命知らずな企みを抱いていたのだが。
当のアルベルは、彼の部屋にはいなかった。てっきり寝てるのかと思っていたのだが。
ロジャーはブラブラしながら探し回る。

    ガチャガチャガチャッ・・・!

「!? な、なんだぁ?」
金属同士がぶつかったような、けたたましい音が響く。
どうやら、マリアの部屋からのようだ。あわてて行って見ると、何故かバッタリと部屋から出てきたアルベルに出くわす。
なんだか、『こりゃヤバイ』っぽい表情を浮かべて。
「・・・・何やってんだよお前ー・・・マリア姉ちゃんの部や・・・・」
「うるせぇ! いいから向こうに行け!」
焦っている。これは面白いことになってそうだと、ロジャーはニヤリとした。
「言ってやろ〜かな〜、マリア姉ちゃんに」
「!!」
「留守中に部屋に入られたっつったら、どんなに怒るかなぁ・・・・・・」
「テメェ・・・・・もしもあの女に言ってみろ・・・」アルベルは刀の柄に手をかける。「命はねぇぞクソガキ」
「ぐっ・・・・なんだよ、お、脅せば済むとお、思ってんのかよっ」そして強がってみてもちょっぴり怖いロジャー。
しかし・・・・・・これは、何かやらかしたに違いない。
「スキありっ!」
「あっ!」
小さい体を利用して、まんまと部屋に侵入するロジャー。
部屋は別段変わったふうでもなかったが・・・・・テーブルの上にそれはあった。
マリアの銃だった。
ただ、普段と違いいくつかの部品が散らばっていた。
「・・・・・・・・・・解体したな?」
「・・だ、誰が・・・・・・」
「甘いな、兄ちゃん。こーゆーのはトーシロがやると、組み立て不可能なシロモンなんだぜー。
・・・・・・これがマリア姉ちゃんにバレたらどうなるか・・・・・・・・」
「ま、待て・・・・・・おいテメェ、その口ぶりだと素人じゃねぇって感じだな」
ロジャーは椅子に座ると、ふんぞりかえった。
「ま・ぁ・な〜。こう見えてもオイラ、機械作業は得意でさー。
ん? なんだね? どうして欲しいのかね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
生意気に威張りくさっている少年(クソガキ)を睨んで、歯軋りするアルベル。
そもそも自分が種をまいてしまったのだが。
結構前から、光が飛び出るマリアの武器に興味があったのだ。一体どういう仕組みになっているのか・・・・・
しかし機械には疎いアルベルのこと、眺め回していじっていたら分解してしまった。こりゃヤバイと、無かったことにして部屋から出ようとしたところ、この少年(クソガキ)とはちあわせしてしまった・・・・・・不運だ。
だが、考えようによっては。機械に詳しい(らしい)ロジャーに直してもらえば、本当に無かったことに出来る。出来るが・・・・・・・
「・・・・・・(こんなガキに頼ろうってのか・・・・・クソ、腹立たしい)」
「どうだね〜? 一つ協力してやってもいいぜ〜?」
「・・・・・・・何?」
「コレを直してやる代わりに、オイラの言うことを聞いてもらうぜ。悪い話じゃないじゃんよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・要求は何だ・・・」
ロジャーはニンマリとした。
「オイラは心優しいからな、そんな無茶なコトは言わねぇから安心しな。
条件は一つ! 麗しのネルお姉様はオイラのモノだかんな、手ェ出すんじゃねぇぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんでそこでネルが出てくるんだ・・・・? 大体、手なんか出してねぇよ・・・・・・・
アルベルは深い疑問にとらわれるが、そんなことを気にしている場合ではない。
もしもこの事態がマリアにバレたら、制裁どころの話じゃなくなるかもしれないのだから。
「・・・・好きにすりゃいいだろうが・・・・もっとも、あの女がテメェになびけばの話だろう」
「うぐっ・・・・・!! ・・・・まぁいいじゃん、ではメラ優しいロジャー様が、直してしんぜよう」
と、ロジャーはテーブルに向かって何やら作業し始めた。アルベルは部屋の外で待つ。
作業開始から数分後。







      ボンッ






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 修理とは明らかにかけ離れた爆音が響く。チラリと見やると・・・・・・
くろこげで転がってるロジャーと、銃『だったもの』がそこに。
「・・・・・・・トドメ刺しやがったか・・・・」
「・・・・・・・・・げふ」
ロジャーはヨロヨロと起き上がると、咳き込んだ。
「どうした。得意なんだろう」
「・・・・・時には失敗することだってあるじゃんか・・・・はっはっはっはっは・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
もう、引き返せない。
「・・・・・そもそもお前が銃壊したからじゃんかよ」
「ああん? 偉そうなツラで直してやるとかほざいといていいザマだな」
「うるせぇ!! 協力してやったってのに、感謝くらいしろよな!」
「フン、そんな義理がどこにあるんだ? 直すどころか、さらに壊しやがったクセによ。
これじゃ、テメェの条件とやらも呑めねぇな」
「んなっ!! ネルお姉様はオイラのだーーー!! テメェなんかにゃ渡さねぇかんな!!」
「うるせぇガキだな・・・・・いいから行くぞ」
「? どこにだよ」
「こっから逃げるに決まってんだろうが」



 !



そうじゃんか・・・・無かったことにしてしまえばいいじゃんか!
ロジャーはよっと立ち上がり、部屋の外へと向かう。
「・・・・いいか、誰にも言うんじゃねぇぞ」
「オウ! 男同士の秘密ってヤツだな!」
妙な仲間意識も芽生え、彼らは何事もなくその場を立ち去った・・・・・が。


「ちょっと待ちなさい」



凛とした声に、彼らは反射的にダッシュで逃げ出した!
「コラ! 貴方達、女の部屋に入り込んで何してたのよっ!!」
丁度買出しから戻ってきていたマリアが、すかさず二人を追いかける。

ただこの時マリアは、部屋に入られたことだけを追う目的としていたのだが、この後真相を知ると、彼女は修羅へとその容貌を変えたのは言うまでもない話・・・・・




END





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