Crimson Fight! -Next Days-

 


「昨日は参ったわね・・・・」
「ホントですぅ〜・・・・」

 シランド王城にて、また二人の少女が歩きながら話していた。
頼まれごとのため、シランドの街に行こうとしていた最中である。


昨日・・・・タイネーブとファリンはクレアに呼び出された。
一室の机に両肘をついて、口元で手を組んでこちらを見つめているその様はまるで、悪の総統のごとく圧迫感があった・・・と二人は記憶している。
「さっき、父に・・・・何を吹き込まれたの?」
「・・・・吹き込まれた・・・・といいますと・・・・・」
「どうせ、ネルと『あの男』のことでしょうね・・・でも」
クレアはまっすぐに二人を見据えた。
「ネルに『あの男』は相応しくないとは思わない? なんというか・・・・生きている次元が違うというか・・・・・」
「・・・・・・・はぁ・・・・」生返事。
「私はね」
クレアは神妙な顔つきになる。
「ネルには幸せになって欲しいのよ・・・・・大切な友人だから・・・・・・
それなのに、あんな残酷で冷淡で単純で無神論者なヘソ出し露出狂なんかに奪われてはたまらないのよ・・・・わかる?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
答えられなかった。どう返事したらよいものか・・・・・考えても答えが出ない。
同意できるようなできかねるような・・・・・・
「父はどうも面白がってくっつけたがっているみたい。でも、こればっかりは面白半分で介入できることじゃあないわけよ」
「・・・はい・・・・それは、まぁ、確かに・・・・・・」
「だから、あなた達にも気をつけていてもらいたいんだけど・・・・・・
もしもあの男がネルに近づくようなマネをしたら、遠慮なく撃退して構わないからね」
「・・・・えっ! い、いえ、それは・・・・・」
「お願いね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事もできないまま・・・・二人はクレアのいる部屋を後にした。


「・・・・クレア様の目、本気だったよね」
「・・・・・・・・鈍く光ってたです〜・・・・」
「でも、普段アルベルさんはアーリグリフにいるんだし、滅多に顔を合わせることもないはずよね・・・・」

ふわ・・・・

城下町に入った二人を軽い向かい風が襲った。
入れ違いで、誰か颯爽と王城に入っていったらしい。

「・・・・・・ねぇ・・・ファリン・・・・・今の・・・・・・」
「・・・・・・嫌〜な予感がすんごくします〜・・・・・」

一斉にバッと振り返ると、かなり向こうに残酷で冷淡で単純で無神論者なヘソ出し露出狂(クレア談)アルベルの後姿。

「・・・・・・・・・・・なんでこんなタイミング悪い時に来るのよ〜〜〜!!!」



「おや、どうしたんだい」
「女王にこいつを届けにきた」
「ああ、親書だね。・・・アンタもよく届けにくるねぇ。好きなんだね、使われるのが」
「阿呆なこと言ってんじゃねぇ。誰が好き好んでパシリなんかやるかよ」
「国王の親書を届けるような重要な役目は、パシリになんか任せてもらえないよ」
「どっちでも同じだ、阿呆」

 何やら話しているネルとアルベルを、後方からひっそりと覗き見する二人の少女。
アルベルがネルに近づくようなマネをしたら、遠慮なく撃退して構わないとの許可をクレアから貰ってはいるが・・・・・

(どっちにしたって〜、私たちじゃ勝てないですよ〜・・・・)
(ネル様がどう思っているかよね・・・・もしもネル様が望んでいるのなら、私はネル様の望むようにして差し上げたいし)
(・・・・クレア様からの鉄拳制裁が待ってますよ〜・・・・)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
う、そ、それは・・・・・ネ、ネル様からクレア様にそれとなく言ってもらって・・・・・)
(他力本願です〜)
(だ、だって!!)
(あ、ネル様が行っちゃいます〜)
(えっ! 追うよ! クレア様にだけは会わせちゃダメよ!)

なんともなしに、話をしながら謁見の間へと向かうネルとアルベル。
確かに、アドレーから見て『仲睦まじい』のもわかる気がする。

「・・・・・・ふぅん、そうか・・・・ロザリアは元気にやってるんだね・・・。良かった。
何考えているか分からないあのくわせものや戦うことしか頭にないイカれた男に囲まれてたらどんなイジメに遭っているかと・・・」
「・・・前者はともかく後者は取り消せ。仮にも国王の女をいたぶる趣味などない」
「その言い訳の仕方もどうかと思うけど・・・・・・」
「第一、あのジジィも俺も普段はアーリグリフにはいねぇ」
「・・・・あ、そうか・・・・・」
「とはいえ・・・・そのうち常駐になるかも知れんがな」
「へぇ・・・?」

謁見の間に着いた。ネルは同行せず、不機嫌そうに女王陛下に会いにいく男を呆れたまなざしで見送っていた。
それでも、どこか微笑ましい表情で。
クルリと向きを変えて、ネルは謁見の間の出入り口から立ち去ろうとした。そこへ。

