Tense Atmosphere

 

 フェイトは今、命をつけ狙われていた。
ヤツらは、いついかなる時でも場所でも、現れた。
寝ている時であろうが、町を散策している時であろうが、休憩している時であろうが、食事の時であろうが!
この数日、フェイトは全く気が休まらなかった。
今日も、ヤツらはやってくるだろう。
町を歩きながら、フェイトは神経を張り詰めていた。

その刹那。

 フェイトを上空から覆う影。咄嗟にフェイトは身を翻して避ける。
ほぼ同時に、彼のいた場所に着地してくる影。
影はフェイトを仕留め損ね、こちらをゆっくりと見やる。鋭い、紫の両の瞳が彼を睨み据える。
しかし、気圧されるわけにはいかない。
睨み返しながら、フェイトは思案する。身を潜める、安全な場所を探さないと、「もう一人」もすぐにやってくる。
二人に同時に狙われたら、流石に善戦できる自信はなかったから。
今までも、どうにか巧妙に身を隠して襲撃をやり過ごしてきたのだが、いつまで続くかもわからないこの恐怖に、いい加減彼の精神も限界に近かった。
今日こそは、理由を問い詰める・・・・・・!
 しかし、それもまた実行不可能となった。
フェイトの後方に、「もう一人」が現れたから。
どちらも、相当の使い手だ。挟み撃ちにされたら、ひとたまりもないだろう。
少しずつ移動し、二人に相対する位置につけるフェイト。
しかし・・何故こんなメに遭わなければならないのか・・・・・フェイトは前方の二人を睨む。
理由を問いただす前に、またここはひとまず逃げなければならないようだ。
威圧めいた殺気がヒシヒシと伝わってくる。
油断したら・・・・・・殺られる・・・・・・!
 すかさずフェイトは、護身用にと持っていたモノを取り出して投げつけた!!
激しい煙が二人を包み込む。こちらも相当煙かったが、かまわず近くにあったホテルの中へと避難する。
どうにか、今回も危機を脱したようだ。
扉の隙間から、向こうの様子を覗くフェイト。煙にムセながら、二人が何やら悪態をついているのが聞こえる。
「・・・クッ、失敗爆弾を隠し持ってたとはね・・・・・・・段々向こうも警戒してきたって感じだね・・」
「そうでなくてはな・・・やりがいがない」
「・・・・・・確かにね・・・」
聞きながら、フェイトは改めて考える。なんで、こんなに執拗に狙われなければならないのか。
しかし、狙われる恐怖よりも、深い疑問のほうが強い。
本当に、疑問なのだ。覚えも全くないし・・・・いや、一人に関しては全くないとは言い切れないのではあるが、少なくとも「今」は理由はないはずで。
また、チラリと外を覗く。まだ立っていた。彼も見慣れた、軽装の男と女。
そして、彼もよーく知っている、旅の仲間。
アルベル・ノックスとネル・ゼルファー。



「なんでなんだろうな」
 相談を受けた、一行の兄貴分・・・クリフが半ば笑いながら言った。
「笑い事じゃあない。本当に、命の危険を感じるんだ」
「まぁ・・・・・なぁ」
「クリフにとっては他人事だろうけど。僕にとっては死活問題さ。
寝てたらアルベルがやってくるし、町を歩いてたらネルが降ってくるし、食事しててもなんだかこちらを凝視してるし、どうしたらいいんだ!!!」
「落ち着け落ち着け」
興奮するフェイトをなだめるクリフ。
「アレだ・・・お前、何か恨みでも買ったんじゃねぇのか」
「・・・・覚えがないんだ。アルベルはともかくとしても・・・・」
「それもそうだな」
フーム、と考えるクリフ。
「でも、アレだ。襲ってくるってったって、ヤツらも本気じゃねぇんだろ?」
「だったらもっと気が楽だよ。・・・・本気なんだ。何度も、本当に斬りつけられた」
「・・・・・・・・マジかよ」さすがにクリフの表情も変わった。
「・・・斬りつけられたけど・・・・・その後ヒーリングしてくれるんだ」
「は?」
「は? ・・って思うだろ。僕も思うよ。でも、襲ってくるのは本気だし、いつ本当に殺されるか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
わけがわからない。しかし、結論はとりあえず一つだろう。
「聞け。ヤツらに」
「・・・・・だよな」
それしかなさそうだ。
しかし・・・・今の彼らに話が通じるのだろうか・・・・・


