Which is ・・・・

 

 彼らの世界とはかけ離れたもう一つの世界。
世界の概念こそ違ったが、人々の感情そしてその営みは普遍のものであった。
ここは、ジェミティ。仮想現実を現実とした街。


 休憩所で一時の休憩を取っていた彼らのところに、一人離れていたソフィアがやってきた。
顔を真っ赤にして。
「どうしたんだ、ソフィア?」
フェイトが問う。彼女は困ったようにモジモジしていた。
「あ・・・あの・・・・その・・・・・・・」
「私が聞くわ」
ソフィアの様子に何かを察し、マリアが彼女に近づいた。
少しの間二人で何かを話して、やがてマリアがこちらを振り向いた。
「いい? ソフィア」
「は、はい・・・・」
「どうやら彼女、こんなものもらっちゃったみたい」
マリアは手の平サイズの紙をピッと差し出した。それは、封筒のようなもの。
片面に、赤いハート型のシールが貼られていたり。
「・・・・・ラブ・・レター・・・?」
「そういうことね」
それで、赤くなってたのか。フェイトはなんとなく納得した。
彼女は、困って戻ってきたはいいものの、男性が多いし中々切り出せなかったという。
「・・・・・ソフィアも中々やるじゃねぇか」ニヤニヤするクリフ。
「何もやってませんよぅ! いきなり、知らない人から渡されて、どうしたらいいか・・・・」
「・・・・ソフィアの好きなようにしたらいいんじゃないのか」やや、面白くなさそうに呟くフェイト。
「お? 兄ちゃん、ヤキモチじゃんかよ」すかさずロジャーがつつく。
「違う! 何言い出すんだ!!」
「またまた照れちゃって。こういう時に自分の気持ちに素直になるのも男ってモンだぜ」
「違うって言ってるだろ〜〜〜〜!」
「ぐぇぇぇーーーーっ!!」
照れ隠し(?)にロジャーを締め上げる(!)フェイト。
「フン・・・・くだらねぇ嫉妬だな」さらに追撃をかけるアルベル。
「だから違うって!!」
さんざんつつかれるフェイトを尻目に、ソフィアは真っ赤になってうつむいてしまう。
「それくらいにしとけ。ロジャー死ぬぞ、フェイト」クリフがなだめに入った。
納得いかない表情でロジャーを放すフェイト。
そして、気を落ち着けようと置いてあったコーヒーに口をつける。
「興味ないなら、断るのが妥当よね」とマリア。「それとも、試しにFD人と付き合ってみる?」
「やめてくださいよ! ・・・・ちゃんと、断ってきます・・」
皆に話して落ち着いたのか、ソフィアはしっかりと心を決めたようだ。
ペコリと頭を下げ、ラブレターの主を探しに走っていった。
「FD人でも、恋愛とかするわけねぇ・・・」
しんみりと呟くマリア。
「そりゃするだろ」答えたのはクリフ。
「でも、私達は・・・・・(この世界の人間では・・・)」
「ヤツらはンなこたぁ知らねぇだろ。同じだ。他の連中とな」
「そうか・・・」
「・・・・・・・」
何か考え深げに呟くマリア。その仕草に、クリフは何となく嫌なものを漠然と感じた。
「なら、私だってそういう対象になってもおかしくないわけよね?」
男性陣は顔を見合わせる。
どうやら・・・・・フェイトのみならず、マリアも少なからずヤキモチ焼いているらしかった。
彼女はラブレターなんかもらって、私はどうなのか・・・・・と。
「好みの問題だと思うけどね」とはフェイト。
「そりゃそうだ。お前みたいなジャジャ馬が好きって物好きもいるだろ・・・・って、銃はしまえ!!」
マリアは黙って、クリフに向けて構えた銃を下ろした。
「・・・・私とソフィア・・・・・男の人から見たら、どっちが好みなのかしら」
彼女の素朴な疑問。
これが、事の発端だった。

