Shall We Dance?

 

 少女は、風に舞う。軽やかに、見る者を魅了しながら。
その鮮やかな姿態に翻弄されるがまま、異形のモノ達は倒れていく。
見事なまでの、舞「闘」術。
そしてそれ以上に、踊ることに至上の喜びを見出している、その表情。
誰もが感心し、感動した。
しかし、そんな仲間たちの思いとは裏腹に、当の少女は悩みを抱えていた。
(・・・・はぁ〜・・・・・・最近、ちょっぴりスランプかも・・・・)
スフレ・ロセッティは、ある日悩みを仲間達にぶつけてきた。


「ねーねーフェイトちゃん」
「ん?」
 呼ばれてフェイトは振り向いた。見ると、仲間の少女がこちらを見上げている。
「どうしたんだいスフレ」
「フェイトちゃん、アタシ、ちゃんと踊れてるかなぁ」
「・・・・は?」
「あのね、アタシ、ずっと戦うために踊ってるじゃん。だから、なんていうか・・・・・
普通にお客さんに魅せる踊りが踊れなくなっちゃったら、どうしようって・・・・」
うつむくスフレ。フェイトは考えた。
確かに・・・・・・ムーンベースで共に戦うと決めて以来、彼女は最前線で戦っていた。
僕やクリフやアルベルもいるし、無理に前に出なくてもいいとは言っておいたのであるが・・・・
でも正直、その小さな体で懸命に戦う彼女の姿は危なっかしい反面、どこかで癒される部分はあったに違いなかった。
そんな彼女が、踊りに対して不安になっている・・・・・・・これは、どうにかしてあげないと。
「・・・ならさ、一回僕らに見せてくれないか?」
「・・・・・・・・踊りを?」
「そう。僕らがお客さんだよ。・・・・なんなら、チケットもあるよ?」
と、フェイトはふところから一枚の紙切れを取り出した。
「・・・・・・それって・・・!」
「そ。ロセッティ一座の公演チケットだよ。結局見れなかったからね」
スフレは泣き出しそうな表情で、微笑んだ。
「・・・・ありがとフェイトちゃん・・・・・・でも、でもね・・・」
「ん?」
「・・・・・・・・・フェイトちゃんに手伝って欲しいことがあるんだ・・・」



 数日後。交易都市ペターニにやってきた彼らは、しばらくこの街に滞在することにした。
滞在初日、フェイトは皆を集めてこう言った。
「この街で、興行やろうと思うんだけど・・・」
『はぁ!!?』
あまりに突拍子もない提案に思わず聞き返す仲間達・・・・クリフ、マリア、ソフィア、アルベル。
フェイトの隣でスフレが目を輝かせていた。
「そーなんだ、たっくさんお客さん集めて、アタシの踊りを見てもらうんだ!」
「・・・・・経緯を説明してくれるか、フェイト・・・」とクリフ。
スフレの踊りを、フェイト達だけで見るのは勿体無い。
どうせなら、たくさん人が集まる場所で、実際に公演してみたらどうだろう・・・と。
「彼女、ずっと公演が先延ばしになってるからね。にわかでも、舞台に立たせてあげたいと思うんだ」
「・・・・・・・・・・・」
当然だが、呆気に取られる仲間達。
「・・・・・気持ちはわかるけどね、二人とも」とはマリア。「あんまりゆっくりもしていられないのよ?」
「でもマリアちゃん・・・・・」スフレはうつむいた。
「少しでも早く、『ヤツラ』を倒して平和を取り戻して、それからゆっくり踊ることだってできるでしょ」
「・・・・・・・マリアちゃん・・・・・」
スフレはマリアを見上げた。潤んだ瞳で。少したじろぐマリア。
「アタシ・・・・ワガママだってわかってるけど・・・・・・踊ることが、アタシの全てなんだよ。
お客さんの歓声に包まれて、大舞台で踊ることが・・・・アタシがアタシでいられるステイタスなんだよ・・・・・・・」
「・・・・で、でも・・・・・」
珍しく、スフレに押されるマリア。スフレは目にうっすらと涙を浮かべて、
「・・・・・・・・・マリアちゃんがそこまで言うなら、仕方ないよね・・・・・・・・・
ごめんねフェイトちゃん、せっかく手伝ってくれるのに・・・・・・・・」
「・・・・あ、ああ・・・・・・・」戸惑いを隠せないフェイト。
一方のマリアは、なんだか自分が悪者みたいで納得がいかない。
「・・・わ、わかったわよ。いいわよスフレ、私も協力してあげる。・・・・・みんなはどう?」
マリアが仲間達を振り返る。
「お前らがいいっつーんなら、俺は構わねぇぜ」
「・・・私も・・・・スフレちゃん可哀想・・・」
「・・・・・・・仕方ねぇ連中だぜ・・」
どうやら、肯定意見のようだ。マリアはため息をついた。
「やったぁ!! ありがと、みんな♪」
飛び跳ねて喜ぶスフレ。本当に嬉しそうだ。そんな様子を見てマリアも、まぁいいかと再度ため息をつくのだった。
「あら?」
スフレがはしゃいでいる近くの足元に、何か落ちているのをソフィアが発見する。
「スフレちゃんのかしら・・・?」
彼女が拾い上げると・・・・それは目薬だった。
「・・・・・・・・スフレちゃんったら・・・」
誰にも見えない所で、ソフィアもまたため息をついた。