 今日こそは問い詰めると心に決め、フェイトは町の外でブラブラとしていた。
彼らが本気で襲ってくるというなら、こちらも本気で応戦する心構えで。
もしも本当に戦闘になったら、町では都合が悪い。暴れるわけにもいかないし、町には彼らが身を隠す場所も多いため不意打ちを受けやすいから。
実際、予想だにしない場所からよくネルに奇襲されてきた。
「どうしたの、フェイト」
来た! フェイトは身構えた。すぐ向こうに当の本人が腕組みして立っていた。
「さては、待ち伏せ?」
「・・・・どうしたの、はこちらのセリフだよ・・・・・わけがわからないし・・・・。
どうして、僕がこんなに狙われないといけないんだ?」
「・・・・・・・・色々あってね」
「色々で済ませないでくれよ! こっちは、ずっと気が休まらないってのに・・・・・」
「ならそろそろ終わらせるか・・・・?」
町の方角から、もう一人・・・・アルベルも姿を見せる。
「こんな所にいやがったのか。道理でどこにもいねぇはずだ」
「・・・・どうしてもやるのか・・? だったら、こっちだって応戦させてもらうぞ・・・・。
でも、その前に!」
フェイトは二人を見比べる。
「理由を説明してくれ! なんで、二人揃って僕をつけ狙うんだ!?」
 二人は顔を見合わせる。
「・・・まぁ、そりゃそうだね。理由もわからずに襲われちゃ、そうなるか・・・」
「当たり前じゃないか!」
「どうする?」ネルがアルベルを見やる。
「・・・・面倒臭ェな・・・」
「じゃアタシが説明しようか?
・・・・そうだね・・・全部話すと長くなるから、かいつまんで話すけど・・・・・」
フェイトは、構えをといた。ポツリポツリと話し始めるネル。
「三日ほど前のことだけどね。ちょっとコイツと口論になってね、色々あってどちらが強いか勝負しようってことになったんだけど。
何を以って勝敗を決めるかというコトで、そこでアンタのさ・・・・その胸にぶら下げてるヤツ」
フェイトは自分の胸を見やった。先日自分で細工した、フローズンチェックを首からかけている。
「それを、先にアンタから奪い取った方が勝ち・・・・ってね」

・・・・え? フェイトは耳を疑った。
「・・・・・・・って・・・・つまり・・・・・アナタ方は、僕ではなく、僕のつけてたコレを狙ってた・・・・・と?」
「そういうことになるね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・んで・・・・・・アナタ方は、二人で協力してたんじゃなく、対決してた・・・・・と?」
二人は無言でうなずいた。
あまりの展開に、フェイトは呆然とした。ようやく、搾り出す。
「・・あ、あのさ・・・それならそうだと、一言言ってくれても良かったんじゃあ・・・・・・・?」
「それは悪いって思ってるけどさ・・・・万が一八百長とかあったら寝覚め悪いしね」
「・・・・・・・そもそも・・・・どちらが強いか勝負・・ってのなら、僕を狙わなくてもアナタ方で一騎討ちでもなさったら良かったんじゃあ・・・・・?」何故か敬語になるフェイト。
「・・・・・それでも良かったんだがな」とアルベル。
「多分、手加減できずに流血沙汰になっただろうし、それはちょっとね」とネル。
・・・・・・いや、僕は流血沙汰だったんですが・・・・・それはいいんですか・・・・・?
最早、それをツッコむ気にもなれなかった。
とにかく、一つだけわかったような気がする。


コイツら・・・・・人を痴話ゲンカのダシに使ってやがる・・・・・・


「わかったかい、フェイト」
「・・・わかりたくはなかったけどな・・・・・」
「じゃ、再開だね」
え? 思わずフェイトはネルを見た。一方の彼女は短剣を抜くではないか。
「ま、待った! 再開って!!?」
「決着ついてないからね」
「・・・・・・・・・」
フェイトは、血の気が引いていくのを感じた。多分、顔色にも露骨に表れていただろう。
しかし、彼らはおかまいなし。
「そのブラ下げてるやつ、奪わせてもらうぜ。力ずくでな!」
アルベルまでカタナを抜く始末だ。今度こそ本当に、生命の危機を感じるフェイト。
「お・・・落ち着け・・・・・そんなモノで斬りつけたりしたら、死んじゃうじゃないか・・・・」
「大丈夫よ」ネルは優しく笑った。「ヒーリングしてあげるから」
「そーゆー問題じゃなーいっ!!!!」
言うと同時に、フェイトはダッシュで街中へと逃げ出す!
「あ、待ちな!」
「逃がさねぇぜ」
「(追ってくるーーーー!!!!)」
フェイト・ラインゴッド、19歳。ただいま、絶体絶命中。
そしてこの恐怖は、精神の限界に達したフェイトがこの約2日後に「勘弁してください! 僕まだ死にたくないんです!」と土下座して懇願するまで続いた。


 ちなみに、事の顛末をクリフに話したところ、思いっきり爆笑されたという・・・・・




END





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