Crimson Fight! -Secret Rendezvous-

 


「・・・・・・・・・・らしくないね、なんだか・・・・・・」


 すっかりのぼせた頭ももう冷え切って、冷静に考えにふける。
思わず駆け出して、人気のない大聖堂付近まで逃げてしまったのだが・・・・今考えるとそれほどのことでもなかった気がする。
かえって怪しいじゃないか・・・・

ため息をついて、ネルは天井を見上げた。城特有の豪華にして清廉な装飾が目に入る。
さらに気持ちが落ち着く。
あとで、タイネーブとファリンに謝らないと・・・・・
彼女たちは自分のために尽くしてくれているんだ。それなのに・・・・ね。
フッと笑って、元来た廊下を戻ろうと振り向くと・・・・向こうに見慣れた姿。
幼い頃からずっと一緒だった、銀髪の女性。

「こんなとこまで来てたのね、ネル」
「・・・・なんでクレアが」
「ごめんなさいね、ちょっと・・・・・あなた達の会話立ち聞きしてしまったの」
「え! じ、じゃあアンタあの話・・・!!」
「ネル・・・・・私は貴女には幸せになって欲しいの。でも・・・・・・」

そこで言葉を切るクレア。ネルは首をかしげる。

(あんな変態男では、貴女を幸せになんかできやしないわ)

続きはクレアの心の中で語られ、言葉にされることはなかった。
「・・・ねぇ、ネル。貴女・・・・・ずっとこのまま仕事を続けるつもり?」
「え? ああ、勿論さ。クリムゾンブレイドとして、国のために陛下のために、やれることはやるつもりさ。
・・・・なんでそんなこと聞くの?」
「・・・・・・・・・・・・・結婚を考えたことってある?」
「はぁ!?」
思わずネルは聞き返していた。
タイネーブもファリンもなんだかそんな感じの言い方をしていたが、クレアまでも・・・・・
「あ、あのね・・・・・私はまだそんなつもりはないよ。今は任務のことで手一杯でね」
「・・・・そう」
ん? クレアが今、安堵の表情を見せた気がしたけど。
「でもネル、いずれは考えないといけないでしょう」
「・・・・・ん・・・・まぁ、ね・・・・・・」
「そこでね」
クレアはどこからともなく冊子を取り出した。
「私なりに、貴女の幸せのお手伝いがしたいのよ。これ・・・・」
「何だい、これは」
「お見合い写真」

ネルはカクッとこけかけた。

「ち、ちょっとクレア!! 何を一体・・・・!!」
「今のうちに相手を見つけておけば、30歳越えてから苦労することもないんじゃないかと」
「何バカなこと言ってんだい! そんなつもりないって言ってるだろ!?」
「いいから見るだけ見てみてよ。貴女にピッタリの相手を見繕ってきたんだから」
「クレア・・・・!!」
なおも言い募ろうとするネルを制止して、クレアは半ば無理やり見合い写真を手渡してくる。
そうだ・・・・この子は思い込んだら一途だから・・・・・・
とりあえず受け取るだけ受け取るネル。
「全く・・・・余計なお世話ってモンだよ・・・・・・」
呆れつつ、見合い写真の冊子を開くと・・・・・・・・・