「それじゃ・・・・」とフェイト。「日取りと、下準備を念入りにしないとな」
「でも、あんまりゆっくりはできないわよ、フェイト。それはいい?」とマリア。
「ああ、わかってるよ。ありがとうマリア」
「・・・・・・! べ、別に・・・・構わないわよ・・・・・・・仲間じゃない」
改まってお礼を言われ、わざとらしく目をそらすマリア。顔がこころなしか赤い。
「公演すんのもいいがよ、勝手にやるワケにゃいかねぇだろ?」とクリフ。「街のお偉いさんにでも、許可もらわねぇと」
「そうか・・・・・クリフ、頼めるかい?」
「おお、任せとけ」
「ねぇフェイト、宣伝とかどうしよっか。ポスター描こうか?」
「そうだねソフィア。許可が出れば、貼らせてもらおう」
「ねぇねぇフェイトちゃん」
「ん?」
「どうせなら、みんなで何か出し物やろうよ〜! その方が楽しいよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
この意見には、フェイトは即答でうなずくことが出来なかった。
「・・・アナタの踊りの前座・・・・ってことでいいのかしら?」とマリア。
「うん。まぁね〜。せっかくの公演だし、みんなで楽しもうよ!」
『・・・・・・・・・・・』
流石に、皆考え深げな表情を見せた。
大体、スフレはともかく他の皆は芸人ではない。一体、何をやれというのか?
「・・・・クリフは何かできそうだよなぁ・・・」クリフを見やって呟くフェイト。「・・・・・瓦割りとか」
「おいおい」
「私、この銃で早撃ちショーでもやるかし・・・・・」
「やめた方がいい! 死人が出たらどうするんだマリア!!」
「・・・・何よ」
「・・・私、紋章術で何かできないかな・・・」とソフィア。
「僕はどうしようかな・・・・・・手品でもやるかな?」とフェイト。
大体決まったようだ。・・・・・・と。
「・・・アルベルも何かやるのか・・?」
ためらいがちにアルベルを見やるフェイト。彼はしばらく考えていたようだったが・・・・・
「・・・・・・・・・・歌でも歌おうか・・・?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!?』



 即席の大道芸の一団の公演が一週間後に行われることとなり、スフレは毎日ニンマリと日々を過ごしていた。
街のいたるところにポスターが貼られ、街の人々の前評判も上々。
この暗いご時世だからこそ、明るい話題を求めるものだ。
考えるだけでワクワクする。
根っから、こういう雰囲気が大好きなのだ。
人々を楽しませるために、自分達は芸をするのだ。
いつか宇宙デビューして、宇宙のたくさんの人たちを明るくさせるために・・・・・
「ふぁいとーーー!!」
思わず大声で、彼女は空に向かって叫んだ。