「ネル様!」
「ん? おや、タイネーブ、ファリン。いたのかい」

ネルは、二人の不自然な登場のタイミングにも気づかず、普通だった。

「いま、一緒におられたのって・・・・」
「・・・・・・ああ、そうさ。歪のアルベル」
「・・・ちょっと意外です〜」
「何が?」

何の猜疑もなく普通にたずねられて、逆に二人は困ってしまった。

「・・・・・だ、だって・・・・・」
「・・・・・・・・ああ、そうか・・・・・・アンタ達は・・・・・。悪かったね、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「いっ、いいえ! ・・・・国を出られている間、共に旅をされていたそうですね」
「ああ・・・・」
「その間に、仲良くなっちゃったんですかぁ〜?」
「・・・・・・・・・・・・・・・仲・・・良く・・・・・・・・?」

ハッと気づいたように、ネルは地を見つめた。そうだ、あんなに敵対していたはずなのに。
フェイトたちと一緒に、世界の敵と戦っているうちに、そんなことは忘れてしまっていたのかもしれない。
宇宙にたくさんある星の中の一つ、エリクールの狭い大陸でいがみ合っていても意味がないことがわかったから。
生死を共にしたのだ。みんなと・・・・アルベルとも。

「・・・・ネ、ネル様・・・・?」
「・・・! あ、すまない、ちょっと考え込んでしまった・・・・・・
そうだね・・・・アンタ達から見たら、そう見えるんだろうね。でも、それも構わないと思ってるよ。
だって、もうシーハーツとアーリグリフは敵同士なんかじゃないんだ」

薄く笑うネルを見て。
そう。もう戦争は終わったんだ。
『あの事件』だって戦争中に起きたことだ。戦争なんだから、当然の争いだったのだ。
でもネル様はもうその枠を越えて、その先を見つめているんだ。
そしてネル様は私達を大事に思ってくれている。死を覚悟でオトリになった時だって、危険を冒して助けに来てくれたのに。
それなのに、その恩に報いないのは恥ずべきことじゃないか・・・・・

「・・ネル様〜、私達、いつでもネル様の味方ですからね〜」
「・・・ファリン・・・・?」
「そ、そうですよ! ネル様が望まれるのなら、それに全力を尽くしますとも!」
「・・・・・・タイネーブ・・・・・。どうしたんだい、急に・・・・・」

その言葉に込められた様々な思い、因縁などネルは知ろうはずもない。


「だから・・・ネル様・・・・・」
「?」


『アルベルさんと幸せになってくださいね!!』




『・・・・・・・・・・・・・・・は?』


タイネーブとファリンはギョッとした。
ネルの茫然自失の返事に、低い音が混ざっていた。
ここは、謁見の間の出入り口のすぐ近くで。
ついさっき謁見の間に向かった人物がいて。
手紙を届けるだけだからさしたる時間も必要なくて。


「・・・・何つった・・・・今・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・!!」

ネルは謁見の間には背を向けていた。だから、当の彼女は今気づいたようで。
一気に顔が赤くなった。

「ば、バカっ!!」


 がつっ ごつっ

ネルは即座に、目の前にいた部下二人に鉄槌をくだし、振り返らないまま駆け出していった。

「・・・・・いっ・・・・た〜いです〜・・・・・」
「ほ・・・・本気で殴った・・・・・・・」

でも・・・・これは照れ隠しだ。手加減がないから。
二人は目と目を合わせて、泣き笑いあった。今のネル様の反応は・・・・・ビンゴなんじゃないかと。

「・・・・決まったね、ファリン」
「決まりましたです〜」
「おい、クソ虫ども」

!!

二人は忘れていた。こっちもいたんだ・・・・・・

「・・・・・何のつもりだ、テメェら・・・・・・」
「いっ、いいえっ!? なんでもありませんですよ!」
「そっ、そうですぅ〜! 気にしないで欲しいです〜!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


嫌な沈黙が押し寄せた。誰も動かない。
動いたら、殺られるかも知れないから(本気で)。

しかし、その沈黙は破られた。

「・・・・・・・・・・・・・あなたたち・・・・・・・どういうことなのかしら・・・・」




『!!!』





今、一番ヤバイ人物の声がした。
向こう側の廊下から、ゆっくりと歩み寄ってくる銀髪の姿。
タイネーブもファリンも、血が凍っていくのを感じた。

「・・・・アルベルさん」
「・・・・・・・・・・っ」
「用事がお済みでしたら、早急にお引き取りくださいませ。こちらも色々と立て込んでおりまして」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

静かな殺気を、彼も感じていたに違いない。
チッと舌打ちすると、おとなしくこちら側に歩き出した。
アルベルが階下に降りていくのを見送ると、二人は顔面蒼白になった。

「・・・ク、クレア様・・・・・・い、いつからいらしたんですか・・・・・?」
「そうね・・・・・・・・『私達、いつでもネル様の味方ですからね〜』の辺りからかしら・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・や、やばい・・・・・・? もしかして・・・・・・」
「もしかしなくても・・・・・やばいみたいです〜・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あなたたちはネルの一番の部下ですものね・・・・・ネルのことをとても大切に思ってくれている・・・・・
それには、とても感謝しているのよ・・・・・・・・でもね」

語気が変わった。
タイネーブたちは逃げ出した!

「あっ! ちょっと!! 待ちなさい! 話はまだ終わってないのよ・・・・!!」




本気でシーハーツから逃亡しようか・・・・・・
死ぬ思いで逃げながら、そんなことを二人は考えていた・・・・・・





to be continued...





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