Their's Agitated Mind

 

「ねぇ、これは一体なんなんだい?」
「知るか」
「何だい、それは。全く、頼りにならない案内役だね」
「テメェが勝手に案内しろっつって引っ張ってきたクセに、何ぬかしやがる」

 ここは、FD世界のテーマパーク、ジェミティ。
エターナルスフィアを模した、巨大な仮想現実空間である。
FD人達の娯楽の集大成であり、日々訪れる人も絶えず賑わいをみせている。
そんな中、一風浮いた格好の男女がもの珍しそうに歩き回っていた。

「大体、アンタ達の話聞いても、正直わからないことだらけなんだよね。
アタシ達の世界以外にも世界があるってだけでも驚いたってのに・・・・・さらにコレか」
「安心しろ、俺もちっとも理解してねぇ」
「・・・駄目じゃないか・・・」
「わからなくてもいいんだよ。要は、敵をブッ潰すだけだ。他に理由はいらねぇよ」
「・・・・・・・・アンタは単純でいいね・・・ある意味うらやましいよ」

 はたから見ていると、口げんかしつつも仲のいいカップルに見えなくもない彼らは、歩きつかれたのか近くの休憩所に腰を下ろす。
この街はかなり広いため、全てを回るには多大な時間が必要である。
案内とか言って歩き回っていた彼らだが、おそらく全体の三分の一も見ていないであろう。
彼女が、周囲を見渡し始める。ある一箇所に目を止め、手持ちのフォルを数え始める。

「何やってんだ」
「喉が渇いてね、何か飲み物が欲しいかな・・・って」
「好きに飲めばいいだろうが」
「だから好きにするよ。いっとくけど、欲しいっつってもあげないよ」
「いるか」

 彼女は一人立ち上がると、売店らしき場所へ歩いていく。
それを彼はジッと見送った。
何やら交渉したあと、手ぶらで戻ってくる。

「時間かかるって。飲み物一つでそんなに時間かかるもんなのかな・・・・・」
「知るか」
「だろうね。はぁ、疲れた・・・・大体この街は、目に悪いね。やたらと眩しくて、目がチカチカする」
「くだらねぇ演出だ」
「なんで、こんなにギラギラしてるのさ、この街は」
「知らねぇよ」
「案内役だろ」
「だから、俺は案内役じゃねぇっつってんだろ。知らねぇもんは知らねぇよ」
「・・・アテにならない男だね・・・役立たず」
「んなっ! なんでんなことテメェに言われなきゃ・・・!!」
「もういいよ。アンタなんかをアテにしたアタシが馬鹿だったんだね」
「ああ、馬鹿だな」
「うるさいよっ!!」

 その時、売店の売り娘さんが「お待たせしました〜」と飲み物を運んできてくれた。
それを見て、彼女は少々驚く。
思っていた以上に器が大きい。やたらと明るめな果物がたくさんトッピングしてあって、ジュースも目が覚めるようなスカイブルー。
そして何故だかストローが2本さしてあった。

「・・・・・何頼んでんだテメェ」
「し、知らないよ」
「はぁ?」
「何か、あのお姉さんにオススメですよって言われて、それにしてみたんだけど」
「・・・・・・・・」
「確か・・・・『えなじぃねぇで』ってところで売られてるっていう大人気商品なんだって」
「・・・えな・・・・え? 大人気なのか? これが? やたらとケバそうだが?」
「・・・・・・・・・おいしそうだけどね・・・」
「なんでストローが2本もあんだ?」
「・・・・なんでだろうねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・もしかして・・・・・・二人用か?」
「・・・・・・この量は、そうかもしれないねぇ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・なんで二人用なんだ?」
「・・・・さぁ・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・おい・・・・・・まさかとは思うが・・・・」
「多分・・・・そのまさかだろうねぇ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・付き合わねぇぞ、俺は」
「・・・でも、一人でこの量は飲みきれないよ」
「何だ、付き合って欲しいのかよ」
「・・・だ、誰が!!」
「なんで、んなの頼んだんだよ。テメェ、ダマされたんじゃねぇのか」
「・・・だって・・・・・人気商品とか言うし、おいしいのかなと思って・・・・・そりゃ、結構高かったけど・・」
「気づけ」
「知らないよ。・・・・とにかく、議論しててもしょうがないし、飲むよ・・・・」
「おう。ま、せいぜい太らねぇようにな」
「うっさいよ!!!」

 そのジュースは二人分以上あるのか、やたらと量が多い。
彼女がいくら飲んでも、量が減らない。
三分の一くらい減ったところで、彼女が飲むのをやめた。

「・・・・・はぁ・・・・もうダメ・・・・」
「だらしねぇなぁ」
「それとこれとは違うだろ・・・・・大体、もともと二人分なんだから、それを一人で全部飲もうって方が間違ってるんだよ」
「くっくっく、なに猫かぶってやがんだ」
「さっきからうるさい! いいから、アンタも手伝いな! 高かったんだ、残すなんて勿体無いじゃないか!」
「・・・だったら、最初からこんなの頼まなきゃいいじゃねぇか」
「ぐっ・・・・! ・・・それはそうだけど・・・・・・」
「まぁいい。頭下げて泣いて懇願すりゃ、手伝ってやらんこともな・・・・・だっ!!」
「いいからさっさと手伝いな! でないとブン殴るよ!」
「殴ってから言うんじゃねぇ!!」
「知らないねぇ」
「・・・・クソ虫が・・・・・・・・。フン、仕方ねぇな」
「最初から大人しく従えばい・・・・・って、ちょっと! そっちはアタシの使っ・・・!」
「あ?」
「・・・・・・いや、いい。もう全部飲んでよ。アタシもう入らないからさ」
「阿呆。こんな量飲めるか」
「男だろ」
「うるせぇな、できることとできねぇことがあるんだよ」
「はっ、漆黒団長が呆れたもんだね」
「ジュースの一つや二つでうだうだ言ってんじゃねぇよ! 大体関係ねぇだろうが!」
「おおありだね。普段威張りくさってるヤツほど、いざって時に頼りにならないもんさ」
「テメェ・・・・・・・自分で種まいといて、その言い草はなんだコラ・・・・だったら、これくらいテメェで始末つけろ! ええ? クリムゾンブレイド!」
「・・・・・・・! う、うるさいね・・・・・!」
「反論できねぇんだろ。ザマぁねぇな」
「くっ・・・・言わせておけば・・・・・・・」
「あ? やんのか? 受けてたつぜ?」

 刃のきらめく音が鋭く響き渡る。
周囲の人々は何事かと目を向けるが、彼らはエターナルスフィアを模した格好の人間。
何かのアトラクションか、と気にするものはあんまりいなかった。
命がけの喧嘩は十分ほど続き、結局勝負のつかないままお互いに共通の感覚を得て喧嘩がやんでしまった。

『・・・・喉かわいた・・・・・・』





「おーい、二人ともー!」
 向こうから、彼らの仲間である青年が二人を探してやってきた。
が、そこにあった光景に彼はそれ以上近づくのをためらった。
「・・・・・仲いいんだね、結構」
青年の隣で、少女が微笑んで呟いた。
「・・・・・・・みたいだな・・・・」
「邪魔しちゃ悪いよね、フェイト・・・・行こうよ」
「ああ・・・・そうだね」

その先には、喧嘩し疲れた二人が一緒にカップル用ジュースを飲んでいる光景があった。





END





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