ネルは即座にそれを床にたたきつけた。
「アストールじゃないかっ!!! 何企んでるんだいっ、いくらアンタでも容赦しないよっ!!?」


「そ、そこまで嫌がることないじゃないの・・・可哀想に」
叩きつけられた冊子を拾い上げ、クレアはため息をついた。
「こんなに気合入れてポージングしてくれてるのに・・・・・」
「アンタがさせたんだろ」
「・・・・否定はしないけど」
そう・・・ネルの中で彼は男性として認識されてないのね・・・・・クレアは再びため息をついた。
「ディオンが生きてくれてたら、きっとお似合いだったんでしょうに・・・・」
待ちな
「姉御肌の年上女性に翻弄されるインドア型眼鏡青年・・・・いいシチュエーションだと・・・・」
「だから待ちなって」
「それともいつも黙らされるって噂が絶えないラッセ・・・」
「クレアっ!! 誰でもかれでも持ち出してくるんじゃない!!」
叫ぶだけ叫んで、ネルは肩で息をする。そして、ギロリとにらみつける。
「クレア・・・・一体何を企んでるんだい・・・?」
「いやだわ、ネル・・・企むだなんてそんな・・・・・・」
「自分の相手は自分で探す。アンタにそこまで気を回してもらう必要はないよ」
「で、でも・・・・・!」
そしたら貴女はあの変態男を選んでしまうかもしれないじゃない・・・・・!!
「クレア」
ネルはまっすぐにクレアを見つめた。
「聞いたんだけど・・・・・・アドレー様が部下の訓練に、アンタとの結婚をダシにしたっていうじゃないか・・・・」
「!!!!」
「自分以外の誰かに、勝手に相手を決められてしまう不条理さはアンタもよくわかってると思ってるんだけど・・・・違うかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
クレアは反論できなかった。
「そういうことだから。無理にアンタが心配することはないよ。大丈夫」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこまで言われたら、言い返せないじゃないの・・・・・クレアは唇を噛んだ。
こうなれば、ネルではなくあの男の方を攻めるべきかしら・・・・そんなことを考えながら。
「じゃあね、クレア」
「・・・・ええ、ごめんなさいね」
「いや、いいよ」
ネルは微笑むと、歩き始めた。クレアはそれを見送ろうと、ネルの背中を見やった・・・・・が。

「何してやがんだ」

!!!

いつの間にやら、当の変態男(クレア談)アルベル・ノックスが廊下の向こうからこちらを見ているではないか・・・・・!
「いきなり逃げ出しやがって」
アルベルはネルに近づいてくる。
「そ、それは・・・・・! 仕方ないじゃないか・・・・」
「何が仕方ないってんだ」
「いいじゃないか! なんでも!」

ネルの顔はうっすらと赤かった。

これはヤバイ。

「ネル!!」
あわててクレアはネルに追いすがって、その腕を取った。
「ねぇ、一緒に散歩でもしない?」
「は?」
「たまには二人だけで休息を取るのもいいじゃない、ね」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』


クレア・・・・一体、本当に何を企んでるんだい・・・・・? 不自然すぎるよ・・・・・
なんだ、今この女すげぇ目で俺を睨んだような気がしたが・・・・気のせいか・・・?
アナタなんかにネルは絶対に渡さないからね・・・・もしもネルに手を出したら・・・・・無事じゃ済ませませんよ・・・・


それぞれの思いが交錯する。だが。
「クレア様!!」
それはさらなる第3者の声で破られた。兵士がクレアの姿を見つけてやってきた。
「こちらにおいででしたか、ラッセル様がクレア様をお探しです」
「・・・・・・そ、そう・・・(いいタイミングだわ、あのオヤジ・・・・・・黙らされてればいいのに・・・!)」
「お急ぎください」
「・・・・・え、ええ・・・・わかったわ・・・・・・」
ひきつった表情で答えるクレア。
そして、ネルに向かって、

「続きはまた二人の時にしましょうネ」

「は、はぁ!?」
ネルが答える間もなく、クレアはスタスタと歩き去っていった。
「・・・・・お前ら、何やってたんだ・・・・?」
そして呆然と呟くアルベル。
「な、何もやってないよ!! ただお見合・・・・!!」
もう少しで言葉が出掛かって、ネルは手で口を押さえておしとどめた。
何が悲しくてコイツに(クレアが押し付けてきた)お見合い話などしなければならないのか。
「おみあ?」
「何でもないよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・? 変な女だな」
「・・・・・・・・」
知られたくなかった。クレアとそういう類の話をしていたことなど。
どうして知られたくなかったのかはわからなかったが。
どうせバカにされるからか・・・・・?
お前でも結婚する気があんのか?とか言われそうだから?

それとも・・・・・・・?





to be continued...





戻る