 一週間後。男性陣による一夜漬けの舞台設営もどうにか完了し、いよいよ大舞台の日がやってきた。
想像以上に広場には観衆が集まり、あふれかえらんばかり。
ますます、スフレはニンマリする。
逆に、驚き呆れるのは他の仲間たち。
「・・・予想以上だわ」
舞台袖から見やって、何度ついたか知れないため息をまたつくマリア。
「緊張しますね」とソフィア。
「まぁね・・・・でも、私達は前座だからね。気楽にいきましょ」
「は、はい〜・・・・」
ガチガチに固まっているソフィアを見て、マリアはまた、ため息一つ。


『幻惑の妖精スフレと愉快な仲間達』
 そう書かれた大きな看板と、広い手作りの舞台、大勢の観客。
そんな中、公演は始まった。
危険いっぱいの早撃ちショーから始まり、瓦割り、歌、紋章術、手品、と次々に出し物が。
「緊張しました〜・・・・」
出番を終えたソフィアが、おっかなびっくり、舞台袖へ戻ってくる。
出迎える仲間たち。
「お疲れさま、ソフィアちゃん♪」とスフレ。
「ハァ・・・・・私、こういうのって苦手かも・・・・・」
「上等だぜ、なぁマリア」とクリフ。
「そうね・・・・・・あの歌よりはよっぽどマシだったわね」
マリアはチラリとアルベルを見やった。
「何だと? 何人か殺しかけたヤツに言われる筋合いはねぇな」
「何よ、ちょっと弾道が逸れただけじゃない。
大体、歌なんだか超音波なんだかわからない奇声発しておいて、人のやることに文句つけないで頂戴」
「・・・・やんのか、テメェ」
「はいはい〜、マリアちゃんもアルベルちゃんもケンカはダメだよ〜」
にらみ合った二人の間に入るスフレ。
「・・・・・・・みんな、ありがとね。アタシのために・・・・・・・アタシ、今まででいっちばん最高の踊りを踊るからね、みんなも見ててね」
そのとき、舞台にいたフェイトが戻ってきた。いよいよ、オオトリだ。
皆がスフレを見た。スフレも皆を見た。


頑張るからね、見ててねみんな・・・・・・


いつか、デビューするために一生懸命毎日練習してきた踊りの成果を。
見る人を楽しませるための踊りを。
今、宇宙は大変なことになっている。その大変をどうにかするために、彼女達は戦っている。
今は戦うことしかできないけど。娯楽ばっかり求めることはできないけど。
命をかけて戦うその先に、みんなが心から笑える世界を手に入れるために・・・・・・


舞台は、大歓声と割れんばかりの拍手に包まれた。
仲間達も、それぞれの思いで見守っていた。






「お疲れさんーー!!」
 真夜中の宿屋の一室で、即席一座は祝杯をあげていた。とはいっても未成年が多いので酒はほどほどに。
興行は成功だ。まさか、ここまでうまくいくとは誰も思ってなかったので、その反動で嬉しさも倍増だ。
「いや、実は俺達芸人に向いてるんじゃねぇのか?」半分酔っ払って呟くクリフ。
「調子に乗りすぎよ、クリフ」とマリア。でも、嬉しそうだ。
「やっぱり、スフレの踊りが素晴らしかったんだよ」とフェイト。
「うん、私もそう思うな・・・・・」とソフィア。
「ありがと〜、フェイトちゃん、ソフィアちゃん!」
ガバッとソフィアに抱きつくスフレ。きゃあっ、と後ろに倒れるソフィア。
「結構楽しかったわよ」
「そりゃ言えらぁ」
「・・・・・・・・・フン」
談笑は夜が更けるまで続く。
そんな中、スフレが言った。
「じゃ、次はこの国の王都で追加公演だね!」

『・・・・・・えっ?』




 即席大道芸団「ラインゴッド一座(仮)」はこの後、シランドからカルサア、アーリグリフ、サーフェリオまで足を運んで追加公演を行うハメになったという。
そして、この公演のおかげで歪のアルベルの悪名がまた一つ増えたとか増えないとか・・・・・




END





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