 男性陣は再び顔を見合わせる。
「うーん・・・人それぞれじゃないかな・・・・・」曖昧に返事するフェイト。
「じゃあ、答えてよ。皆に聞くけど、私とソフィアとどっちがいい女だと思う?」
一同は一瞬考えた。マリアは銃を持っている。
この状況で、果たして公平な選択ができるだろうか・・・
彼女は一同を見渡して、手始めに一番年下のタヌキ小僧に近づいた。
「ロジャー。素直に答えてね。・・・男でしょ?」
「・・・・・・・オ、オイラからかよ・・・・・」
彼は救いを求めるように周囲の大人たちを見渡すが、誰も彼に視線を合わせようとしなかった・・・・
「あ・・・・・えーと・・・・・その・・・」
ロジャーは様子を伺うようにマリアを見やる。笑顔だが、目はあんまり笑っていない・・・・
「オ、オイラ、どっちも選べないですよ・・・・だって、オイラにはネルおねいさまが・・・・」
口上はそこで中断された。マリアが彼の両頬をひっつかみ、左右に引っ張ったから。
「他の女のことはどうでもいいのよ。わかる? 今は、私かソフィア。いい?」
「ほんふぁこふぉいはへへも、おいふぁにふぉえはふふぇんひは・・・・・!
(訳:そんなこと言われても、オイラにも選ぶ権利が・・・・・!)」
「なんですって? 聞こえないわ。もっとハッキリ言って頂戴」力を込めるマリア。
「ひゃふぇふぇはひんふぁっへほ!! (訳:喋れないんだっての!!)」
「・・・・マ、マリア・・・そろそろ・・・」
彼女の本性に畏怖しながらも、なだめてみるクリフ。
マリアはその手を離すと、頭を振った。
「やだ・・つい興奮しちゃって・・・・・ごめんなさいね、ロジャー・・・・」
いまさら言い訳しても、もう無駄だって・・・・皆が思った。
「まぁ、ロジャーはまだ子供だし、保留ってことにしておくわ」
子供ってことで保留にするくらいなら、最初から脅しかけんなよ・・・・皆が思った。・・言えないが。
「それじゃあ・・・・クリフはどうなのよ」
「俺? ・・・・・マリアには悪いが、俺はソフィアを推すな・・・って、銃構えんなって!」
「理由は?」銃を下ろすマリア。
「理由? そりゃ、俺はお前をガキの頃から知ってるし、『女』って認識あんまりねぇんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
もの言いたげだが、それでもどこか納得させられる理由に黙るマリア。
確かに、クリフにとってマリアは『妹』とか、ヘタしたら『娘』くらいの認識かもしれない。
 彼女は再度頭を振った。
やはり、子供やら育ての親やらにこんな質問は間違っていたようだ。
「アルベル」
彼女は、向こうでそっぽ向いている青年を見やった。
「キミの意見も聞きたいわ。どう?」
彼は、ゆっくりとこちらを見た。そして少し考えて・・・・
「・・・・・どちらか選べってんなら、お前だな」
「えっ?」マリアの表情が一気に明るくなった。
しかし。
「あの女よりは戦いがいがありそうだ」
その笑顔は一気に凍りついた。
「・・・・・えーと・・」こめかみを押さえながら、搾り出すように呟くマリア。「・・・もうちょっと・・・違う視点で見て欲しかったわ・・・・」
その一方で男性陣は爆笑。
そちらを一瞬睨み、マリアは頭を整理する。
理由の如何はあれど、獲得票は自分もソフィアも一票ずつ。
次こそ、決選投票なのだ。
「・・フェイト」
その抑揚のない声に、フェイトはギクリとした。そして、今置かれた自分の立場を改めて認識する。
マリアとソフィア、1対1。最後の一票を投じるのは、自分であると・・・・・
「あとは、キミの意見ね・・・・・さぁ、答えて頂戴。私かソフィアか、どっちなのか!」
「あ・・・いや・・・その・・・えーと・・・」
 改めて思う。マリアは銃を持っている。
ここでもしもソフィアと答えようもんなら、即座に狙撃されてしまうかもしれない。
でも、だからといって脅されてマリアと答えるのも、逆に彼女に失礼な気もする。
フェイトは考えた。他の3人のような、当たり障りない(?)理由を!

「・・・・あ、ど、どちらも素晴らしくて選べないよ・・・・・」

 ベタだ・・・・皆が思った。しかし、マリアには。
「あ、あら、そう? そうかしら・・・」
「そ、そうだよ! マリアにはマリアの、ソフィアにはソフィアの魅力ってものがあるんだから、一概に選ぶなんて無理だよ」
「あら・・・ありがとフェイト」
今までの回答がアレだったためか、単純に誉められて気をよくしてしまったようだ。
それが『フェイトに言われた』からなのか、定かではないにしろ。
とりあえず、マリアが大人しくなり今回の一件はこれで収束した・・・・・かに見えた。
ソフィアが再び、真っ赤になって戻ってくるまでは。

「あ・・・・あの・・・・」
 またマリアが話を聞き、振り返る。鬼のような形相だった。皆に緊張が走る。
「また・・・・もらったみたいよ・・・・」
ピッと差し出された封筒。一枚ではなかった。
黙り込む男性陣。
「どういうことなのかしらね・・・・・・・」
怒っている。なんだか怒っている。それは、今しがた来たばかりのソフィアにも感じ取れたほど。
どうにか、彼女を納得させる理由を探さなければ!! 一同は思案した。
クリフが閃く。
「そ、そうだ! マリア、ホレ、アレだ。
俺たちは、ここじゃあキャラクターのコスプレしてる一団ってことになってるだろ。
きっと、そいつら、ゲームキャラが好きなんだ。だから、コスプレしてるソフィアにだな・・・・」
「そ、そうか! そうだよ、マリア!
ソフィアにっていう意味じゃなくて、キャラクターって意味でファンってことじゃあないのかな」フェイトも援護する。
「あ、そうですよ!! そうなんです!」よくわからなかったが、ソフィアも同意する。
それには、マリアもふぅん、と唸る。
「・・・・成程・・・・・・『キャラクター』って意味か・・・・・・・」
怒りが収まった! ホッと一息つく一同。
そこへ!!

「ならテメェはそういう意味でも好かれてねぇってことか・・・・」






 空気が、凍りついた。


 フェイトは恐ろしくてマリアの方を見ることができなかった。
なんてことぬかしてくれたんだ、このシッポ髪男・・・・・・
「・・・・・・・・そう・・・・」
ジャキン、と銃を構える音が冷たく響き渡った。
そして、無言で乱射!!
皆死に物狂いで緊急退避!!
「馬鹿野郎っ!! 空気読め、空気!!!!」
「一言余計だっての、このバカチン!!!」
「止めてください〜!!」
仲間達の悲痛な叫びに、当事者アルベルの答えは。
「やはり、戦いがいがあるな」

『責任取れーーーーーーー!!!!』




 この日、ジェミティ市に激しい血の雨が降ったという・・・・





END





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